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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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それぞれの入国…  ミッキー・ハイハーン少佐の場合 その2

ミッキー達が艦橋にたどりついた頃には、接近する二隻の軍艦との距離はもう戦闘になってもおかしくない距離になっていた。

大きさは本艦が百四十メートル程度に対してその半分程度だから七十メートルほどだろうか。

王国の軍艦のように砲がハリネズミのように設置されてはいないものの、いくつかの砲が設置されているのがわかる。

つまり、戦闘艦と言うことだ。

その艦が二隻、いつ戦闘になってもいいようにある程度の距離を保ちつつ砲をこちらに向けている。

しかし、国際基準の使者の旗と白旗がわかったのだろう。

砲撃される事はないようだ。

そして、相手の艦の探照灯が点滅しているのか見える。

発光信号だ。

「何を言っている?」

ミッキーの問いかけに艦長が緊張した面持ちで答える。

「『貴艦の目的の確認をしたい。今よりそちらに向う』ですな…」

そう言い終わらないうちに向こうの艦からボートが下ろされ始める。

「よし。出迎えの準備だ。いいか、絶対に刺激するなよ」

「了解しました」

艦長は緊張した顔のまま敬礼した後、部下に指示を出す。

それを横目で見ながら、ミッキーは出迎える為に甲板に向った。

その後をカッシュ中尉とイターソン大尉がついて来る。

ミッキーはちらりと後ろを見た後、「頼むから事を荒立てるなよ」とイターソン大尉に言う。

イターソン大尉は無言で頷くだけだったが、短い間の付き合いではあったがよほどの事がない限りは守ってくれるような気がした。

さて…、まずはどうするか…。

そこまで考えてミッキーは苦笑した。

何を見栄張って気取った事を言わなきゃいけないなんて思ってるんだ…。

そんな余裕も、準備も、心構えも出来ていないじゃないか。

ただ、真摯に対応する。

それしか選択はない。

そう決心し、ミッキーは甲板に着くとすぐに身なりを整え、水兵たちに階級が上位の者が来艦した時のように整列して待機するように指示し、相手が着くのを待つ。

それから十分から十五分もしただろうか。

一人の男がボートから甲板に上がってきた。

黒のシンプルながら見たことのない軍服を着ており、短く切り詰めた黒髪と黄色い肌、それに真面目そうな太い眉とぎょろりといった感じの目が印象的な男だ。

その他に四人ほど兵がいたようだが、その男以外はボートで待機しているようだった。

甲板に上がってきた男はぐるりと周りを見回し、一番階級が高いと判断したのだろう。ミッキー達の方にある程度まで近づいて敬礼をした。

「自分は、フソウ連合海軍南方方面艦隊所属第二警備隊の青島少尉であります。失礼ですが貴艦の所属と目的の確認させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

男の話した言葉は国際基準語で、一瞬、この目の前の人物が喋っておらずに他の人の言葉が聞こえているのではと思ってしまうほど、実に流暢だった。

その為、一瞬反応が遅れたものの、慌てずにミッキーは敬礼を返して口を開く。

「本艦は、ウェセックス王国第五艦隊所属のアクシュールツであります。本艦の目的はフソウ連合との講和、或いは休戦の締結と同盟関係の構築を目的としております。取次ぎのほどお願いしたい」

ミッキーの言葉に、一瞬青島少尉は驚いたような表情をしたが、すぐに落ちついた表情に戻る。

「私では判断できませんので艦隊指令の指示を仰ぎたいと思います。しばしお待ちいただけるでしょうか?」

「構いません。よろしくお願いいします」

「はっ。ではしばし時間をいただきます」

そう言った後、敬礼して青島少尉はボートに戻っていった。

すぐにボートは離れ、自分達の艦の方に進んでいく。

それを見送った後、ミッキーはため息を吐き出した。

「はぁ…。疲れた…」

「何言ってるんですか、これぐらい予行練習の練習みたいなものじゃないですか。がんばってくださいよ」

気軽にそう言うカッシュ中尉に、こっちの気も知らないくせにと思ってミッキーはムッとする。

そして皮肉たっぷりに言い返す。

「なら、お前に全て任せてもいいんだぞ」

そう言われてカッシュ中尉が慌てたようにあたふたしながら首をすくめて言う。

「勘弁してください。私はそんな玉じゃないんですよ。本当に勘弁です」

「冗談、冗談だよ」

「本当ですか?冗談に聞こえなかったんですけど…」

「………」

「黙らないでくださいっ」

真っ青の顔になってミッキーに掴みかからんばかりの勢いで叫ぶカッシュ中尉。

さすがに不憫とでも思ったのだろうか。

イターソン大尉が割ってはいる。

「そろそろ止めてあげたらどうです?」

「そうだな。からかうのもほどほどにしないとな」

ミッキーはそう言って苦笑したが、本心で言うならまったく冗談と言うわけではなかった。

任せられるなら任せたいという気持ちもあった。

それほどのプレッシャーだったのだ。

しかし、すぐにそんな事ではいけないと思い直す。

アッシュと約束したではないか。

彼の決意を受け取ったではないか。

それを忘れず、やり遂げるしかない。

ミッキーは決意を新たにしたのだった。


そして三十分後、再びボートがこちらにやってくる。

甲板に上がってきたのは青島少尉のみで、彼が上り始めるとボートは母艦の方に戻りだす。

「これは、どういうことですか?」

そう聞くミッキーに青島少尉は口を開いた。

「艦隊指令より基地の方に案内せよと指令を受けました。私が案内役として貴艦に乗艦させていただきます。許可をよろしくお願いいたします」

そう言い終わると敬礼する。

ミッキーも敬礼し「乗艦を許可します」と返事をした。

「許可ありがとうございます。早速ですが、15号艦、あの艦についていってください」

そう言って、ボートを回収している艦を指で示す。

「了解しました。では、艦橋にご案内しましょう」

「はい。ありがとうございます」

15号艦が先行し、その後を高速巡洋艦アクシュールツ、その後ろにもう一隻の艦がついて動き出す。

「どれくらいかかるのでしょうか?」

ミッキーのその問いに青木少尉は曖昧に笑うのみで答えなかった。

やはり基地に行くのにかかる時間等で基地の位置がはっきりするのを嫌がっているのだろう。

ミッキーはそう判断して聞くのを止めた。

交渉を始める前から警戒されては進むものも進まなくなる可能性がある。

どうするのか決める主導権を持っているのはフソウ連合の方なのだ。

王国側に決定権はない。

だからこそ慎重にならなければならない。

そしてミッキーの緊張がまわりに伝わったのだろうか。

艦橋内は静まり、異様な雰囲気に詰まれた。

さずかにそれはどうしたものかと思ったのだろう。

青木少尉は艦橋内を見渡し口を開いた。

「確かに王国とは戦いましたが、我々は戦い続ける事を望んではいません。それに、アーリッシュ・サウス・ゴバーク殿下と海軍総司令の鍋島長官は交友を結ばれた間柄と聞きます。もう少しリラックスされてはどうですか?」

「ですが…」

そう言いかけるミッキーに青木少尉は笑って言葉を続ける。

「それにうちの長官は、硬苦しいのは苦手なんですよ。ですからもっと気楽にされた方が助かります」

そう言われ、引っかかるものがあってミッキーは少し考える。

青木少尉は何といった?

気楽にされた方が助かりますって事は、まるで長官とすぐ会えるって風に聞こえるじゃないか…。

まさか…。

すーっと冷たい汗がミッキーの背中を流れ、そして恐る恐る聞く。

「もしかして…海軍司令長官殿と…」

「ええ。今、こっちに向っているそうです。すぐにお会いになられるそうですよ」

その言葉に、ミッキーは腹痛を感じ、無意識のうちに右手を腹に当てたのだった。

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