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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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それぞれの入国…  ミッキー・ハイハーン少佐の場合 その1

「まもなく、嵐の結界です」

甲板に出て外の景色を眺めていた私達に、王国の植民地であるタイエット国の軍港イーハンから同行してきた水兵が説明する。

以前の戦いで重戦艦に乗っていた船員の一人であり、なんでもアッシュに絶対の忠誠を誓う者だそうだ。

「捕虜になったとき、殿下が自らの身を犠牲にしてまで我々を守ってくださいました。我々はその恩に報いたいのです」

私の前に来たときに言った第一声がこれである。

基本、胡散臭そうだったが、案内人は必要なので結局案内をしてもらう事となった。

以前アッシュから聞いた話やもらった手紙では完全に孤立無援だと嘆いていたが、それとはえらい違いである。

そして、この水兵だけではない。

軍港であるイーハンにいる王国軍のかなりの者たちがアッシュに好意的な対応を示していたのだ。

どうも、捕虜達の自分達に対する彼らが言う『熱い思い』の話が広がったのだろうと思われる。

まぁ、それはそれでいい事なので、良しとすべきだろうか。

だが、もう一つおかしな事に、敵であり戦ったフソウ連合海軍に対して、恐れはあるものの、敬意が払われているということだ。

一体捕虜の時に何かあったのだろうか。

機会があれば聞いてみたいと思う。

だが、それ以上に、問題なのは同盟締結交渉だ。

私としては、プライドなどを捨てて最初から交渉などせずに最大限の譲歩を出してお願いするべきだと思っている。

こっちの都合で攻撃し、こっちの都合で休戦或いは講和を願い、こっちの都合で軍事同盟を結んで戦艦などを貸してくれというまさに王国の都合だらけの条件だからだ。

確かにフソウ連合の側にも利点はあるが、普通なら蹴られてしまうだろう。

それをお願いする為の譲渡なのだ。

そう。今回、王国は初めてお願いする立場になったのだ。

だからこそ、誠意は見せなければならない。

だが、あの二人はそんな事を言い出したらどういった態度を取るだろうか。

まず最初の一人…ノルデン・ジョージ・スルクリン男爵は宰相である『鷹の目エド』の親戚であり、爵位は低いものの次期宰相候補と言われるほどの実務において高い能力を持っているという話で、『鷹の目エド』の命をうけて譲渡の件ではかなり口うるさく言いそうだ。

だから今の私の考えを言い出したら間違いなく反対し、下手すると何か手を回してでも止めるだろう。

次にクルッシュ・イターソン大尉だが、さすがは『海賊メイソン』が推薦しただけの男で、軍事に関しての知識は豊富だ。

その上、腕っ節は立つし、何も言わずに黙々とこちらのいう事をやってくれるものの、それがかえって怖い気がする。

多分だが、彼も『海賊メイソン』に密命を受けていると思って間違いないだろう。

「はぁ…」

これからの困難さが想像できて自然とため息が漏れた。

「大丈夫ですか?」

カッシュ中尉がそう声をかけてくる。

「ああ、大丈夫だ」

そう返事をして話題を変える。

「しかし、嵐の結界とか言っていたが、何も起こらないな…」

そう言って空を見上げる。

そこには雲ひとつない青空が広がっていた。

「本当ですよ」

カッシュ中尉がそう答えると、案内役の水兵が苦笑した。

「そろそろですよ。艦内に戻られたほうがいいかと思います」

「わかった。ここは忠告に従ったほうが良さそうだな」

僕はそう言いつつ、艦内に戻る為歩き出す。

そして僕の後ろでは、空にいつの間にか発生したのかわからない黒い雨雲がもくもくと広がり始めていた。


「驚きました。まさに嵐の結界ですね」

窓の外の光景を見てカッシュ中尉が呟く。

窓の外には大荒れの天候が見えていた。

まさに嵐と言っていいだろう。

「ああ。忠告に従ってよかったよ」

私はそう言って手すりにつかまった。

ぐらりぐらりと何度も何度も激しく艦体が揺れ続けている。

船酔いしやすいものなら地獄だろうな、この揺れは…。

そんな事を思っていたら、スルクリン男爵が真っ青な顔をして口を押さえてトイレに駆け込んでいく姿が目に入る。

ふふっ、軟弱者め…。

なんか少しすーっとした気がするのは気のせいではないだろう。

どうせならそのままずっとトイレにいて、同盟交渉が終わるまで出てこなきゃいいんだがな…。

そんな事を思っていると、カッシュ中尉がニタニタしていた。

「ハイハーン少佐…貴方も意外と意地悪なのですね」

いつものミッキーとは呼ばずにハイハーンと言うあたりにカッシュ中尉も人の事はいえないと思うがね。

そう思いつつも澄ました顔で言ってやる。

「いやなに大変だと思ったのだよ。私は『すごく』優しいからな」

もちろん、すごくという部分に力を込めてである。

くすくすとカッシュ中尉は笑い、そして気がついたように窓の外を指差す。

どうやら嵐の結界は無事突破したようだ。

いきなり雨雲が切れ、あれだけ激しかった波が静かになっていた。

つまり、今、我々はフソウ連合の領海にいるということになる。

さて…どうやってフソウ連合とコンタクトを取るべきか…。

王国とフソウ連合の今の状態は、戦争中と言うことになる。

ゆえに、攻撃されたとしても反撃は許されない。

反撃すれば、アッシュの望みはかき消されてしまう。

さてどうしたものか…。

高速巡洋艦アクシュールツの艦長とイターソン大尉の二人が私の傍に来た。

多分、これからの進路についてだろう。

王から渡された簡単なフソウ連合の地図はあるものの、それはあまりにも簡単すぎてどこに何があるのかも大雑把でしかわからない。

まぁないよりはマシといった程度の物でしかないが、そんな事とは別に不思議に思う事がある。

なぜ王がこの地図を持っていたかということだ。

王は、今回の交渉の際にこの地図を渡され活用せよと言われたがどういう経緯で手に入れられたのだろうか。

その点が気になるのだが、今はその事は頭の奥に押し込める。

「まずは国際基準の白旗と使者の旗を立てる。次に進路だが、あまり陸地に近づかないよう注意して北上しょう…」

私の言葉に、無表情でイターソン大尉が聞いてくる。

「もし攻撃を受けた場合は?」

「一旦距離をとり、再度接触を図りましょう」

「それでも駄目だったら…」

「その時は、その時ですよ」

他に言いようがない。

なんせ、我々にとってはまさに未知との遭遇なのだから…。

そんな打ち合わせわしていると、艦内に警報のベルが鳴り響き、こちらに走ってきた水兵が敬礼して慌てて報告する。

「左舷より艦が接近してきます。数は二隻」

その報告を聞き、私は苦笑した。

「どうやら、相手を探す手間は要らないようだな」

私の言葉に、イターソン大尉は苦虫を潰したような顔をし、艦長とカッシュ中尉は苦笑したのだった。

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