表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

723/837

天の鉄槌(ナテロ デ カルス)作戦  その5

先行艦隊、それも二個艦隊両方が王国艦隊に敗れたという報を知らされ、主力艦隊司令官であり王国方面の総指揮を行っていたパメレラン提督は自分の耳を疑った。

「それは本当か?」

そう聞かれ、報告している通信兵は残念な表情で頷く。

「はっ。間違いありません。私も半信半疑だったので何度も聞き返したのですが……」

その通信兵の声は震えており、信じたくないという思いが滲み出ていた。

しかし、何とか現実を受け止めようと必死になっているといったところだろう。

そして、その報を受け、さっきまでの楽勝モードが嘘のように艦橋内が静まり返っている。

誰もが信じられない。

そんな心境であり、パメレラン提督もそうであったが、周りがそんな状況故にかえって受け入れられていた。

「被害の方は?」

「はっ。艦隊の半数が損害、或いは撃沈といったところです。特に北回りの艦隊は待ち伏せの追撃を受けてかなり酷い有様で、こちらに合流するよりも撤退を選択せざる得ない有様です」

その言葉に、パメレラン提督は黙り込む。

楽勝と思っていた戦いで手酷いダメージを受け、今の話だと王国侵攻艦隊の戦力の三分の一は損害を出していると思っていいだろう。

確かに先行艦隊が敗北したとしても、主力艦隊だけでも十分戦えるとは思っていた。

しかし、それはあくまでも余裕の表れであり、まさか実際にそんな事態になるとは思ってもみなかったと言っていい。

それでハッとして聞き返す。

「それで敵の被害は?」

その問いに、通信兵が悔しそうな表情をより強めた。

そして、言っていいのか迷う素振りをしている。

それだけで何となく言う事がわかる。

だが、それでも情報はきちんと把握しなければならない。

艦橋内の士気が下がるとしても、情報把握は必要なのだと自分に言い聞かせて。

「構わん。言え」

そう言われ、通信兵は口を開けた。

「敵の損害は、軽微であり、撃沈した艦はほんの少数とのことです」

本当なら、大打撃を与えたとか虚偽の報告が来てもおかしくない。

だが、先行艦隊の指揮官は、きちんと報告をしてきている。

それはパメレラン提督にとってはありがたかった。

だが、今の報告で艦橋内が益々静まり返っていく。

そんな中、パメレラン提督は声をあげる。

周りに響くかのように大きな声を。

「何を委縮しておる。いくら先行艦隊が敗北したとしても、まだ我々がいる。我々だけでも十二分に勝つ戦力は整っている。それにだ。さっきまで我々は敵を舐め切っていた。しかし、これで我々に油断は無くなった。より、勝利への道は開けたと言うべきではないか。今こそ、我らの力を王国に見せつけるべきだ。そして、失われた味方の仇を取るのだ!!」

その声に、艦橋にいた一人の兵が反応する。

「そうだ。我々はまだ負けていない」

ぽつりと漏れた言葉。

だが、それが呼び水となった。

「そうだ。その通りだ。王国に我々連盟海軍の底力を見せつけてやろうじゃないか」

「おおっ。やられた戦友(とも)の敵討ちだ」

「やってやるぞ。絶対に勝利してやる」

それぞれが自分を奮い立たせるために声歩上げていく。

それが相乗効果となってより広がっていく。

そんな中、パメレラン提督はそんな周りの様子に心の中でほっと息を吐き出した。

これで士気は問題ない。

しかし、引っ掛かっているものがあった。

それは先行艦隊の敗因である。

確かにフソウ連合からの戦力補強で、強力な艦船がいるのはわかっている。

しかし、あの圧倒的な数の差を覆すほどではないはずだ。

では、敗因は何だというのだ?

だが、彼はそこで思考を切り替える。

今は、過去の戦いの分析よりも先の戦いの準備をすべきだと。

「よし。恐らく敵艦隊はこちらに進んできているはずだ。敵の位置を把握するため、索敵の装甲巡洋艦を各方向に出せ」

「はっ。直ちに」

副官が敬礼し、指示を出していく。

そして、パメレラン提督はテーブルに広げられた海図に視線を落とす。

王国西側を中心とした海図で、そこには赤鉛筆で位置が記されている。

そして、今自分らがいる位置を確認し、ゆっくりとその周りに視線を動かしていく。

そして一点でその動きが止まった。

ラフィード諸島。

小さないくつかの無人島で構成されている場所だ。

ふむ。ここなら……。

パメレラン提督は戦場をここに決める。

そして、副官に声をかける。

「確か、この辺りには、狼達が残っていたな」

「はっ。第一段階に参加しないで通商破壊を任務にしていた連中がいるはずです」

それを聞き、パメレラン提督はニタリと笑みを漏らす。

「よし。すぐに連絡を取れ、彼らには協力してもらおう」

その意味が判らず、副官が聞き返す。

「協力でありますか?」

「ああ。協力だ」

「しかし……、協力するでしょうか?」

副官がそう言うのには理由がある。

洋上艦隊と潜水艦隊は仲が悪いことで有名だからだ。

「この作戦には、連盟の命運をかけた一大作戦である。拒否はせんだろう。もっとも、後で皮肉の一つぐらいは言われるかもしれんがな」

そう言って苦笑するパメレラン提督。

もし拒否した場合は、脅すだけだ。

階級は間違いなく、自分が上だ。

それをちらつかせ、従わせればいい。

それに、うまくいったら少しは褒美を回してやるとするか。

そんな事を考えつつ、副官に伝える指示を出す。

それを半信半疑で聞いていた副官であったが、納得したのだろう。

大きく頷いた。

「はっ。直ちに伝えます」

そう言うと副官は直ぐに通信兵に提督の指示を狼達に伝える様に命じた。

よし。これで舞台は整った。

さぁ、叩き潰してやるぞ。

奇跡は二度と起こらないと教えてやる。

パメレラン提督は間違いなく勝利を確信していた。

それは、この艦隊にいる連盟海軍の全員が思っていたことでもあった。



パメレラン提督は途中で思考を止めたが、先行艦隊の敗北の大きな原因は、三つあったと言っていいだろう。

一つは相手を舐め切って油断しきっていた事。

もう一つは、性能の差。

最後一つは、情報収集能力の差である。

実際、フソウ連合の偵察機によって、連盟海軍の動きは逐一王国に伝えられており、連盟の様に索敵の為に戦力を分散する必要は全くと言ってなかったのである。



「第二艦隊が集結しました」

副官の報告に、ミッキーは聞き返す。

「で、被害の方は?」

「はっ。装甲巡洋艦六隻、戦艦二隻、中破。後は損傷軽微といったところでしょうか」

「つまり、それらの艦艇以外は次の戦いに問題はないと?」

「はい」

「そうか。ならば、被害の酷かった艦隊は戦線離脱を。残りは作戦を進めるぞ」

ミッキーはそう言うとテーブルに広げられた海図に視線を落とす。

「それで、敵の動きはどうだ?」

「敵の主力艦隊は、こちらの動きを探る為、各方向に索敵の艦隊を先行させゆっくりとこちらに向かっています」

ミッキーは海図から視線を外さずその報告を聞いている。

「ふむ。予想通りに進んでいるか……」

そう言っているミッキーの視線の先にあるのはラフィード諸島。

恐らくここで決戦を挑むだろう。

時間的に夜戦となる。

そうなると、島を使って待ち伏せといったところか。

ならば……。

そう思考していたミッキーに副官が声をかける。

「それともう一つ情報が」

副官の声に、ミッキーは視線を海図から副官の方に向けた。

「情報?出所は?」

「フソウ連合の派遣艦隊からです。敵の通信を傍受したとのことで、なにやら移動を命じている様子だったと」

「詳しくはわからないのか?」

「はい。暗号変換がされているらしく、詳しい事は……」

その報告を聞き、ミッキーは考え込む。

確かにまだ暗号解読は完全に出来ていない。

しかし、それでも全くわからないよりはマシだ。

ありがたいことに、連盟海軍(れんちゅう)は暗号が解読されかかっているとは思ってもいないはずだから、虚偽の指令は出さないはず。

ならば、この命令は間違いないという事だ。

そして移動を命じたという事は、このあたりにいる敵艦隊戦力は、主力艦隊、後方の上陸部隊を満載した輸送船団、それに敗走している先行艦隊ぐらいだ。

今の現状だと敗走する先行艦隊に向けてというのは考えにくい。

それに輸送船団というのもおかしな話だ。

主力艦隊が敵を潰してから動く予定になっているはずだ。

だから、今急いで移動を命じる必要はない。

ならば、どこに命じた?

そして、ミッキーは一つの答えに辿り着く。

「駆逐艦部隊に急いで先行させろ。敵主力がラフィード諸島に辿り着く前にだ。それとフソウ連合派遣艦隊に協力を仰げ。入り込んでいる敵潜水艦の排除を」

「り、了解しました」

副官が慌てて走り出す。

砲撃戦中に、横合いから潜水艦の雷撃を受けたらたまったものではない。

少しでも不安要素は消しておく。

そして、全力で叩き潰す。

二度と王国にちょっかいを出す気が起きないように。

その為には、ドレッドノート級弩級戦艦やネルソン級超弩級戦艦の力を見せつける必要性がある。

かって、王国が、帝国のテルビッツやビスマルクに恐怖したように。

ミッキーはそう判断したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ