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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その10

敵の哨戒機らしき機影をレーダーに捉えたぐらいではまだまだ偶然だろうと思っていた主力艦隊の幕僚達であったが、その後に入った第一遊撃艦隊、第二遊撃艦隊の敵艦隊と遭遇し戦闘に入ったという報に、まさかという表情になった。

それでも、まだ偶然だと思っているのか。

或いは、そう信じたいのか。

傍から見ると必死になってうまくいっていると自分に言い聞かせている様子だ。

大体、今回の計画は、アルンカス王国に所属、及び駐在している艦隊戦力では対応できない規模であり、多方面から同時に展開する作戦ゆえにすべてに対応できないと思っているからである。

だからこそ、偶々第一第二遊撃艦隊は貧乏くじを引いたのだと思っていた。

それに、この二つの艦隊に戦力を回してしまった以上、こっちには大した戦力は回ってくることはない。

そう考えたのだ。

いや、そう考え、そう思いたかったのだ。

だからこそ迷いや不安を頭の隅に押しやって、うまくいっているという思い込みに縋り付こうとしていた。

だが、そんな中、いち早く思考を切り替えた者がいる。

戦艦ルイジアーナの付喪神だ。

彼は、索敵機をレーダーで捉えた頃から疑っていた。

普段ならここまで索敵機が広範囲に動くことはない。

なのに、なぜ、と……。

普通なら、今までなら、あり得ない索敵範囲の拡大とまるで来るのがわかっていたかのような索敵機の動き。

偶然としては余りにもおかしい。

そして、まるでこっちの作戦に対応するかのような第一第二遊撃艦隊への対応。

ルイジアーナの頭の中で何かかカチリと形になった。

そういう事か……。

そして、不安そうな顔ながらも何も発言しない幕僚達に内心舌打ちした。

あり得ない事がこれだけ続いていることに疑問を口にしない事に対して……。

ふーと息を吐き出し、ルイジアーナは口を開く。

「各艦に伝えよ。間違いなく敵艦隊が待ち伏せしている。直ぐに各方向に索敵機を出せ。それと足の速い装甲巡洋艦を侵攻先に先行させるのだ」

その命令に、幕僚のー人が慌てて言う。

「ルイジアーナ様、アルンカス王国の所属、駐在戦力では、我々の作戦に完全に対応できません。現に第一、第二遊撃艦隊が敵艦隊と遭遇したという報告からも、今や敵のアルンカス王国方面の艦隊戦力は皆無と言っていいでしょう。それに残っていたとしても、新設されたばかりのアルンカス王国海軍ぐらいでしょうが、その戦力は、微々たるものです。慌てて動かなくとも問題は……」

しかし、その発言は最後まで言えなかった。

ルイジアーナの怒気をはらんだ一瞥の前に震えあがり、固まってしまったからである。

「貴官は、いや、ここにいる多くの者はそういう考えかもしれんがな、予想外の索敵範囲とまるでこっちの動きを知っているかのようなタイミングでの敵索敵機の動き。そして、我々に対応できる戦力がないはずなのに、予想よりも一日早く動いて第一、第二遊撃艦隊は敵艦隊と遭遇し、戦闘に入った。これがどういうことか、貴様らはわからんのかっ!」

その言葉に、誰もが黙り込む。

ちっ。楽観主義の屑野郎の連中め。

だから、貴様らは権力争いに敗れてサネホーンに逃げ延びたという事を忘れたのかっ。

そうルイジアーナは罵倒したかったが、ぐっと我慢する。

静まり返ったその沈黙はずっと続くかと思われた。

しかし、幕僚の中で、数人ではあったが考え込んでいたものの内、比較的若い人物が恐る恐るではあるが口を開く。

「では、ルイジアーナ様は作戦が連中に知られていると?」

その発言は、あくまでも確認しているという言葉であったが、その人物の顔には、確信的な色合いが見えた。

それを見て、ルイジアーナは内心感心する。

使えないと思っていた幕僚達の中にも磨けば光りそうな原石を見つけて。

「貴官、名は?」

「ルイス・サカバントラ少佐であります」

「そうか。覚えておこう」

そう言った後、ルイジアーナは言葉を続けた。

「貴官の質問に答えるなら、ああ、その通りだというしかない。そうでなければ今のこの事態を説明できまい」

その言葉に、さっきから思考していた数名の幕僚が納得した顔になる。

どうやら、こいつらも使えそうだ。

ルイジアーナは、その顔を覚えていく。

そして、言葉を続けた。

「つまりだ。今回の作戦は漏洩し、フソウ連合は完全に把握して対応しているという事。つまり、万全の準備で我々を待ち構えていると考えられる」

「しかしっ、それでは……」

思わずそう言いかけた者がいたが、それ以上言葉にならなかった。

全て言われた通りだと、つじつまが合うのである。

見たくない現実を見せられて拒否したい心と認めなければという思考が戦っているかのようだ。

「確かにそう考えると対応を考え直さなければなりませんな」

いち早くサカバントラ少佐がそう答え、数人が頷く。

だが、やっと思考が動いたのか、幕僚の中でも年長に当たる者が反論した。

「しかし、フソウ連合の諜報機関は、国内はともかく世界規模でみるとまだ未熟であり、ましてや我々の情報をそう簡単に手に出来る訳がありません」

その問いに、ルイジアーナはちらりと見返した後、面倒くさそうに言う。

「今はそんな事はどうでもいいし、議論する時間も惜しい。ただ一つわかっていることは、このままだと我々は連中のいい様にあしらわれて潰されるという事だけだ」

その断言する言葉に、誰もが黙り込む。

だが、その時間は短かった。

「では、さっそく、艦隊随伴の水上機母艦に各方面に索敵機を飛ばす様、命令を伝えます」

まずそう言ったのは、サカバントラ少佐だ。

そして、それに続き、思考していた若手の幕僚達が次々と声をあげる。

「では、各艦に徹底的な警戒態勢を指示しておきます」

「レーダー艦にも指示を出さなければなりませんな」

「ふむ。その場合、精度より範囲を優先するようにした方がいいと思われます」

次々と一部の若い幕僚達が声をあげていく。

それを年長者を含むそれ以外の幕僚達が見下した視線を向けていた。

これはその内幕僚の再編成が必要になるな。

ルイジアーナはそう判断し、新しい幕僚の編成を考えつつあった。

そんな中、サカバントラ少佐が聞く。

「しかし、計画が漏れているのなら、このまま計画通りに動いては問題ではありませんか?」

「確かにな。だが、連中の主力であるコンゴウ型や他の戦艦では、私には勝てんよ」

ルイジアーナは自信に満ち満ちた態度でそう答える。

航空戦力は脅威だが、戦艦同士のたたき合いなら負けることはない。

前回のフソウ連合の艦隊との砲撃戦でそれを実感したからである。

それは、自分自身の本体であり、強力な火力を持つモンタナ級戦艦の力に絶対的な自信を持っていたからである。

そして、彼は確信していた。

勝利を。

また油断さえしなければ負けることはないと思っていた。

それに何より、罠があってもどうにでもなるとも思っていた。

罠など、この火力で噛み千切ってやるわと……。




「ポイント253で展開中の第13電探小隊から報告あり。敵の索敵機らしき機影発見だそうです」

その報を聞き、フソウ連合主力艦隊の先鋒艦隊を率いる戦艦大和改の付喪神はニタリと笑った。

つまり、敵はこっちが待ち構えているという事がわかっているという事だ。それなのに監視している潜水艦からの報告では進路に大きな変化はないときている。

つまり、それだけ罠を食い破る自信があるという事だ。

ニヤニヤが止まらない。

こりゃ、楽しめそうだ。

そんな大和改に副長が声をかける。

「楽しみなのはわかりますが、索敵機に対しての指示を」

言われて大和改は慌てて指示を出す。

「確か、リシグ島に水上機部隊が展開していたな。そこに連絡を入れろ。対応は任せると」

「はっ。すぐに排除するように指示を出します」

そう答え、副長が無線手に命令を伝える。

「それで、我々はどうしましょうか?」

指示を終えて副長が聞いてくる。

「待ち伏せがバレているというのに敢えて進んでくる連中だ。こっちも丁寧にお出迎えしてやろうじゃねぇか」

そういう大和改に副長は苦笑した。

「ですよね。あなたならそう言うと思ってました」

そして、表情を引き締める。

「では、当初の予定通りに……」

「ああ、我々はあくまでも足止めだ。しかし、沈めるなとは言われてないからな。たっぷりと楽しませてもらおうか」

「ええ。我々もそのつもりです」

副官を始め、艦橋内のほとんどのスタッフがニヤリと笑う。

フソウ連合最強の戦艦ではあるが、実際の戦いではほとんど活躍の場がなく、ここまでガチンコの殴り合いのような艦隊戦をする機会はそうそうないと判っているからだ。

「我々の力を見せつけましょう」

副長の言葉に、全員が頷いたのであった。



「第13電探小隊から報あり。『敵影発見。哨戒機と思われる』だそうです」

その報に、リシグ島の臨時基地の木陰で待機していた第221飛行隊のパイロットが立ち上がる。

そして、すぐに新しい報が届く。

「主力艦隊先鋒の大和改より入電。『敵哨戒機に対して対応せよ』です」

それを受け、部隊の指揮官が声をあげる。

「よしっ。迎撃、上げろーっ」

海上に係留されていた二式水戦のエンジンが掛けられる。

「回せーっ。二番、三番でペアだ。急げっ」

エンジンのかかった二号機、三号機にパイロットが乗り込む。

「確認機の方もエンジンかかりました」

「よし。そっちも上げろ」

パイロットの乗った零式三座水偵が、二式水戦に続いて上がる。

この零式三座水偵は、無線や電探装備を強化されており、地上の電探部隊と連携して迎撃機に敵機への誘導と状況報告の為に同伴する機体である。

「三機とも上がりました。トラブルありません」

その報告に、第221飛行隊の指揮官はほっとする。

だがすぐに表情を引き締める。

「敵の索敵機が一機だけとは思えん。恐らく各方向に飛ばしているはずだ。だから、電探部隊の範囲に入り込んできたやつは、片っ端から叩き落すぞ。各自気を引き締めろ」

その言葉に、残ったパイロット達が気合の入った声で同意を示す。

彼らは、この作戦がいかに大事かわかっており、それに何より自分らの役割を理解していたのである。

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