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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その11

サネホーンの水上機母艦の機体として使用されているのはアラドAr196で、主力艦隊と同行する水上機母艦エバハルトとルクハルトはそれぞれ8機ずつAr196を搭載して運用している。

そして、艦隊旗艦ルイジアーナよりの命令で、エバハルトから4機、ルクハルトから2機の索敵機が各方面に飛び立った。

特に侵攻先にはより綿密にという事で、間隔をそれほど広げずに索敵を開始した。

その結果、先に右側寄りの303号機が、展開するフソウ連合の第13電探小隊の警戒範囲に入り、そしてすぐにその後に305号機も警戒範囲内に入る。

それを感知した第13電探小隊は直ぐに先鋒の旗艦大和改に報告。

そして、大和改から迎撃対応の命が入ると、敵索敵機に対して、それぞれに第221飛行隊の二式水戦2機と零式三座水偵一機の三機で組んでの迎撃が開始された。。

そして、戦闘機2機と偵察機1機の三機編成には理由がある。

迎撃機である二機の二式水戦とは別に零式三座水偵が一機付くのは、戦果確認とより細かな味方機体の誘導の為であった。

広範囲の警戒に地上の第13電探小隊が対応し、その指示を受けつつ後方に位置する艦載機搭載型電探を装備した零式三座水偵が先行する二機の二式水戦を細かく誘導するのである。

つまり、現代で言う早期警戒機に近い運用を行っているという事だ。

もっとも、零式三座水偵に搭載されている電探は、あくまでも近距離を地上電探よりも精密に対応できる程度でしかなく、現代のようにかなり後方で事細かに探知して指示を出すという訳にはいかず、地上でカバーできない細かな誘導を現場で行って敵機を見失ったり発見遅れ等を無くすための連携であった。


『敵機、間もなく右下に見えるはずです』

零式三座水偵からの無線が入る。

それを受け、二号機を操る荒川乱歩兵曹長は下方を確認する。

すると低空を飛ぶ黒い点を発見した。

あれか……。

そう思考すると翼を振る。

三号機も確認したのだろう。

キャノピー越しに三号機のパイロットである品川真澄一等飛行兵曹がハンドサインを送ってくる。

『確認しました』

そういう意味のハンドサインだ。

『では、始末するぞ』

ハンドサインでそう指示をすると品川一等飛行兵曹は大きく頷く。

そして、二機の二式水戦は、上空からサネホーン索敵機303号機に襲い掛かった。

下方を警戒していたためだろうか。

上空から襲い掛かってくる二式水戦の発見に遅れ、303号機の回避行動が遅れる。

それでも何とか初手を交わして機体を上昇させようとする動きから、乗り込んでいるのはサネホーンでもかなりのベテランパイロットなのだろう。

また、回避と共に後方に設置された7.92mm MG15機銃が二式水戦の動きに合わせて旋回しつつ射撃を始めるものの、二機同時に仕掛けられたため、射手の迷いが出た為か狙いが定まり切れていない。

その為、牽制程度にしかなっておらず、またパイロットが逃げることは無理と判断したのか、二式水戦の後ろに回り込もうとする。

Ar196は、主翼に20mm MG FF/M 機関砲を二門、機首に7.92mm MG17機銃一門を搭載している為、十分撃墜できると判断したのだ。

実際、このパイロットは、模擬空中戦でかなりの腕を誇っていた。

しかしだ。

それはあくまでもサネホーンの中でという事であり、パイロットの技量のレベルはフソウ連合よりも数段劣るし、何より機体の性能が違う。

そして、数においても一対二で劣勢であった。

つまり、どうあがこうが逃げる事も勝つことも出来なかったのである。

そして、撃墜されるまでの短い時間に唯一出来たことは、味方の主力艦隊に敵機と遭遇し空中戦に入るという無線を送る事だけであった。

こうして、警戒網に引っ掛かったサネホーンの索敵機303号機と305号機は、あともう少しで待ち受けているフソウ連合主力艦隊の先鋒を発見する位置にいながら敵艦隊を発見する事もなく迎撃されたのである。



「大変です。索敵に向かった機体のうち、二機から敵機と遭遇、空中戦に入るという報を最後に通信が切れたと水上機母艦から報告が入りました」

その報告を聞き、幕僚達は騒めき、ルイジアーナは表情を曇らせる。

水上艦艇だけならば我々の有利という点はひっくり返らないものの、索敵機を迎撃できる航空戦力が敵にあるという事は問題であった。

アルンカス王国駐在艦隊に航空母艦は配備されていない事を考えると、機動艦隊がフソウ連合本国から展開している可能性があると判断したのである。

もちろん、相手が水上機の可能性もある。

しかしだ。

本艦隊の水上機母艦に所属しているパイロットはかなり優秀だと聞いている。

そのパイロットを操る機体を、ここまで簡単に撃墜できるとなると、相手は水上機ではなく艦上機と考えるべきだと判断したのである。

そして、前回の戦いで航空戦力の危険さを痛感していたルイジアーナはいくつかの策を用意していた。

所属艦艇の対空能力の向上と対空戦闘に特化した艦体運用である。

もちろん、それだけでなく、ルイジアーナとの連携を考えた火力アップも図られている。

実際に、ルイジアーナと連携とれるようにバンガハバ級重戦艦のうち、四隻を前方の主砲のみではあるが基準の30㎝連装砲を36㎝連装砲に換装されている。

もちろん、それだけではバランスが崩れる為にかなりの改修が施されており、分類上はバンガハバ級となっているが、完全に外見は別艦に近い印象を受ける。

また、対空砲座も追加されている為、艦体はずんぐりとした形でありながら、艦上物はWW2の艦船のようになってしまっていた。

また、それ以外の艦艇も、対空能力の向上が図られている。

こちらは、追加の対空銃座の増設だけでなく、副砲の一部を外して対空銃座への変更も考慮されていたが、その多くは艦長の反対で徹底されず終わってしまっている。

そして、艦体運用に関しては、対空用の艦隊陣形や対空時の回避についてもマニュアルが用意されていた。

「各艦に通達。事前の打ち合わせの通り、本艦隊は、これより対空布陣に入る。各艦に輪形単縦陣をとるように伝えよ」

ルイジアーナはそう命令を下す。

輪形陣。

それは旗艦などの中心艦艇を従属艦艇が取り巻くように布陣する陣形の事である。

そして、今回、ルイジアーナが行ったのは、輪形陣を縦に並べた運用であった。

構成される輪形陣は、全部で5つになる。

一つ目は、旗艦ルイジアーナと改修されたバンガハバ改級戦艦4隻を対空防御に特化した装甲巡洋艦で囲った編成であり、それ以降は、中心に重戦艦や戦艦5~6隻を装甲巡洋艦や二等巡洋艦で囲む形をとっていた。

ルイジアーナはこれを輪形単縦陣と命名し、航空戦力に対しての陣形としてサネホーンで運用を開始していたのである。

「レーダー、敵機らしき影が見えたらすぐに報告せよ。あと、艦隊に随伴するレーダー艦にもそれは伝えておけ」

ルイジアーナとしては、敵艦隊と遭遇する前に航空戦力で削られるのを警戒していたのである。

そして、索敵機が一度引っ掛かって以降、敵影が見えないまま新しい報告が入って来た。

輪形単縦陣をとってから三時間後の十三時十二分、先行警戒で動いていた装甲巡洋艦の一隻から報告が入る。

それは、『敵艦隊発見す』というものであった。

そして、それは撃墜されたと思われる索敵機二機が進んでいた先であった。

「やはりかっ」

ルイジアーナは自分の予想通りの展開にニタリと笑みを漏らす。

「一気に速力を上げよ。敵艦隊を攻撃するぞ」

ルイジアーナは、これが索敵機を迎撃したフソウ連合の機動部隊と判断したのであった。

そして、航空戦力で押される前に一気に距離を詰め、機動部隊に砲撃戦を仕掛けるつもりであった。



「敵、先行艦艇らしき装甲巡洋艦を発見。どうなさいますか?」

その報を聞き、大和改は、ニタリと笑う。

「もちろん、逃げられる前に潰すぞ。まずはウォーミングアップと行こうか」

大和改を先頭に単縦陣で進んでいたフソウ連合主力艦隊の先鋒は、一気に速力を上げる。

「それと、監視の伊-361から報告です。敵艦隊が速力を上げてこちらに向かってきていると」

「連中もこっちの位置に気が付いたな」

そう呟くと、大和改は艦橋内に響く声で言う。

「諸君、やっと待ちに待った戦いが始まる。もちろん、戦艦同士の砲撃戦だ。相手のルイジアーナは、とてつもない化け物らしい。しかしだ。我々とて負けてはいない。ここで我々の価値を味方に、そして敵にも知らしめようじゃないか」

その言葉に、艦橋内の至る所から賛同の歓声が上がる。

士気は十分すぎるほど高い。

さて、相手になってやるよ。

大和改は、ぺろりと舌で唇を舐めるとまだ見ぬ敵艦隊を睨みつける様に前方を凝視したのであった。

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