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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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反逆者達……  その1

連盟の首都リスドランから少し離れた田舎町にルールベルメッチョラがある。

大きな産業はなく、農業と首都に向かう途中の流通の流れの恩恵である程度潤っている町だ。

もっとも、トラッヒ・アンベンダード率いる赤シャツ団が連盟を掌握してからというもの、多くの商人は言いがかりをつけられ投獄され財産は没収されている。

その結果、流通は滞り、この町も以前よりも活気が失われつつあった。

庶民の生活は段々と苦しくなり不平不満はたまっていったものの、赤シャツ団やトラッヒに陶酔する一部の市民や軍部によって押さえつけられてしまっていた。

活気のない街の中を歩きつつリネット・パンドグラ少佐はため息を吐き出す。

普段の軍服ではなく、その辺の労働者が着るような私服を着込み、帽子を深くかぶる様は、仕事に疲れ切った労働者のようであった。

だが、それでも軍隊経験者ならわかるだろう。

その歩みが軍経験者独特のものであると。

だが、街の中には不景気そうな顔をした商人と買い物客がいるだけで、警察や軍人らしき者達の姿はない。

恩恵が受けられなくなってしまった場所であり、連盟の諺曰く、「肉のなくなった骨みたいなもの」だ。

つまり旨味が無くなってスルーされてしまっているといったところだろうか。

実際、独裁者トラッヒのやり方は極端すぎた。

一部の者達は潤沢に潤う反面、こうして恩恵から外れ寂れていく者達も多くみられる。

確かに以前も似たような状況だった。

商人が裕福であり、力を持っていた。

それでも活気はあったし、のし上がっていこうとする者は、やりようがあった。

だが、今の連盟でのし上がるには、赤シャツ団に入るか、トラッヒやその取り巻きに媚びを売るしかない。

そんなのはごめんだ。

パンドグラ少佐は再び深いため息を吐き出す。

そして、周りに誰もいないのを確認し、街外れの目的地である一軒の古びた家が建つ門に入っていったのであった。

その家は、余り手入れがされていないのだろう。

家自体も古びた感じで、庭もぼうぼうと草が生い茂っている。

もっともそれでも最低限の手入れはされているのだろう。

門から家に続く道とその周辺だけは最低限草が刈られ、ごちゃごちゃとではあるが物が置かれている。

それらをちらりと見た後、パンドグラ少佐は、躊躇なく玄関を開けた。

そして今一度周りを見回して中に入ると迷いなく奥に進む。

家の中は家具がごちゃごちゃと置かれており、人の気配はない。

まるで空き家のようである。

だが、それでも、埃を被ったり、蜘蛛の巣があるといった事はなく、手入れがされている感じはあるから空き家ではないのだろう。

そのままパンドグラ少佐は奥の部屋まで進むとその部屋は書斎なのだろう。

幾つかの本棚と机と椅子がある。

だが、パンドグラ少佐はある一つの本棚に迷わず進む。

そして、本棚の横にある壁に固定式の燭台に手をかけると傾けた。

そう動くように作られていたのだろう。

当たり前のように燭台は傾き、その動作によりどこかのロックが外れたのだろう。

ガタンと音が響く。

それを確認し、パンドグラ少佐は目の前の本棚を押す。

ぎいいいいっ。

着のきしむ音が響き、本棚はズレた。

そして、目の前には地下に続く階段があった。

その階段に入ると用意されていたランプに火を灯しパンドグラ少佐は本棚の位置を戻す。

がちゃん。

ロックがかかる音が響き、それを確認してから地下の階段を進んでいった。

最初は人工物によって作られていた階段の壁であったが、徐々に自然に作られたものに変っていく。

どうやら、発見された洞窟を利用しているのだろう。

そして、すぐに行き止まりに辿り着いた。

目の前にあるのは、頑丈そうな鉄製のドアだ。

恐らく開けようと思ったらかなり苦労するだろう。

そんなドアだ。

そしてそのドアの呼び出しをドンドンと二回たたく。

すーっとドアに付けられた小窓が開いてパンドグラ少佐を確認するとドアが開かれた。

その中に入ると、その中は、かなり大きめの空間が広がっている。

壁に積み上げられた木箱や金属の箱は厳重に管理されているのかきちんと整理されている。

そして、そんな中、中央には大きめのテーブル、そして八脚ほどの椅子が並んでおり、そのうちの二つはもう埋まっていた。

そしてドアの側にも一人。

この大きめの空間にいたのは三人という事になる。

「遅かったな」

そう声を掛けたのは座っていた二人の内の片割れで小太りの男だ。

「ああ、抜け出すのに苦労してな。最近は監視が厳しくなっているんだよ、ナード」

パンドグラ少佐の言葉にナードと呼ばれた男は苦笑した。

「わかるぜ、最近はうちの部隊にも監視の為か胡散臭そうなのが何人か来ているしな」

相槌を打ったのは、ドアの側にいた男で、パンドグラ少佐が入室するとすぐにドアを閉めて三か所の鍵をかける。

「軍人さんはもう少し優遇されていると思ったのですがねぇ……」

座り込んでいるもう一人の細身の男がため息を吐き出すとそう言う。

「いやいや、直属や子飼いならともかく、俺らは信用されていないからな。もっとも、まぁ信用されていない分、知らん顔できるのはいい事だと思ってるぜ。それよりもだ。トロッキーの方こそ大変なんじゃないか?」

トロッキーと呼ばれた細身の男は苦笑した。

「商人狩りですか?」

「ああ、トラッヒの野郎と親睦が深いところ以外の中堅以上の商人は狩られているって聞くぜ」

「ええ。でもうちはうまくやってますからね。うちの店の常連に赤シャツ団の幹部がいましてね。その方に鼻薬をちょろっと嗅がせているので……」

トロッキーは軽蔑するように口調でそう吐き捨てる。

本当なら相手にしたくない連中ではあるが、そうするしかないのだろう。

「ご苦労なことだな」

そう言葉を返すと、パンドグラ少佐とドアの所にいた男は開いている椅子に座った。

「で、報告とは何だ?」

パンドグラ少佐がそう聞くと、ナードはテーブルの上に分厚い封筒を出して中身を見せる。

それは写真と分厚い書類であった。

書類にはかなり事細かに数字が並び、写真には多くの死体が映し出されている。

その殺され方は様々だ。

頭を吹き飛ばされた者、手足を切り取られて苦悶の表情で絶命した者、舌を切り取られたのか血を滴らせて倒れている者、そのほとんどが普通の人なら目を背けてしまう様な残酷なものばかりである。

「酷いな……」

思わずといった感じで言葉が漏れる。

「投獄された商人達だ。ほとんどは強制労働だが、裕福な連中や反抗的なものたちは見せしめのために殺されている。そして、財産は全て国に没収されている」

沈黙が部屋を包む。

だが、それを破るかのようにドア側にいた男はため息を吐き出した。

「それでか……」

「何か知ってるのか、パーネマン」

パンドグラ少佐がそう聞くとパーネマンは頷いてテーブルにあったコップに水を入れてのどを潤した後、口を開いた。

「この前の会議で、海軍戦力のかなりの増強が決定した」

「しかし、そんな余裕はこの国にはないぞ」

そこまで言った後、ハッとしたパンドグラ少佐の視線がテーブルの写真に目がいった。

「そういう事か……」

「そう言う事だよ、パンドグラ」

パーネマンはそう言うとため息を吐き出す。

連盟の商人が持つ資産は莫大だ。

それらを手にすれば、海軍力の増加など造作もない事だろう。

「それにだ。もう一つ悪い知らせだ」

「なんだ今度は?」

「トラッヒの野郎、王国と共和国に喧嘩を吹っ掛ける気らしい」

パーネマンの言葉に、残りの三人が固まった。

余りにも考えられない事だからだ。

「いくら、王国は海軍再建中とはいえ、それでも手に余る相手だぞ。その上、共和国までとは……」

思わずそう声をあげるパンドグラ少佐。

戦力比は彼の知っている限りであれば、王国で1対3、共和国相手でも1対1.5程度であり、民間船の数こそ世界最大ではあるが、軍艦だけならそれほど強力とは言えない。

その上、練度は大きく劣っており、士気も高いとは言えないレベルだ。

つまり、どちらかの一国でもすべての点で劣っており、ましてやその二つの国と戦争など普通の感覚なら狂気の沙汰としか言えないだろう。

「事実だ。その為の海軍戦力の増加だよ」

「信じられん」

「そんな事になっているとは……」

ナードとトロッキーのそれぞれの口から呆れ返った、或いは驚愕した口調の言葉が漏れる。

「くそったれ。何を考えてやがるっ」

パンドグラ少佐が怒りの任せてテーブルを強く叩く。

その様子を見て意を決したのだろう。

トロッキーが表情を引き締めて言う。

「やはりやるしかないな」

その言葉にナードが眉を顰めて言う。

「暗殺か?」

「ああ」

「しかし、やりようがあるのか?警備はかなり厳しいと聞くぞ」

パンドグラ少佐が聞き返す。

そう聞き返す辺り、彼も一度は考えたのだろう。

その問いに、トロッキーはニタリと笑みを浮かべた。

「何、毒には毒を持って当たる。それだけだ」

「毒?」

「ああ。それもかなり強烈なのを……」

そこで気が付いたのだろう。

パンドグラ少佐が言う。

「もしかしてランセルバーグ家を使うのか?」

「正解だ」

「しかし、ランセルバーグ家はトラッヒの支援を行っているんだぞ。それに血の惨劇にも一枚かんでいるという話だ。そんなところが動くか?」

パンドグラ少佐がそう聞くとトロッキーは自信満々な口調で答える。

「動くさ。なんせ、今のランセルバーグの実権を握っているのはあの男だからな」

「あの男とは?」

「アントハトナ老の代理人であるムンダスト・リンクルベリーだよ。あの男、トラッヒを支持している振りをしているが本心は自分が取って代わってやろうと思っているはずだ。だから、それを少したきつけてやればいい」

侮蔑した口調でそういうトロッキー。

その言葉には恨みや怒りといった負の感情、憎悪が籠っていた。

その様子が気になったのだろう。

ナードが思わずといった感じで聞き返す。

「ふむ。そういう男ならうまくいきそうだが……。なぜそこまでわかる?」

情報部の関係者であるナードでさえもランセルバーグ家の壁は厚く高い。

その結果、手に入る情報は微々たるものだ。

なのにトロッキーはそれ以上の事を確実に知っている。

だからこそそう聞いてしまったのだろう。

その問いに、トロッキーは苦笑を漏らす。

しまったなという感じで……。

だが、話してもいいと思ったのだろう。

トロッキーは口を開いた。

「あいつは俺の父親だからな」

「父親?」

「ああ、正確に言うと、ランセルバーグ家に取り入る為に妊娠していた婚約者の母を捨てた外道だけどな」

その言葉に、誰もが黙り込む。

そんな中、パンドグラ少佐が口を開いた。

「あまり私怨に捕らわれるなよ」

その言葉には、友を心配するといった思いが籠っていた。

それに気が付いたのだろう。

トロッキーは困ったような顔をしつつも言い切る。

「わかっている。今は祖国の未来の為に動くつもりだ。それに相手も俺が息子だとは思っていないだろうしな。精々うまく使ってやるさ」

トロッキーの言葉に、パンドグラ少佐が言う。

「わかった。何か必要なことがあったら連絡してくれ。協力は惜しまない」

その言葉に残りの二人も頷いた。

「ああ。必要になったら声を掛ける。だが、まずは単身で動いてみるよ。どんな計画になりそうかは次回の時にでもまた話そう」

「わかった」


こうして連邦内部では、反トラッヒ派がトラッヒ暗殺計画を推し進め始めたのである。

全ては祖国の為にと決意を固めて……。

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