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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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装甲巡洋艦ハーレン・リベンジルド  その2

装甲巡洋艦ハーレン・リベンジルドに乗り込んできた襲撃者達は、全員で二十三名。

まず三名が制圧した艦橋に残り、残りが五名ずつのチームとなり動く。

第一班は、機関室を襲撃制圧に動き、残りの三班がじわじわと各部屋を制圧していく。

彼らの動きは静かで無駄がなく、よく訓練されていたが、それでも無音でという訳にはいかなかった。

彼らと違い、襲われる側は、そんな事は気にしちゃいないのだから。

だからどうしても争いの音が漏れ、眠りに入っていた者も自分達が襲撃されているという現実を認識し、抗おうとしてくるのは当たり前であった。

抵抗はだんだんと強くなっていったが、人を殺す術において、普通の水兵と襲撃者では雲泥の差があった。

それに不意を突かれたという事もある。

それ故に、次々と兵達は殺されていく。

しかし、襲撃者も無傷ではない。

襲撃に気が付いた者達が反撃を開始した。

兵達も必死なのだ。

その結果、艦内の制圧に動いた二十名の内、四名が死亡、一名が軽傷となる。

なお、重傷者がいないのは理由がある。

彼らにとって使えない者は死んでいるのと変わらないからだ。

足手まといはいらないし、彼らから情報が漏れる可能性がある。

その為、重傷者は問答無用で味方に殺される。

もっとも、彼らにとってそれは当たり前であり、そんな傷を負った自分が悪いという感覚でしたかなかったのである。

それ故に、彼らは殺人マシーンとして、艦内を傍若無人に動き回り、敵である水兵を、そして動けなくなった味方さえも血の海に沈めていき、十五分もしないうちに機関室を含め艦内の実に七割が制圧された。

そして遂に、艦内制圧の内の一つの班の四名が、客室に辿り着く。

リーダーが部屋の中の音を伺う。

部屋の中では物音一つしていない。

だが、それでも確認すべきだと判断し、後ろに続く部下に指で合図を送ると残りの三人が素早く配置についた。

一人が周りを見て頷くと、後ろに続く者達も頷く。

そしてドアが大きく開かれ、中に向けて消音機付きの銃が火を噴く。

パスパスパスっ。

いくつもの圧縮した空気音が響き、一人が部屋に突入した。

しかし、部屋は誰もいなかった。

「いません……」

「何?」

リーダーが確認の為に部屋に入るが、確かにもぬけの殻であった。

「くっ。逃げられたかっ」

悔しそうに呟くものの、逃げようにも順に部屋を制圧していってるのだ。

逃げ場などないと判断し、次の部屋に進もうと思った時だった。

パスパスパスという空気を圧縮した音と共にリーダーともう一人は倒れ込む。

残りの二人も倒れる音に驚き、部屋の入口に立った瞬間、いくつかの圧縮した空気の音と共に倒れ込んだ。

全員が頭から血を流し、即死である。

「まずは四人か……」

誰もいないはずの部屋から声が漏れる。

いや、いないように見えるだけだ。

じわじわと壁の一部が透けていき、そこには二人の男の姿があった。

川見大佐とビルスキーア長官である。

川見大佐の手には、小型の消音機付きの拳銃が握られており、先ほどの音の正体がこれであった。

「すごいな……」

思わず声が出たという感じでビルスキーア長官は呟く。

その言葉を受け、川見大佐は、足元に貼り付けた符に視線を向けた。

符は役割を終えて、一瞬の間に紫の炎で焼き消える。

「幻覚と防御の符です。短時間の間ですが、効果は抜群ですよ」

その言葉に、ビルスキーア長官は口を開く。

「魔術というのはすごいものだな」

「ええ。誰もが出来る訳ではありませんし、限度はありますが……」

そう言った後苦笑して言葉を続ける。

「自分の部下が……」

そう言いかけたものの、そこで言葉を止めて言い直す。

「自分の大切なパートナーが私の為に用意してくれたものですからね」

その言葉には、ただの自慢という感情以上のものが含まれていた。

部下と言いかけて、パートナーと言い換えたところからもそれが伺える。

ある意味、惚気に近いのかもしれない。

それでわかってしまった。

あの女性か……。

なるほどと……。

何となく理解し少し困ったような顔をしたビルスキーア長官ではあったが、すぐに思考を切り替えた。

今は、一刻を争う時だ。

「それでどうするかね?」

「この艦から脱出します」

「しかしだ。味方がまだ残っているのかもしれんぞ」

実際、まだ争っている音がしているのだ。

間違いなく、味方はまだいるだろう。

だが、川見大佐は首を横に振る。

「艦が動いていません。つまり、機関部は抑えられています。手際よくここまで侵入してきた事からも内通者がいるのでしょう。それに、連中の動きを見るに、こういった仕事をメインにする連中です。ただの水兵が何とかなる相手ではありません」

「しかしだ。部下を見捨てる訳にはいかん。それに、周りは海だぞ。極秘任務である以上、誰も味方は来ないのではないか?」

その問いに答える様に、川見大佐は自分の荷物の中の一つ、黒の小型のアタッシュケースをビルスキーア長官に手渡す。

「これは浮き輪代わりになる緊急事態用のバックです。中には小型の救難発信機もセットされており、このスイッチを入れると救難信号が発信されます。この海域は、フソウ連合が統括する島から哨戒機が日に数回哨戒任務で飛行する航路に近い。ですから救難信号をキャッチして動いてくれるでしょう」

その説明に、ビルスキーア長官はなぜこの海域を進むように川見大佐がしつこく言ってきたか理解した。

先の事を考えていたという事に。

そしてそんな彼が味方に関して何も言わないという事は、そう言う事なのだろう。

そう理解した。

だから、生き残るためには彼に従うしかない。

今ここで死ぬわけにはいかないのだ。

そう決心し、そして聞き返す。

「わかった。君の言う通りにしょう。しかしだ。君はどうするのかね?」

「私の事より、まずは自分の事を。すぐに甲板に向かいます。必要なものを準備してください」

そう言われ、ビルスキーア長官は自分の持っている荷物の中からごついバッグを一つ取り出すと、手錠で自分の手首とバッグの持ち手を繋ぐ。

恐らく今回の交渉に関する重要書類なのだろう。

失わないように手錠で繋げたのだ。

それを察した川見大佐は何も言わず外を警戒する。

「いいぞ。準備できた」

ビルスキーア長官は手首と手錠で繋げたバックと川見大佐から渡されたアタッシュケースのみを持ちそう言う。

「では参りましょうか」

川見大佐は短くそう言うと警戒しつつ廊下に出る。

まだ争いの音が響くという事は、戦っているという事だ。

それを聞き、ビルスキーア長官は申し訳なさそうな表情になるも、何も言わず川見大佐の後ろに続いている。

手早く自分の銃を脇に挟んで襲撃者の銃を確認し、それをビルスキーア長官に投げてよこす。

要は護身用にという事だろう。

もっとも、長官が戦う時点で追い詰められているという事だから、そうならないようにしなければならないが、念には念をという事なのだろう。

「こっちに行きます」

艦の内部はすでに把握済みであり、敵の来た方向からどういう感じで動いているのか予想しているのだろう。

川見大佐は迷うことなく先を進んでいく。

そしてある程度進んで足を止めた。

通路の曲がり角だ。

「ここで待っていてください」

短くそう囁くように言うと、川見大佐は音もさせずに曲がり角に進むと手鏡でちらりと過度の向こうの状況を把握する。

なるほど三名か。

ならば……。

さっと飛び出すと銃を連射する。

圧縮した空気の音が響き、三つ物が崩れ落ちる音がする。

そして、死亡を確認しょうと川見大佐が一歩踏み出した時だった。

すぐ側のドアが開かれ、一人の襲撃者が飛び出して川見大佐が銃を構える前にナイフで切り付けてくる。

だが、その攻撃を川見大佐は右手ではじき返す。

キンッ。

金属同士のぶつかった音が響き、川見大佐の上着の右手の部分が切り裂かれた。

そしてその下にはなにやら肌に張り付くほど薄い黒い手甲らしきものがある。

それがナイフをはじき返したのだ。

渾身の一撃がはじき返され、襲撃者は一瞬たじろいだが、反撃するために態勢を整えようとして出来なかった。

まるで相手の懐に入り込むかのようにすーっと川見大佐が動き、相手の首に手をかけて捻る。

呆気ないほど簡単にボキリという音が響き、襲撃者の首があらぬ方向を向いた。

そして崩れ落ちる。

川見大佐の表情は変わらない。

ただ淡々と作業をした。

そんな感じだ。

他に襲撃者がいないか確認すると川見大佐はビルスキーア長官に来るように合図を送る。

足元に転がる四つの肉片と化した襲撃者。

そして息を切らさず、ただ平然と自分の銃の確認をする川見大佐。

それぞれを交互に見た後、ビルスキーア長官はふーと息を吐き出した。

川見大佐はかなりのやり手だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかったのだ。

そして呟く。

「君が味方でよかったよ」

だが、その言葉に、川見大佐は無表情で答える。

「それは全て終わってからまた言ってください。ここからが問題ですから」

そう言ってちらりを進む方向を見る。

そこには甲板に出るドアがあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 川見大佐つっよ…魔術があるとはいえサプ付き拳銃と近接格闘だけで5人も殺るとは思わなんだ
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