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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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分岐点  その5

共和国までの空の旅は、飛行機に乗った事のない王国関係者にとってとんでもなく未知な体験であった。

ゆっくりと海面を動きつつスピードを上げていく二式大艇。

そこまでは高速で動く小型船と変らない感覚だが、スビートが上がり海面からゆっくりと機体が離れていく感覚。

それは今までに感じた事のないものだ。

そして、はっきりと空中に浮いているという感覚は独特で、気球とは大きく違う。

気球は、ふわりといった感じの浮揚感だが、飛行機にはそれに速度が追加される。

その結果、飛行機独特の浮遊感が生まれるのだ。

そして、それを初めて感じた上に、飛行機という未知の乗り物に搭乗したという認識で興奮しないわけがなかった。

「お、おいっ。今、空中を浮いてるぞ、俺らっ」

「ああ。わかる。わかるぞ。何と言うか、気球とは違う浮遊感だ」

「それに窓の外を見ろ。すごいスピードで景色が動いている。それに……港があんなに小さくなっていく……」

勿論、王国代表として参加したアッシュもなんとか興奮を抑えようとしていたが、窓に張り付いて外を見ている様子から、抑えきれていないのが丸わかりである。

そんな様子に、王国派遣艦隊の指令であり、フソウ連合の代表として同行している毛利少将は苦笑するしかない。

フソウ連合では、軍だけでなく、半軍ではあるが民間人が利用できる大型水上機(九七式大型飛行艇や二式大型飛行艇の民間型である三式大型飛行艇「桜」)を使った航空会社があり、航空機による移動は珍しいものではないためだ。

だが、それはフソウ連合の感覚であり、この世界では異質であるという事を再度認識させられる。

そして、王国でも水上機を始めとする飛行機の運用に、アッシュが熱心なのがより理解できた。

「いかかですかな、殿下。我が国の二式大艇の乗り心地は」

その毛利少将の問いに、アッシュは只々驚き、感動を口にすするだけだ。

因みに、隣に座っているエリザベートはひたすら神に祈りを捧げている。

その二人の様子から、暫くは無理だな。

そう判断した毛利少将は、少し間を置くこととしたのであった。


そして一時間後。

そろそろ落ち着いた頃合いかと思い、毛利少将が再度声を掛ける。

「落ち着かれましたかな」

その言葉に、アッシュは苦笑した。

「すみません。年甲斐もなく興奮したみたいです」

そう言って頭を掻く。

エリザベートの方も落ち着いたのか、恥ずかしそうに俯いており、エリザベートの右手にはアッシュの左手が優しく置かれている。

「いえいえ。初めてですからね。それで、どうでしたかな?」

その問いに、アッシュは真剣な表情で頷く。

「素晴らしいです。すぐにでも王国に普及させたいですよ。まずは、王国航空隊の早期設立と王国とフソウ連合間の航路の確保、それに運営会社の誘致を急がねばと思います」

実際、王国航空隊のパイロット候補生たちの訓練は始まってはいたがまだまだと言える有様だし、王国、フソウ連合の間を行き来する定期便はあくまでもフソウ連合海軍のものであり、王国には関係がないというのが現状だった。

「まぁ、急ぎたいのはわかりますが、パイロット育成には時間がかかります。もう少しお待ちください」

毛利少将はそう言って部下に飲み物を用意するように言うと、本題に入る。

「それで、今回の件、王国ではどうされるおつもりでしょうか?」

一応、鍋島長官から任せるとは言われたが、国と国の間の事である。

ある程度のガイドラインは、フソウ連合の方から指示が出ていた。

それに当てはめてフソウ連合としての対応をしなければならない。

その責任はとてつもなく重い。

だからこそ、王国の動きを事前に知っておきたかったのである。

「そうですね……」

少し、思考するような素振りを見せたアッシュだったが、意を決したのか口を開く。

「どの程度の証拠が得られるかで細かな対応は変わりますが、もし潜水艦部隊の黒幕が連盟であった場合、王国としては共和国ととともに連盟に抗議と説明を求めるつもりでいます」

共和国と共にという部分に、毛利少将は心の中でそう来たかと呟く。

しかし、襲撃を受けている当事者として考えれば、それが一番リスクが少なく、よりリターンが得られる方法だ。

今や連盟は完全に王国や共和国の敵対国家と言っていいが、敵対するからすぐに戦いとはならないし、少しでも自国の世論や世界の認識を味方にする必要性がある。

つまり、外堀を埋めていこうという事か……。

そう理解した毛利少将は口を開いた。

「なるほど。確かにその方がいいかもしれませんな」

「で、フソウ連合としてはどうされるのですかな?」

アッシュの問いに、毛利少将は答える。

「勿論、我が国は、王国の同盟国であり、共和国と条約を結んでいますから力をお貸しします。しかし、我々はあくまでも支援という形になります。戦場が大きく離れているという事とサネホーンの活動が活発化しています故に」

「ああ、それで十分です。それにサネホーンの動きが活発化しているのは我々もある程度把握していますから、そちらに注力していただきたい」

その言い回しに、サネホーンはフソウ連合に任せるという認識が滲み出ていた。

恐らく、王国や共和国の植民地派遣艦隊の戦力はあるものの植民地を守るのに専念させたいのだろう。

急ピッチで艦隊戦力の再編と復興は行われているものの、それでも全盛期に比べれば半分以下というのが現実らしい。

「わかりました。本国にはそう伝えておきましょう」

そう答え、二ヵ国間の細かな打ち合わせを進めていく。

そしてその話し合いがそろそろ終わろうとした時だった。

ゆっくりと二式大艇がスピードと高度を降ろす。

「もう着いたのですか?」

「いえいえ。もう少しです。ですが共和国(むこう)では、整備も燃料補給も受けられませんからね。先行していた補給艦隊と接触して燃料補給と簡単ながらチェックを行う予定となっております」

「なるほど……」

感心したようにアッシュが頷く。

「で、その間に我々は昼食を終わらせましょう。共和国(むこう)に着くのはもう少しかかりますから」

そう言うと、毛利少将は合図を送る。

部下の一人が用意された弁当を配っていく。

「ほほう。ベントウですか……」

アッシュが受け取ったアルミの弁当箱をテーブルの上に置く。

そして、蓋を開ける。

隣に座っていたエリザベートも興味津々で弁当の蓋を開けた。

中身は、おにぎりと唐揚げ、それにウィンナーや焼き野菜を串に刺したものといった感じの手で食べやすそうなものを中心に構成されたいる。

「これはどうやって食べるのですか?」

エリザベートがそう聞くと、毛利少将は、濡れて絞ってあるタオルで手を拭くように言った。

それでわかったのだろう。

アッシュが聞いてくる。

「つまり手づかみですか?」

その言葉に毛利少将は笑った。

「ええ。その通りです」

そう言ってひょいとおにぎりを手でつかみ口に運ぶ。

その様子を見ていたアッシュとエリザベートだったが、アッシュは以前の居酒屋でのことを思い出すとすぐにおにぎりを口に運ぶ。

それをちらりと見た後、少し困ったような表情をしたものの同じようにエリザベートも手でつかむと唐揚げを口に運んだ。

「うまい……」

「美味しいわ」

二人の言葉に、毛利少将は嬉しそうに言う。

「王族や貴族の方に喜んでもらえるとは、うちの料理担当も喜びますよ」

そう言いつつ、お茶を用意させる。

こうして、補給点検の間、機内では昼食を済ませたのであった。



「アリシア様、あれのようですな」

双眼鏡で海の方を見ていたビルスキーアは、双眼鏡を降ろしある方向を指さす。

その指さす方向には、黒い点が二つあった。

本当に小さな点。

肉眼では確認出来るか出来ないかの点。

「意外と小さいのね」

思わずそんな言葉がアリシアの口から洩れる。

なんせ、共和国が持っている飛行機の情報は、先の空母同士の戦いで生じた残骸によって得られたものばかりだ。

それ故に、そう考えたのだろう。

恐らく、先遣で技術者など少人数を送り、本隊は船で来る。

そう考えていたのである。

だが、その考えは間違っていたと判る。

点はだんだんと大きくなり、形がはっきりしていくとその物体の大きさが把握できてきたからである。

「さっきの言葉は取り消しますわ」

アリシアはそう呟き、苦笑する。

「いえいえ、あれは大きさの感覚が狂いますよ」

ビルスキーアは眉の間に皺を寄せてそう答える。

もっとも、その視線は片時も離さず飛んでくる物体に釘付けだった。

ビルスキーアは、この物体に驚愕と同時に恐れを感じていた。

まるで小型の船が飛んでいるかのようだ。

そして、それを成し遂げるフソウ連合の技術力は、間違いなく一歩も二歩も、いやはるか先を行っていると言ってもいいだろう。

共和国の収集した残骸も見たし、情報にも目を通させてもらった。

それで飛行機という兵器の事を理解していたつもりだった。

しかし、実際に飛んできたものはそれを遥かに超えるものであった。

勝てるわけがない……。

確かに質がいくら良くでも、量によって圧倒されるのが戦いの常だ。

数こそが力。

それがまかり通っている。

だが、それを覆す存在を彼は実感するしかなかった。

圧倒的な技術力。

そして、それを生み出すには精度の高い製造機が必要だ。

それをわかっていたのか、ノンナ様は……。

思わず今は亡き主人の先見の明に驚くと同時に、悔やむ。

もしノンナ様が生きていればと……。

だが、すぐに思考を切り替える。

死んだ者は生き返らない。

それに今の自分は、帝国軍人でもなく、共和国に亡命した者であり、アリシア様に仕える身だ。

そして、私や愛する人に手を差し伸べてくれたアリシア様に尽くさねばならないと思考を切り替える。

そうこうしているうちに二式大艇は着水し、ゆっくりと近づいてくる。

ちらりと隣を見るとアリシアの顔に緊張が見え隠れしている。

それは、他の面子も同じだ。

アリシア派の軍人達も、始めて見る二式大艇に圧倒されている。

それ程に強いインパクトを与えられたと言っていいだろう。

ふー。

息を吐き出し、肺の中の空気を入れ替える。

「アリシア様、そろそろ準備を」

「ええ。そうね」

アリシアはそう言うと深呼吸を数回して、二式大艇に迎えのボートを付ける様に指示を出すのであった。

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