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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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装甲巡洋艦ハーレン・リベンジルド  その1

三島大尉と島風が帝国に向かって一週間が経った。

その間、公国では何もなかったわけではない。

国の譲渡作業と、その際の反対勢力に対しての抑えや粛清の為の準備。

書類の作成などやる事は山済みであった。

その上、ビルスキーア・タラーソヴィッチ・フョードル上級大将への襲撃が一度行われたが、それはほぼ未遂で終わった。

事前に察知した川見大佐の意見を取り入れ、襲撃直前にアジトと思しき場所に治安部隊が踏み込み今までの襲撃事件の首謀者と思しき人物と構成のほとんどが捕まったのである。

その報告を聞き、関係者の誰もがほっと胸をなでおろすのと同時にフソウ連合からきている川見大佐の実力を再認識させられた。

その為、最初に比べ、川見大佐への表立った不満は沈黙したが、それでも面白くないと思うものは多い。

ただ、それが表面は出なくなっただけと川見大佐はわかってはいたが、どう変わろうと別に彼自身は気にしなかった。

彼にしてみれば、公国にもビルスキーア長官にも忠誠心を捧げる気はなかったし、捧げるつもりもないからだ。

彼の忠誠心は、祖国であるフソウ連合、それにきちんと評価してくれる上司へと向けられていたのだから。

もっとも、わざわざそんな事を言って回る必要はない為、ただ黙って黙々と仕事をこなしていく。

その結果、ビルスキーア長官はそんな川見大佐を高く評価し、他国の軍人であるにも拘らず信頼するようになっていたのである。

そして、一週間後の夕方、一隻の装甲巡洋艦が主港から出港した。

その艦艇、装甲巡洋艦の名は、ハーレン・リベンジルド。

目的は、外洋の警戒、哨戒の為にである。

元々、この艦は一週間、外洋を回って警戒し、二日の補給、休憩を済ませ、また警戒に出るというルーチンワークをこなしており、その為に出港したと誰もが思っていた。

だが、その日程をきちんと確認したらおかしなことに気が付くだろう。

補給、休暇の期間が四日間と長い事に。

そして、積みこんだ物資の少なさと普段よりも乗り込む人員の多さに。

その中には、高官と思しき人物も交じっていた。

だが、それを気にする者はいなかった。

唯一、計画を知り、その目的を知っている者たち以外は……。



「どこに行っていたのかね?」

装甲巡洋艦ハーレン・リベンジルドの唯一の客室に戻ってきた川見大佐にビルスキーア長官が気軽に声を掛ける。

「いえ。艦内の確認をしてきただけです」

何かあった場合、場所の把握が出来ていなければ何もできない。

それ故に、新しい場所に行くと川見大佐は、現場の把握の為にまず場所の確認を行うのである。

「相変わらずだな。しかし、首謀者は捕まり、構成員も捕縛された。襲撃される恐れはかなり低いのではないかな」

「確かにその通りです」

「なら……」

そう言いかけるビルスキーア長官に対して、川見大佐は直ぐに言う。

「ですが、あれで全員とは限りません。用心しすぎる事はないかと思います」

「しかしだ。もしいたとしても何が出来るかね。囮を用意した上に、我々は海の上だ。手は出せんさ」

恐らく、今まで散々苦労してきたことが終わる。

それで気が逸っているのか、或いは肩の荷が下りる事で気が緩んだのか。

そんなところだろうと。

それに、絶対に襲撃があるとは決まっていない。

確かに彼の言う通りだ。

だが……。

それでも……。

だから、返す言葉はこれしかない。

「これが私の任務ですので」

その言葉にビルスキーア長官は苦笑した。

だが、それと同時に、この男はやはり信頼できると再認識したのであった。

そして、夕食が終わり川見大佐は入り口近くの椅子に腰かけると腕を組んで目をつぶる。

別に寝ている訳ではない。

音に神経を集中させているのだ。

そんな川見大佐を見て苦笑を浮かべたものの、これで終わるという安心感か、溜まった疲労が自己主張するかのように睡魔となり、ビルスキーア長官は大きく欠伸をした。

「お休みになってください」

川見大佐の言葉に、ビルスキーア長官は聞き返す。

「君はどうするね?」

客室は一つしかなく、一応ベッドは二つ用意されてはいる。

「自分はこちらで十分です」

一応、別室にも警備のものが数名はいるから休みたまえと言いそうになったものの、ビルスキーア長官はぐっとこらえた。

彼は職務を全うしょうとしているのだ。

邪魔をしてはいかんなと。

「では、私は少し休ませてもらおう」

そういうとビルスキーア長官は軍服のままベッドに仮眠を取る為に入り、そしてすぐに眠りについたのであった。



「見つけました。あれですね」

その言葉と同時に見張りの一人が指をさす。

その指先には、航行する船の灯りがあった。

その報告を受け、ヤルザナ・ランドマカ・ゲブランドは目を細めてニタリと笑った。

「予定通りじゃねぇか。で、速度はどうだ?」

「ゆっくりと減速していきます」

「そうか、では近づくぞ」

発動機付きの漁船らしき船が三隻、島影からゆっくりと姿を現す。

ただ、普通の漁船と大きく違っているのは、武装されているところだろう。

船首と船尾に銃座らしきものがある。

そして、ちらちらと探照灯の光を使って合図を送った。

それを受け、ハーレン・リベンジルドは大きく減速。

そして動きを止めると甲板からいくつもの縄梯子が降ろされる。

「よし。突入隊は艦内に突入。第一班は、機関室占拠、第二班、第三班は各室の制圧。第四班は艦橋を掌握しろ。あと、恐らくこんなところをうろうろする連中はいないと思うが、船に残った者は、周りを警戒しろ」

「はっ。了解しました」

「で、ヤルザナ様は?」

その問いに、ヤルザナは楽し気にニタリと笑みを漏らす。

「決まってる。各室制圧組だ」

そう言った後、視線を武装した男達に向けて言う。

「いいかっ。恐らくお客は客室にいると思われる。狩り出せ。そして俺の前に追い立てろ」

「それで、内通者はどうされますか?」

その問いに、ヤルザナは少し考える素振りをする。

内通者か……。

確か使えるやつだとは言っていたな。

だが、そいつに通じていた首謀者はもういない。

ほんの数日前に首謀者とその構成員のほとんどは捕縛されてしまったからだ。

もっとも、そうなるように仕向けたのは彼であった。

ヤルザナにとっては、彼らは別に上司でも同士でもない。

ただ、老師から命じられたから手伝っただけなのだ。

それに、自分の目的の為なら、何をしてもかまわないという自己中心主義者である。

だから、変に義理立てする必要はまったくない。

「そうよな。せっかく情報を漏らしてくれた上に、お膳立てもしてくれたんだ」

にちゃり。

そんな擬音が似合いそうな笑みを浮かべると言い切った。

「苦しまないように殺してやれや」

「「了解しました」」

その返事に満足そうに頷くとヤルザナは命令を下す。

「よしっ。いけっ」

その合図とともに縄梯子を登って次々と男達が艦内に向かっていく。

そしてまず殺されたのは、縄梯子を降ろした内通している者達だった。

そして甲板にいた者、艦橋にいた者達は音もなく次々と殺されていく。

それはまさかという思いが強かった。

「み、味方だぞ、俺らは……」

艦橋で内通の指示をしていたリベッハ・ナカミ中佐は、乗り込んできた男達に次々と殺されていく部下達を見て思わず声をあげた。

そんな言葉に、男達の間からヤルザナが姿を現す。

「味方?聞いてないなぁ……」

「そんな、馬鹿な……、私は……」

だが、口から出た言葉はそこまでだった。

ヤルザナの手刀によって首を切り落とされたからだ。

ごろん。

そんな音が響き、血しぶきが噴水の様に飛び散る。

辺りが血によって紅く染まっていく。

そして、人だったものが、肉の塊へと化した。

その様をゾクゾクした喜びの表情で見ていたヤルザナだったが、すぐに艦橋を後にする。

まだ、楽しい宴は始まったばかりである。

「さて、皆、狩りを楽しめ。久々の祭りだ」

こうして、ハーレン・リベンジルド内での大虐殺が始まった。


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[一言] 安定のフラグ建築。 首謀者とその他多数が消えて安心したときこそが最も危険だってそれ一
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