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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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立て直し  その2


「王国からの要望書が届いております」

そう言うと東郷大尉は結構厚めのおおきな封筒を手渡す。

二式大艇による王国との往復便で届けられたものだ。

鍋島長官は、それを受け取りつつ封筒を見ると開封した様子がない。

王国の蝋印が押したままだ。

「毛利中将は見なかったのか?」

鍋島長官のその問いに、同席していた山本大将がカラカラと笑う。

「あいつの事です。怖がって見なかったのでしょう。それにあいつは生粋の軍人ですからな」

その言葉に、鍋島長官は苦笑する。

王国に関しての行動は、毛利中将に一任する事が多い。

だが、それはあくまでも軍事面であり、国としての関わりは荷が重いと思っているのか、或いはなるべく国と国の関わる政治には立ち入らないようにしているのか。

どちらにしても下手に暴走されるよりは遥かにマシであり、自分の立場を理解しそれに務めていると感じられた。

「頼りになるな」

そう言いつつ鍋島長官は封筒を開くと中に入っていた厚めの紙の束に目を通していく。

その様子をじっと見ていた新見中将と山本大将だが、発言はない。

ただ見終わるまでじっと待っていた。

そして、全てに目を通したのを確認し、新見中将が口を開く。

「それで、王国の要望書はいかがでしたか?」

その問いに、鍋島長官はいつもの飄々とした様子で答える。

「ああ、予想通りの内容だった。戦艦の修理の依頼、それと派遣艦隊の協力、それに物資と技術支援の要請だな」

「でしょうな」

そう言った後、新見中将の目が細くなる。

「それで、どこまでするのですかね?」

その言葉に、要望書を山本大将に手渡しつつ鍋島長官は躊躇なく答えた。

「できる事だけさ。幸いなことに、明石改型の工作艦や追加支援の艦艇も派遣済みだ。それに物資の支援は、帝国向けのものを一部回せばいい。今の帝国には、それほど膨大な物資は必要ないだろうしね」

「確かに。今の帝国は小競り合い程度に収まりつつありますからな。しかし、それはそれでいいとして、こちらはどうするおつもりですかな?」

新見中将は、視線を王国の要望書は別の封筒に向けた。

その大きめの封筒もかなりの厚みがあり、すでにここにいる三人は目を通している。

共和国から送られてきたものである。

その内容は、王国と似たようなものであったが、こちらは侵攻されている分、切実であった。

「流石に難しいね。勿論、全く動かない訳じゃない。ただ、サネホーンが動き出している今は、王国の様に大規模な艦隊を派遣したりといった事は難しい」

「ですな。しかし、それだけでは向こうも納得しないでしょうな」

そう突っ込んだのは王国からの要望書に目を通しつつ口を開いた山本大将だ。

「ああ。そこで少し考えたんだが……」

鍋島長官がニヤリと笑みを浮かべた。

その笑みを見て、山本大将と新見中将は苦笑する。

「で、何を考えたんです?」

「恐らくだけど、アリシアならうちだけでなく他の国にも支援を求めたと思うんだ」

「ええ。十分あり得ますな。ですが、帝国も合衆国もまだ国内が安定していません。それほど表立った支援は難しいのではないでしょうか」

新見中将がそう言うと山本大将も同意を記す。

「ああ。僕もそう思う。だけどね……」

鍋島長官はそう言うと軽く右手を上げる。

すると、東郷大尉がくすくすと笑いつつ書類を新見中将と山本大将の前に置いた。

二人はそれを食い入るように目を通す。

「これは……」

見終わった新見中将が、驚きの視線を鍋島長官に向けて聞く。

「ああ。すでに両国には手を回している。どうかな?」

「いや、驚きました。これだと我々も大規模な海上戦力を回す必要はないので助かりますな」

山本大将がそう言うと、新見中将は少し怪訝そうな顔で聞き返す。

「しかし、よく両国が同意しましたな」

「まぁ、合衆国としては、これ以上、存在感が薄くなるのを何とかしたいし、今回の連盟の横暴には腹を立てているものの表立って動きたくはないが支援はするべきだという考えみたいだからね。それと帝国は共和国との繋がりは元々強く、何より疫病に対しての支援を無償で受けているからね。どちらとしても、動きたいがという気持ちは強いからそれを揺すってやればいい」

「なるほど」

新見中将が納得した表情で頷くと続けて聞く。

「それと毛利中将が申請していた戦力補充に関してはどうされるのですか?」

「そうだね。無線標的機に改造されていない九九艦爆と九七艦攻を中心に補充機材を編成してくれ。予備機も多めにしてね。後、使用していない九七式大型飛行艇を回してほしい。それに合わせて予備航空隊の一部を王国に派遣したいんだけど、可能かな?」

鍋島長官は、部隊編成の資料を確認しつつそう聞いてくる。

「可能ではありますが、予備の航空隊のほとんどが新人ばかりの部隊です。それを派遣しても大丈夫でしょうか?」

その言葉に、鍋島長官は苦笑する。

「本国や機動部隊の航空隊を削って回すわけにはいかないからね。しばらくは辛抱してもらうしかない」

「確かに、そうですな。わかりました。奴ならうまくやるでしょう」

山本大将がそう言うと新見中将も頷く。

そんな中、緊急報告が入る。

『サネホーンに動きあり』

その報告を聞き、三人は今優先すべきことを行う為、思考を切り替える。

まずは、目の前の事から乗り越えていくしかないと。




連盟軍に上陸された共和国では、当初の予定通り、時間を稼ぎつつじりじりと防衛戦を下げる戦いが展開していた。

予定の最終防衛ラインはまだ完成しておらず、また多くの国民は、戦果に巻き込まれるのを恐れて安全な東側に避難を開始している。

そして、その二つを何とかするための時間を稼ぐためにどうしてもそうするしかないのである。

ビルスキーア臨時最高司令官は、元々海軍出身ではあったが、公国時代は軍を統括していた事もあり、陸戦に関してもかなり詳しかった。

実際、次々と出される指示は的確であった。

ただ、さすがに共和国の地形や気象に関しては、知らない事もあった為、補佐がついてカバーする事で大きなミスはない。

それに反対派を一掃してしまった事も大きいのだろう。

だから、最初こそあの会議でのことから渋々従っていた者達ではあったが、彼の指揮能力の高さに驚き、そして、移住してきたばかりの彼が必死になって国を守ろうという姿勢に心打たれて、短時間の間に以前の様に余所者という対応をする者はほとんどいなくなっていた。

今までバラバラだった共和国軍は、やっとまとまったと言っていいだろう。

だからこそ、大きな混乱もなく作戦は遂行されている。

「当初の予定通り作戦は進行しています。今の所、大きなトラブルもありません」

そのビルスキーア臨時総司令官の言葉に、アリシアはほっとしたような表情をする。

予定通りなら何とかなるかと思い。

そして、手元に用意していた紙を取るとビルスキーア臨時総司令官に手渡す。

「そう。わかったわ。それとこれを……」

「これは?」

「支援よ」

そう言われ、紙に書かれてある内容に目を通す。

最初こそ何気ない表情ではあったか、読み進んでいくうちに驚きのものとなった。

「こんな短期間の間に帝国と合衆国が動いたのですか?」

信じられないといった感でそういうビルスキーア臨時総司令官。

彼は、この二ヵ国を動かすのはかなり難しいと思っていたのだ。

なぜなら、両国とも国内がまだ安定していない中、外に気を回す余裕はないだろう。

特に合衆国は、帝国とは違って共和国とそれほど強い繋がりはなく、帝国のように疫病対策のような借しもない。

だから、スルーする事は可能だし、国内が安定していないという言い訳もあるから非難されることはない。

なのに支援するというのか……。

「それと、こっちはフソウ連合からよ」

そう言いつつもう一枚の紙を手渡す。

それに目を通し、ビルスキーア臨時総司令官は少し困ったような顔をした。

「戦車、ですか?」

「ええ。トラックみたいな車両に装甲と砲を取り付けたものらしいわ。反抗作戦の切り札になりえる兵器だと向こうはいってるわね。あと、運用の為に士官を派遣するともあるわ」

その言葉に、ビルスキーア臨時総司令官は眉を顰める。

「士官派遣はその戦車を使った運用の為なんでしょうが、やはり実際に実物を見てみない事には何とも……」

その言葉に、苦笑しつつアリシアは頷く。

「そうよね。近々、第一陣で十両程度来るらしいから、それで確認しておいて」

「わかりました」

そしていくつかの連絡と情報共有を行った後、ビルスキーア臨時総司令官は執務室を退室した。

ふー。

ドアが閉まるとアリシアの口から息が漏れる。

予想よりも思った以上に返信が早かったし、支援の内容も悪くない。

その内容は、帝国からは航路確保の為の艦隊の派遣と食料などの物資の支援、合衆国からは建造したばかりの艦艇の譲渡である。

そして、間違いなくその二つに関わっているのがフソウ連合だ。

帝国の派遣艦艇の多くは対潜能力を考慮してフソウ連合製の駆逐艦が中心になるみたいだし、それに帝国の艦隊の護衛を受けてフソウ連合の船団が動くと記載されてる。

また、合衆国から譲渡される艦艇はフソウ連合に受注されていた護衛駆逐艦と言うべき艦で、帝国艦隊の護衛を受けつつ完成したものをそのままこちらに運ぶらしい。

もっとも、乗組員はこっちで用意せよとのことだが、港で封鎖されて動けない艦船の乗組員を回せば問題ない。

勿論、将来的には機雷解除を終わらせて、封鎖されている艦艇も復帰はするが、早々復帰できるとは思っていないから艦だけ譲渡でも問題ない。

間違いなくサダミチが色々手を回したんでしょうね。

自分らも戦う相手(サネホーン)がいる中で、友人のためとはいえ他国の為にここまで手を回すとは……。

「本当にお人よしなんだから……」

思わず出た言葉。

だが、アリシアの顔に浮かんでいたのは微笑みだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おぉ、戦車ですか。 世界観からして、どうしても動力付きの兵器は軍艦や航空機ばかりになってしまうようですが、戦車という陸上兵器の花形が出てくるとは、今から楽しみです。
2023/11/14 19:46 退会済み
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