表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

699/840

生か死か  その4

次々と投下される爆雷。

それぞれがまるで時間差を考慮したかのように爆発していく。

それぞれの爆発で起こる水圧がN-306を襲う。

その水圧の方向性はそれぞれが違う為、艦体はその水圧を受けて歪み、軋んで悲鳴を上げた。

そしてそれで生じるのは、歪みによって出来た隙間からの浸水である。

一瞬の沈黙の後、配管を流れるオイルや海水が歪みによって生じた隙間に圧が一気に集中し噴き出す。

「応急処置急げっ」

乗組員達は、浸水を防ごうと対応していく。

勿論、ベテランが率先してだ。

その的確な対応に、副長はふーと息を漏らす。

彼らがいてよかったと思いつつ。

そして、新兵たちは恵まれているとも思う。

なんせ、ベテラン達、特に初期の潜水艦乗りは試行錯誤で対応してきたのだ。

その結果、ある程度のマニュアルが出来、どうすればいいのかの対応が新人でもある程度出来る様になっているのだから。

もっとも、経験の差は大きいのが動きを見ててわかる。

どうやら浸水は軽微のようだ。

深度を下げておいてよかった。

もし震度30だったなら、間違いなく致命傷となる被害を受けただろう。

だが、早々うまくいくことはない。

「今のうちに移動するぞ。微速前進」

海中がかき混ぜられ、今なら敵はこっちを捕捉しきれていない。

少しでも動き、距離をとらねば。

まともに戦ったら間違いなくこっちが不利なのだ。

副長は、それがわかっていた。

だからこそ、移動を命じたのである。



手足を縛られ、ヘタニラ特務少尉は艦長室に押し込められていた。

怒りが彼を染め上げていた。

階級が下のものに馬鹿にされた挙句、拘束されたのだ。

面白いわけがないし、何より今までこんなことをされたことはない。

彼の自尊心は、大きく傷つけられ、それが怒りをますます激しいものにさせている。

いくら下請けの運搬メインの会社であったとしても、彼は社長であり、その会社、船の中では誰も逆らう者などいなかったのである。

それなのに……。

あの男は、絶対に首にしてやる。

やつが行った非道を全て報告し、鉄槌を喰らわせねば。

しかし、戦闘中に罵詈雑言を叫び騒ぎ出すほど馬鹿ではない。

押さえろ、押さえろ。

全ては港に戻ってからだ。

そう思っていた。

しかし、その怒りは、恐れへと変った。

敵の攻撃が始まったのである。

次々と爆発が起こり、水圧が艦を押しつぶそうと圧をかける。

金属が悲鳴を上げ、艦体が軋むのがわかる。

ぎぃぎぃぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ。

それは悲鳴だった。

そして、浸水の音。

その水音が死神の足音のように感じられる。

恐怖が、自尊心も怒りも塗り潰していく。

違う。違いすぎるっ。

聞いてないぞ。

こんな事は聞いてないぞ。

震えつつそんな言葉を心の中で繰り返す。

潜水艦は無敵ではなかったのか。

海中は安全地帯であり、一方的に攻撃できる。

そんな幻想さえ抱いていた。

勿論、ある程度説明はあったが、それは余りにも少なすぎた。

何事においても、人は自分の都合がいい様に解釈しがちである。

特に、独りよがりのものほどその傾向は強い。

そして、現実を知り、愕然とするのだ。

騙されたと……。

そして、自分の命令を副長が阻止した理由を理解した。

恐らく、自分の命令を実行していたら……。

ぞっとした。

そして、ほっとしたものの、すぐに気が付いた。

今の自分は、ただ恐怖に苛まれ、震えるしかない事に。

すでに怒りはなく、只々祈る。

今の彼に出来るのは、そんなことだけであった。



「少し移動しているようですね」

水中聴音機(ソナー)の結果の報告に、ルンバルグ大尉は海図を確認しつつ答える。

「みたいだな。オムストラリクも把握しているとは思うが、念のために伝えておけ」

「了解しました。そして……」

ニタリと副長が笑うと言葉を続けた。

「『攻撃しろ』ですね」

その言葉に、ルンバルグ大尉もニタリと笑う。

「ああ。勿論だ」

そして、左斜め後ろに続く僚艦(オムストラリク)に視線を送った。

速力を一定に保ちながら進み、目標となる場所に近づくオムストラリク。

そして、爆雷が投下される。

数は4発。

それは、爆雷発射の装置の数と設置場所がオストリッチと同じであり、またより確実にダメージを与える為にというオムストラリクの艦長の判断で選択をしたのだろう。

そして、一定の距離離れた後に海中爆発に合わせて水柱が次々と立つ。

海水が高く持ち上げられ、次々と降り注いでいく。

もっとも、そんな海水を浴びるほど近くにいた場合は自艦も被害を受けるので距離は開けていて浴びることはない。

だが、周りから見ればかなり派手なものだ。

だが、それでもそれ以外の爆発も痕跡も現れていない。

かなりうまく立ち回っているのだろう。

全くダメージは与えていない訳ではないだろうが、決定打とはなっていない。

うまく位置と深度を変更してかわしているのだ。

「ちっ。なかなかやるじゃないか」

思わず出た言葉に、副長が苦笑を浮かべる。

「相手もそう思っているかもしれませんよ」

「そうだといいんだがね」

海面が落ち着くと水中聴音機(ソナー)で索敵。

そして次はオタノリアが攻撃を仕掛ける準備を始める。

「やはり少しずつ動いてますね。それと深度も変えています」

水中聴音機(ソナー)の結果から副長が報告する。

「だろうな。こりゃ、かなりの強者だ」

恐らく王国辺りで結構やってたやつだろう。

この艦の性能(スペック)が後付けの多い王国で使われているものに比べると段違いに上とはいえ、経験値の差がデカいと痛感させられる。

だが、だからこそ仕留めなければ。

逃がせば間違いなく被害が大きくなる。

そう実感する。

そんなルンバルグ大尉に副長が報告する。

「オタノリア、攻撃します」

その報告に、ルンバルグ大尉は当たり前のように命じる。

「わかった。次の攻撃の準備を進めろ」

その命令を受けて当たり前のように副長も答える。

「了解です」

つまり、彼も今戦っている相手は一筋縄ではいかない相手だとわかっているのだろう。

そんな会話を交わしている間にも、オタノリアが爆雷攻撃を仕掛ける。

オタノリアは、O+(オープラスクラス)の試験改良型で、爆雷発射装置が通常のO+級の打ち出し式2基、投下式2基から、打ち出し式8基に変更になっている。

また、フソウ連合の新型に匹敵する水中聴音機(ソナー)も装備されている。

つまり、他の二艦に比べ、対潜能力が高いという事になる。

ただ、試験的な兼ね合いが強い為、爆雷搭載数は、他と同じだ。

だからだろうか。

右舷の4基を使って次々と打ち出している。

打ち出し式は、どうしても投下式に比べて精度は落ちるが、より遠くに飛ばす為、自艦を巻き込むことは少ない。

また、爆雷は、砲撃や雷撃と違って必ず命中させる必要性はなく、その爆発によって潜水艦に圧をかけダメージを与える兵器だからだ。

勿論、当たった方がいいが、きちんと相手の見える砲撃戦でさえ当てるのはかなり難易度が高いのだ。

見えない潜水艦相手にそれを求めるのは余りにも酷というものだろう。

そして、次々と立つ水柱。

その感覚が少し間が空いていた事から、深度を統一したのではなく、恐らく深度に少しずつ差をつけて投下したのだろう。

要は、深度を統一し、横に広くするか、深度に差をつけて縦に広するかの違いである。

「結構いろいろ考えてるな」

ルンバルグ大尉の言葉に、副官が双眼鏡で確認しつつ言う。

「オタノリアは、新型の水中聴音機(ソナー)を載せていますからね。いけると思ったんでしょう」

「ふむ。だが、どうせなら左右で仕掛けて横も縦もといけばよかったんじゃないのか?」

「やはり、残りの事を考えれば……」

確かに倍の八発ずつ使えばあっという間に爆雷は尽きるだろう。

「うむ……。難しいところだな」

「ですね。で、どうします?」

副官の問いに、少し考えた後、ルンバルグ大尉言い返す。

「長期戦に入りそうだ。爆雷は投下式に二発に変更する。そしてオムストラリクと並んで行くぞ。でいいな?」

「はっ。了解しました。すぐにオムストラリクに伝えます」

こうして爆雷の準備をしつつ、海中が収まるのを待つのであった。



がくんっ。がくんっ。

ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーっ。

艦が激しく揺れ、軋む音が響く。

誰もが何かに摑まり身体を固定する。

そうしなければひっくり返っていただろう。

それ程の揺れであった。

そして、響く水音。

慌てた様に動き出す乗組員達。

防水処置を行うためだ。

すでに艦内には床にオイルやら海水らがくるぶし辺りまで入り込んでいる。

ただ、運がいい事に、機関や電池関係に被害がない。

だから、まだいける。

「くそっ。今度は縦かっ」

四発同時で幅広く爆雷攻撃を二回した後、今度は深度に差をつけて縦に広く攻撃を仕掛けてくる。

どうやら、王国で戦った相手よりも爆雷の搭載量は多いらしい。

そうでなければ、四発同時なんてやりはしない。

今まで戦ってきた相手が一発ずつの攻撃だったため、副長はそう判断した。

そんな艦艇が3隻だと……。

とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったな。

すーっと冷汗が出る。

いくら以前の潜水艦よりもスペックが上とは言うものの、それはあくまでも予想性能(カタログスペック)でしかないし、相手も性能は上がっている。

いや、相手の方が有利になっていると思っていいだろう。

こりゃ、ギリギリを攻めなきゃいかんな。

そう腹をくくると副長は水雷長に聞き返す。

「魚雷の速力を10ノット以下に出来るか?」

その問いに水雷長は頷く。

「出来はするがその速力では……」

「構わん。出来るだけ速力を落とせ。それと信管は無反応だ」

予想外の言葉に、水雷長は驚きの声をあげた。

「おいおい。それじゃ当たっても……」

「当てる気はない」

短くそう言うと航海長に視線を向ける。

「確か、この船の限界深度は50だったな?」

「はい」

「そうか。なら限界を試すとしょう」

その言葉に、航海長の顔が引き攣った。

判ったのだ。

副長がより深く潜ろうと考えていることに。

だから反論が口から出かかる。

「しかし……」

だが、すぐにそれは副長の言葉で遮られた。

「大丈夫だ。そうだよな、航海長?」

その言葉の意味を理解し、口にしょうとしていた言葉を飲み込むと航海長は頷く。

「は、はい。勿論です」

そう。

ここで反論すれば、乗組員達が不安になってしまう。

だからこそ、敢えて言わせたのだ。

「よし。次の攻撃が始まったら、作戦を実施する。各員準備にかかれ」

3対1の劣勢。

だが、副長は諦めてはいない。

その決意の姿勢と自信のある言葉に、誰もが勇気づけられる気がした。

「「「はっ」」」

「よし。みんなで生き残るぞ」

その言葉に、少し余裕が出来たのか、ベテラン乗組員の一人が苦笑をして言う。

「あの艦長もですか?」

その問いに副長も苦笑を浮かべた。

「ああ。あの艦長もだ」

戦いが終わり、訴えられるかもしれない相手。

だが、生き残るための最善の選択だと後悔はしていない。

だからこそ出た言葉だった。

その言葉に満足したのか、問いかけたベテラン乗組員が言い返す。

「我々が副長を擁護しますよ」

その言葉に、副長は困ったような顔で言う。

「まずは生き残ってからだ」

「はい、生き残ってからですね」

「そう言う事だ」

その副長の言葉に、乗組員達は互いの顔を見合わせて頷く。

そこにベテランも新人もない。

まずは生き残ろう。

その一つの思いで全員の意思がまとまった瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ