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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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和解

一気に周りの雰囲気が緊張したものになった。

にらみ合う三島特務大尉とミランダ。

そしてそれを面白そうに見ているアデリナ。

そう言う構図だ。

そして三人以外のものにとっては、なぜこんなになっているのかわからないだろう。

その場の雰囲気に飲まれ、只々唖然としているばかりだ。

一発触発。

魔力を持ち、力のある二人がぶつかったとしたら、周りはただでは済まないだろう。

だが、その場の主導権を握っているのは、三人の中で最も脆弱な存在であるはずのアデリナだった。

キンキンキン。

フォークで軽く食器を叩く。

静まり返った中でその音が響き、誰もがアデリナに視線が動く。

それは二人も同じだ。

ちらちらと相手を見つつではあるが……。

「ふふっ。二人がお知り合いとは助かりました。これで話が進みそうですわ」

しれっとそう言うとニコリと微笑みつつ言葉を続ける。

「ですが、ここで争うなら、私が許しません」

最後の語尾には強い力が込められていた。

それは魔力でも力でもない。

皇帝として上に立つ人間の覚悟であり、威厳であった。

二人は、その言葉と彼女の覇気に圧される。

「わかりました。失礼しました、陛下」

まず矛先を引いたのは三島特務大尉だった。

フソウ連合が帝国よりも立場的に有利とはいえ、こちらは御願いをしている身なのだ。

その上、これが原因で国同士のいざこざになった場合、とんでもないことになりかねない。

そう判断したのである。

そしてそれに合わせるかのようにミランダも気を緩めた。

彼女にとって恨まれることは仕方ないとはいえ、出来れば話し合いで解決したかった。

争いは、新しい争いを生む。

そう最近思っていたためである。

こうして、一発即発だった雰囲気は、やっと落ち着いたのであった。

もっとも、いつ爆発してもおかしくないという危うさを含みつつ……。



「二人がお知り合いだったなんて、よかったですわ」

食事が終わり、食後の紅茶を楽しみつつアデリナは微笑みつつ言う。

その微笑みと言葉に含まれる嫌味に内心むかつきつつも、表面は微笑んで返す三島特務大尉。

「ええ。以前、大変お世話になりまして……」

その言葉に、ミランダは苦笑した。

そして頭を下げる。

「済まなかった。あの時は、本当にすまなかった。謝って済むことではないが、謝罪させてほしい」

まさかの謝罪に三島特務大尉とアデリナは目を見張る。

あの女ならば、こんな態度を取るはずもない。

そう思っていたからだ。

実際、どんな反撃が来るかと身構えていた三島特務大尉は唖然としてしまっている。

そんな二人の反応に、ミランダはクスクス笑った。

「それどころか、あの出来事に対して、あなた方に対して感謝さえしているのですよ」

予想外の言葉が続き、三島特務大尉は思わず聞き返す。

「貴方は私達を恨んでないの?」

その問いに、ミランダは楽し気に微笑み続ける。

そこには何かを悟ったかのような感が滲み出ていた。

「怨んでいないと言えば嘘になるけど、それ以上に感謝したいの。だって……」

そういうとミランダは隣の席で見守る船長を、愛しい夫に視線を向ける。

船長は黙ってミランダを見守っている。

暖かな視線を向けて。

その視線を受けて、ミランダの表情が益々幸せそうに満たされていく。

「だって、また彼と会えたんだもの」

自然と互いの手を取る二人。

そこにはどういう経過で知り合ったのかは知らなくても強い絆が感じられた。

それでも三島特務大尉は聞き返す。

「死ぬような目にあったとしても?」

その問いに、アデリナがぎょっとした顔になった。

三島特務大尉達がミランダを死直前まで追い詰めたという事に……。

あの魔力の暴君であり、破滅の魔女と恐れられた人物を、死に追い詰めただと。

信じられなかったが、会話からはそう判断するしかなかった。

しかし、すぐに合点がいった。

あの艦の魂を人型にするといった魔術があるならば或いはと……。

あの魔術をどうしても手に入れたい。

そういう欲望がアデリナを突き動かす。

しかし、それをぐっと抑え込む。

まだ早いと……。

そんな思考になっていたアデリナは我に返る。

はっきりと言い切るミランダの言葉によって。

「ええ。死ぬような目にあったとしても。だって、私は生まれ変われたもの。ミランダという女性に」

そう言い切った後、ミランダは再び視線を船長に向ける。

「愛しい彼の妻に……」

それは彼女にとって、自分の立場をはっきりさせる言葉であった。

破滅の魔女は死に、ここにいるのは一人の男の妻であるミランダという女性だと。

それは生まれ変わったという宣言であった。

しかし、ミランダと船長以外にとっては、それは完全に惚気だった。

多分、その場にいた誰もがそう思っただろう。

静まり返る中、笑い声が響く。

それは三島特務大尉だった。

そして出た言葉はただ一言。

「おめでとう!」

今まで思っていた感情が、恨みが、憎しみが、全て吹き飛んでいた。

そして最初に出た言葉は祝福の言葉。

確かにもう完全にわだかまりがないという訳ではない。

だが、今の会話でどうでも良くなった。

何故か。

ミランダの話の中で感じられる愛と信じあう心を感じたからだ。

それはダーリアの思いとそう変わらない。

だからこそ、わかったのだ。

彼女は、ミランダという女性は信じられると。

もし、ここに川見大佐が居たら言うかもしれない。

『甘い』と。

だが、それでも三島特務大尉は言うだろう。

それでも彼女を信じてみたいと。

だから、そう言葉を告げたのだ。

「ありがとう」

ミランダはただそう返す。

思いを込めて。

こうして最初と最後ではまるっきり雰囲気が変わってしまった夕食会は幕を下ろす。

誰が最初の緊張してギスギスしていた雰囲気が、こんな友好的なものに変ると予想できただろうか。

誰も想像しなかっただろう。

だが、しかし本番はこれからだ。

まだ本筋には至っていない。

そして、この後、今後の事での話し合いが始まる。

それはまだまだ困難な課題が残されている事を示していた。



「それでは亡命先として共和国が受け入れ対応してくれるのは間違いないのですね?」

ダーリアが涙目でそう言うと、そんな彼女を労わるような視線で見つつミランダは頷く。

「はい。アリシア様からも連絡をいただいております。その為、我々は当面、こちらに待機となります」

「これで最後の問題である亡命先も、経路も確保できた。となると……」

三島特務大尉がそう呟くとミランダが言葉を続ける。

「どう本人を説得するかだが……」

誰もが黙り込む。

そして、アデリナが仕方ないといった感じで言う。

「一芝居打つしかあるまい」

「しかし、それでもダメな時は……」

思わず聞き返す三島特務大尉に、アデリナはカラカラと笑った。

そして言い切る。

「その場合は強硬的な手段を選ぶしかないな」

そしてダーリアに視線を向てた。

「その後は時間をかけてでも貴方が説得してほしい。出来るかな?」

その問いにダーリアは頷く。

「はいっ。勿論です」

「なら任せた。後は、待つのみだな」

アデリナはそう言うと、視線を三島特務大尉に向ける。

「で、公国の使者はいつごろになりそうかな?」

「恐らく、一週間もしないうちに」

その答えにアデリナは頷くと立ち上がった。

「さて、私はここで席を立つことを許してほしい」

笑いつつそう言うと退室の為に歩き出す。

慌てて残りの者達も立ち上がろうとするが、それを制して笑いつつアデリナは言う。

「君達には積もる話もあるだろう。今夜はゆっくり話たまえ。酒とつまみぐらいは用意させよう」

その言葉に、三島特務大尉とミランダは互いを見て苦笑する。

相手を認めるとはいえ、しこりがないわけではない。

今夜中に何とかしておけ。

彼女らにはそう聞こえたのだ。

「では、せっかくの陛下の厚意に甘えますか……」

三島特務大尉はそう言うと視線をミランダに向ける。

ミランダも視線を三島特務大尉に向けた。

こうして、しこりを無くすための酒宴が継続して行われたのであった。



「ワクチンと薬はどうなっている?」

アデリナは執務室に戻ると副官であるゴリツィン大佐が報告を開始する。

「はっ。南地区に運び込まれ計画通りに進められております」

「間違いなく?」

「はっ。間違いなく」

その言葉に満足げにアデリナは頷くと、ちらりと壁にかかっている旧帝国領の地図を見る。

これで南地区は落ち着くだろう。

そして、公国は帝国に譲渡される。

ゴタゴタはまだあるだろうが、これで帝国領はある程度形になる。

そうなると……。

いや、まだ早い。

まだ早すぎる。

アデリナは自分にそう言い聞かせる。

最後の最後で躓いてひっくり返って全てを台無しにするわけにはいかないからな。

そう思考をまとめると、デスクに乗っている書類に手を伸ばしたのであった。


コロナ感染で、かなり間が空きましたが何とか書き上げました。

やはり、健康第一ですね。

これからは少しずつギアを上げていきたいと思います。

これからもよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最新話追いつきました! 健康第一ですね♪
2023/01/05 22:43 退会済み
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