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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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東の国へ…

「お疲れ様…」

いかにも精も命も尽き果てたといった感じのぐったりした表情で戻ってきたアッシュに、ミッキーがそう声をかける。

その声にアッシュは軽く手を上げただけで、部屋の中央にあるソファに飛び込むように倒れこんだ。

そしてぐったりしていたかと思うと手と足を駄々っ子のようにバタバタと動かしたながら唸る様に呟く。

「なんなんだよぉ…あの爺どもはっ…」

親友のそんな様子にミッキーは苦笑しつつ声をかける。

「で…どうだった?」

その言葉にジタバタと動いていた手足の動きが止まる。

そして、ちらりとミッキーに視線を向けた後、アッシュはひらひらと手を振った。

本人がどういうつもりでやっているのかわからずにミッキーが首をひねっていると、やっとアッシュは口を開く。

「ああ、何とかやったよ…」

アッシュはそう言った後、ゆっくりと身体を起こしてソファに座りなおす。

そして首と肩を回した後、真正面からミッキーの方を見据えた。

その様子に、ミッキーは何事かと思ったが、視線をそらす事はしない。

長い付き合いで、こういう時は彼が何か頼み事をしたいときだとわかっていたからだ。

「ほとんどの条件は俺らの意見が通ったよ。でも、どうしても一つだけ通らなかった件がある…」

「それは?」

ごくりと口の中にたまった唾を飲み込み、ミッキーが聞き返す。

アッシュはゆっくりと頭を下げて言う。

「俺は行けなくなった。だから、俺の代理としてミッキーに行って欲しい…」

「えっ?!」

ミッキーの思考が一気に真っ白になる。

まさかそういう事を言われると思っていなかったからだ。

そしてやっと思考が回り始め、慌てて聞き返す。

「ち、ちょっと待てっ。それはどういうことだ」

「こっちの言い分のほとんどを認める代わりに出された条件がそれなんだよ…。それに私が本国を離れた後にもしかしたら貴族院が何かやらかす可能性があるって言われてしまえば何もいえなかった…」

アッシュが悔しそうに言う。

彼にしてみればあまりにも予想外の提案であり、本当なら決して認めない条件だった。

だが、我がままを通す余裕はない。

だから、彼はすべてを進める為にその条件を飲んだのだ。

それがわかるからこそミッキーは何も言わなかった。

いや、言えなかったというべきだろう。

そしてしばらくの沈黙の後、ミッキーはゆっくりと口を開く。

その言葉には決意と思いが込められていた。

「わかった。自分にどれだけの事ができるかわからないが、精一杯やらせてもらおう…」

アッシュがミッキーの手を取って強く握り締めた。

そして、ミッキーも負けじと強く握り締める。

「頼む…」

「ああ…」

決意は託された。

そこに、もう言葉は必要なかった。


ある程度まとまると準備は一気に進められた。

船の準備などは一日もかからなかったのだが、もっとも困難だったのは同盟を結ぶ為の譲渡する内容だった。

王国としては、帝国の巨大戦艦に対抗できる戦力(この場合はアッシュが説明を受けたハルナと言う名前の大型戦艦)の派遣をはじめとする軍事支援を強く希望していた。

また帝国に対しての互いの支援体制の構築、国交の開始、貿易なども含まれる。

しかし、互いに利益が得られる支援体制の構築、国交の開始、貿易などはすんなりいくと思われたが、一番大切な軍事支援を得られるかが大きな問題であった。

もし得られなければ、王国としては対等の条約を結ぶ意味はないとさえいっていいだろう。

だが、フソウ連合と王国は戦闘をしたために、それに対しての講和或いは休戦条約がまず必要だった。

また、フソウ連合と帝国の戦闘はこの先も続くと思われる。

そんな悪条件の中、互いに戦力が必要な時に、どれほどの譲渡の条件を出せば同盟まで進めるのか…。

そこが問題となり、議論は最初はなかなか遅々として進まなかった。

だが、時間が経てば経つほど王国が不利に成っていく事に変わりはない。

いつまた帝国海軍が動き出すかもしれないという圧力に戦々恐々としている状態が続いているという現状に、ついにそれを打破する為にはかなりの出血も致し方ないとなった。

それゆえにとんでもない提案がなされたのである。

それはフソウ連合周辺にある王国の植民地のうち、いくつかを譲渡するという案だった。

もちろん、地区単位ではない。国単位でである。

普段なら決して出されない王国にとって屈辱的な提案であったが、もしきちんとした軍事支援を受けられるのならそれぐらいはいいだろうという事になったのだ。

だが、それはあくまでも最大限の譲渡の限度の話であり、理想としてはいかに少なく済ますかということになる。

その責任は交渉者であるミッキーの双肩にかかる事になった。

そして、二日後、王国の首都ローデンに直結するイスターニアン軍港から一隻の高速巡洋艦が東に向けて出航した。

高速巡洋艦アクシュールツ。

王国内では戦艦も巡洋艦も最高速度十八~二十ノットが普通の中、この艦は実験として新型の石炭専焼水管缶と直立型三段膨張式レシプロ機関を採用する事で最高速度二十五ノットを記録した快速巡洋艦だ。

武装は、23.5cm単装砲二基、15.2cm単装砲八基、7.6cm単装砲八基、45cm水中魚雷発射管二基と一般的な装甲巡洋艦よりは少ないものの、航続距離の長さと速度により、王国内では唯一『高速巡洋艦』という艦種が与えられた艦だ。

目的地は、もちろん東の国、フソウ連合。

アッシュは港で残るアッシュ派の仲間たちと艦を見送る。

艦に乗り込んだのは、代表としてアッシュの代わりに選ばれたミッキー・ハイハーン少佐。

そしてその補佐としてカッシュ・アルキムス中尉が任命された。

また、それ以外には、貴族院からは若手貴族のノルデン・ジョージ・スルクリン男爵、海軍からは、クルッシュ・イターソン大尉が同行する事となった。

要は、行き過ぎがないように監視者として『鷹の目エド』と『海賊メイスン』から派遣されたということになる。

頼むぞ。

自分自身の不甲斐なさ、力のなさを痛感しながらアッシュは思う。

ミッキーが返ってくるころには、もっと磐石な力を手に入れると…。

そして、ミッキーはミッキーでアッシュの無念さを感じ、自分の責任の重さを痛感していた。

だからこそ、見送るアッシュや仲間達に誓う。

朗報を持って帰ってくると…。

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