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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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サネホーン動く……

「以前の予定では、今頃には準備が終わる予定となっていました。しかし、現状はどうです?一ヶ月、二か月遅れはまだいい方。しかし、中核となる主力艦であるルイジアーナは半年以上かかるという有様。一体いつになったら反抗作戦は開始されるのですかっ」

リラクベンタ提督の怒りに満ちた声が会議室に響く。

ここは、サネホーン本部の第三会議室。

そこに集まったのは、サネホーンの中枢を担う者達ばかりだ。

もちろん、そこにはサネホーンの実質の長であるグラーフ・ツェッペリンや彼の弟にあたるペーター・シュトラッサの姿もある。

唯一その場にいないのは、本体である艦体の修理が今だ終わらず会議に出る資格なしと辞退したルイジアーナくらいであろう。

しかし、来なくてよかったよ……。

グラーフは心底そう思った。

まさか、ここで名前が上げられるとは思ってみなかったからだ。

今回、遅々として進まない準備に、それでは別の作戦ではどうかとリラクベンタ提督の提案で開かれた会議が本会議である。

だからそう言う話題が出た時、対応しようもないという事がわかって事前に辞退したのかもな。

そんな事を思っている間にも、リラクベンタ提督の言葉が続く。

「先の戦いは、敵戦艦を始め、多くの艦船にダメージを与えました。あの、王国や帝国、共和国でさえ勝てなかったフソウ連合に。だからこそ、畳みかけるべきなのです。敵の戦力が回復する暇を与えずに。我々にはその戦力がある。それだけの数がある。なのに、反抗作戦は準備が終わっていないから延期と言われる。それでは、敵の戦力は回復してしまう。それに、その後に頻回に繰り返されるフソウ連合の航空機による重要施設への襲撃。そして、それを一度も防ぐことが出来ないばかりか、その航空機の発艦していると思われる艦船を撃破どころか発見も出来ていない。これはどういうことですかっ」

その言葉に、防空部隊の指揮官である数名が悔しそうに顔を顰める。

彼らにしてみれば、色々な手を使って敵機の侵入の阻止と迎撃を行う為、かなりの激務をこなしているのだ。

しかし、戦果は芳しくない。

敵艦隊の発見も出来ず、侵入してきた敵機の撃墜まで至っていないのである。

確かにかなりの手傷を負わせたこともあった。

しかし、それでも攻撃を受け、被害を受け取り逃がし続けている。

その悔しさはかなりのものだろう。

「その上、連盟の海上封鎖宣言によって我が国の経済は大きなダメージを受け、回復するどころか、益々落ち込んでいる有様です。少しでも回復の兆しが見えればまだいいんでしょう。ですが、それさえも見えない。そんな体たらくで国民が納得するでしょうか」

ぎらりと視線がグラーフの方に向けられる。

だが、その視線を受けてもグラーフは黙ったままだ。

言われていることは事実であり、ここに集まった者達の大半がそう思っている事だからだ。

だから、否定はできない。

それに、今回は、別の件で会議が開かれている。

そういった事を非難するためではない。

あくまでも今回の会議に提案する作戦の正当性と言うか、理由をより強調するための枕詞的なことにすぎない。

だから、黙っている。

だが、それでもかなりカチンときているのは間違いなかった。

もっともそれは表面には出さない。

あくまでもホーカーフェイスのままだ。

だが、リラクベンタ提督は別の様にとったのだろう。

その表情にはしてやったりと言った感情がちらりと見える。

だが、すぐにその感情は影を潜め、残念そうな表情になる。

「恐らく、多くの国民は納得できないはずです。今の現状を。そして先のない未来しか見えない事を。だからこそ、今こそ我々が先頭に立って進まねばなりません。我々はその為にここにいるのです」

その言葉に、多くの者が似たような心境なのだろう。

誰もがリラクベンタ提督の言葉に耳を傾けている。

もっとも、そんな中でも反応を大きく分けると三つだ。

一つは、その場の大半を占めるその通りだと頷いたりといったゼスチャーをする完全肯定派、もう一つは、肯定したいがあくまでも様子見といった連中だ。

そして一番最後に残ったのは、ほんの一握りしかいないが、今回の事に疑問を持っている者達だ。

グラーフは心の中でため息を吐く。

多分、ここまで計算しての発言なのだろう。

とやかく言うつもりはない。

だが、ふと思うのだ。

なぜ戦いありきで話が進んでしまうのかを。

確かにフソウ連合から戦端は切り開かれたと報告を受けた。

しかしだ。

余りにもあの状況ではおかしすぎる。

疑問しかわかない。

そして、フッテンの死。

まるですべてが周到に用意されているかのような流れ。

ずっと胸の中でひっかかっていたものがますます大きくなっていく。

他に手はないだろうか。

そんな事を考えてしまうのだ。

こんな事は彼女は望んでいなかったと……。

なのになぜだろうか。

なぜ、こうなってしまうのか。

なぁ、フッテン。

君ならどうする?

どう修正するんだ?

グラーフはそう思う。

しかし、それを答える者はいるはずもなく、グラーフはただため息を吐き出すしかなかったのである。



ペーターは、提案された作戦案を一通り見る。

『リヘラリンガ作戦』

そう大きくタイトルの付けられた表紙。

それは空母を中核とする機動艦隊と戦艦を中核とする艦隊を使った反抗作戦だ。

動員する艦艇はかなりのもので、思った以上に大規模な作戦だ。

確かに成功すれば、これは大きな戦果と言えよう。

国民も沸き立つし、なによりフソウ連合に揺さぶりをかけて講和も結びやすくなる可能性もある。

今、フソウ連合には、リンダもいる。

彼女を経由すればそれは出来る可能性は高い。

だが、それは成功したらの場合だ。

失敗すれば、その損失は計り知れない。

なんせ、自分も兄さんも参加するのだ。

我々が死亡すれば、サネホーンは間違いなく瓦解する。

ルイジアーナが残ってはいるが、彼は軍人としては優秀だが、少々無鉄砲なうえに内政に関しては素人と言っていい。

彼一人では無理だ。

だが、そうなった場合、リラクベンタ提督の派閥が利を得るかと言うとそうでもない。

それを狙ってリラクベンタ提督の派閥が武力で政変を起こすことは無理だからだ。

なぜなら、今回の戦いの主力は、リラクベンタ提督の派閥の八割以上が参加する。

つまり、我々が死亡した場合、彼らもかなりの被害を受けており、その残存戦力と祖国に残ったリラクベンタ提督の派閥の連中だけでサネホーンは纏められない。

なぜなら、無傷な旧フッテン派とルイジアーナ支持の連中がたんまりと国に残っているためである。

もし政変を起こした場合、連中が黙っているとは思えない。

そうなると、この作戦で連中がわざと負けるというのは考えられない。

恐らくリンダを引っかけ、今回の争いを作ったのは、リラクベンタ提督の派閥の可能性が高い。

フッテンの部下達もその考えだった。

つまり、戦争を引き起こしたものの、思った通りにならない為、ここで戦いに勝ってサネホーンの主導権を握ると考えた方が納得がいく。

だとしたら、この戦いで負けた事の方が後の事を考えればいいのではないだろうか。

確かに負けた場合、サネホーンが圧倒的に不利だが、知らされた情報が正しければ、非はこちらにある。

それを考えれば、負けて降伏した方が遥かにマシではないだろうか。

いや、恐らく、そうなった方がいい。

そうすれば、今まで溜まっていた膿を吸い出せるのではないか。

そんな考えさえ浮かぶ。

味方が負けた方がいいだなんて、おかしくなってしまっているな。

思わず心の中で苦笑する。

だが、それでも思うのだ。

そして行きつく。

どちらにしても、この戦い、止めない方がいい。

勝った場合でも、今の国の状況ならどちらにしても講和を進める流れになるはずだ。

その時にリンダの協力を得て、膿をすべては無理でも出してしまえばそれでも今よりは遥かにマシになる。

その為には、この作戦は実施され、そして自分と兄さんの二人とも生き残る。

それが最善の手だ。

ペーターはそう考えをまとめたのであった。



こうして、それぞれの思惑の中、今まで計画されていた反抗作戦は中止され、リラクベンタ提督の提出した『リヘラリンガ作戦』が承認された。

そして準備期間は二週間とされ、今までが嘘のようにサネホーンの動きは一気に活発化するのである。

それは、活気というには無理がありすぎ、まるで燃え尽きる蠟燭が最後に一際明るくなるのに似ているようでもあった。

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