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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十四章 大戦への序曲

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それぞれの準備

音波探信儀(ソナー)に感あり。潜水艦と思われます」

その報告を受け、艦長はすぐに指示を出す。

「よし。機関停止。水中聴音機で確認急げ」

「了解しました」

テキパキとした動きで乗組員達が動く。

その様子からかなりの訓練を行ってきたのが垣間見える。

「間違いありません。潜水艦のようです」

「わかった。探信音を続けて二回打て」

「はっ。打ちます」

続けて二回打たれた後、暫く待つも反応がなかったのだろう。

ソナー担当から報告が入る。

「反応なし」

「わかった。以降、潜水艦を敵艦と認識する。各艦対潜戦闘用意ーっ!爆雷攻撃準備急げ」

艦長の命令が伝えられていく。

「対潜戦闘用意ーっ。爆雷攻撃準備急げーっ」

ソナー要員の報告から細かな敵潜水艦の位置が告げられ、その報告から艦長は艦を敵潜水艦の方向に移動させる。

艦が突き進む中、艦長は時計で時間を確認しつつ爆雷の準備を命じる。

「爆雷深度50。爆雷攻撃続けて三発っ」

その命令が伝えられたのだろう。

甲板にいた爆雷攻撃のセットを担当している水兵が慌てて爆雷の深度を設定していく。

そして準備できたのだろう。

左右の爆雷発射機担当の兵が旗を振る。

それを受け、副長が報告する。

「攻撃準備よし」

「わかった」

艦長は頷くと時計で再度時間を確認し、命じた。

「爆雷発射用意ーーーーっ」

命令を伝える副長がごくりとたまった唾を飲み込む。

「投下はじめっ」

艦長の命令を副長が復唱し、注意を足す。

「投下はじめーっ。間隔はきちんと開けてやれよっ」

その命令を受けて、艦後方に時間を空けて左右合わせて六発の爆雷が投下されていく。

そして、深度に立ったのだろう。

艦の後方に次々と水柱が立つ。

ドンっ。

ザバーツ。

それが六つ起こると今までの作業の流れを見ていた人物が感心したような声をあげた。

「ほほう。中々いい感じではないか。十分訓練されているな」

その人物とは、今回、対潜戦闘の訓練を見たいとやってきた『海賊メイソン』こと海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿であり、その横には今回の訓練の統括を任せられているミッキー・ハイハーン准将がその言葉に答える。

「はい。皆、王国の危機として真剣に訓練に励んでいましたから」

「そうか。やはり危機は、人々の覚悟を促すか……」

そうしみじみと発言した後、メイソン卿は確認するかのように言葉を発した。

「他の連中もこれくらいは出来る様になっているのか?」

「はい。引き渡された駆逐艦6隻すべてがこのレベルまでになっております」

そう答えたのは、二人の後ろで静かに立っている人物、フソウ連合から訓練教官として派遣された朝倉大義中佐だ。

元々は第一水雷戦隊の指揮官であり、指揮だけでなく指導能力も高かっため、今回、王国の水雷戦隊編成と駆逐艦引き渡し後の指導の為、王国に来ていた人物である。

メイソン卿は朝倉中佐の方に視線を向けると言葉を続けた。

「ふむ。フソウ連合から派遣された貴官が言うのだ。間違いはあるまい。それで対潜戦闘以外も……」

「はい。勿論です。砲撃戦、雷撃戦の方も十分指導しております。皆様の期待に十分応えれると思います」

その言葉にメイソン卿は機嫌よく頷くが、すぐに目を細めて悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

その笑みでミッキーは大体何を言うか想像できたのだろう。

ため息を漏らすと顔を顰めて頭を抱えたい衝動にかられた。

アッシュならば止めただろう。

だが、海賊メイスンの異名を持つ軍務大臣を諫める勇気はなかった。

「つまりだ。それはフソウ連合と同レベルとみていいということかね?」

その問いに、朝倉中佐は黙り込む。

それが答えだった。

恐らく、おべっかを言うことも出来たし、適当にお茶を濁すことも出来ただろう。

だが、朝倉中佐はそんな事はしなかった。

ただ、正直に言う事で両国の関係が悪化するのではないかという配慮で何も言わないという返答を選択したのだ。

その配慮と正直さにメイソン卿は、楽しげに笑った。

こういう馬鹿正直な人物は好意が持てるし信頼できる。

彼はそう思っていたから、思わず笑いだしたのである。

「いやいや、結構、結構。これは意地悪な質問でしたな。申し訳ない」

メイソン卿は笑いつつそう言うと言葉を続ける。

「貴官は信頼できる人物のようだ。これからも指導をよろしくお願いしたい」

その言葉に、緊張気味だった朝倉中佐の表情が和らぐ。

そして、敬礼して答える。

「はっ。出来る限りの事をして王国の為に尽くしたいと思います」

「ああ、期待している」

そう答えた後、メイソン卿は艦橋の窓から外を見て苦笑した。

「先は長いな……」

そんな独り言にミッキーは答える。

「ええ。その通りです。ですが、指導を受けて兵達の士気も高く、やる気を見せております。まだまだ伸びるのは間違いありません」

その言葉に、朝倉中佐も頷く。

二人を見た後、メイソン卿は、満足そうに頷いた。

「わかった。楽しみに待っているぞ」

「「はっ」」

その期待の言葉に、ミッキーと朝倉中佐は敬礼して返答したのであった。



着々と対潜水艦の装備と戦力を充実させ、実際に被害を抑えて戦果を上げつつある王国に比べれば共和国の体制はかなり遅れていた。

勿論、まったく進められていない訳ではない。

フソウ連合から最初に送られてきた後付けできるソナーなどの対潜探査装備や攻撃の爆雷装備、それに関与する技術者や指導員などはよくやっているといえるだろう。

今まで対潜戦用の装備は皆無だったのだ。

それを考えれば大きな進歩と言えるだろうが、、装備の絶対数が少ない上に、装備の性能も標準装備の物より性能としては程度が幾分低くなってしまっている。

その上、共和国海軍の協力も決して万全ではなかった。

今回の対潜戦闘に関する作業に協力的なのは、軍の中でもアリシアと強い繋がりのあるリープラン提督の子飼いの部隊のみだ。

反アリシア派の軍人達は非協力的で小馬鹿にしたような反応しか返さなかったし、アリシアの父と親しい者達の大半も様子見といった感じだろうか。

そういう流れだったため、現在の状況報告するリープラン提督にアリシアは言う。

「なぜ、提督は今回の件でここまで骨を折ってもらえるのか」と。

その問いに、リープラン提督は一瞬きょとんとした顔をしたものの、年相当の皺を寄せて笑った。

楽しくて仕方ない。

そんな感じだ。

そして笑って言う。

「理由が必要でしょうか?」

その言葉に、アリシアは苦笑して言い返す。

「ええ。聞いておきたいわ。他の連中を説得するときの参考にね」

その言葉に、リープラン提督は笑うのを止めた。

苦労されているようだな。

そう察したのである。

確かに、共和国は男女平等と言いつつ、今まで女性が政治の中心で動くことはなかった為、アリシアを軽視しがちであった。

ましてや、男性社会の軍の中ではその傾向はとても強かった。

実際、リープラン提督も、最初はいくら親友の娘とはいえ小娘の手伝いなどと思っていたのは事実だった。

だが、話してみて分かった。

彼女は間違いなく切れると。

そしてこれからの共和国の為には必要な人物であるとも。

だからこそ、全面的に協力しているのである。

「ふむ。そうですな」

まずそう前置きをしてリープラン提督は言葉を続けた。

「まず一つ目としては、潜水艦による被害が増えている以上、藁をもつかむ思いがあるといったところですか。それと二つ目は、フソウ連合という国が信頼できる強国であり、実際に彼の国から派遣された人々と接してますますそう思ったという事ですかな」

「それだけ?」

「いえいえ。それだけではありません」

そう言うとリープラン提督はニタリと笑った。

「今回の件で戦果を上げれば、間違いなく他の連中も関心を示すでしょうし、協力的になるでしょう。ですが、協力的になったとしても、実施して戦力化するには時間がかかります。その間に我らは戦果を重ねていく事が可能ですし、なによりこの事から我々の派閥は大きく勢力を広げるでしょう。軍師アランが軍内部を散々引っ掻き回してぐちゃぐちゃにしてくれましたからね。こういった事をきっかけにして一気に内部改革を進められますよ」

その言葉に、アリシアは納得したのだろう。

頷くと少し困ったような表情を浮かべた。

「でもまぁ、まずは戦果がないとね」

「そうですな。まずは戦果です」

二人は互いに顔を見て苦笑を浮かべる。

まずは一歩ずつやっていくしかないか。

それが二人が出した答えでもあった。

だが、一週間後、その動きは一気に加速する。

それは対潜訓練で外洋に出ていた装甲巡洋艦ル・エンハーナが、一隻の潜水艦と遭遇。

戦闘に入り、初戦果を上げたのである。

まだ訓練途中という事で、フソウ連合の指導官と乗組員が乗っていた事も大きかった。

まさかの遭遇に慌てふためく共和国の兵士や指揮官を一喝し、指導したのである。

その指導とアドバイスを受け、装甲巡洋艦ル・エンハーナは戦闘に入ると、三時間の死闘の末、撃沈せしめたのであった。

爆雷のみとは比較にならない大きな爆発と水柱。

海面に漂う油と潜水艦のものと思われる残骸の一部。

その結果に、歓喜する乗組員達。

自分達の行っている訓練が無駄ではなく、とてつもなく重要なことだと再認識するのに十分な出来事であった。

この報告を受けて、様子見だった連中が動くと、乗り遅れるなと反アリシア派も重い腰を上げる。

また、議会もアリシアが提出していた既存の艦船に取りつける対潜戦闘装備の追加発注と共に駆潜艇の導入も進められ、一気に共和国軍の対潜能力は向上する流れになり、それと同時に軍の内部改革も進むこととなったのであった。



「では、今後の軍の方針はそれでよろしいかな?」

トラッヒ総統は満足そうに最後をそう締めくくる。

その発言に、その会議に参加した者のほとんどは満足げに頷いた。

一人の人物を除いて。

その人物は、眉を顰め、困ったような表情を何とか誤魔化そうとしていた。

もっとも、その人物、潜水艦隊司令のカール・ガイザー・ガルディオラ提督を気にかけている人物は誰もいない。

皆、これからの連盟の勝利を疑っていない。

ただ、今決められた方針が全てうまくいくと信じ切っている様子だった。

特に洋上艦隊をまとめ上げているマクダ・ヤン・モーラ提督の喜びようは一際目立っている。

それはそうだろう。

今後の方針が決まり、彼が率いる洋上艦隊が表舞台に出る機会が与えられたからだ。

連盟軍の今後の方針。

それは大きく分けて二つになる。

一つは、海軍戦力の増強。

もう一つは、今後の戦いにおける各戦力の分担である。

まず、戦力の増強の方だが、海上、海中関係なく一気に増加が決まった。

もちろん、増加には予算も人材もいる。

その為、予算は押収した商人達の資産を当て、人材は今まで商業に従事してきた人間たちを割り当てる事となった。

そしてもう一つの各戦力の分担だが、海中戦力の潜水艦は、航路での商船狩りだけでなく、敵国の艦隊に対しての攻撃も追加された。

これは、先に潜水艦による攻撃で敵艦隊に甚大な被害を与えて、それを海上戦力で叩き潰すという事になったからである。

この二つの方針からはっきりとわかることは、王国や共和国と戦う意思ありという事だ。

そして、そう判断した最大の理由は、潜水艦隊により戦果報告にあった。

増える被害報告を誤魔化す為、戦果も徐々に増やすしかなかったのである。

つまり、戦果は大きく水増しされ、被害は最低限に報告された結果、王国、共和国、恐れる必要なしという流れが出来、それを受けトラッヒ総統は上機嫌でこの方針を決定したのである。

今更報告が水増しされていますとか言えるはずもなく、その流れをただ黙って受け入れ、ガルディオラ提督は祖国が進む道が破滅に進む道だとしても、もう遅いと痛感するしかなかったのであった。



こうして、連盟は大きく舵を切る。

王国、共和国との戦いに備えて。

そして、宣戦を布告し、戦う為の準備を進めていたが、その準備が整う前に事態は動く。

それは、共和国の海岸に巨大な黒い鉄の塊が流れ着いたことから始まるのである。

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[一言] 潜水艦の残骸か…? これで共和国の技術ブレイクスルーかな?
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