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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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トラッヒ・アンベンダード暗殺計画  その2

首都から郊外へと向かう街道の一つ。

ストレラリン街道。

その途中にある森の中、数名の軍人が街道を監視している。

「そろそろ時間だが歌は流れたか?」

双眼鏡で首都に向かう方向を監視していたセンパラ・ラッテンコウ大佐は、そのままの姿勢ですぐ側で無線機のような機械を弄っている兵に声を掛ける。

その言葉に、兵は首を振りつつ答えた。

「『改革(スタレラル・)(ラルソン)』はまだ流れていません」

改革(スタレラル・)(ラルソン)』は、連盟がまだ封建制度だった時代に改革を起こして商人の国へと変革した改革運動の時に歌われた歌で、連盟では有名な曲だ。

だが、最近は余り歌われることもなく、忘れ去られていくといった感じの曲で、ラジオではほとんど流れない。

だからこそ、合図として相応しい。

そう判断し、作戦実施の合図としたのだ。

だが、その曲が流れていないという事は、作戦は中止しなければならないか……。

曲が流れたという事は、目標が首都から離れ、こっちに向かってきているという合図なのだ。

目標が、ヒステリックで時間にうるさい事を考えれば、もう出発しなければ間に合わないはずだ。

そうラッテンコウ大佐が思考した時だった。

「きましたっ。『改革(スタレラル・)(ラルソン)』です。それと曲紹介で三人の名前があがっていましたから、目標は三台の車で来るようです」

「そうなると……、目標は真ん中だな」

「はっ。その通りかと」

そのやり取りの後、ラッテンコウ大佐は軽く右手を上げる。

それを見た副官が手旗信号を送る。

すると、ストレラリン街道の途中にある橋の向かい側とこちら側の茂みから兵が警戒しつつ数名出てきて橋の元に走った。

最終点検の為だ。

そして、点検が終わったのだろう。

駆け寄った兵達がそれぞれ手を振り、持ち場に戻っていく。

それを見た副官は、ラッテンコウ大佐に報告する。

「準備整いました」

「そうか。わかった」

そう答えつつ、ラッテンコウ大佐は満足げに頷いた。

準備期間があまりにも短かったが、よくやってくれた。

その思いからだ。

「よし。各自気合を入れろ。この作戦に連盟の未来がかかっているのだからな」

その言葉は部下達を鼓舞するために出た言葉であったが、その言葉はラッテンコウ大佐自身を鼓舞するためのものでもあった。



歌が流れて三十分が過ぎようとしていた。

時間的にそろそろ見えてもおかしくはないはずだが、まだ車は見えない。

周りは森と畑しかないものの、首都から続く道は真っすぐに近い為、かなりの距離からでも近づい来るものがあれば発見できる。

何度も時間を確認するが、まるで時が止まっているかのように遅く感じてしまう。

誰もが緊張と不安で揺れていて、それは決心さえも脅かしそうになる。

だが、それでもやらなければならない。

ラッテンコウ大佐とその部下達は、じりじりと身を焦がすような焦燥感に駆られそうになる。

なんせ、今や連盟の独裁者として君臨するトラッヒ・アンベンダードを暗殺するのだ。

とんでもない混乱が予想される。

だが、今止めねば連盟は間違いなく戦果の渦に飲み込まれてしまうだろう。

その思いが、その強い思いで彼らは踏みとどまっている。

それは、それぞれの意志と決心の強さ、それにラッテンコウ大佐への信頼が成せるものであった。

そして、ついにその思いが達成される。

「み、見えましたっ」

その言葉に、ラッテンコウ大佐達は慌てて双眼鏡で街道の首都方面を見る。

そこには間違いなく車らしき物体があった。

元々、物街道はそれほど通りが多いわけではない。

ただ、食糧などの物資の移動から、道を拡張し、街道としたものだ。

それ故に間違いなく今近づいてくる連中が目標だと判った。

台数も三台と情報通りだ。

ドンドン近づくにつれて黒塗りの高級車だとわかる。

ラッテンコウ大佐が軽く手を上げると、副官が待ち伏せしている部隊に手旗信号で合図を送る。

茂みや森の陰から手だけが出て数回振られた。

「準備万端です」

副官の言葉に、ラッテンコウ大佐は呟くように言う。

「あとは…、連中が罠に飛び込むのを待つだけだ」

「ええ。間もなくですな」

副官はそう答え、橋の方に向けていた視線を首都方面に向ける。

段々と違ついてくる目標。

作戦としては、二台目の車が橋を通過した瞬間に仕掛けていたトラップは発動させ、三台目を孤立。

また先頭の車にもトラップで足止めし、襲撃をかけるというものだ。

最初は、橋ごと爆破という事も考えられたが、準備が間に合わないという事で走行不能に落ちるトラップでの足止めとなった。

そして、襲撃によって暗殺する。

犠牲者は出るだろう。

だが、準備不足である以上、こうするしかない。

じわじわと違ついてくる。

あと少し。

あと少しだ……。

その時であった。

首都方向から土ぼこりを上げて近づいてくる一台の車。

激しく乱暴な運転に、車体は何度も跳ね、今にもぶっ壊れそうだ。

「なんだ、あれは……」

ラッテンコウ大佐の口から言葉が漏れる。

「わかりません」

副官が震える声で言う。

もしかしたら、作戦がバレたのか。

誰もがそんな事を思い浮かべる。

不安と恐怖が心を揺り動かす。

後から来た車はパッシングを数回しながら、目標の車に近づいていく。

それに気が付いたのか、目標の車が止まった。

そして前後の車から、親衛隊の黒い軍服に身を包んだ兵が飛び出て警戒する。

そして、近づいたことでわかったのだろう。

副官が口を開く。

「あれは外交部の車のようですね」

「外交部?」

「はい。ナンバーも確認しました。間違いないでしょう」

一部のの政府関係車両には、普通に使われるナンバーとは違うものが使われている。

外交部は、ナンバーの色が白ではなく、緑で白文字なのだ。

それ故に分かったのだろう。

外交部なら、作戦が漏れたという訳ではない。

だが、それでもラッテンコウ大佐には嫌な予感しかしなかった。

「どうしますか?」

そう聞かれ、ラッテンコウ大佐は苦虫を潰したような表情になる。

襲撃地点からはまだまだ遠く、襲撃したとしても逃げられるのがオチだ。

ならば待つしかない。

目標が罠に入り込むまで。

「待機だ」

そう命じるしかなかった。



「どうしたのだ?」

トラッヒは不機嫌そうに後ろからパッシングして接近してくる車を苦々しく見ている。

「どうやら外交部のもののようですな」

あれ程慌てて来るのだ。

余程の事に違いない。

仕方ない。

トラッヒは益々不機嫌な顔になりつつ停止を命じる。

三台の車は停止し、前後の車から親衛隊が飛び出して警備に当たる。

トラッヒはちらりと時計を見る。

予定にはまだ余裕がある。

だが、もしくだらない事だったら、絶対に許さんからな。

そう考えつつ接近してくる車を見ている。

接近し来る外交部の車は、三台目の車から出て警戒に当たる親衛隊の兵士に止められた。

そして、止まった車から外交部の職員と思われる人物が出てくると、親衛隊に何か説明し、そして身体検査を受けて通される。

外交部の職員は、慌てた様子でトラッヒの乗る車に近づくと頭を下げる。

それを見て、後部座席のまどか少し開けられた。

そこに差し入れられるボード。

それを受け取った秘書官は、何もない事を確認しボードをトラッヒに手渡した。

不機嫌そうな表情のまま、それを受け取ったトラッヒだったが、そのボードに閉じられた紙に書かれている内容に目を通すと、その表情は驚愕に変った。

「これは本当か?」

その問いに、外にいる外交部の職員が慌てて答える。

「はっ。間違いありません。閣下が出られた後、世界中に声明が出されました」

そのまましばらく、ボードを持ったまま固まっていたトラッヒだったが、ボードを車の床に叩きつけると呟いた。

「そうか。そういう事か……。いいだろう。やってやろうじゃないか」

そしてくっくっくっと下卑た笑い声を漏らす。

「閣下……」

秘書官が恐る恐る声を掛ける。

その言葉に、トラッヒは笑うのを止めると命令を下した。

「今すぐ戻るぞ」



何やらやり取りがあったようだが、距離がある為、内容はわからない。

だが、目の前で目標の車がゆっくりとUターンして首都の方向に動き出す。

つまり、作戦は失敗したという事だけだ。

「くっ……」

悔しさが口から洩れる。

だが、それは一瞬の事。

すぐにラッテンコウ大佐は命令を下す。

「撤収だ。急げ」

その命令に副官が悔しそうに言い返す。

「無念であります」

「仕方ない。あの様子だと、我々が待ち伏せている為引き返したのではないだろう。だが、用心するに越したことはない。痕跡を残さず、素早く撤収させるんだ」

「了解しました」

副官はそう返事を返して敬礼すると、手旗信号を行う。

それを受け、待ち伏せ部隊は素早く撤収の準備を始めた。

その様子をちらりと見た後、ラッテンコウ大佐はもう見えなくなってしまった目標が走り去った先に視線を動かす。

何が起こったんだ……。

まさか……。

しかし、そんな事はあり得ない。

もしそうなら、我々は祖国が戦禍に巻き込まれていくのを止められなかった事になる。

そうは思いたくなかった。

だから、呟く。

「あの野郎は、悪魔が味方してやがるのか」

そう、トラッヒの悪運の強さが災いして作戦が失敗したと思いたかったのだ。

だが、それは数時間後にトラッヒから下された命令で、嫌な予想が正しかったという事を知るのである。

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