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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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天の鉄槌(ナテロ デ カルス)作戦  その6

通信兵から渡されたボードに挟まった紙を見て、連盟海軍第36潜水艦部隊所属のN-106の艦長は渋い表情になった。

以前に比べて警戒する必要はあるものの、蓄電池でモーターを回すしか潜水中は移動できない潜水艦にとって、その行動のほとんどは洋上航行であり、その際は普通に無線も受け取れる。

それ故に、新しい指令を受け取ったり報告も出来るのだが、それがいつもいいものとは限らない。

そして、艦長のその表情から、今回の報告は飛び切り悪いもののようであった。

「何があったのですか?」

副官が心配そうな顔でそう聞いてくる。

その副官の方に視線を向けるとボードを手渡した。

要は見てみろという事らしい。

それを受け取り、内容を目に通す。

そこには、潜水艦部隊は、すぐにこちらの指示に従い行動せよと記載されていた。

それも洋上艦隊の指揮官の名前で。

潜水艦部隊の誰もが洋上艦隊関係者を嫌っているわけだはないが、余りにも上から目線の命令に、本来なら中立派だと思っていた副官さえもムッとした表情になる。

しかし、ここは軍隊だ。

相手の方がはるかに階級は上であり、今回の作戦では、出来る限り協力せよというお達しが潜水艦隊司令部から届いている。

だから、ここは従うしかない。

そう思ってみたものの、艦長は大の洋上艦隊の関係者に嫌悪感を持つ人物である。

だからついつい恐る恐るといった感じで聞いてしまう。

「やはり、艦長、ここは……」

しかし、言い切る前に艦長が口を開いた。

「副長!」

「は、はいっ」

いきなり呼ばれ、びくりと副長の身体が震えた。

しかし、そんな副長に構わず、艦長は言葉を続ける。

「我々は、現在、イムサの艦隊と遭遇し、潜水中である。わかるな?」

何を言われているのか一瞬分からず、思わず聞き返す。

「えっと、どういうことでしょうか?」

「しっかりしろ。今我々はイムサの駆逐艦と死闘を繰り広げているのである。そうだな?」

「えっと……」

「そうだな?」

再度強く言われ、副長はやっと艦長が言いたいことを理解した。

「はっ。只今、我々は潜水中の為、無線は受け取れませんでした」

はっきりとそう言うと艦長は満足げに頷く。

そして、艦内に響くような大声で言う。

「我々は、潜水艦隊所属の潜水艦乗りである。洋上艦隊所属でも、連中の部下でもない。あくまでも我々は協力してやっているのだ。我々が優先すべきは、我々の本来の任務である」

要は、全員それでいいなという確認である。

もっとも、嫌とは言えない雰囲気がある上に、ほとんどが洋上艦隊嫌いであった。

だから、異論は出てくるはずもない。

「その通りです、艦長」

「そうですな。まさしく艦長の言う通りです」

そう言った声が乗組員達から上がる。

それらの声を聞いた後、艦長は満足げに頷くと命令を下す。

「よし、それでは、急速潜航っ。しばらく海の中でのんびりとしておくぞ」

「はっ。了解しました」

こうして、N-106は本来の通商破壊作戦の任務を遂行すべく、作戦参加を見送る事となるのであった。



しかし、誰もがN-106の艦長の様に対応したわけではない。

心の中では、嫌悪し、唾を吐きつけ拒否したい心境になったとしても、命令である以上は従わねばと行動する者がほとんどであった。

実際、この海域で通商破壊作戦で動いていた潜水艦は6隻。

その内、四隻が命令に従い、指定された作戦域に向かおうと移動を始めた。

動かなかった二隻の内、一隻はサボタージュを決め込んだN-106であり、もう一隻は本当にイムサの艦隊と遭遇し、戦闘に入って無線を受け取れなかったN-136であった。

そして、指定された海域に向かう四隻の内、フソウ連合の航空哨戒を躱してその海域に辿り着いたのは半数の二隻のみであった。

また、そんな二隻も無事では済まなかった。

先行して哨戒任務に当たっていた駆逐艦を中心とする王国艦隊の先行艦隊に発見され、ラフィード諸島に辿り着けたのは一隻もいなかったのである。



潜水艦が全滅したとは知らず、パメレラン提督率いる主力艦隊は、ラフィード諸島に向かって進んでいく。

その速力はそれほど早いものではない。

急ぐ必要はなく、このまま夜戦に持ち込もうと考えていたのである。

いくら長距離を打てる主砲があったとしても、夜間では、ある程度接近しなければ撃つことさえも難しく、どうしてもある程度距離の近い、中近距離での戦いになる。

そうなるといくら装甲が厚く、ロングレンジの主砲があったとしても、有効ではない。

中近距離ならば装甲が厚くとも致命的な一撃を与えられるだろうし、大口径主砲はかえって使いにくくなってしまう可能性さえある。

それに、中、近距離ならば数の利をうまく活用できるだろう。

その上、潜水艦による雷撃攻撃。

昼間ならはっきりとわかる航跡も夜間では発見しにくく、雷撃攻撃されていると判れば相手はパニックになるだろう。

これで間違いなく勝てる。

パメレラン提督は勝利を確信していた。

そしてそんな中、索敵の為に先行していた装甲巡洋艦から無線が入る。

敵艦隊発見の報である。

そして、予想通り戦場はラフィード諸島になりそうであった。

その上、敵発見の位置から、逆算すれば戦場に到着するのは恐らく二十時以降となるだろう。

ならばそれに合わせて我々も向かえばいい。

全ては計画通りだ。

よし。早めに兵には夕食と交互に休息を取らせ、万全の状態で迎え撃つとするか。

そう思った時であった。

予想外の事が起こる。

それは、警戒している兵士からの報告である。

「上空に敵発見」

その報告に、誰もが驚く。

別に飛行機という兵器を知らないわけではない。

だが、その兵器は、フソウ連合が活用している為、ここで飛行機を発見するという事を考えなかった為である。

「間違いないか?」

「はっ、十一時の方向から黒い点がいくつもこちらに向かっているのが発見されております」

「くそっ。なんでさっさと祖国に戻らねぇんだよ」

パメレラン提督は吐き捨てる様にそう言うと壁を蹴り上げる。

確かにフソウ連合の艦隊が王国に来ているとはスパイからの情報で知っていた。

だが、恐らく港に閉じ込められるか、本国に避難したと予想されていたのである。

それなのに、こちらに向かってきているだと?!

もう戦うしかない。

ならばいう事は一つだ。

「糞ったれがっ。対空戦闘用意っ」

なんとかそう言ったものの、艦艇に搭載されているほとんどの砲は飛行機に対して有効ではない。

機銃などで対抗するしかないのである。

そして、黒かった点はゆっくりと大きく形を取り始める。

細かい分類は、資料がない連盟側にはわからなかったが、連盟海軍王国侵攻艦隊を襲ったのは、十二機の九七艦攻改であった。

元々は、対潜水艦用に改修された機体ではあったが、本来の機能が失われたわけではない。

本来の機能に対潜索敵能力がプラスされたのが九七式艦攻改である。

搭載兵器も、魚雷だけでなく、800か500Kgの爆弾×1、250Kg爆弾×2、或いは30kg爆弾×6といった感じで多彩で、唯一、急降下爆撃は無理ではあったが、偵察、爆撃、雷撃、哨戒と言った多目的に使える機体であった。

それらが雷装して主力艦隊に襲い掛かる。

対抗するかのように火を噴く砲はわずかで、とてもじゃないが攻撃を邪魔する事さえもできていない。

低空で艦隊に侵攻していく九七艦攻改は次々と魚雷を機体から投下していく。

ドボンっ。

そんな音と共に魚雷は海中に沈み、一気に速力を上げて主力艦隊に襲い掛かった。

「各艦回避だ。急げっ」

攻撃を受けた艦艇が回避行動に移ろうとしたものの、密集体形に近い為、避けようにも避ける事は出来ず、運よく避けられたとしても、その魚雷は、そのまま他の艦艇に襲い掛かる。

十二発の魚雷は、外れることなく全て艦艇に当たった。

もっとも、最初に狙ったものではないものもあったが……。

次々と爆発音が響き、多くの艦艇が爆沈していく。

それは、この世界が砲撃戦がメインであり、喫水線より下の装甲を重視していないのが大きかった。

呆気ないほど簡単に魚雷は外装を突き破り、艦内で爆発。

それが弾薬庫に誘爆していったのであった。

「くそっ。被害状況を確認させろ。それと乗組員の救助を急がせろ」

パメレラン提督はそう命じると共に、心に広がりつつある不安を片隅に押しやる。

少々戦力を削られただけだと。

まだ大丈夫だと。

だが、乗組員の救助が終わり、被害状況を把握した頃、再び悲報が響く。

「敵接近中です」

そう、飛行機による攻撃は、あれで終わりではなかったのである。

第二次攻撃隊の九七式艦攻改七機が上空に姿を現したのであった。

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