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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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生か死か  その3

「潜望鏡を発見次第報告だ。警戒を怠るなよ」

そう言いつつも駆逐艦オストリッチ艦長、ハミルトン・ルンバルグ大尉は攻撃は恐らくないと思っていた。

潜水艦の最大の攻撃チャンスは、待ち伏せによる奇襲攻撃にある。

恐らく連中は発見されたとは気が付いていないだろう。

ならば十中八九通過する艦隊の側面からの雷撃攻撃だろう。

それがセオリーであり、より多くの戦果を上げる方法であるからだ。

海中に潜っての移動しつつの攻撃など早々当たるはずもなく、それどころか発見され攻撃されるだけの潜水艦の利点を全部潰してしまう愚かな行為と言える。

だが、それを無視してやる輩がいるかもしれない。

だから警戒するのに越したことはないのだ。

そんな艦長に、副長が報告する。

「残りの爆雷は26発です」

正確な爆薬の数の報告を命じていたのだ。

潜水艦と戦う以上、正確な弾の数は知っておかねばならない。

「そうかわかった」

その報告を受け、艦長は通信手に命じる。

「アルカンハルストのイムサ基地に連絡だ。『第28警戒艦隊ハ、敵潜水艦ト接触。戦闘ニ入ル』以上だ」

「了解しました」

そのやり取りを聞き、艦橋スタッフの顔がより引き締まる。

うちの艦長はやる気だ。

それも徹底的に……。

それを感じたのである。

だが、爆雷26発は心もとない。

そう思う者もいた。

O級改駆逐艦は、O級駆逐艦よりも対潜戦闘に特化している改修を受けている。

その為、O級本来の搭載爆雷60発よりも多い90発を載せていた。

だが、訓練で実に三分の二を使ってしまっており、これは他の二艦も同じだろう。

しかし、三隻合わせれば、90発近い数がある。

それに今回の訓練で得られた経験と技量、それにこの艦の性能があればやり方次第では十分戦える。

艦長は、そう判断したのである。

「攻撃してきませんな」

副長が判り切っていたとはいえ、そう聞いてくる。

「ああ。それよりも作戦は伝えているのか?」

そう聞き返す艦長に、副長は笑って言う。

「ええ。しっかりと伝えています」

「なら、いい」

そのやり取りの途中で報告が入る。

「潜望鏡らしきものを発見」

「どのあたりだ?」

「どうやら予想していたあたりですな」

報告を受け確認していた副長が言う。

予想通りである。

ならば、予定通りにやるだけだ。

「計算した地点にはどれくらいかかる?」

潜望鏡の位置から推測されるもっとも有効的に攻撃できる攻撃地点である。

「そうですな。このスピードならあと三分程度で入ることになるかと……」

恐らく、すぐには攻撃を仕掛けないだろう。

十分に引き付けて魚雷攻撃を仕掛けるはずだ。

ならば……。

「なら、出鼻を挫く為、地点に入り次第すぐにやるぞ。全員気合を入れてやれよ。我々の初戦果を上げるチャンスだ」

その言葉に、艦橋スタッフは、自分の役割をこなそうと気を引き締めるのであった。



「ふんっ。馬鹿が。何も知らずにのこのこと一列で目の前に進んできやがる」

潜望鏡で艦艇の動きを見ていたヘタニラ特務少尉はニタリと笑みを漏らす。

この新型は、前部に四門の魚雷発射管を持つ。

それを時間をずらしつつ打てば相手が縦長で進んでいる分、的としては大きくなる。

全艦は無理でも、一隻、或いは二隻は沈められるだろう。

それに救助活動をするようならお代わりを打ち込んでやればいい。

そうすれば戦果は間違いなく増える。

そう思っていた。

そんなヘタニラ特務少尉の一歩後ろで副官が眉間に皺をよせ難しそうな顔をしていた。

嫌な予感しかしないのだ。

以前乗っていた潜水艦は、対潜能力を持つ戦闘艦と戦闘になり、痛い目を見た事もあるのだから余計と言えた。

彼の中では、潜水艦は無敵の艦艇ではなく、奇襲に特化した艦艇であり、真正面で戦えば、最弱ではないかとさえ思っていた。

だからこそ、狙うのは貨物船や輸送艦といった相手であり、戦闘艦、ましてや恐らく相手は潜水艦と戦う為に用意された艦船であり、天敵と呼べるものである。

それも一対一ならともかく、一対三で喧嘩を売るのである。

正気の沙汰とは思えなかった。

ちらりと後ろを見る。

すでに機関長と水雷長には知らせてある。

そのおかげだろうか。

手配してもいないのに、機関長と水雷長の子飼いともいえる乗組員四人の姿が見える。

何も起こらなければいいが、予想通りの事が起こったら……。

いざとなったらやるしかないか……。

深く息を吐き出す。

そんな思考の中、ヘタニラ特務少尉の声が響く。

「魚雷発射用意ーっ」

すでに調整は終わっている。

ヘタニラ特務少尉の発射命令を受ければ攻撃が開始される。

その時であった。

艦内に響く独特の甲高い音。

「な、なんだ?」

艦長であるヘタニラ特務少尉は初めて聞いたが、副長を始め何度も戦いに参加している者達は知っている。

それは敵が潜水艦を探す為に発する音だ。

そして、その後に続くのは……。

「艦長、すぐに急速潜航を!!」

副長がヘタニラ特務少尉に慌てて詰め寄る。

そのあまりにも切羽詰まった形相に思わず一歩下がるものの、それでも舐められてたまるかという思いだろうか、慌てて言い返す。

「な、何を言う。今から攻撃を仕掛けるのだぞ」

一歩も引かないと思ったのだろう。

副長が潜望鏡を指さし言う。

「なら、どういう状況か確認したまえ」

癇に障ったものの、それでも攻撃しなければならないという思いで潜望鏡を覗く。

その目に入ったのは、そのまま横切るはずだった敵の艦船が向きを変えこっちに向かってきている所だった。

「ど、どういうことだ?!」

予想外の事に驚き動きが止まるヘタニラ特務少尉。

しかし、それでも攻撃を命じる。

「か、構わん。魚雷発射だ」

だが、その言葉が言い終わらないうちに副長がより大きな声で命じた。

「急速潜航急げっ!!」

乗組員達は、どっちの命令が迷ったが、ベテランと言わる連中は、すぐ様副長の命令に従った。

「さっさと急速潜航だっ。死にたくなかったらさっさとやれっ!!」

怒鳴るような声があちこちから聞こえ、それを受けN-306は急速に潜水始める。

「魚雷発射管、閉鎖っ。各部のチェック急げ。爆雷攻撃が来るぞ」

次々と指示を出す副長に、ヘタニラ特務少尉が睨みつけつつ言う。

「貴様ーーっ。この船の艦長は自分だ。貴様に指揮する権限はないっ」

掴みかからんばかりに詰め寄るヘタニラ特務少尉だったが、そんな相手を副長は冷めた目で見下す。

「ええ。確かに貴方の言う通りです。ですが、貴方が指揮できない場合、次席である私に指揮権があります。それに従ったまでです」

その物言いは淡々としており、馬鹿にされたと感じたのだろう。

ヘタニラ特務少尉は怒りをより露にして詰め寄ろうとした。

しかし、急速潜航しつつの潜水艦の中、ぐらりと身体が揺れる。

その身体を後ろにいたベテラン乗組員が支えた。

いや、支えたというより止めたと言った方が正しいのかもしれない。

「は、離せっ」

ヘタニラ特務少尉は叫ぶもベテラン乗組員はその手を離さない。

そして、副長が命じた。

「艦長は錯乱されている。指揮は無理のようだ。ご退場願おうか」

「き、貴様ーーーーっ、言うに事欠いて……」

「丁寧に扱えよ。この艦の最高責任者だからな」

皮肉ともとれる言葉に、ベテラン乗組員は苦笑を浮かべたが、すぐに真顔になった。

そして、もう一人のベテラン乗組員と二人でヘタニラ特務少尉の両脇を抑えると指揮所から引きずり出していく。

「お、覚えてろよっ。基地に戻ったら絶対に軍事裁判にかけてやるっ」

「ええ。生き残ることが出来たら、法廷で会いましょう」

副長はそう言いつつ連れていかれるヘタニラ特務少尉を一瞥した後、ため息を吐き出した。

「深度30超えました」

報告が入り、副長は頷く。

だが止めなかった。

要はまた深く潜れという事だ。

N-306は、第二世代の三番目に設計された新型潜水艦である。

形式はND-300A。

今までの艦よりより大型で外洋での戦いを考えられて建造されていたが、それでもスペック的には初期のものとあまり違わない。

だから限界深度は50mと言われていた。

だが、それはあくまでも設計された時点で予想された予定性能(カタログスペック)である。

実際にそこまで潜ったという報告はまだない。

本当なら、訓練中にある程度まで確認するのだが、急激に潜水艦の数を増やした為に訓練の一部が省かれ、出来ないでいる。

「実戦で、性能確認する事になるとはな……」

副長はそう呟くと三隻相手にどう立ち回るか思考し始めるのであった。



「敵潜水艦、潜望鏡見えなくなりました」

その報告に、ルンバルグ大尉はニタリと笑った。

「度肝を抜かれたようですね。ですが……」

副長が一歩後ろで苦笑している。

「ああ、今頃はパニックになっていると思っていたが、素早く対応して見せたか。手ごわそうだ」

ルンバルグ大尉としては、混乱にして魚雷攻撃を仕掛けてくればより戦いやすいと思っていたのだ。

すでに艦は相手に向かって進んでおり、魚雷攻撃をされたとしても横向きの時に比べて当たる面積が遥かに小さい分、回避しやすい。

だが、敵は素早く急速潜航を選択した。

それはある程度経験がなければ早々素早く判断できるはずもない。

だからこそ、手ごわいと判断したのである。

だが、勝てないわけではない。

それでもまだこちらが有利なのだ。

「深度30で爆雷攻撃用意ーっ、左右爆雷一射、後部爆雷時間をずらして二射」

「了解しました」

命令が下され、爆雷発射管の担当員が深度のセットを行う為、爆雷に走り寄る。

そして次々とセットが終わり、艦橋に向かってすべての準備が終わったことを知らせる旗が振られた。

「爆雷のセット終わりました」

「よし。後続の艦はどうか?」

「はっ。オムストラリク、オタノリア、両艦とも左舷に展開しております」

そう、急速に敵の方向に艦首を向けたのはオストリッチだけではない。

後ろに続く二隻もそれに合わせて艦首を相手に向けたのだ。

その結果、縦一列だった陣形は、今や横一列となっている。

「よしっ。再度探信音打てっ」

「はっ」

そして、水中聴音機(ソナー)や磁気探知機によって再度確認した後、ルンバルグ大尉は命令を下す。

「攻撃開始っ」

その命令を受け、左右に一基ずつある爆雷発射管から2つの爆雷が発射され、後部爆雷発射管からは、時間差を置いて爆雷が2つ投下された。

四発一気に行われる爆雷攻撃。

それは敵潜水艦の潜伏場所がある程度わかるから行われたもので、さながら絨毯爆撃のようであった。

予定深度に到着し、次々と艦の後方に水柱が立つ。

だが、それでも爆雷以上の爆発はない。

「浅かったようですな」

「ああ。思ったより潜りやがったな」

ルンバルグ大尉は悔しそうな口調ながらも笑みを浮かべている。

かなりのやり手のようだ。

いいだろう。

やってやろうじゃないか。

こうして、N-306とイムサ艦隊との我慢比べが始まったのである。

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