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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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立て直し  その1

「これはまた……」

そう思わず口に出したものの、アッシュはその後の言葉を飲み込む。

報告を聞いていたが、ただ言葉で報告されたものと実際に目で見て感じるものは大きく違う。

『百聞は一見に如かず』というやつだ。

もっとも、この世界ではこんな言葉があるはずもなく、似たような言葉である『褒美は実際に目にしてから決めよ』という言葉になってしまうが。

ともかく、その被害の大きさに、アッシュだけでなく、他の幕僚や軍関係者も言葉を失っていた。

確かに圧倒的な戦力の差をひっくり返したとはいえ、その分の対価はとても高くついたと言うべきだろう。

実際、戦いに参加した王国艦隊で無傷の艦艇は数隻程度であり、大半の艦艇は被害を受けている。

特に最前線で戦闘に参加した、ネルソン、ロドニー、それにドレッドノート級戦艦は、致命傷を受けなかったものの、艦上物はかなりの被害を受けていた。

「修理に時間がかかりますな。それに、ネルソン、ロドニーの修理は、我々では……」

造船技術のまとめである技術官長が困ったような声で呟く。

それはしかたないことではある。

王国である程度の修理や改装が出来る様に考慮されているドレッドノート級戦艦ならともかく、フソウ連合基準で整備修理が前提のネルソン級戦艦は王国の造船技術ではかなり厳しいと言わざる得ない。

それに出来たとしても、帝国のビスマルクやテルビッツのように外見は出来たとしても火力も装甲も本来の能力に比べれば格段と落ちる事になるだろう。

「あと、予算もかなり必要となりますな」

それとは別に財務官長もため息の後にぼそりと言葉を漏らす。

前回の帝国相手での大敗戦から、軍備の立て直しと潜水艦対策、それに戦死した者達の家族や負傷した者達への補償。

予算がいくらあっても足りないのが現状なのだ。

その上、海上航路の安全性の低下は、物価の上昇と経済力の低下を意味する。

じりじりと真綿で首を絞められているという状況に近い。

不安や不満がどうしても言葉に出てきてしまうのだ。

人は、何か言葉を口にすることで誤魔化そうとする。

だが、それは、より不安や恐怖を大きくする事もある。

だからこそ、それらの声をアッシュがぴしゃりと遮る。

「我々はまだマシだ。敵を退けられたのだ」

そう。共和国には、連盟軍が上陸し、侵攻を受けているという報告は王国にもすでにもたらされていた。

その言葉に、誰もが黙り込む。

人は、自分より下のものがいると安心するのだ。

本当なら、そんな事は言いたくなかったが奇麗ごとばかりで何事もうまくいくことはない。

アッシュはそれがわかっているからこそ、敢えて口にした。

すまんね、アリシア。

心の中で、友に詫びながら。

「それにだ。我々には、まだ支援してくれる国もある。それに時間もな」

その言葉に、不安げだった者達の表情が少し和らいだようだった。

「ふむ。殿下の言われる通りですな」

「確かに。確かに」

そんな言葉が、彼らから洩れる。

それを聞きつつ、アッシュは口を開く。

「この戦いは、国の総力戦となる。だからこそ、その為の準備を急げ」

「「はっ」」

その場にいたものが、敬礼し、或いはアッシュに礼をする。

この方ならば、この先もうまくやっていかれる。

今後の王国も、この方が導かれれば間違いない。

そんな思いを感じさせられたのだ。

それは、今の国王の息子というだけでなく、新しき指導者への信頼と忠誠が築かれつつある証でもある。

そんな皆を見回すと、アッシュは微笑む。

「まぁ、今日は、我々の勝利を祝おうではないか」

そう言って、入港してくる王国艦隊に視線を向ける。

その言葉に、誰もが微笑む。

確かに、先は大変かもしれない。

だが我々はとてつもない高い困難の壁の一つをクリアーしたのだから。

今は、それを祝おうと。



「この度の戦い、国王陛下を始め、王国民すべてが貴国の協力にとても感謝しております」

そう言った言葉から始まり、エリザベートは少し微笑みつつ感謝の意を示す。

その言葉に、先に港に戻っていたフソウ連合王国派遣艦隊司令の毛利少将も少し微笑みつつ言い返す。

「いえいえ、お気になさらず。貴国と我が国は、同盟関係ではありませんか。協力するのは当たり前でしょう」

「ですが、今回の戦いでは、フソウ連合のお力により、かなり戦いを有利に出来たことは間違いありません。それに、作戦の立案に当たっては、司令官閣下もかなり協力していただいたとか」

「いや、自分は自分の任務に、仕事にきちんと対応しただけです。余り気になさらないでください」

困ったように毛利少将は言う。

実際、今回のフソウ連合の被害は、航空機の被害はあるものの、死者はおらず軽傷者ぐらいで済んでいる。

それに対して、直接砲撃戦をした王国艦隊の被害は、とんでもないものになってしまっているだろう。

それを考えれば、はいそうですかとは言いにくいし、それに毛利少将としてもそんな気持ちにはなれない。

そんな毛利少将の態度と言葉の端々に感じられる遠慮に、エリザベートはクスリと笑う。

「殿下の言われる通りのお人柄のようですね」

「それは、どんな風に言われているのやら……」

苦笑して毛利少将は頭を掻く。

毛利少将にとって、アッシュは、あのとんでもない曲者の鍋島長官の親友であり、この国の次期国王と言われている人物だけに油断ならない人物だと思っていた。

それは、実際にあった後も変わってはいない。

見た目はそんな感じは微塵も感じさせない人物だとも感じたが、人は見かけによらぬものという事も彼はわかっていたからだ。

それに、今、目の前にいる女性は、アッシュの婚約者であり、彼の秘書をやっている、ある意味懐刀的な人物である。

言葉をそのまま受け取っていいのか迷っていた。

その様子に、エリザベートは内心苦笑する。

本当に、殿下の言われている通りだわ。

アッシュからは、毛利少将は、責任感が強く、油断のならない抜け目ない人物ではあるが、その人柄は大変良く、善人であろうとする傾向が強いと聞いていた。

そして、そんな人物だからこそ、あのサダミチが王国派遣艦隊の司令官に任命したのだとも。

ふぅ。

エリザベートは心の中で息を吐き出す。

殿下は、フソウ連合の話をされる時、よく言われるのだ。

『あのサダミチが……』と。

それを思い出したのだ。

そして、少し嫉妬心が心の奥から滲み出て来るのを感じた。

いけない、いけない。

私心は抑えなきゃ。

自分にそう言い聞かせて、言葉を続ける。

「それは、ご想像にお任せしますわ」

そう言って曖昧にしておく。

その言葉に、毛利少将も困ったような顔をする。

だが、すぐにエリザベートの表情が変わった。

さっきまでの微笑みが消える。

その表情の変化に毛利少将も気を引き締める。

そら、来たぞ。

だから、こういう腹の探り合いみたいなのは嫌なんだよ。

実際、本当ならこういった事は彼は苦手であった。

しかし、今の自分は、フソウ連合の代表者なのだ。

逃げる事は出来ない以上、やれることはやるしかない。

それに、本国からの指示は、『出来る限り王国に協力せよ』だ。

出来る限りのことをするだけだ。

そう心を決める。

それを感じたのか、エリザベートはバッグから丁寧に封をされた大きめの封筒を出す。

「今後の件で、殿下の親書をお持ちしました」

やはりそうきたか。

それは予想していた事だった。

今回の戦いで、王国の本国艦隊は当面組織立っての動きは無理だ。

それに対して、連盟の海上戦力は健在だ。

航路の警備に関してはイムサが何とかするにしても、艦隊戦力を動かされた場合、それだけで何とかできない場合もある。

封筒を受け取りつつ、毛利少将は聞き返す。

「こちらは、王国の今後の方針と考えてよろしいのですね?」

「ええ。殿下からは、海軍大臣や国王陛下とも話し合いをした結果、決定された事とのことです」

その言葉に頷きつつ毛利少将は封筒を受け取ったものの、開くことはせず手元にある封筒を見つめる。

「一応、本国と検討してお返事という事でよろしいでしょうか?」

「勿論です。それに、それはあくまでも協力依頼ですので」

微笑みつつそう言うエリザベートに、毛利少将は心の中で苦笑する。

恐らく、同盟の事もあるし、長官と殿下の関係もある。

だから、本国は出来る限りこの要請を受けるように指示を出すはずだ。

それは王国側もわかっている。

それがわかっていながら、彼女はあくまでも協力依頼という言葉を出す。

第一印象はどちらかというと地味で大人しい印象ではあったが、このお嬢さんも実はやっかいな人物だろうなと再認識させられたためだ。

そして、心の中でため息を吐き出した。

無茶苦茶な内容でなければいいのだが。

そして、早く娘に会いたいものだとも……。

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