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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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対面

夕食会には亡命希望者も参加を御願いしたい。

そう言う伝言を受け、三島特務大尉はほっと胸をなでおろす。

希望者を伴ってという事は、こちらの希望は十中八九かなったと思っていいからだ。

確かに今の帝国ではフソウ連合の要望には応えねばならないのが現状だからこうなるだろうとは思っていた。

だが、世の中に絶対はないように、こちらの要請を自分の好きなように解釈して断ることも利用する事も出来るのが世の常だ。

だから油断してはいけない。

三島特務大尉は再度気を引き締める。

気を抜くのは、全てが終わった後からだ。

成すまでは常に気を配り、注意しておく。

彼の夫であり、上官でもある川見大佐は常にそう言っていた。

だが、周りにそう見られない態度は必要か。

ちらりと隣を見ると心配そうな表情のダーリアが目に入る。

当事者の彼女にとって常に神経をとがらせねばならない日々が続いている。

だからだろうか。

かなり疲労の色が強い。

いざという時に疲労困憊では困る。

そう判断し、三島特務大尉は笑顔を作る。

以前なら、不自然の笑みを浮かべ、余計に相手を不安にさせたかもしれない。

しかし、その笑顔は余りにも自然だった。

そう、今の彼女は、以前の彼女とは違う。

まだまだ諜報部員としては未熟ではあるが、川見大佐のパートナーであり、副官なのだ。

出来る限りのことをする。

そう決心し、経験と実戦を潜り抜けてきた。

だから出来た笑みであった。

もっとも作り笑いの笑みではあったが、それでも余程のものでない限りわからないほどの自然であった。

そんな三島特務大尉を恐る恐るという感じで見ていたダーリアだったが、三島特務大尉の笑顔で少しほぐれた笑顔を浮かべる。

こっちは直ぐに作り笑いとわかる微笑みだ。

そして、意を決したのか、聞いてくる。

「えっと……、帝国側はなんと言ってきたのでしょう?」

「ええ。本日の夕食会にあなたも参加してほしいと」

その言葉に驚きの表情になるダーリア。

「それって……」

「ええ。どうやら帝国はこちらの願いをかなえる気があるようですね」

そう言った後、三島特務大尉はダーリアの肩に両手を乗せて励ますように言う。

「良かったわね。ダーリア」

その言葉にダーリアの少し目元が潤む。

「ありがとう……。私……」

そんなダーリアに三島特務大尉は笑って言う。

「でも、まだ第一関門を突破しただけ。感謝の言葉は全てが終わってからにしてくれると嬉しいわ」

慌ててダーリアは目元を指で拭う。

「そうね。そうするわ」

まだ難関はいくつもある。

そのうちの最初のハードルをクリアしただけだと再認識したのだろう。

表情が険しいものになった。

そんなダーリアを三島特務大尉はぎゅっと抱きしめる。

「でも信じましょう。うまくいくと……」

耳元でささやかれる言葉に、ダーリアは笑みを浮かべた。

「ええ。でも思ってしまうのです……。もし……と」

だが、そんなダーリアの言葉を否定する三島特務大尉の言葉。

「願うあなたが信じなくてはうまくいくものもうまくいかないですよ。そう思いませんか?」

その三島特務大尉の言葉に、ダーリアは黙ったままだ。

それはまだ迷っている。

そう判断した三島特務大尉が口を開く。

「確かに思い通りにならない事ばかりの世界ですけど、私はうまくいくと思っています」

そう言われ、ダーリアは「なぜ?」と聞き返す。

その言葉を待っていたのだろうか。

ダーリアから離れると三島特務大尉は極上の笑顔で言い切った。

「女の勘よ」

余りにも予想外の言葉。

今までの行動や言動から、現実主義だと思っていた人物から出たあまりにもかけ離れた言葉。

ダーリアの思考が一瞬だけ止まった。

だが、それと同時にある感情が一気に心の中に広がった。

それは笑いである。

そんな非科学的な事でという思いと同時に、願いをかなえるという思いも非科学的だと思ったのだ。

願いをかなえるという事には確かに努力が必要だ。

思うだけで何事も出来れば苦労はしない。

だが、努力すれば絶対という事ではない。

努力も必要だし、才能も必要だが、何よりも運が必要だ。

つまり、非科学的だと判断したのである。

それなら、女の勘とたいして変わらない。

努力をして願う。

後は、もっと気を落ち着かせて楽にすればいい。

そんな事を気か付かせてくれた目の前の女性に、ダーリアは感謝すると同時に肩の力が少し抜けたような気がした。

そして、自然と浮かんだのだ。

笑いが……。

こんな気持ちで笑えたのは久方ぶりのような気がする。

そんなダーリアを見て、三島特務大尉は微笑む。

「そうそう。辛いことも大変なことも笑い飛ばして前向きに進めばいいのよ。それで全てはうまくいく」

しかし、それで解決する訳ではない。

たが、そう言った心の持ちようで、マイナスでさえもプラスに転化できる。

だからこそ、彼女はそう言ったのだと。

「そうね。貴方の言う通りだわ。出来る限りの事をしましょう。そして微笑みを浮かべて進みましょう」

ダーリアはそう言い切る。

今の彼女には、先ほどの迷いと不安に捕らわれた面影はない。

それが表面的な部分のみだけとしても、それでいい。

少しでも彼女の負担が減ってくれれば……。

三島特務大尉はそう思ったのだった。



そして、指定された時間に、指定された場所に向かう三島特務大尉とダーリア。

場所も時間も前日と同じだ。

少し緊張の色が見えるがダーリアはしっかりと前を向いて歩ている。

これなら大丈夫か。

事前にある程度は打ち合わせをしている。

そして、何かあれば私がフォローすればいい。

そう考えていた三島特務大尉だったが、建物に入った瞬間、ゾクリと背筋に寒気が走った。

嫌悪感が体中を走り、緊張が一気に高まる。

この感覚は……。

口の中にたまった唾をごくりと飲み込み、うっすらと額に浮かんだ汗をぬぐう。

「どうかされたんですか?」

心配そうな顔でダーリアが覗き込むように聞いてくる。

「ああ、大丈夫ですよ」

そう言いつつ、一回呼吸をして歩き出す。

何気ない風を装いつつも思考を高速回転させる。

建物の大体の配置は前日に軽く把握している。

それに武器は入り口で預けたものの、呪符と魔術を込めたアクセサリーは身に着けたままだ。

なら何とかなる。

ちらりと後ろを向く。

ダーリアは何とか逃がさないと……。

そして気が付いた。

以前に比べて違和感がある事に……。

この感覚の持ち主、魔力の持ち主はこんなに弱々しかったかと。

あの時は外にいても簡単に察知できるほどの膨大な魔力を感じた。

なのに、今は建物に入って初めて感じたほどに微々たるものだ。

敢えて言うなら、並みの魔術師に毛が生えた程度だ。

なのに、気配、魔力は間違いなくあの女のものだ。

おかしすぎる。

あの女は、魔力をこんなに偽装できるタイプではないだろうし、出来るのならなぜ感知させないようにしないのか。

もしやっているとしたら、余りにも中途半端すぎる。

それに、共和国での報道では、あの女は処刑されたという話だった。

その話を鵜呑みにはしなかったが、それ以降、あの女の動きはぱたりとなくなった。

まるで死んでしまったかのように……。

あの女が身を潜めたという可能性はゼロではないが、直接対峙したからわかる。

あの女は、それが出来る性格ではないと。

ならば、やはり死んだのだろう。

そう思っていたのだ。

だが、歩くたびに近づいていると感じる以上、進む先にあの女がいる可能性は高い。

帝国が裏切った。

そう考えたものの、それはまだ早計というべきだ。

あまりにも未確定すぎる。

ならば、やるしかない。

いいじゃないの。

あの時のカリを返してやる。

三島特務大尉はそう決断すると心の中で気を引き締める。

顔には出さない。

それはダーリアを心配させるし、相手に突っ込む隙を作る可能性がある。

あの女には負けない。

絶対に……。

それは魔術師としての面子もあったが、彼女自身気が付いていないものの、以前自分の夫である川見大佐を魔術を使って誘惑した女狐に対しての嫉妬と怒りであった。

そして、ついに案内された部屋の前に立つ。

間違いなくあの女はここにいる。

この部屋に……。

ふーっ。

息を吐き、魔力を体の中で練る。

準備はいい。

ならば……。

「開けてください」

案内人に三島特務大尉はそう告げる。

案内人はドアをノックし告げた。

「お客様が到着なさいました」

すると中から返事が返ってきた。

「ああ、構わないよ」

その声の後、ドアが開かれる。

そして、三島特務大尉はアデリナの側でこちらを向く二人の人物を確認する。

一人は筋肉質のどちらかと言うと海の男のような雰囲気を持つ男性で、もう一人は女性だった。

雰囲気や姿はあの時とは違いすぎる。

だが、魔力は、気配は変えられない。

間違いない。

あの女だ。

あの魔女だ。

そう確定し、しかし三島特務大尉は怯まなかった。

一歩を歩き出す。

魔女を睨みつけるかのような視線を向けつつ。

そして、その視線を受けるミランダの表情は引きつっていた。

まさか……。

すーっと汗が流れる。

彼女は感じ取ったのだ。

三島特務大尉の力はより強さを増していると。

そして、力の大部分を失った今の自分では勝てないと……。

だが、それでも彼女は怯まない。

皇帝の前では下手な事はしないだろうという考えもあったが、なにより逃げたくなかった。

自分がやってきたことに……。

こうして二人は再会する。

互いに敵意をむき出しにして。

そして、そんな雰囲気をアデリナが気がつかないはずもなく、彼女は心の中でほくそ笑む。

やっぱり、そう言う事か……。

これで確信が持てた。

ミランダがアンネローゼだと。

そして、三島特務大尉が魔術師だと。

そう、彼女は楽しんでいた。

この状況を。

こうして、夕食会が始まる。

三者三様の思考の中で……。

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