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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十五章 戦火の嵐

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予兆

「しかし、フソウの海に比べると色が濃いい感じですねぇ」

海面を見つつ思わずそう言ったのは街野二等兵曹だ。

「まぁ、フソウに比べて北寄りだからなぁ」

後部銃座に座る片路一等兵曹が同じように海面に目をむけて言い返す。

「おいおい。観光じゃねぇんだぞ。しっかり警戒してろよ」

もう何度も似たようなやり取りをしてるなぁと思いつつパイロットの東田兵曹長がため息混じりに言う。

もっとも、そんな言葉が出ても仕方ないのかもしれない。

警戒に飛び立った場所は、商船や輸送船が通る航路とは大きく離れている海域なのだ。

行き来する艦船は少なく、また隠れる島などはほとんどなく浅瀬が多い為に、潜水艦が待ち伏せなどで潜伏するには余りにも向いていない。

それ故に、どうせいないさという先入観が強くてどうしても気が緩んでしまうのだろう。

流石にそれは不味い思ったのか、東田兵曹長が少し厳しめの声で言葉を続ける。

「いいか、余計な先入観は、視野を狭めるというぞ。それに我々は艦隊の安全、海域の安全の為に動いているのだ。我々が油断していて見逃したら……」

そこまで言った時だった。

「右前方っ、潜水艦らしき艦影が見えます」

街野二等兵曹の声が東田兵曹長の声を遮った。

「何っ?!」

「確認を行います。もう少し高度を下ろしてください」

「わかった」

ゆっくりと三人が乗った零式三座水上偵察機が高度を下ろしていく。

恐らく相手もこちらに気が付いたのだろう。

慌てて潜水しようとしていた。

「おいおい、四隻だと?!」

東田兵曹長が思わず口にする。

実際、最初の派遣艦隊待ち伏せ以降は、潜水艦は単艦、或いは二隻で行動する事が多く、四隻同時は初めてであった。

「旗艦瑞穂に打電します」

街野二等兵曹が叫ぶように言う。

「ああ、すぐにやれ。『こちら偵察ゴーマルナナのサン、潜水艦らしき艦影発見す。数は…四以上』以上だ」

東田兵曹長はそう命じると、機体をゆっくりと敵潜水艦の方向に機首を向ける。

「やるんですか?」

片路一等兵曹の言葉に、東田兵曹長は言い返す。

「何のために偵察だけならわざわざ重しにしかならない爆弾を載せてると思ってるんだ」

「ああ。確かに」

「それにだ。60Kg爆弾でも当たれば、連中には致命傷になりかねないからな」

実際、零式三座水上偵察機は、250kg爆弾一発か、60Kg爆弾四発を搭載できる。

確かに戦艦や装甲巡洋艦相手では、60Kg爆弾だと心持たないだろう。

また、海水の防壁を身にまとう潜水中の潜水艦にも損害は与えにくい。

だが、浮上している潜水艦にとっては、直撃すれば60Kg爆弾でも十分致命傷になりかねないし、何より潜水艦の移動のほとんどは洋上走行であった。

なぜなら、海中走行は速力も遅く、なによりあらゆる動力や機能がバッテリー頼みになってしまう為、出来る限りバッテリー消費を避ける必要性があったからだ。

それ故に偵察や警戒で先行する機体には60Kg爆弾がよく選ばれていた。

「ええ。それに四発もありますからね。どれか一つくらいは当たるかもしれません」

片路一等兵曹の軽口にも似た言葉に、東田兵曹長が苦笑する。

「確かにな。前回の時も当てたから今度もいけるだろうよ」

そんな二人の会話に、街野二等兵曹が叫ぶように言う。

どうやら打電が終わったらしい。

「二人とも勝手な事ばかり言ってますね。狙うのは自分なんですよっ」

その言葉に、二人は笑う。

そして、片路一等兵曹が言う。

「よし。当てたら、前の時の様にビールをおごってやる」

「ああ、俺もな」

東田兵曹長が続き、それを聞いた街野二等兵曹が言い返す。

「じゃあ、一回につき、二杯ですね」

要は、最大八杯と言いたいのだろう。

「お、おいっ」

「そ、そりゃ、あんまりじゃねぇか?」

慌てる二人の言葉に、街野二等兵曹がニヤリと笑いつつ言う。

「もう遅いですよ。さぁ、やりましょうかっ。東田さん、手加減しないでくださいよね」

「お前っ、俺がそんな事をする男だと思っているのかっ」

思わずといった感じで言い返す東田兵曹長。

そんな言葉に、街野二等兵曹が言う。

「念のためですよ」

「よし分かった。これ以上にないってくらいの操縦をしてやる。だから、外れたらお前が俺らにビールをおごれよ」

その言葉に、慌てる街野二等兵曹。

「それじゃ、自分が不利じゃないですかっ」

「もう遅せぇぞ」

そう言いつつ、東田兵曹長が機体の高度を一気に下げ、潜水しようとする潜水艦に機首を向ける。

「くそっ。当てりゃいいんだ。当てりゃぁ」

そう言いつつ、待野二等兵曹は標準を合わせて投下ボタンを押したのであった。



「大変です。先行して警戒に当たっているゴーマルナナのサンより入電。『潜水艦らしき艦影発見す。数は…四以上』とのことです」

通信兵からの報告に、浜辺大尉は驚いた表情になる。

まさかという気持ちが強いのだろう。

そして、それは隣にいる瑞穂の付喪神も同じであった。

「間違いないのか?」

「はっ。その後、我ら戦闘に入るという電文が入っています」

その言葉に、浜辺大尉は隣にいた瑞穂に声をかける。

「味方の潜水艦は?」

「ここらあたりは展開していません。なにより、四隻で行動とかはあり得ませんし」

「そうだな……」

浜辺大尉はそう言うと目の前に広げられている海図に視線を降ろす。

艦隊司令の毛利少将が共和国にいる以上、派遣艦隊の指揮は副官である浜辺大尉に一任されていた。

しかし、こんな所になぜ……。

それに通商破壊工作ならば単艦、或いは二隻で行動がほとんどであり、四隻での行動はまずありえない。

ならば狙っているのはある程度の規模の艦隊という事になる。

一番最初に考えたのは、我々派遣艦隊に対してというものであった。

しかし、それはかなり低いと思われる。

なんせ、最初に徹底的に連中を叩き潰したのだ。

ましてや、以前の時に比べはるかに少ない四隻でリベンジはあり得ないし、我々の動きは予定にはないものだ。

それを考えれば、別の目的があると思われる……。

なら……。

そこまで考えた後、浜辺大尉は少し頭を振った。

どちらにしても、敵であり、今後間違いなく支障となる相手だ。

出来るときに、徹底的に潰しておくに限る。

そう判断すると、浜辺大尉は、攻撃隊として水上機と駆逐艦の先行を命じた。

命令を受け、対潜水艦用の投下式爆雷を搭載した零式三座水上偵察機が三機が飛び立ち、駆逐艦二隻が速力を上げて先行していく。

それを見つつ、浜辺大尉は、通信兵に王国海軍司令部に敵潜水艦を発見した事、その数と発見海域、そして戦闘に入った事を打電するように伝えたのであった。



「フソウ連合の派遣艦隊艦隊司令部より報告が入っております。『敵潜水艦を発見し、戦闘に入る』と」

その報告に、『海賊メイソン』こと海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿は目の前に広げられた地図に視線を落とす。

「場所は?」

「はっ。ロクゼマイヤン海域とのことです」

部下の一人が、駒を地図のその海域に置く。

すでにその地図には、5つの駒が置かれていた。

「これで五か所目か……」

そのメイソン卿の言葉に、隣に控えていた第203特別編成艦隊の指揮官であるミッキー・ハイハーン大佐が口を開く。

「イムサの艦隊が発見した一か所を除き、他の四ヶ所は、今までだとあり得ない場所ですね」

「ああ。それもだ。イムサの報告以外は三隻以上の潜水艦が同時に行動していたとなっている。これをどう見る?」

メイソン卿から話を振られ、ミッキーは少し考えて答える。

「今までだとあり得ない行動ですね。警戒すべきかと」

「ああ。各艦隊に警戒するように伝えておくようにしておこう」

そう言った後、思い出したかのように言葉を続けた。

「そう言えば坊やはうまくやったらしいな」

その言葉に、ミッキーは苦笑する。

メイソン卿が坊やという人物。

それはアッシュの事だからだ。

本来なら不敬罪と言われてもおかしくないし、自分の上司であり、友人がそう呼ばれることにいい気持ちはしないはずなのだが、相手は海軍大臣であり、その物言いには悪意どころか愛情が感じられるため、苦笑するしかなかったのである。

「はい。共和国との共同声明で連盟に揺さぶりをかけるのに成功したようです。連中、必死になって国民に自分らの正当性を訴える事と秘密警察を動かすことで世論を落ち着かせようとしているみたいですよ」

その言葉に、メイソン卿はふむといった感じで目を細める。

その様子はある程度満足そうであったから、予定通りという事なのだろうとミッキーは判断した。

「ふむ。この調子で揺さぶりをかけていけば、少しは連盟も大人しくなるだろう」

経済封鎖だけでなく、潜水艦を使って秘密裏にではあるが攻撃を仕掛けていたのだ。

本当なら、即刻戦争となってもおかしくない状況である。

だが、戦力の再編と立て直し中の王国海軍としては時間稼ぎが必要であり、また潜水艦との戦いで有利に立てるほどの状況ではなかった為、時間稼ぎを行う方針になったのだ。

それに、共和国海軍との歩調も合わせなければならない。

すでにフソウ連合との三ヵ国で発足させたイムサという国際組織はあるものの、両国の海軍同士の対立は根深く、今回の事があったとしても即手を握って戦うというのはかなり難しい。

だが、アッシュやアリシアも動いており、時間があれば、それらは改善されるはずだ。

「ですが、このままで済むとは……」

心配そうなミッキーの声に、メイソン卿は笑って言う。

「ああ、勿論、このままでは終わらんだろう。だが、連盟には戦力が足りなさすぎている。今、あの国に二国を同時に戦う海上戦力はない。我々はそう見ている。それにトラッヒと言ったか、連盟の独裁者は。ああいう男は口は達者でも、相手の方が強者だと判れば手はださないだろうて」

メイソン卿の言葉は自信に満ち溢れていた。

たしかにミッキーも報告書を読んでそう思った。

だが嫌な予感が頭から離れない。

そして、彼らは知る。

自分らが見誤っていたことを。

海上戦力は、商船を急遽武装させて特殊巡洋艦とすることで補い、そして、トラッヒは予想以上に嫉妬深く、そして権力欲が強い狂気に満ちた人物だという事を。

こうして、王国海軍は前兆を知りつつ、警戒を強化する事しかしなかったのである。

そして、共和国も同じような情報は共有されたが、共和国海軍の軍司令部はどうせたいしたことはないと相手にもしなかったのである。

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