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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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日誌 第四十一日目 その1

デスクのインターホンから声が響く。

「長官、伊400、伊401の二艦が戻ってきたと軍港管理局から連絡が来ました」

僕はボタンを押して命令を伝える。

「わかった。疲れているところ悪いけどすぐに報告書を出して欲しいと伊400と伊401に伝えてくれ。出してくれたら、後はゆっくり休養を取るようにという事も忘れず伝えてくれよ。それと報告書が着き次第、参謀本部本部長の新見准将と部隊統括部の山本中将の二人に来るように連絡を入れておいてくれ」

「了解しました。すぐ手配します」

「ああ、よろしく頼むよ」

僕はそう言うとボタンを離した。

そして海図をソファのテーブルに広げる。

アッシュの協力と潜水艦による調査によって作られたフソウ連合周辺の地図だ。

真ん中にある島々がフソウ連合であり、西に大陸が二つあり、東に諸島がある。

二つの大陸のうち、上側にあるのが帝国であり、下側の大陸には三つの国がある。

もっとも、その三つの国は、それぞれが六強と呼ばれる国家によって占領され植民地と化している。

また、東側の諸島もすでに植民地になっており、この結果、フソウ連合は六強のうち五つの国に囲まれてしまっているという状態だ。

そして当面の敵となっているのが、帝国である。

正式名称を聖シルーア・フセヴォロドヴィチ帝国と言うらしいが、ほとんど使われずシルーア帝国と言われている。

六強の中での戦力は王国に次いで高いものの、五年続いた後継者争いのため植民地のほとんどを失い、大きく国力も戦力も低下したといわれている。

もっとも最近は皇帝が決まり、失われた植民地の奪還と新たなる植民地の開拓で動きが活発になっているらしい。

その動きの一つとして、フソウ連合に手を伸ばしたようだ。

こっちとしてはいい迷惑であるが、降りかかる火の粉は払わねばならない。

その結果、シマト諸島をめぐり、シマト諸島奪回戦とシマト諸島攻防戦の二つの戦いが起こった。

両方とも我が軍の勝利となったが、持久戦となるとフソウ連合の方が不利なのはわかりきっている。

いくら戦力があろうとも、全面的な戦争は国力によってどうしても左右されてしまう。

アッシュによる大まかな情報を聞いただけでも、人口は五倍以上、植民地を失っているとはいえ領土の広さは実に十二倍以上と圧倒的な差がある。

短期決戦ならどうにかなるものの、長期になるとさすがにきついのは明白だ。

だからこそ、ここは守ってばかりでは駄目だ。

何か相手を引かせる手が必要と言うことになる。

そこまで思ったとき、インターフォンから連絡が入る。

「長官、報告書と資料が届きました」

「わかった。それで二人にはきちんと休むように言ってくれ」

すると向こうから「「ありがとうございます」」と言う声が聞こえる。

どうやらまだそこにいるらしい。

だから、僕も彼らに聞こえるように少し大きめの声で言う。

「よくやってくれた。助かる。また色々頼むと思うから今はゆっくり休んでくれ」

「はっ。では休ませていただきます」

「お心遣いありがとうございます」

そして静かになる。

どうやら、戻ったようだ。

そして、呆れたような東郷大尉の声が響く。

「あの…長官…」

「え、えっとなんだい、大尉…」

「あの…こう言ってはなんですが…」

「うん…」

「隣ですから、こっちに来られて話せばよかったのでは?」

「………あ……」

まったくそこまで考えがいたらなかった。

そうだよ。

隣なんだから、ドアを開けて話せばよかったんだよ。

何で思いつかなかったんだ?

そんな事を考えている僕に東郷大尉の指摘が続く。

「そうすれば、わざわざ大きな声を上げなくても済んだと思うんですが…」

「…すみません…おっしゃるとおりです」

僕にいえるのは、それぐらいしかもうなかった。

ごめんよ、東郷大尉。うるさくしてしまって…。


そして、東郷大尉が報告書と資料が到着した事を連絡したのだろう。

二十分もしないうちに新見准将と山本中将か部屋にやってきた。

二人の顔には、楽しみにしている感が表情に浮き出ている。

いや、その気持ち、すごくわかりますよ。

なんせ、次の一手に繋がるものですから…。

「無事帰って来たようですな…」

新見准将が軽く頭を下げてそう言ってくる。

そのあとに続く山本中将は何も言わないものの、頭を軽く下げた後、目で訴えてきていた。

だから、僕は立ち上がって迎え入れつつ答える。

「ええ。帰って来ましたよ。それも予想以上のお土産を持ってきてね」

そう言ってデスクの上にある伊400と伊401の二人が出していった報告書と資料の入った分厚いファイルに視線を送った。

すると二人の視線もすぐにデスクの上に動き、それぞれの観想を言う。

「ほう、これはこれはなかなか楽しみですな…」

「ふむふむ。その通りだよ。実に興味深い」

二人はそう言いつつ、いつものようにソファに移動する。

もちろん、僕もだ。

そして、報告書と資料の入ったファイルを二人に渡す。

かなりずっしりと重いので両手持ちだ。

「長官はよろしいので?」

「ああ。僕は待っている間に必要なところだけ見させてもらったよ。詳しくはまた後でみるつもりさ」

「なるほど…」

そう言いつつ、二人は報告書と資料にざっと目を通していく。

途中、東郷大尉がコーヒーを持ってきてくれたが、実に二十分近く二人は報告書と資料に目を通し続けていた。

何枚もの上空写真や図が挟み込まれ、緻密に図には数値が書き込まれている。

かなり詳しく調べなければここまでは無理だ。

それほど密度の濃い物だった。

そして、一通り目を通したのだろう。

二人は顔を上げて視線を僕の方に向けた。

「お待たせしました」

「ああ。構わないよ。それで、見た感想はどうだい?」

僕がそう言うと、新見准将が驚いた表情で言う。

「実にすばらしい。作戦立案をする場合には、この資料はかなり役に立つ出しような」

それに続いて山本中将も口を開く。

「その通りです。しかし、潜水艦を使っての情報収集と聞いてどういったものかと最初は思いましたが、実に有効的な運用方法ですよ。これからはますます活用していく必要がありますな」

「まったくだ。いつまでも外の事があまりわからないではどうしょうもないですからな」

新見准将がそう相槌を打った後、僕の方を覗き込むように見る。

「それで長官…長官の提案された作戦実施の条件はどうでしたか?」

「ああ。条件は満たしているよ。ただ少し迷いはある」

「迷いですか…」

「ああ迷いだ。今のまま防戦一方では駄目だと思うが、ここでこっちから動いてしまった場合、戦いは泥沼化しないかとね」

僕の言葉に、山本中将が口を開く。

「確かに。昔から戦いは起すよりも終了させるほうが大変だとよく言いますからな」

「ふむ。そうですな。長期戦はこちらが不利ということか…」

「だが、長官の提案した作戦がうまくいけば、帝国の東方方面艦隊に大ダメージを与えるだけでなく、敵の動きをしばらく押さえることも出来ますからかなり有効ではありますね。実行してもいいのではないかと私は思いましたが…」

山本中将がそう言うと、新見准将も目を開いて言う。

「確かに決まれば間違いなく有効でしょうが…その時期ですよ、問題は…」

「それは僕も考えています。やはりやるのであれば、もう少し寒くなってからの方がいいと思うんですよ」

僕がそう言うと、山本中将が身体を乗り出して聞いてくる。

「確かあのあたりは寒くなったら濃霧が発生すると言ってましたからそれを狙って?」

「そうですね。濃霧にまぎれてやれば成功率は間違いなく上がるでしょうね」

僕はそう答えた後、少し間をおいて言葉を続けた。

「もっとも、それまで敵が動かなければいいんですが…」

その僕の言葉に二人は頷いた。

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