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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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捜索開始

事前に無線で打ち合わせした場所で洋上警戒している伊-19の近くで水面が盛り上がっていく。そして海面を切り裂くように浮上する潜水艦。

それを見て、甲板に出て待っていた伊-19の付喪神は苦笑する。

「相変わらずギリギリに来やがる」

損な物言いだが、親しみが滲み出ている。

そう、どうしょうもない友人に文句を言っているような感じだ。

そんな口調に副長が怪訝そうな顔で聞き返す。

「よくご存じなんですか?」

その潜水艦が完全に海面に浮上し、わらわらと人が艦内から出てきてゴムボートの用意をしている様子を見つつ伊-19は口を開いた。

「ああ、腐れ縁と言うか何かと縁があるやつだからな」

副長が益々怪訝そうな顔になった。

基本、潜水艦は単艦での活動がメインである。

勿論、複数で動くときもあるが、そういうのは航空戦力を保有する伊-400系が多く、それ以外の潜水艦は早々組んでという事は多くはない。

全くない事もないが、艦隊への援護や船団狩りの場合も実際にあって打ち合わせなどはしない。

それを考えれば、腐れ縁というのはおかしいと思ったのだ。

その表情を見て、伊-19は気が付いた。

「そう言えば、貴官はこの艦に配属されてから初めての航海だったか」

その言葉に、副長は頷く。

「はい。この艦の副長を任命されて初めての航海です」

「なら仕方ないか……」

そう言って伊-19は苦笑した。

今回、潜水艦の戦力増加に伴い、伊-19は乗組員の三分の一が新人に入れ替わったのだ。

そして、かって副長を務めた者は付喪神なしの潜水艦の艦長として昇進移動となり、新しく副長になった彼が来たのである。

だから、知らないのは仕方ない。

そう思ったのだ。

「なぁに、別に難しいことはないさ。奴とは作戦を確かに幾つか共にしたんだが、それ以上に作戦周期が一緒でな。休暇やドッグ入りが何度も重なったんだよ」

作戦周期は、潜水艦の場合、作戦期間→休暇→作戦期間→長期休暇(或いはドッグ入り)が一つの流れとなっている。

また、作戦期間もある程度決まっている為、重なると若干のズレはあるものの、その後も重なってしまう事は多いのである。

「なるほど。そういう事だったのですね」

感心したように副官が頷く。

そう言えば、以前乗艦していた潜水艦も似たようなことがあったなと思い出す。

それはまさに縁と言ってもいいとその時思ったのを思い出したのだ。

「その内、また違う艦に配属される事もあるからな。今までの経験とこれからの経験をしっかり活用するように気を付けておいた方がいいぞ」

少し寂し気な口調の伊-19の言葉に、副長が驚いたような表情になる。

「ありがとうございます。ですが、また人事異動があるという事なのでしょうか?」

何かミスをしでかしたのかという心配そうな表情でそういう副官に、伊-19は楽しげに笑う。

「いやいや、心配しなくともよい。すぐにという訳ではない。ただ、これからも付喪神なしの潜水艦戦力の増加はあり得るからな。そうなってくると人材は必要になる。そうなると……な?」

そう言って伊-19は苦笑すると言葉を続ける。

「私と違って、貴官はこれから色んな艦に乗れるのだからな。それが少しうらやましいと思っただけだよ」

その言葉に、副長は表情を引き締めると口を開いた。

「確かに、その通りであります。ですが、今の自分はこの艦、伊-19の副長であります。まだまだ若輩者ではありますが、精一杯やれることをやっていく所存ですので、御指導御鞭撻をよろしくお願いいたします」

それは副長の決心であり、伊-19に対しての優しさでもあった。

その言葉に含まれる思いに気が付き、伊-19は照れたように笑う。

「ああ。この艦の副長として頼らせてもらうからな」

「はっ」

敬礼する副長。

それを受け、答礼する伊-19。

それは、以前の副長との絆に比べればまだまだなものではあったが、それでも絆は絆であり、これからより強いものに変化していく可能性を秘めたものであった。

そして、二人がそんな会話を交わしていた頃、ボートの準備が終わったのだろう。

伊-24から三人乗ったゴムボートがこちらに近づいてくる。

「どうやらお出ましのようだな」

視線をゴムボートに向けつつ言う伊-19の言葉に、副長も視線をゴムボートに向けたのであった。



「よう!」

伊-19の甲板に上ってきた人物が気軽にそう声をかけてきた。

彼が伊-24の付喪神である。

その余りにも軍人らしからぬ近所の知り合いにでもする挨拶に、伊-19は苦笑する。

「相変わらずだな」

そう言われ、伊-24は笑う。

「まぁ、お前と俺の仲じゃねぇか。お堅いのはなしでいこうや」

「そうだな。お前と私の仲だもんな」

そう言って伊-19も笑う。

そして当たり前のように握手を交わす。

その様子は、誰の目から見ても、二人の仲を、友人としての繋がりの強さを感じさせた。

互いに挨拶と簡単な近況報告をした後、今回の任務についての話し合いを始める。

「で、どうするよ?」

伊-24の言葉に、伊-19は少し考えこんだ後、口を開いた。

「今回、潜水艦に対しての新兵器が使用された恐れが高いことを考えれば、お互いに連絡取りあえる場所での捜索というのがいいのかもしれんが……」

「それだと下手すると時間がかかりすぎるか……」

「ああ。そうなる」

その言葉に、伊-24はニタリと笑みを漏らした。

「なら、それは却下だな。俺らの任務ってのは、隠密で行動がほとんどだ。それに時間が経てばその分情報収集が厳しくなる。それに上層部(うえ)も結果が知りたいだろう」

「確かにな」

出来る限り情報は集めるが、情報が手に入らない可能性は高い。

しかしだ。詳細な情報が手に入らなかったという報告も重要な情報なのである。

それも早い方がいい。

早ければ早いほど、次の手が早く打てるからである。

だが、作戦海域や大まかな位置は定期連絡で分かるものの、正確な位置はわからない。

ましてや、音信不通でも動いている可能性もある。

つまり、どこから手を付けていいか。

こういう場合、初動が大きく今後の動きに関わってくる事が多いのである。

「で、どういう風にやる?」

伊-24の言葉に、伊-19は少し思慮した後、口を開いた。

「お互いに別行動するのは決定だ。で、捜索範囲だが、最終定期報告のあった地点を中心に捜索ともう一つは緊急避難先の方の捜索に分かれるのはどうだ?」

その言葉に伊-24は目を細める。

「ほほう。確かに搭載機が生き残っていれば、そっちに向かうと可能性もあるな」

「ああ。その可能性も考えて動こうと思う。確か、この海域での緊急避難箇所は、四ヶ所だ。そこを回って、再度合流。情報交換後、今度は二隻による広範囲の捜索という形でどうだろう?」

その提案に、伊-24は満足げに頷いた。

「いいぜ。それでいこう。さすが、こういうのはお前さんが頼りになるから助かるぜ。どうも俺はこういうのは苦手なんでな」

「ああ。賛同してくれてありがどう。それでだ」

伊-19がそう言いかけた後、伊-24が言葉を遮るように言う。

「最終定期報告のあった周辺は、俺が動こう。構わないよな?」

「いいのか?」

「なに、この前のドッグ入りで新型の磁気探知機を搭載したからな。その性能テストにはもってこいだぜ」

そうは言ったものの、それが本音ではない。

新型の対潜水艦兵器と遭遇する可能性が高い中、三分の一の乗組員の入れ替えによる新人やまだ慣れていない乗組員がいる伊-19を気遣っての言葉だった。

それは、伊-19にも判ったのだろう。

「すまんな」

そんな言葉が漏れる。

だが、伊-24はそんな雰囲気を笑い飛ばす。

「気にすんな。俺とお前の仲じゃねぇか」

「借りイチだな」

「なに、今度一緒になった時にでも奢ってくれや」

「ああ、うまい酒を奢ろう」

そう言うと二人笑いつつ再び硬く握手を交わしたのであった。

それは再会を約束する握手でもあった。



付喪神同士の打ち合わせの横では、副長同士の情報交換と共有化が行われている。

互いに一つの作戦で動くのだ。

少しの違いが致命傷になりかねない事だってあり得るのだから、必要な事でもあった。

そして、それもひと段落してほっとしていると伊-24の副官が微笑みつつ口を開く。

「どうやら、あちらも終わったようですな」

その言葉に、伊-19の副官もちらりと横を見る。

そこには、硬い握手を交わす二人の姿があった。

「ええ。みたいですね」

「では、お互いの武運を」

「勿論ですとも」

互いに敬礼しつつ言葉を交わす。

そして、向きを変えてゴムボートに向かう伊-24の副官に伊-19の副官が声をかける。

「それとですが……」

「何か他にも?」

思わずといった感じで出た言葉に、聞き返す。

「いや何、私はこの艦に配属されたばかりでまだいろいろと慣れておりませんし、そういう者も多いのがこの艦の現状です。それで提案なのですが、今度、皆で飲みに繰り出しませんか?」

その言葉に、伊-24の副官が驚いたような表情で聞き返す。

「それはまた、どういった理由で?」

その言葉に、伊-19の副官は、頭を掻きつつ言う。

「いや、貴艦とはかなり縁があると聞いております。こういう縁は大事にしたいのです。そして、これからもこの縁は続くはずです。だから、お互いの事がもっとわかればいいかなと」

その提案に、伊-24の副長は楽しげに微笑んだ。

「いいですな。この作戦が終わった後は、お互いに港に戻っての長期休暇のはずでしたな。その時に繰り出しますか?」

「ええ。そうしていただければ幸いです」

そして二人は笑う。

「これは楽しみが出来ましたな」

「ええ」

そして、表情を引き締めると再度敬礼を交わす。

こうして、互いの情報の共有と作戦方針を決めた伊-19と伊-24はそれぞれ情報収集を開始したのであった。

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[気になる点] 敬礼に対するのは返礼ではなく答礼です。
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