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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その1

「ニーマルゴより入電。『敵艦隊発見す。規模、進行方向、予想通り』」」

「サンパチゴより入電きました。『敵艦隊発見。数、進行方向予定通り。変更なし』」

次々と哨戒に出ていたる二式大艇から報告が入ってくる。

それを受けて、作戦室の中央にある海図には、報告が記入されていく。

そして、それを腕を組んで気難しそうに見入っているのは的場少将であった。

「予定通りですね」

そんな的場少将に声をかけたのは、最上の付喪神だ。

ここは、航空巡洋艦最上に儲けられた『ヤマタノオロチ討伐作戦』の作戦室である。

「ああ、今の所はな……」

そう答えつつ的場少将は表情を崩さない。

それを見て最上は苦笑する。

まぁ、仕方ないか。

本当なら、この作戦は山本大将が率いる作戦のはずであった。

しかし、山本大将の急な体調不良により作戦参加が難しい事となり、鍋島長官から作戦指揮を命じられたのは的場少将であった。

それは途轍もなく重い責任が付きまとう大任であり、そして鍋島長官を除くフソウ連合海軍の実質ナンバー3を彼が期待されているという証であった。

なぜ、自分が……。

そう言って最初は辞退したらしい。

しかし、鍋島長官は、今までの戦いの臨機応変さと状況把握、そして決断力の高さを高く買っていると言われ説得されたらしい。

彼らしいと言えば、彼らしいなと思う。

それに同期で親友である南雲少将も背中を押したらしい。

なんでも「お前なら、俺をうまく使ってくれそうだ。それに、お前の才を高く買ってるのは、長官達だけじゃないんだぜ」と言われたらしい。

後は、奥さんにも結構発破をかけられたという話だ。

でも、みんなのそんな気持ちもわかる。

だって、自分も彼には期待しているのだから。

そんな事を思いつつ、最上はパンパンと的場少将の肩を軽く叩く。

「もう少し気を楽にしろよ。まだ始まったばかりだよ」

その言葉に、的場少将は、やっと表情を緩めて少し苦笑した。

「そうは言うがな、結構しんどいんだぞ、こっちは……」

「なに、いくつかは自分が背負うし、南雲さんも背負ってくれると思うからさ。的場さんらしくいこうや」

そう言われ、ますます苦笑する的場少将。

「そうだな。その通りだ」

そんな会話をしていると、新しい報告が来る。

「ゴニー二ーから入電。『敵主力艦隊を発見』それと、例のデカブツも発見したそうです」

その報告に、的場少将は海図に視線を送る。

部下の一人が素早く海図に報告を記入していく。

「これで後は……」

最上の言葉に、的場少将は言葉を続ける。

「ああ、敵の機動部隊の位置だけだな」

そういった後、部下の一人に声をかける。

「まだ報告は入ってきていないか?」

「はっ。まだ報告は入ってきていません」

部下の一人がそう報告した後、何かを思い出したかのような表情になった部下の一人が慌てて報告する。

「す、すみません。ヨンマルヨンから報告がありました。エンジントラブルで索敵出発が二十分遅れると……」

その報告に、的場少将は、報告してきた部下をぎろりと睨む。

「なぜ報告しなかったっ」

その形相と言葉に含まれる怒気に、部下が震えあがる。

普段はどちらかと言うとにこやかで穏やかな感じの人物である的場少将の急変に恐怖を感じたからだ。

「も、申し訳ありません。報告が重なり漏れていたと思われます」

なんとかそう言い訳をするものの、的場少将の表情は厳しい。

「その報告の漏れが、とんでもない結果を生み出す恐れがあるんだぞ。わかっているのか?それに鍋島長官も言われていたはずだ。『情報は、敏速に正確に伝えることを基本とせよ』とな」

「は、はっ。申し訳ありません」

「すぐに再度情報を確認させろ。いいな?後、今後はこんなことがないように徹底させよ」

「はっ」

すぐに的場少将の部下達が慌てて動き出す。

それをちらりと見た後、的場少将は、部下の一人を捕まえて言う。

「一航戦の中野少佐に伝えよ。第二機動部隊は予定より少し南下し、第一機動部隊がもしもの時にはすぐに対処できる位置に移動したいとな」

「しかし、計画では……」

思わずそう言ってしまった部下に、的場少将は、ため息を吐き出す。

「計画が全てではないぞ。それに君に意見を求めたかな?」

「も、申し訳ありません。すぐに伝えます」

伝令を伝えた部下が慌てて部屋を飛び出していく。

「ふーっ」

息を吐き出す的場少将に、最上が苦笑して言う。

「まぁまぁ。新しく配属された者達ばかりだからね」

実際、以前から的場少将と共に戦ってきた部下の多くは階級が上がり、別の所属となっているものが多かった。

それ故に、新人と新しく配属されたものが多く、以前の時と違ってどうしてもズレが生じてしまう。

ましてや、このように大任を任せられてプレッシャーを感じているのは、的場少将だけでなく、彼らもであった。

「しかしだな……」

「確かにミスは注意しなければならない。だけど、彼らも一杯一杯なのさ、君と同じでね」

そう言われ、ふーと息を吐き出す。

そして、パンパンと自分の頬を軽く叩く。

「わかった。注意しておく」

そう言って、深呼吸をして少し落ち着いた後、再び海図を睨みつけるように見ている的場少将を最上は苦笑したのであった。



「そろそろ始まったころですな」

そう言ったのは、新見中将である。

「ああ、そうだね」

時計を確認し、鍋島長官はそう答える。

ここは、フソウ連合海軍本部第三会議室。

そこには鍋島長官を始め、今回の作戦関係者が集まっていた。

もっとも、人数はいるが、その後、誰も言葉を発しない。

いくらフソウ連合が情報の重要性を考えて力を注いでいるとはいえ、現代と違いどうしても伝達にはある程度の時間はかかる。

しかし、誰もが気にはなって仕方ないのだ。

それ故に無口になってしまうのである。

実際、何かあったとしても本国(ここ)ではどうすることも出来ない。

戦場が遠くなればなるほど現場に任せなくてはならなくなるのだから。

沈黙が辺りを支配する。

こういうのは苦手だな。

鍋島長官はそんな事を思いつつ、ふと思ったことを口にする。

「そう言えば山本大将の具合はどうだったんですか?」

高熱を出し緊急入院となった山本大将の見舞いを昨日新見中将は行ってきたと聞いたからだ。

「ええ、大分いいみたいです。昼飯だったんですが、ベッドの上で不味そうに病院食を食べてましたよ」

その様子を想像し、鍋島長官が思わず笑ってしまう。

そして、それは他の幕僚達も同じなのだろう。

東郷大尉もくすくすと笑っていた。

「しかし、大事にならなくてよかったよ。それで復帰はどうだったか聞いたかい?」

その鍋島長官の言葉に、新見中将は苦笑する。

「なんでも、あと一週間は入院という事らしいです。ボヤいてましたよ。ここにあと一週間もいるのかとね。あと、今回の作戦に参加出来ず申し訳ないと長官に伝えておいてくれと言われました」

「その言葉は、この前の見舞いで聞いたんだけどね」

鍋島長官が苦笑する。

「ですが、それだけ残念なのでしょう。その心を汲んでください」

「ああ、わかってるよ。しかし、僕としては山本大将には悪いけど、いい機会だったとも思っているんだ」

その言葉に、新見中将も頷く。

「ええ。私もですが、山本のやつも言ってました。今後の事を考えればと……」

「ああ、そうだね。それに何かあったとしても彼は十分やってくれるさ」

鍋島長官はそういうと笑みを浮かべたのであった。


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