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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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装甲巡洋艦ハーレン・リベンジルド  その3

この扉の先は甲板であり、出て数メートル進めばすぐ海だ。

そういえば実に簡単そうに聞こえるのだが、実際はそううまくいくとは思えない。

このドアの位置は、艦橋部分から丸見えだし、なにより敵は艦橋と機関部を押さえていると想像できるからだ。

頭と足さえ押さえれば、あとはじわじわ潰していけばいい。

戦った敵の練度から、それが出来る実力を感じていたからこそ、余計にそう思う。

ならば……。

川見大佐は扉に近づくとわずかに開けて、手鏡でぐるりと周りの様子を確認する。

完全に把握できたわけではないが、艦橋部分に人影があった。

今の状況から味方とは考えにくい。

つまり敵だ。

ならどうするか。

扉の材質は、防水と砲撃戦の為にかなり丈夫に出来ている。

それを盾にして銃撃戦に持ち込むか……。

だが、銃の予備のマガジンはあと3つ。

それを考えれば銃撃戦など愚の骨頂。

その上、まだ下層では争いの音がしているからいいものの、それが途絶えた時は挟み撃ちに会う可能性が間違いなく倍増する。

「少し離れて後方警戒しつつ待機していてください」

「ああ、わかった」

「そして、私が扉から飛び出したら、十数えた後、わき目も降らず甲板に出て、海に飛び込んでください」

そう言われ、ビルスキーア長官は聞き返しそうな表情になる。

恐らく言いたいのだ。

「君はどうするのか?」と。

だから、言われる前に川見大佐は言う。

「私は敵の目を引き付け、少しでも時間を稼ぎます。その間に長官は少しでもこの艦から遠くに離れてください。いいですね?」

その言葉は、拒否は許さないという強い口調であった。

それゆえにビルスキーア長官は言いたかった言葉を飲み込み頷く。

「わかった。君の武運を祈っているぞ」

そう言って頷くのみだ。

その様子には、腹をくくったという意思が感じられ、川見大佐は口角を少し上げる。

だが、すぐに無表情に戻ると、視線をドアの方に向けるとしゃがみこんだ。

そして、少し開いた扉の隙間から符を数枚外に出す。

符は風に乗って外に吸い込まれるように散らばって流れ、黒い人影となる。

その様子は、隠れていた者が飛び出したかのようだ。

その符の動きに合わせて圧縮された空気を震わせる銃の発射音が響く。

三、四人といったところか。

そう判断しつつ、頭にぴりぴりと痛みが走る。

符に弾が当たり、符が効果を失った合図だ。

そして、急に現れた人影に相手が気を奪われている間に、最低限に開いた扉からするりと甲板に出るとすぐ近くの艦上物の陰に入った。

恐らく誰も気が付いていないのだろう。

艦橋からは銃撃はなく、ただ、最後に残った動く人影に銃撃は集中しているようだった。

そして、銃撃する事で相手の位置がわかる。

川見大佐は、次々と狙い定めて撃つ。

物が崩れ落ちる音が一つ響き、その銃撃で別に相手がいると気が付いたのだろう。

反撃が返ってくる。

近くに弾が当たり、跳ねる。

キンキンっ。

金属の音が響く中、陰から川見大佐は駆け出しつつ銃を放つ。

少しでも艦内へ続く扉から離れる為に。

敵は躍起になって撃ってきたが、相手のスキをうまくつき、機敏に動く川見大佐には中々当たらない。

だが、川見大佐も最初の一撃以降、全然当たらない。

それは走りつつ撃っている事が大きい。

たが、それは無駄弾ではない。

数発は、相手の近くで跳ねて、相手に死の危険性を十分に感じさせ、気を引き付ける事には成功していたのだから。

だから、いきなり艦内からの扉が開き、ビルスキーア長官が飛び出した時にとっさに反応できなかった。

また、そっちを狙おうとしたものの、すぐに川見大佐の銃撃で牽制される。

「くっ」

艦橋の確保と艦内からの逃走者の対応を任せられた班のリーダーの口から音が漏れる。

そして、数秒後には大きな水音が辺りに響いた。

ビルスキーア長官が海に飛び込んだのだ。

「くそっ、不味いぞ」

動揺が言葉に出る。

それはリーダーだけではない。

その班に回されたもう一人の襲撃者も同じだった。

もし逃がしたとなれば……。

すーっと血の気が引く。

死を恐れてはいない。

しかし、殺されるのは誰でも怖いのだ。

矛盾しているようだが、この二つは大きく違っているのだから。

そして、気がビルスキーア長官に向き、動揺が生まれた隙を川見大佐は見逃さなかった。

狙いを定めて銃を放つ。

二人は呆気ないほど簡単に頭に穴をあけて崩れ落ちた。

そして素早く遮蔽物の陰に入るとマガジンを交換する。

これで予備のマガジンは二つ。

そして、静まり返る甲板で遮蔽物の影に身を隠しつつ艦橋に向かって川見大佐は進んでいく。

その動きには、油断はない。

艦橋に辿り着き、三人がすでに息絶えているのを確認すると甲板を見下ろす。

どうやら敵はもういないようだ。

だが、川見大佐がそう思った時だった。

静まり返った中、単調な拍手の音が響く。

「いやはや、見事、見事だ。敵ながら素晴らしい。部下にしたいほどに……」

そう言って艦尾の建物の陰から姿を現した人物がいる。

ヤルザナ・ランドマカ・ゲブランドだ。

彼は気配を消しつつ、全てを見ていた。

ここで川見大佐が潰されるわけがないと確信して。

だが、それは裏を返せば部下を失い被害が大きくなるという事になるのだが、彼にとって部下は気に掛ける存在ではない。

自分があまりに強すぎる故にそう言う思考に陥っていた。

それよりも彼は欲していた。

強者との戦いを。

自分の力がどの程度なのかを知りたがっているのだ。

どこまでの高みかを……。

その尺度を計る相手として川見大佐は選ばれた。

だが、それは川見大佐には関係ない。

彼は自分の強さを計るつもりはない。

彼はあくまで任務を成功させるために、強さを求めただけなのだ。

どの程度強かろうと任務を達成させればよい。

そして、目の前に任務の障害物がある。

その両者の思考の差は大きかった。

ヤルザナの言葉が終わる前に川見大佐は銃を放つ。

普段のヤルザナならばそれで怒り心頭となるだろう。

しかし、彼は上機嫌だった。

銃撃をかわし笑う。

実に楽し気に。

それは邪魔された怒りよりも、獲物の生きの良さ、そしてこれから始まる殺し合いの楽しさが上回っていたからだ。

「いいさ。少しぐらいの事には目をつぶってやる」

そう言うと、ヤルザナはスイッチを入れる。

身体の中に張り巡らされた魔術回路を……。

身体の表面に幾何学模様と複雑そうな文字が浮かび上がり、ぼんやりと白い光を放つ。

それは暗闇の中ではより目立つ証になる。

さっきよりも正確な川見大佐の射撃だが、それを難なくかわして艦橋に近づいていくヤルザナ。

そこには余裕が感じられた。

どうやら魔術で肉体を強化しているのか。

以前三島特務大尉から聞いていた事を思い出す。

そう判断すると川見大佐は相手の動きを予想して銃を放つ。

しかし、距離が離れている為か、ヤルザナはそれを次々交わしていく。

「俺の身体は、魔術師共にすっかりいじくられていてな。こんなことも出来る」

そう言うとヤルザナは手刀を振るった。

響く風切り音。

身の危険を感じた川見大佐がしゃがむと、彼が立っていたあたりの位置の遮蔽物にガリッという音と共にまるで切りつけたような傷が深く入った。

真空刃といったところだろうか。

とんでもないやつだな。

川見大佐の背中にひやりと冷たい汗が流れる。

身体能力を上げた上に、真空刃を放つ手刀。

特に真空刃は見えない故に最低限の動きでよけようがない。

厄介だぞ、これは……。

それに攻撃魔術についてあまり知らないのも大きいだろう。

フソウ連合では、攻撃魔術はほとんど廃れてしまっており、僅かな知識としか残っていないのだ。

だから、どうしても正確な情報が足りていない。

うまくいくかどうか……。

だが、三島特務大尉は言っていた。

魔術は万能ではないと。

そう信じて動くしかない。

ならば、やる事は一つ。

自分の銃をベルトにさすと足元に転がる敵の銃を掴み撃つ。

愛用のものと違い勝手は違うし、照準は甘いが、銃は銃だ。

人を殺す道具であり、人の持つ暴力を増加させる装置の一つであることに変わりはない。

すでに自前の銃は、セットしている分を含めてもマガジンは二つ分を切っている。

ならば、仕方ない。

こうして、川見大佐とヤルザナとの死闘が始まったのである。

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