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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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立て直し  その3

「しかし、よかったのですか?軍部は間違いなく不満を持ちますが……」

署名された書類を受け取りつつ言うデービット・ハートマン副大統領の言葉に、アルフォード・フォックス大統領は苦笑する。

「どうしろというんだね?」

そう言われてデービットは苦笑する。

実際、選択肢は余りにも少なかった。

国内はまだ混乱が完全に収まりきっておらず、議会はとある雑誌で暴露された議員の大規模汚職事件が大きくなって責任の擦りつけあいの場と化しており、機能していないに等しい。

そんな中、共和国からの支援要請があったわけだが、そんな有様であるから追加予算を組んで支援するなんてのはまず無理だし、出来たとしてもどうしても時間がかかる。

その上、軍を動かすにも準備が必要であった。

だが、情報では、共和国に侵攻している連盟の軍の動きは早く、即対応しなければならない。

それに、ここで傍観という選択肢をした場合、連盟の暴挙を容認したと思われるだけでなく、今まで世界の中立者としてバランスをとって来た合衆国の面子は潰れ、信頼は一気に落ち、国際的な発言力は間違いなく低下するだろう。

実際、ここ最近では、フソウ連合の国際的発言力が強くなるのに比例して、合衆国の発言力は大きく低下している。

それだけは避けたい。

その思いが強かった。

そんな中、フソウ連合から提案があった。

フソウ連合に発注した軍艦を共和国に譲渡し、それを支援としたらどうかと。

それなら、すでに予算が組まれている為、新しく追加予算を決める必要もなく、書類一つで何とかなる。

その上、共和国への搬送は、フソウ連合がやってくれるらしい。

実にありがたい申し出だった。

唯一の問題点が、本来なら受け取るはずの軍艦を手に出来ない軍部が不満を持つことだった。

「確かに、これ以上の選択肢はありませんな」

「だろう?軍部を黙らせるいい手はないかね?」

大統領のその言葉に、デービットは少し考えこむ。

そして何か思い浮かんだのだろう。

「こんなのはどうでしょうか?」

そう言って口を開く。

「緊急事態であるという事を強調し、軍部には説明。そして、不足する分の艦船は国内の造船所に発注するというのはいかがでしょうか?」

その言葉に大統領が聞き返す。

「予算はどうするのかね?」

「議会が落ち着いてから、追加予算を通過させましょう」

「ふむ。確かに、国内の造船所とのツテをもつ軍人は多いからな。それで黙らせるという訳か。だが、技術的差は間違いなくある以上、艦船のスペックは間違いなくフソウ連合より落ちるのだぞ。それはどうする?」

実際、現場ではフソウ連合の艦船の性能の高さが知れ渡っており、本来ならそれを受け取るはずが、格下の劣化兵器を受け取ると知ったら大騒動に発展する恐れすらあった。

その大統領の言葉に、デービットはニヤリと笑みを浮かべる。

「すでに、多くの技官が受け取ったフソウ連合の軍艦を調査研究しており、核心部分は無理でも大部分は製造可能という報告が届いております。だからライセンス生産をフソウ連合に求めるのです。今回の提案にのる条件にね」

「だが、フソウ連合はのってくると思うかね?」

「恐らく拒否はしないでしょう。ただ、多くの部品や装備はフソウ連合からの輸入になってしまうと思いますが……」

その提案に、大統領は考え込む。

そして決断した。

「うむ。すぐにフソウ連合に伝えたまえ。是非お願いしたいと」

「はっ。すぐに」

デービットはそう返事を返すと、署名された書類を持って退室する。

そして、フソウ連合の駐在大使がいる大使館に向かった。

出来る限り早く進める為に。

そして、もう一つの目的の為に……。


「どうやらうまくいったようですな」

フソウ連合合衆国駐在大使の遠藤正信は笑いつつ、訪問してきたデービットを客間に向かい入れると声をかける。

「ああ。助かったよ」

そう言ってデービットはバッグからフソウ連合に発注した軍艦の共和国への譲渡に関しての書類を大使に手渡す。

それを受け取った遠藤大使は内容を確認し、問題ないと判るとそれを大きめの封筒に入れて部下に手渡した。

「すぐに、本国に送る様に」

「はっ」

その封筒をアタッシュケースにしまうと、部下が退出していく。

恐らく、飛行艇を使った本日のフソウ連合との連絡便で送るつもりなのだろう。

それを見送っていたデービットに、遠藤大使は用意していた封筒を手渡す。

「こちらが、ライセンス生産に関しての書類です」

それを受け取ると、デービットは中の少しぶ厚い紙の束に目を通す。

そして目を通した後、それを封筒にしまった。

「問題ない内容です。しかし、ここまで譲渡していいのですか?」

デービットは思わずそう聞き返す。

いくら核心部分は輸入するとはいえ、ライセンス生産を許可すれば、その分の発注がフソウ連合は失われるのだ。

そして、それと同時に製造に関する技術も相手にもたらされてしまう。

信じられない。

そんな思いが口から洩れたのである。

「ええ。構いません。核心部分は、フソウ連合が握っていますし、それに今のフソウ連合の造船能力では、新しく発注を受けても対応できるかわかりませんから。なお、ライセンスに関しての事は、事前に準備しておいたと思われないように時間をずらして公表をお願いしますよ」

遠藤大使は苦笑してそう答える。

その言葉から、ライセンス生産の件も含めてフソウ連合から提案があったことが伺える。

だが、そこまで至れり尽くせりではかえって裏を疑われるかもしれない。

そういう事を考え、事前に副大統領にのみ話を付けていたのであった。

そして、それがうまくいったのである。

だから、デービットはほっとした表情だ。

「そう言っていただけるとこちらも大変助かります。今の有様ではとてもじゃないが身動きが取れませんからな」

デービットがため息をつきつつそう言うと、遠藤大使は「ええ。こちらとしても状況は把握していますから」と言ってすーっと一枚の紙を手渡して言葉を続ける。

「読んだら、燃やして処分を」

そう言われ、紙を受け取り内容を読むデービット。

みるみる顔色が悪くなっていく。

「こ、これは……」

そこには、今回の議員の大規模汚職に関する情報が書かれていた。

「本当ですか?」

思わずという感じで出た言葉に、遠藤大使は答える。

「絶対とは言えませんが、可能性は高いかと……」

そこに書かれていたのは、今回の汚職事件は数年前から事前に仕組まれていたものであり、この時期になってそれを使って合衆国内を混乱させるのが目的の可能性があるという情報であった。

くしゃり。

デービットは紙を握りつぶすと表情を引き締める。

「情報提供、感謝いたします。すぐにこちらとしても動きたいと思います」

そして、デービットは大使館を後にするのであった。

今の合衆国の状況を打破するために。


「うまくやってくれるといいのですが……」

大使館から出るデービットの乗った車を窓から見下ろしつつ遠藤大使が呟く。

彼は、合衆国大使だが、諜報部の人間でもあった。

そして、合衆国内で情報網の構築中に今回の件に気が付いたのである。

それは、うまくカモフラージュしてあったが、合衆国とは全く違う国から来た諜報部である彼は見過ごさなかった。

そして、もしここがフソウ連合であったなら、彼は直ぐに許可を取り、動いただろう。

叩き潰す為に。

だが、ここは祖国ではない。

それは出来ない選択肢だ。

それ故に、今回の件である程度信頼関係を作った副大統領に情報を提供したのだ。

貸しとして。

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