表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

750/836

第二次アルンカス王国攻防戦  その9

「手を離せっ。自分で歩ける」

そう言って副官アランパラ・ドラウザス少尉は両脇から引きずっていこうとする兵士に言う。

表情は険しく、その声には怒気に満ち満ちていた。

だが、そんな言葉も二人の兵士は気にした様子もなく、それどころか小馬鹿にした様子で手を離す。

二人を睨み、ドラウザス少尉は歩き出す。

こんな連中に無理やりされるより、自ら動いた方がまだマシだと判断したからである。

すでに砲撃が艦の近くまで飛んできており、時折艦が揺れる。

その度に、近くにある物に摑まり、転ばないように踏ん張る。

艦橋から甲板に出た事で、後方から迫ってくるフソウ連合の艦隊の様子が見えた。

これは間違いなく追い付かれるな。

ちらりと見て、自分の考えが間違っていなかった事を再確認する。

恐らく、この艦がアルンカス王国に辿り着くことはあるまい。

そんな考えさえ浮かぶ。

そして、艦底の部屋に監禁されるであろう自分も助からないとも。

だが、それでいいのかもしれない。

こんな外道がアルンカス王国に辿り着き、サネホーンの悪名をより増長させるよりは……。

そして、彼は苦笑する。

本当に運がないと……。

だが、その時であった。

艦のすぐ側に敵の砲撃が着弾し、船が大きく揺れ、水柱が立ってその海水が降り注ぐ。

揺れだけだったら何とかなっただろう。

だが、振り注ぐ海水に足が滑ってバランスを崩すと流れ落ちる海水に引っ張られ、海水と共に甲板を滑っていく。

そして、あわやというところで何とか手摺を握るものの、身体はもう艦から落ちかけていた。

それは、両脇にいた兵士達も同じだったが、彼らは運がよく近くのものに摑まることが出来ている様子であった。

「くっ、おい不味いぞっ」

落ちかけているドラウザス少尉に片方の兵士が慌てている。

それはそうだろう。

艦底に監禁しようとしていたら海に落ちて死んでしまいましたと報告すれば、何を言われるかわからないと考えたからだ。

だから助けようと立ち上がるが、もう一人の兵士が止める。

「よせ、危険だっ」

その言葉と同時に、また艦が大きく揺れた。

「しかしっ」

そんな様子を見て、ドラウザス少尉は決心した。

こんな連中に助けられ、結局死ぬくらいなら、自分で死んでやる。

そう決心すると握っていた手摺を離す。

そして、ドラウザス少尉の身体は、艦から海に落ちる。

兵士が何か叫んでいたようだがどうでもいい。

へっ、ざまあみろ。

その様子を見てドラウザス少尉はニタリと笑って海に落ちた。

そしてふと思う。

そう言えば、今まで流されるだけで、自分で判断してこなかったなと。

そう、今回初めて自分の意思で反対し、死を覚悟した。

それは、今まで流される事が当たり前で、自分の非運を嘆いていた男が最後に見せた自分自身の判断であり、決断であった。



「敵艦隊、頭を押さえようと覆いかぶさってきます」

その報告を聞き、双眼鏡で敵の動きを見ていた千葉少佐だったが、舌打ちして吐き捨てるように言う。

「馬鹿か、連中は……」

その言葉に、同じように敵艦隊の動きを見ていた北上も同意する。

「ああ。これは酷いな」

彼らは余りにも悪手すぎる敵の動きに呆れ返っていた。

「おいおい、敵の指揮官は素人か?」

連中の動きから『T字戦法』もしくは『丁字作戦』をするつもりなのはわかったが、この状況下ではどうやっても失敗すると判っていたからである。

そして、千葉少佐は呆れ返るのを通り越して、敵の兵士達が可哀そうになっていた。

あんな無能な指揮官の元で戦わねばならないとは……と。

だが、手を抜くわけにはいかないし、敵を逃がすわけにもいかない。

「よし。敵の動きに合わせて我々も左に艦隊の進路を向ける。また、それと同時に敵の艦隊の先頭艦艇に砲撃を集中。一気に沈めるぞ」

指示を受け、艦隊が敵の動きに合わせて左に進路を変える。

つまり、一定の距離を置きつつ並走するような感じだ。

距離はまだ一万以上ある。

敵の副砲は射程距離外であり、主砲のみ砲撃してくる。

敵も必死になって先頭艦である北上に砲撃してくるものの当たらない。

それどころか至近距離の弾着もない。

動く艦隊の砲撃戦だから当たる確率はとても低いとはいえ、精度が悪すぎた。

反対に、フソウ連合の砲撃は敵艦隊の先頭艦付近に次々と弾着すると、その度に先頭艦は激しく大きく揺れた。

それを見て動揺したのか、敵艦隊の動きが鈍い。

「敵の動きが鈍いぞ。一気に畳みかけろ」

その命を受けてフソウ連合の砲撃が増す。

そして遂に命中弾が出る。

どんっ、という大きな爆発とともに先頭艦の真ん中あたりに爆発が起こる。

二本あった煙突が吹き飛び、破片をまき散らし、炎が舞い上がった。

そして、黒い排煙を垂れ流しながらヨタヨタと先頭艦のスピードが落ちていく。

そこに追い打ちをかけるように命中弾が続く。

次々と当たる砲撃に、先頭艦はあっという間に粉々となり、大爆発を引き起こして轟沈した。

その様子に、後ろに続く艦艇の動きが乱れる。

「よし、雷撃戦だ。各艦、魚雷をたっぷりぶち込んでやれ」

千葉少佐の命を受け、後続艦が次々と魚雷を発射していく。

勿論、北上もだ。

先頭を進んでいた旗艦を失い、サネホーン第二遊撃艦隊は混乱して発見が遅れ、動きも鈍かった為、魚雷攻撃に対応が遅れた。

その結果、次々と魚雷が命中し、爆発と共に沈められていくサネホーンの艦艇。

そして、その雨あられのような魚雷攻撃を運よく当たらずに回避できた艦艇には、魚雷攻撃の後、肉薄してきたフソウ連合の砲撃が見舞われた。

すでに距離は、一万を切っており、側面の副砲も撃てる距離ではあったが、砲撃による反撃は少なく、ほとんどの艦艇は、逃走を選択したようである。

だが、それは余りにも考えなしと言っていいだろう。

なんせ、全速で離脱しようとして追いつかれたのだ。

逃げれるはずがない。

しかし、彼らは混乱し、その事を忘れていた。

こうして、サネホーン第二遊撃艦隊は、次々と沈められていく。

「それで、救助はどうしますか?」

副官にそう言われて、千葉少佐は少し考えた後に言う。

「無理しない程度に救助しろ」

そう言った後、「まぁ、海賊扱いにされるのはわかっているだろうからな。拒否する連中が多いだろうがね」と呟く。

海賊は、基本、裁判なしでもその場で射殺しても問題ないという国際法があるからだ。

そして実際、ほとんどの者が救助を拒否する。

救助され、殺されたり、罰せられるくらいなら、このまま漂流して助かった方がマシだと誰もが思った為であった。

彼らも自分らが海賊と認識されているのはわかっているっぽかった。

それ故にそう判断したのである。

だが、それは余りにも認識が甘いと言うべきだろう。

実際、この時、救助を拒否した連中は、ほとんど助からなかったのであった。

〇被害〇


・サネホーン側

      戦艦       二隻 撃沈

      装甲巡洋艦    十隻 撃沈 二隻大破 三隻中破

       第二巡洋艦   十九隻 撃沈 八隻大破


 無傷の艦は一隻もなく、大破、中破した艦は、その場でフソウ連合によって雷撃処分された。また、百二十二名の捕虜以外で救助を拒否した者達はそのまま行方不明となり、実に作戦に参加した人員の九割以上が死亡扱いとなったのである。



・フソウ連合側 

      第三水雷戦隊 軽巡洋艦 北上 小破      

              駆逐艦 初風 損傷軽微


      第四水雷戦隊  駆逐艦 嵐、萩風 損傷軽微

      

            死者十二名 重軽傷者 二十六名  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ