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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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生か死か  その2

ポルメシアン商業連盟。

国の名前からわかる様に、かっては商人が動かしていた国であり、国民の多くが商人になって一攫千金を狙っていた国だ。

しかし、トラッヒが全てを握ってからは大きく様変わりしていった。

一部を除く財閥ともいえる大手商会の取り潰しと財産没収。

そして、施設や設備の国営化。

また、それは大手だけだはなく、中小商会にも手が及んだ。

それは徹底的に行われ、七割近くの商人が財産と仕事を失った。

その結果、失業率が一気に跳ね上がったが、それらの人々をトラッヒは軍へと斡旋する。

一気に軍を拡大するためには、それが一番手っ取り早かった為である。

元々商業の国であった連盟では、軍人は商人になれない半端者がなるものという考えが強かったが、それでも生きていくため、多くの商人達が渋々軍人に転職していった。

だが、そんな中でも例外はある。

両親が商人だったため渋々跡を継いだ者や商人になってみたものの才能がなくてそれでも生きていくために仕方なく商人になって燻っていた者達だ。

そんな彼らにとって軍人に転職するという事は、心機一転のチャンスと思ったのである。

そこには今までとてつもなく高い壁として立ち塞がっていた富の差や利権がなく、ある程度能力によって格差はあるが、それでもまだ公平に近いものがあったからである。

やろうと奮起すれば、あの俺を顎で扱き使っていた連中を見下せる。

それは、今まで燻って我慢してきた者達にとって奮発する起爆剤となった。

その為、そう言った者達は俄然やる気を出した。

そして渋々軍人になった連中が燻っている中、そう言った者達はどんどん頭角を現すことになる。

ヘタニラ・ラクバート特務少尉も典型的なそんな一人であった。

彼は元々貨物船一隻を持つ艦長を兼任するような小規模な商人であった。

自分はもっとやれる。

そう思ったが、現実は大手や中堅規模の商会に頭の上がらない日々が続く。

そんな生活に嫌気がさしていた頃、問答無用で貨物船は国に没収され、職を失った。

いきなりの事で愕然としたものの、その後、政府は没収した貨物船を武装し特務巡洋艦として軍に組み込むことを発表。

それに合わせてかっての乗組員達に軍人への再就職を斡旋を始めたのである。

それを受け、ヘタニラは直ぐに応じた。

かって乗り込んでいた船に優先的に配属になるという条件があったことも大きかった。

しかし、そう思い通りにならなかった。

彼はとある適性があった為だ。

それは潜水艦乗りになるという適性が……。

すでに運用してからのノウハウの蓄積で、ある程度の適性が必要であるという事はわかっていたし、大量の潜水艦の乗組員が必要となるという事から少しでも適性があると思われる人材は潜水艦部隊に配属になったのだ。

そして、そこでヘタニラはその才を開花させた。

そして僅か半年の間に彼は潜水艦の艦長に任命されるようになっていたのである。


「どうだ?」

ヘタニラ特務少尉は、水上航行中のN-306の艦橋で周りを警戒している水兵達に声を掛ける。

すでに出港して二週間が過ぎつつあった。

その間、船団に遭遇する事が皆無だったわけではない。

二度ほど船団と遭遇したが、規模が大きすぎた。

海中に潜んで攻撃できる潜水艦はかなり有利であるとはいえ、流石に十五隻を超える船団に一隻で挑もうとは思わない。

数が多いという事は、その分護衛が多いという事だ。

もっとも、彼自身は潜水艦が圧倒的に有利と信じていたし、そう習っており、また初めての出撃で戦果を上げて以来、それを疑っていなかった。

だから、攻撃を仕掛けようと思ったのだが、副官の猛烈な反対に圧される形で挑まなかったのだ。

確か別の潜水艦で修羅場をくぐってきたベテランと聞いていたが、余りにも用心すぎるというのが彼の副官への批評であった。

護衛があるとはいえ、連中は狩られる側であり、我々は狩る側なのだぞ。

それが当たり前だというのに……。

押される形で船団を見逃して以来、不信が溜まっていく。

最初は気にならなかった事さえもいつしか気に入らなくなっており、元々、ワンマン社長的な人物だったため、反対意見を受け入れるのに対して否定的な感情が強かったのである。

自分はもっとやれるのに無能な副官のせいで足を引っ張られている。

その思い込みから、今回の作戦が終わったら副官を変えてもらうかとそんなことさえ思っていた。

だが、その思考を遮る声が上がる。

「艦影発見」

その声にヘタニラ特務少尉は聞き返す。

「どこだっ。それと数はっ」

その問いに、声をあげた水兵が報告を続ける。

「二時の方角。数は三といったところでしょうか」

その方向を聞きつつ、ヘタニラ特務少尉は自分の双眼鏡で確認する。

確かに言われたとおりに艦影と煙が見えた。

「確かに、三隻程度だな。そうなると……」

そう呟くように言うヘタニラ特務少尉に対して副官が声をあげた。

「少ないですな……」

その言葉に、ヘタニラ特務少尉は言い返す。

「少ないのがどうした。見逃した二つの船団よりはとてつもなく少ないのだ。この程度なら攻撃して構わんだろう?」

皮肉たっぷりの口調でそういうヘタニラ特務少尉に副長は黙り込む。

この航路に行き来する船団は、ここ最近の傾向では最低でも十隻単位というのが普通だ。

なのに……。

罠か?

そう思いつき、その事を言うが、ヘタニラ特務少尉は蔑むように言う。

「罠なら食いちぎればいい。警戒している連中だとしても、先制攻撃を仕掛ければ勝てる採算はこっちの方が高い。それにだ。この艦は新型で以前のものより性能も上がっている。勿論、魚雷もだ」

そしてニマリと笑う。

「副官殿が乗っていた艦よりもはるかに高性能なのだよ」

要は、性能がいいから問題ないとバカにされたように言われ、さすがにカチンときたのだろう。

副長はイライラした表情を隠そうともせず言う。

「わかりました。そこまで言われるのならお任せします」

そう言うとさっさと艦内に降りていく。

その不満の表情を見てヘタニラ特務少尉は心の中で副官を罵倒する。

大戦果を上げて鼻をあかしてやると。

また、副官も心の中でヘタニラ特務少尉を見限り始めていた。

自信を持つのはいい。

だが、自信と無謀は違う。

自分の力を過大評価しては生き延びれない。

やはり、いざとなったらこっちが主導権を握るしかないか。

ならばどうするか。

運がいいことに、機関長と水雷長は自分と同じ艦の出身だ。

話を付けておくか。

生き残るにはそれしかない。

副長はそう判断するとまず機関室に向かったのであった。

副長が姿を消し、ヘタニラ特務少尉は敵を再度確認する。

サイズはそれほど大きくないようだが、間違いなく五隻の艦船がこちらに向かってきている。

確かに大型艦船の方がいいのだが、それでも一隻は一隻だ。

隻数で戦果を報告するのだ。

数は多いに越したことはない。

よし。待ち伏せして沈めてやる。

そう判断すると命令を下す。

「よし。潜望鏡深度まで潜水だ。急げ」

「はっ」

こうしてN-306はゆっくりと潜水し始める。

だが、彼らは忘れていた。

相手の方が艦橋の位置も高く、双眼鏡などの索敵機材も遥かに高性能だという事を。

そう、N-306が船団を発見したように、船団もN-306を発見していたのである。



「しかし、この艦は素晴らしいですな」

副長の言葉に、艦長は頷いた。

O級改(クラスオープラス)駆逐艦。

フソウ連合がイムサの為に提供している駆逐艦の一種で、最初のO級から得られた報告から、よりイムサ向けに一部設計を変更した艦である。

整備や規格の統一を図る為、フソウ連合の規格の装備に変更になっただけでなく、対潜能力の向上が上げられる。

その為、大まかな形状こそO級だが、部分部分によっては別物と言ってもいい形状になっていた。

そして、艦長を始め乗組員が十二番艦に当たるオストリッチに乗り込んだのは三週間ほど前で、今は試験航海を終え戻る途中であった。

後方に続く二隻は、同じく同じ時期に就役した十三番艦オムストラリク、十四番艦オタノリアである。

将来的には、この三隻で艦隊を組むことになるのだろうか。

艦長はそんな事を考えていた。

そうなると……。

だが思考はそこで打ち切らた。

「大変です。十一時の方向に潜水艦と思しき艦影を発見しました」

警戒に当たっていた兵からの報告である。

潜水艦はすでに王国、共和国には、フソウ連合によってその存在を知らされており、イムサでも航路を脅かす最大の敵の一つとして認識されていた。

その為、イムサの中でも、最新鋭のO級改(クラスオープラス)駆逐艦やE級改(クラスイープラス)駆逐艦は、秘密裏にではあったがフソウ連合の潜水艦の協力で対潜水艦戦の訓練も含まれていたのである。

その為、すぐに潜水艦と識別できたのであった。

「間違いないのか?」

「はっ。訓練に参加してくれたフソウ連合のものに比べ小ぶりではありますし、形状も違うようですが、恐らく間違いないと思われます」

「そうか」

そう返事をすると、艦長は副長に視線を向けた。

「ここらへんで活動している潜水艦の報告は?」

その問いに副長は直ぐに答えた。

「ないはずです。元々ここらあたりに展開しているフソウ連合の潜水艦は、訓練に立ち会ってくれたイー25のみと聞いていますし」

その言葉に、艦長は頷いた。

確認の為に聞いたのだろう。

「そうなると……」

「敵ですな」

副長の問いに答えるかのように新しい報告が入る。

「潜水艦と思われる艦影が消えました」

その言葉で互いに顔を見て、艦長と副長は頷く。

そして艦長は口を開いた。

「後続の各艦に伝達。『我、敵トオボシキ潜水艦ノ艦影ヲ発見ス。コレヨリ対潜水艦戦ニ移行ノ恐レ高シ』だ。それと基地司令部にもな」

その命令を受け、通信兵と伝令が動く。

伝令が動いたのは、通信だけでなく手旗信号でも伝える為だ。

そしてその動きを確認し、艦長は艦橋内に響く声で命令を下す。

「各員、対潜水艦戦用意ーっ。訓練の成果を見せろよ」

「「「はっ」」」

それぞれのスタッフが声をあげる。

一歩後ろに控えている副長が呟く。

「王国に害をなす連中め。目にもの見せてくれるぞ」

その言葉に艦長はちらりと思い出す。

副長は王国からだったなと。

そして思うのだ。

イムサという組織のすごさを。

国という縛りもなく、王国、共和国、フソウ連合のそれぞれの人々が共に戦うことが出来るという状況を作り出していることを。

そして、今までなら対応するのが難しい潜水艦という艦種に対して、互角に戦う事を可能としているこの艦がある事を……。

負けられないな。

初陣の為に、失敗もトラブルもあるだろう。

だが、それでも負けられない。

それはそれぞれの国の誇りを背負っているだけではない。

イムサが守るのは、多くの国の輸送路の安全なのだ。

祖国だけではなく、より多くの人々の生活を守る。

その誇りと責任が持てた事を、艦長はうれしく思ったのであった。

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