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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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天の鉄槌(ナテロ デ カルス)作戦  その2

日付が切り替わっての潜水艦による奇襲攻撃があった軍港は、王国、共和国合わせて33ヵ所に及んだ。

その軍港の規模によって2~6隻と攻撃してくる潜水艦の数は違ったものの、やり方は全て同じであった。

深夜、洋上航海で港内に侵入し、魚雷攻撃、そして最後に機雷を投下して撤退するのである。

だが、全ての軍港でその作戦が成功したわけではなかった。

運よく侵入前に潜水艦を発見し、砲撃によって撃沈させ被害がなかった軍港、被害はあったものの機雷を投下前に沈めることに成功した軍港もあった。

しかしもそういった対処できた軍港はほんの一握りであり、33ヵ所の内、28ヵ所で雷撃による攻撃で被害があり、27ヵ所で機雷投下を阻止できなかったのである。

その結果、軍艦11隻撃沈、28隻損傷、そして27ヵ所の軍港は港としての機能が著しく低下する羽目に陥る事となる。

また軍港の機能の低下だけではない。

それ以上に深刻で大きな問題は、港内に機雷がある為、港内で停泊している無傷の艦船が出港できなくなってしまった為、実質戦力の稼働が大きく低下してしまったという点にある。

その戦力は、王国の場合、本国艦隊の実に6割程度。

さらに、共和国海軍はより酷く、7割以上の戦力が稼働できなくなってしまったのである。

翌日の昼に軍本部にもたらされたその正確な報告は、深夜の奇襲攻撃で叩き起こされて招集され疲弊しきっていた王国、共和国海軍本部上層部にとってはまさに悪夢と言っていいだろう。

そして、それに拍車をかけているのが、機雷の撤去に時間がかかるという事だ。

その撤去方法は、ダイバーが機雷に接近し、ロープで固定。そのロープを港外で待機している艦艇でゆっくりと港外に引っ張り出してある程度沖合に移動させ、爆破処理という形になる。

接触式である以上、何かに当たれば爆発するのだ。

接近してロープで固定するダイバーはまさに命懸けと言っていいだろう。

それに、処理は一度に複数できるはずもなく、一つ一つという事になる。

また、天気や波の状態でも難易度が違ってくる。

その為、どうしても時間がかかってしまう。

そして、より問題なのは、敵がどれだけの数の機雷を投下したかという事が不明な事にある。

もし取りこぼしがあって、終わったと思って艦隊を動かして被害が出たらたまったものではない。

それに、この世界の艦船は、魚雷や機雷があまり発展せずに砲撃戦のみ発展してきたため、喫水線下の防御にあまり力を入れていない。

だが、それは今まで魚雷や機雷は、不発といったいろいろな問題が多く、戦力として活用しにくいという事があったからである。

だが、連盟はそれを克服し、活用して見せたのだ。

そして、それは予想以上にうまくいっている。

つまり、魚雷や機雷は、この世界の艦船にはかなり有効な兵器という事になったのである。

そんな事実や報告だけでも頭が痛いのに、それから二時間後にそれに輪をかけたような凶報が連盟に入り込んだスパイから知らされた。

『連盟海軍艦隊の大規模な動きがあり。また上陸作戦と思われる為の陸上兵力の移動も見られる』という報であり、それを受け、王国、共和国は急遽対応策に追われる事となったのである。


「完全にやられましたな」

報告を受け、気難しい表情でそう言ったのは、王国宰相のエドワード・ルンデル・オスカー公爵だ。

その言葉に、不機嫌そうに海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿は言葉を吐き捨てた。

「ああ、連中の思惑通りに進められたよ、糞ったれがっ」

その二人の言葉に、その場にいた誰もが言葉を発する事は出来ないでいた。

こんな戦い方をしてくるなど今までにない事だっただけに、誰もが予想外の出来事にどういっていいのかわからないでいたのだ。

だが、それでも黙っているままでいる訳にはいかない。

オスカー公爵が口を開く。

「で、対策はどうするのかね?」

「機雷の撤去は急がせているが、どう考えても連中の動きに間に合うはずもねぇ。ましてや、無理して戦力を失うなんてのは、愚の骨頂だ。時間はかかるだろうが、港内の安全確保を優先させるべきだろうよ」

「うむ。そうするしかないだろうな。で、接近してくると思われる連盟の艦隊に対してはどうする?」

オスカー公爵のその問いに、メイソン卿は渋い表情を少し和らげて口を開いた。

「どうするもこうするも、集められるだけの戦力で対抗するしかあるまい。だが、唯一の救いは、フソウ連合の派遣艦隊とミッキーの艦隊が無傷で残っているという事だな」

「つまり……」

「この二つの艦隊を中核として対抗するしかないってことだ」

「フソウ連合が動くと思うかね?」

「動いてもらわねば困る。だから、動くように、いや違うな。何としても動かす。あらゆる手を使ってもな」

その強い意志を示す言葉に、オスカー公爵は強く頷く。

「わかった。この件、軍務大臣に任す。私は、国王に報告後、国内の引き締めと世論の誘導に注力しょう。任せたぞ」

「ああ。絶対に何とかしてみせる。連盟の連中に王国の地を踏ませはしない」

メイソン卿のその言葉に、満足そうに頷くとオスカー公爵とその部下達は会議室から退室した。

そして、残った軍関係者を見渡した後、メイソン卿は命令を下す。

「ミッキーを呼んで来いっ。それとフソウ連合の駐在官に面談のアポを取れ」

そして、その後、再度全員を見回して言う。

「いいか、野郎どもっ、ここが踏ん張りどころだ。気合を入れてかかれ」

その言葉に、その場にいた全員が立ち上がると敬礼し声をあげた。

「「「はっ」」」

こうして王国は、連盟の動きに対抗するため、大きく動き始めたのである。



「これ、どうすればいいのよ……」

報告を受け、アリシアは深くため息を吐き出した。

王国以上に被害と影響を受け、現状集められる共和国海軍の戦力はボロボロと言っていいだろう。

その上、今回の奇襲攻撃に、兵達の士気が大きく下がったという報告も来ていた。

だが、敵は来ているのだ。

ただ黙ってされるがままというわけにはいかない。

残った戦力は、無傷の軍港に集められ、艦隊編成が進められている。

だが、その戦力は余りにも心もとない。

「どう思う?」

アリシアは、読み終わった報告書をデスクに放り出して、ちらりと向かいのソファに座る人物に視線を向けて言う。

そこには、黙々と報告書を読み、思考している人物がいた。

元公国海軍最高司令官ビルスキーア・タラーソヴッチ・フョードルである。

しばし間を開け、彼は視線を報告書からアリシアに向けると口を開いた。

「勝てませんな」

短いがはっきりした口調は、まるで未来が見えているかのようであった。

だから、思わずアリシアは聞き返す。

「どんな手を使っても?」

「ええ。現状の戦力では、数が違いすぎます。ただ……」

思わずといった感じでアリシアが聞き返す。

「ただ?」

「負けないようにはできるかもしれません」

つまり、敵の侵攻を抑える事は出来るかもしれないという事だ。

「どうすればいいと思う?」

そのアリシアの問いに、ビルスキーアは淡々と答える。

「攻勢に出ず、地の利を生かし、防戦に徹するのです。そして敵を消耗させ時間を稼ぎます。そうすれば、今は動けない戦力も復帰し、徐々にではありますが巻き返しも可能かと」

「それが通用するかしら?」

「そうですね。もしかしたら違うかもしれませんが、私の予想としては敵がこんな策を使ってきたという事は、短期決戦を狙っているのだと思います。航路の閉鎖と潜水艦による通商破壊工作、そして今回の軍港閉鎖による攻撃。それらから思考するに、その結論に行きつきました。だから、敵に一泡吹かせる為には徹底的に時間稼ぎをするべきだと思っています」

その言葉に、アリシアは黙りこむ。

だが、すぐに決心したのだろう。

ビルスキーアに命じた。

「なら、地の利を生かした防衛作戦の立案をすぐに用意しなさい」

その決断に、ビルスキーアは一瞬驚いたものの、表情を引き締める。

「はっ。ですが、敵艦隊の動きがわからねばどうしょうもありません」

「勿論です。情報は直ぐにそちらに回します」

「わかりました。すぐにでも準備いたします」

そう言うと、ビルスキーアは立ち上がると退室するためにドアに向かう。

その表情は満足気で、アリシアにかっての主君であるノンナの面影を見たようであった。

それを見送った後、アリシアは直ぐに執事を呼んだ。

「どうかなさいましたか、お嬢様」

「すぐに、フソウ連合と帝国にアポを取ってちょうだい」

それだけで彼女が何をやろうと考えているのか判ったのだろう。

執事は少し怪訝そうな表情になる。

その表情にアリシアは苦笑して言う。

「帝国はまた完全に国内が統一出来ていないし、フソウ連合もサネホーンとの戦いが控えている上に、王国や他国にも戦力を回している以上そうそう動かないでしょうね。でもね、最初から諦めてしまうのは私の信条に合わないし、駄目でもやれることはやっておきたいのよ」

その言葉に、執事は微笑む。

「お嬢様は、本当に奥様にそっくりですな。わかりました。精一杯こちらもサポートさせていただきます」

「ええ。頼むわ」

こうして、共和国も連盟に対して対抗する動きを始めた。

戦力的には非力ではあるが、それでも何とかしょうという意思があった。

だが、王国と違い、共和国には大きな欠点がある。

それは軍内部がいくつもの派閥に分かれているという事とアリシアの軍内部での発言力の低さだ。

そして、それが結局共和国をより追い詰める要因となるのである。

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