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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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天の鉄槌(ナテロ デ カルス)作戦  その8

夜の帳が落ちていき、周りが段々と暗くなっていく中、王国艦隊が突き進んでいく。

その動きに迷いはない。

敵艦隊の動きはフソウ連合の偵察機によって逐一報告が入ってくる為だ。

そして、もう一つ。

王国艦隊の目となって活躍しているものがある。

それは、ネルソンとロドニーに装備されているレーダーだ。

もちろん、フソウ連合が使用している最新型に比べれば数段落ちる性能だが、それでも夜戦ではとてつもなく効果を発揮する。

「敵の索敵で先行していると思われる艦影を発見しました。いかがいたしますか?」

そのレーダー手の報告に、ミッキーは海図から視線を動かさずに言う。

「構わん。無視しておけ。わざわざこれだけの距離が離れていても見つけれるんですよと教えてやる必要はない」

おそらく距離を考えれば、索敵に動いている先行艦でもまだ我々を見つけていない。

なのに我々は敵を発見している。

それを教えるような行為はしたくなかったし、レーダーのデータで砲撃したとしても早々当たらないのはすでに訓練で確認済みだが、それでも今までは夜目の効く乗組員や勘が頼りであった部分が確実になったのだ。

その恩恵は大きいと言えた。

なお、この世界でレーダーを装備しているのは、フソウ連合の艦艇、サネホーンのレーダー艦と一部の艦船、イムサの艦船の一部、そして王国のロドニー、ネルソンのみで、また元々レーダーを装備してあった帝国のビスマルク等の召喚戦闘艦は、フソウ連合の工作艦で修理の際に、レーダー関係の設備は秘密裏に外されてしまっていた。

「やはり、このレーダーとやらも導入しなければならない技術だな」

ミッキーがそう言うと副官が苦笑する。

「飛行機に、対潜水艦装備、それにレーダーですか……。まったく末恐ろしい国ですね、フソウ連合は。間違いなく敵にまわしたくない相手ですな」

その副官の言葉に、ミッキーは頷く。

「ああ、全てにおいて我らを凌駕している。戦ったら、間違いなく我々の負けだろう」

「なら、気を付けなければなりませんな」

副官の表情が険しいものになった。

恐らく警戒すべき仮想敵国とでも思ってしまったのだろう。

だが、そんな副官の表情をミッキーは笑い飛ばす。

「なに、心配する必要はない。あの国は、恩には恩を、仇には仇を返す国だからな」

そして、視線を副官から外に移しつつ言葉を続けた。

「それに、あの男が手綱を握っているうちは心配する必要はないぞ」

「あの男ですか?」

少し表情を緩めつつ副官が聞き返す。

「ああ、殿下(アッシュ)の親友であり、フソウ連合海軍を率いる総司令官サダミチ・ナベシマがいるうちはな」

その言葉に、副官は少し困った表情になった。

ミッキーは直接会ったことがあったが、副官は噂でしか聞いたことはないのだからそういう表情になるのも仕方ないのだろう。

さて、なんと言ったらいいのか。

そう副官は迷っていたが、それに割り込むようにレーダー手の報告が入る。

「恐らく敵艦隊思われる影を発見。予定通りの海域に敵艦隊集結しています」

その報告に副官が聞き返す。

「間違いないか?」

「はっ。間違いありません」

その報告にミッキーはニタリと笑みを浮かべる。

「各艦に伝達。『これより敵連盟艦隊と砲撃戦に入る。連中に祖国の地を踏ませるな』以上だ」

「了解しました」

通信兵がミッキーの言葉を各艦に伝える。

そして、事前の作戦通り、各艦艇はゆっくりと陣形を作り始める。

ネルソン、ロドニーを中心として、ドレッドノート級戦艦によって構成された前衛は横一列に並び、その後方に少し距離を置いて旧戦艦や重戦艦が二列の縦陣を形成していく。

その動きは機敏であり、かなり高い練度を感じさせる動きであった。

恐らく距離的には今頃になって敵の先行していた索敵艦艇は我々を発見しただろう。

フソウ連合の航空戦力でかなり疲弊しきっている事から撤退も考えられたが、どうやら敵は戦う気のようだと報告を受け、ミッキーは速力を上げる命令を下す。

まだ、レーダーで捉えてはいるが肉眼では発見できていない。

それでも敵がいる方向はわかる為、発見は早かった。

「敵艦隊、肉眼で確認。間違いありません」

観測員の報告に、ミッキーは命令を下す。

「よし、速力そのままっ。距離を詰めるぞ」

肉眼で確認したとはいえ、昼間とは違ってすぐ砲撃できるわけではない。

昼間でさえも命中率は高くないのに、夜間になればなおさらだ。

それ故に砲撃するにはかなり距離を詰める必要があった。

「各砲座、問題なし」

「隔壁閉鎖終了」

「機関問題ありません」

次々と報告が入る。

それを確認しつつ、ミッキーは前方を睨みつける。

昼間ならもう砲撃が始まってもいい距離だが、まだ砲撃命令は出さない。

なぜなら、砲撃する事は、相手に正確な位置を知らせる事にもなるからである。

それは敵もわかっているのだろう。

ただも距離だけが詰まっていく。

しかし、ミッキーは待っていた。

チャンスを。

そして遂にその時が来た。

「機影発見。二機。敵艦隊上空です」

レーダー手の報告に、ミッキーは空を見上げる。

もっとも、距離もかなりあり、星が瞬くような空でそれを見つけ目るはかなり難しい。

それでも、見上げる。

それと同時に無線が入る。

「フソウ連合の水上機から無線が入りました。『こちら、毛利艦隊所属5077-3。作戦実行に移す。準備はよろしいか?』以上です」

「『こちらの準備良し。始めてくれ』と伝えよ」

そのミッキーの命令を受け、通信兵が通信で伝える。

そして、それに答えるかのように、敵艦隊の上空で旋回していた二機がそれぞれ翼下に取り付けてあったものの一つを切り離した。

棒状の物が落ちていく。

そして後部からするすると紐状のものが出たと思ったら、それは一気に広がった。

落下傘である。

落下傘によって落下の速度が一気に落ち、棒状のものが漂うようにふわふわと落ちていく。

そしてある程度の高度で機能するようにしてあったのだろう。

棒状の先の部分が、強い光を発し始めた。

照明弾である。

その強い光が辺りを照らし出し、闇夜の中に隠れていた連盟の主力艦隊の姿を浮かび上がらせた。

舞台なら主役登場といったところだろうが、ここは戦場であり、夜戦の真っ最中である。

いい標的にしかならない。

思った以上に明るいな。

これなら……。

ミッキーは命令を下す。

「よし。各艦撃ち方始めっ!!」

その命令を受け、前衛の弩級戦艦や超弩級戦艦の主砲が火を噴いた。

そして、その砲撃を受け、慌てて連盟艦隊も撃ち返し始める。

挿絵(By みてみん)

もっとも、照明弾によって強い光にさらされている側と砲撃の光で何となく位置がわかるという違いは大きい。

まだ、命中弾はないものの、王国艦隊の砲撃が至近距離で弾着するのに対して、連盟の艦艇の砲撃は、余りにも離れすぎている。

それでも、照明弾が海中に落ちてしまうまでに命中弾は双方なかった。

だが、照明弾が海中に没してしまう瞬間、光が消えかける瞬間に、新しい照明弾が投下され、光を発していた。



「糞ったれがっ」

パメレラン提督は口汚く空中で漂う光を睨みつけ罵った。

照明弾によってこっちの位置は丸裸にされたのに対して、敵の位置は砲撃してきた際の光でしかわからない。

相手がサーチライトでも使えばそれを攻撃目標にすればいいのだろうが、照明弾が投下され続けている以上、危険を冒してまでサーチライトを使う必要性はない。

「て、提督っ、このままではっ」

副官の悲鳴のような声が上がる。

ええいっ。うるさいっ。

心の中でそう叫ぶと、それでもなんとか自分を落ち着かせ命令を下す。

「サーチライトを使え。それと信号弾を上げよ。狼達に側面をつかせるんだ」

「は、はいっ」

その命令を受け、前方に配置された重戦艦がサーチライトを使って相手を照らそうとする。

それと同時に、空中に赤い信号弾が打ち上げられた。

なお、サーチライトは、味方の砲撃の為と潜水艦部隊に敵の位置を教える為でもあった。

幾つもの光の線が動き、王国の前衛を照らす。

いい気になるなよ。

ここから一気に逆転してやるぞ。

潜水艦による横合いからの雷撃で、敵は陣形が大きく崩れるはずだ。

そこを一気に突いて、後は数の力で磨り潰す。

パメレラン提督はそう考えていた。

そしてその策はうまくいくはずであった。

だが、雷撃が行われた形跡は見られず、敵の陣形は崩れることなく接近してくる。

「なぜだっ。潜水艦部隊は何をしているっ」

パメレラン提督の口から言葉が漏れる。

事前に無線で四隻が作戦参加という報告を受けている。

なのにどうして……。

副官がその言葉に反応した。

「わ、わかりませんっ」

それで我に返ったのだろう。

どう考えても不利だ。

それはわかっていた。

しかし、パメレラン提督はそれでも諦めなかった。

「くっ。どいつもこいつも役立たずめっ。こうなったら数の力で敵を磨り潰すぞ。各艦怯むな、砲撃を続けろ」

サーチライトを当てつつ砲撃しているものの、まだ命中弾はない。

それどころか、王国側の砲撃はますます激しくなっていく。

そして四回目の照明弾の投下の後、遂に王国側の砲撃が、連盟の重戦艦の一隻を捉えた。

どんっ。

命中した砲弾は、普通ならそのまま装甲を切り裂き、一気に艦内に飛び込んだだろう。

だが、そうはならなかった。

砲弾は、装甲を切り裂かずに、命中した瞬間、当たりに液体をまき散らす。

そして、その液体に火が付き燃え上がった。

炎上を目的に作られた油脂焼夷弾である。

この砲弾は、ぶ厚い装甲を吹き飛ばす事は出来ないものの、命中した相手を炎上させる効果があった。

この炎上によって生まれた光が、また辺りを照らし出す。

そして、その光が導いたのか、続けて違う艦艇にも砲撃が命中する。

こちらも焼夷弾であった。

次々と新しい光が生まれていく。

すでに照明弾は投下されなくなったが、それでもサーチライトとこれらの艦の炎上によって生まれた光によって、連盟主力艦隊の姿は丸見えとなってしまっていた。

そして、ついに徹甲弾に切り替えたのだろう。

次に命中弾を受けた別の戦艦は、大爆発を起こして轟沈する。

それは余りにも派手で、衝撃的な光景だった。

そして、それが呼び水になったのだろうか。

次々と連盟の艦艇は被弾していく。

呆気ないほど簡単に轟沈した艦もあれば、何とか沈没を免れた艦もある。

だが、沈められていくのは連盟側だけだ。

やっと連盟側の砲撃も当たり始めたが、致命傷にはなっていない為か王国艦隊に沈む艦艇はなかった。

もちろん、艦上物に被害は出ていたし、火災も起こってはいた。

だが、夜の暗闇では、その被害が見えず、連盟側から見れば、砲撃を跳ね返し、接近しつつ打ち返してくるという風にしか見えていなかったのである。

「ば、化け物だっ。あんなの相手に勝てねぇよ」

誰かがポロリとこぼした言葉。

普段なら、叱咤されたであろう言葉だったが、それを叱咤するはずの上官さえも何も言えずに唖然としている。

疲労していた故に思考は悪い方へと働き、それは心を折り、恐怖を引き出すのに十分であった。

「嫌だっ。死にたくないっ」

一人の兵士のその叫びが引き金となった。

その恐怖は一気にその場に広まる。

恐怖は伝染するのだ。

誰もがもう戦いどころではなかった。

いくらまだ何とか恐怖に堪え切れた者がいたとしても、この流れに逆らえなかった。

そして、混乱(パニック)は新たなる混乱(パニック)を生み出し連鎖していく。

それはその艦一隻だけに止まらなかった。

あらゆる連盟の艦艇内で似たようなことが起こっていたのだ。

それでも、まだ何とかほとんどの艦艇はその場に踏みとどまっていた。

だが、遂に一隻が離脱しようとした動きを見せると、雪崩を打ったかのようにそれに続く艦が続出。

陣形はなし崩しの様に大きく崩れ始める。

その光景にパメレラン提督はヒステリックに叫ぶ。

「何をやっているんだっ。戦えっ。離脱するなっ」

しかし、それは空しい遠吠えにしかならなかった。

実際、旗艦内でも混乱(パニック)は起こっており、すでに戦いを続けれる有様ではなかったのである。

「提督、もう無理です」

副官が青い顔で言う。

パメレラン提督の視線が副官を捉え、そして混乱する艦橋を見回す。

そして、パメレラン提督は乾いた笑い声をあげて唖然した表情のままその場で力なく座り込んだ。

その瞳には活力を感じさせる光はなく、まるで亡者のような目であった。

それを見た副官は指揮不能と判断したのだろう。

命令を下す。

「撤退だ。急いで撤退だ」

だが、その命令は悪手であった。

その命令を受け、まだ踏みとどまっていた艦艇も我先にと離脱を始めたのだ。

その動きは統一性がなく、皮肉なことにその命令がより混乱(パニック)を引き起こし味方同士で衝突する艦も出る有様であった。

こうして連盟主力艦隊は、圧倒的な数の優勢を生かせないまま敗北する。

それは余りにも惨めすぎるものであった。

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