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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その2

「レーダーに感あり、数は一つです」

その報告に、幕僚の一人が口を開く。

「恐らくフソウ連合側の索敵機と思われますな」

その言葉に、他の幕僚達が言葉を続けた。

「ふむ。前回の件があったことを踏まえ、かなり広範囲の索敵を行っているようですな」

前回の事とは、ルイジアーナが独断で動いた時のことだ。

あの時の事もあり、フソウ連合がかなり警戒ラインを広げたのが伺える。

「確かに。まさかこんなに早く発見されるとは思いもしませんでしたな」

「我々が発見されたとなると、やはり他の艦隊も発見されたと考えるべきですかな」

「そう考えるべきですな。まさかこちら側だけという事はありますまい」

そう会話していたが、彼らに深刻さは感じられない。

まるで世間話でもしているかのような気軽さがあった。

「なぁに、発見されたとしても別にどうという事はありませんな。今回、我々は多方面から侵攻しているのです。それら全てを発見したとしても、対応する戦力は、アルンカス王国には駐在していませんしな」

そう答えた幕僚がカラカラと笑う。

「確かに。確かに。それにまさか、それに合わせて戦力分散などという愚策をしたとしても、我々は困りませんからな」

「そうですとも。それに一点集中して一部を足止めしたとしても、他の艦隊がアルンカス王国に辿り着き、敵の主力艦隊が本国を出た頃には駐在艦隊は全滅。アルンカス王国は陥落の危機になっているでしょうからな」

まるでそうなるのが決まっているかのように言い切る言葉。

そして、それを受け止める幕僚達。

それを見つつ、ルイジアーナは不安を覚える。

実際、ある程度の規模の艦隊を動かすには、時間と準備が必要となるし、急な戦力を動かすには限度もある。

それを考えれば、彼らの発言も考えも間違ってはいない。

だが、それでもなお、ルイジアーナは何かが引っ掛かっていた。

確かに、索敵範囲を広げて発見が早ければ、それだけ時間が稼げる。

だが、その程度の事だけを考えるだろうか。

あのしたたかなフソウ連合の連中がより効果的な手を打っているのではないだろうか。

しかし、アルンカス王国の偽装会社(ダミー)の報告では、アルンカス王国の駐在戦力は増加していない。

それに、本国を空にするとも考えられない。

それ故に、戦力を二つに分け、最も多く本国に戦力を振る。

それは間違ってはいないし、自分ならそう対応するだろう。

そして、フソウ連合とアルンカス王国はある程度の距離がある。

だから、おかしくないのだ。

しかし、それでも考える。

もしかしたら、こちらの計画がバレていて、実は虎視眈々と我々が罠に入り込むのを待っていたのではないかと。

だが、それはおかしい。

こちらがフソウ連合本国の情報を入手できないのと同じように、フソウ連合側もサネホーン側の情報を入手できないはずだ。

それは、フソウ連合が長い間鎖国をしてきていたために生じたもので、互いに相手に諜報機関を潜伏させて情報収集する術がないという事でもある。

だから、計画が漏れ、こちらを罠にかける為に待ち伏せているとは考えられない。

しかし、それでもなお、胸騒ぎが止まらないのだ。

だが、その胸騒ぎを奥に押し込める。

そして何とか口を開く。

「いいかっ。予断するな。相手はあのフソウ連合海軍だ。舐めてかかれるほどの相手ではないのだぞ」

ルイジアーナはそういうのがやっとであった。

下手な事を言って士気を下げたくないという気持ちもあった為である。

だが、ルイジアーナの言葉に、幕僚達は少し表情を引き締める。

そしてその中の一人が笑いつつ言う。

「勿論ですとも。我々は子兎を狩る時も全力で対処しますよ」

「ならいいのだがな」

ルイジアーナはそう言うと視線を海図に下ろす。

海図には、各艦隊の位置が書き込まれている。

しかし、ルイジアーナの視線の先にあったのは、順調に進む自分や遊撃艦隊の位置情報ではなく、唯一大きくずれて遅れている機動部隊の位置情報であった。



「困りましたね……」

グラーフは海図を見て深くため息を吐き出す。

「ええ。この調子では、計画通りには不可能です」

「ふー」

グラーフは深く息を吐き出す。

まさかここまで遅れるとは予想外であったことが、その深い息からもわかる。

グラーフが率いるのは、今回の作戦の為に編成されたサネホーン機動部隊で、空母グラーフ・ツェッペリン、ペーター・シュトラッサー、それに鹵獲した空母ホーネットの三隻を中心とした艦隊で、サネホーン唯一の航空戦力を中心とした艦隊であり、フソウ連合の機動部隊との戦いの為に編成されたものである。

フソウ連合の機動部隊の戦力は大きく、その攻撃力の高さは情報が集まっている。

それ故に彼らの責任は重い。

しかしだ。

出だしから躓いたことになる。

「まぁ、ですが、連中の機動部隊との戦闘は、アルンカス王国駐在の艦隊を叩き潰し、フソウ連合本国の艦隊が来た時に必要とされるはずです。それゆえに少々の遅れは後で取り戻せましょう」

幕僚の一人がグラーフに慰めるようにそう言う。

その言葉に、少しグラーフの表情の険しさが緩む。

実際、出だしこそ躓いたものの、彼自身も最初の遅れは作戦の障害にはならないと思ってはいるのだ。

だが、ここで出遅れてしまい、交戦派に手柄を独り占めされてしまっては、今後の国の運営に支障をきたすかもしれないという恐れがあった為、少し考えこんでいたのである。

「グラーフ様も大変ですな」

幕僚の一人。特に付き合いの長い初老の幕僚が苦笑して言う。

長い付き合いで、グラーフが何について懸念しているのかわかっての発言であった。

「そう言ってくれるな……」

その言葉に、グラーフはやっと苦笑した。

「なに、まだ戦いはこれからですぞ」

そう初老の幕僚は言った後、後方を見る仕草をしつつ言葉を続ける。

「しかし、ホーネットがここまでトラブルとは思いもしませんでしたな」

そう。機動部隊の遅れ原因は、ホーネットの機関トラブルが原因であった。

もちろん、サネホーンでは、グラーフ・ツェッペリンやフッテン、それにルイジアーナといった艦艇があり、それらの整備、保持できる程度の技術力はある。

それ故に鹵獲されたホーネットは直ぐに戦力化するため、補修と修理が行われた。

しかし、そこで問題になったのは規格の問題であった。

サネホーンでは、ドイツ艦艇が多いためにドイツ式の規格がメインであった。

勿論、ルイジアーナはアメリカの規格ではあったが、戦艦と空母では運用も必要とする技術も違っており、その結果トラブルが後を絶たないのである。

「しかし、ホーネットを鹵獲する事で、あの艦に残された機体を元に艦上機の生産にこぎつけ、機動部隊を編成できるようになったのだ。それを考えれば、少々のトラブルも我慢できるというものですよ」

「確かに。その点を考えてみれば、少々の使いにくさは我慢できますな」

気を間際らすかのように他の幕僚達も笑って言う。

「そうですぞ。それに、あの艦のおかけで、我々の展開できる航空機は80機近く増えるのですからな」

その機体数は、グラーフ・ツェッペリンやペーター・シュトラッサーが搭載できる機体の倍近い数だ。

それらの意見に、グラーフは益々苦笑するしかない。

「グラーフ様、要は最後にうまくやって勝てばいいのです。その後の事は、その時に考えればいいのですよ」

初老の幕僚はそう言うと笑う。

それは考えすぎるグラーフを労わる発言であり、それを感じてグラーフも笑ったのであった。



サネホーン機動部隊の中核の一隻であるペーター・シュトラッサーの一室では二人の男がこそこそと話をしている。

一人は、この艦の付喪神であるペーター・シュトラッサーであり、もう一人は元フッテン派の連絡員として本艦に乗り込んできたメット・リカーア大尉である。

「つまり、この戦いで大敗する。そして一気に講和に流れをもって行くという事か?」

ペーターがそう言うとリカーア大尉は頷く。

「その通りです。ペーター様もそうお考えですよね?」

そう言われ、ペーターは眉を顰めるが否定はしない。

以前、どうやったらフソウ連合と講和を結ぶことが出来るか思考し、行きついた答えがそれであった。

だが、それは祖国の敗北と、多くの兵士の死を意味する。

人を数として計算できるほど心は強くない自分が言えるはずもない。

それ故にペーターは黙り込む。

海賊などの荒くれ者や追放された者、政変で負けた者など色んな人々がいたが、彼はサネホーンの人々が大好きであった。

確かに他の国ではつまはじきにされた者達。

だが、それ故に彼らに同情していたのかもしれない。

でも、同情も情であることに変わりはない。

それ故に政治には関わらないようにしてきた。

だが、フッテンがいなくなって流れは変わってしまった。

ふう……。

ため息が漏れる。

それをどうとったのか、リカーア大尉がじっと見ている。

「わかっている。わかっているさ」

ペーターはそう言うと、ふーと息を吐き出して言葉を続けた。

「それで、フソウ連合との方はうまくいってるのかい?」

「はい。すでにフソウ連合は動いています。ですので、ペーター様は、生き残る事を優先してください」

「それは、兄さんもそうなる様に誘導してくれという事だろう?」

その問いに、リカーア大尉は頷く。

要は、必ず生き残れる保証はないという事だ。

だが、それは仕方ないのかもしれないな。

戦場には絶対という言葉はないのだから。

だが、それでも少しくらいは皮肉を言っても罰は当たるまいと考え、皮肉っぽく言う。

「要は、必ず生き残れる保証はないってことだよな?」

そんな言葉に、リカーア大尉は眉を顰める。

ここにきて反故にされるとでも思ったのだろう。

だが、その表情を見てペーターは苦笑する。

「心配しなくていい。自分でも大敗するしか手はないと思っているんだ。今更反故にはしないさ」

「ならいいのですが……」

その心配そうな様子を見て、さすがに意地悪だなと思ってペーターは心の中で苦笑する。

その無表情に近い顔を見て何も思ったのか、リカーア大尉は慌てて付け加える。

「もちろん、絶対ではありませんが、先方にはお二人の安全は……」

それを手で制して言う。

「わかっているさ」

彼らとて祖国の為を思いいろいろ手を尽くしているのだ。

それがかなり危険を伴う事も。

だが、このまま戦いが長引けば、より多くの人々が死亡し、苦しむことになる。

なら、仕方ない。

そう割り切るしかないのだ。

彼らも、そう自分に言い聞かせて。

だが、頭ではわかっていても、感情は揺れる。

だからぼそりと言葉が漏れた。

「まさか、祖国の為に、祖国の軍が大敗するように動き、願う事になるとはな」

自暴自棄のような呟きを吐き捨てるペーター。

黙り込むリカーア大尉。

だが、すぐにペーターは表情を引き締め直す。

「やるしかない。そういうことだな」

「はっ」

そのやり取りを終えると、二人は部屋を後にする。

ベーターは艦橋に向かう。

指揮を執る為に。

リカーア大尉は格納庫に向かう。

本国に戻る為に。

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