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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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接触

「なぜそんな事を……」

ビルスキーア長官のその問いに川見大佐はニタリと笑う。

「ただ二日間、ぼーっと待っていたわけではありませんよ。それにここに来るまでの警備を見ればね。それに、先ほどの長官の発言が決定打となりました」

「私の発言?」

「ええ。仰ったじゃないですか。『公国を帝国に譲渡する』って。そんな大それたことをやるのなら反発はより大きくなるでしょうし、いくら事前に計画が用意されていたとはいえ準備には膨大な時間が必要です。それを短期間で一気にやる。なら益々反発は大きくなってしまう。間違いないでしょう?」

そう言われてビルスキーア長官は苦笑して頷く。

「確かに」

「それにあなたは主君に対して愚直なまでに忠実で、自分を顧みない性格のようですからな」

そこまで言われてしまえば何も言うことはないのだろう。

ビルスキーア長官はただ黙って苦笑しているだけだ。

「それにこっちの意向もある。やっと統一の形が見え始めているのに、また混乱されては今まで支援してきた隣国のこっちとしてもたまったものではないですからな」

そう言った後、すました顔で川見大佐は言葉を続けた。

「よって、協力は、国益の為です。お気になさらずに」

その言葉が全部ではない事はビルスキーア長官もわかっている。

恐らく国益だどうだというのは建前だと。

しかし、国益という言葉を出されては断るという選択肢を選べない。

参ったな。

思わず頭を掻く。

いい様に言い負かされるのは好きではないが、今回は別だ。

このぶっきらぼうな感じのする男の行為に甘えよう。

ビルスキーア長官はそう判断した。

「わかりました。協力をお願いしたい」

その言葉に、川見大佐はニタリと笑った。

もっともかなり皮肉っぽい感じの笑みにしか見えなかったが、その本意をわかっているビルスキーア長官と三島特務大尉は苦笑するだけだった。

「なら、まずはこちらは保護者と接触し、すぐにでも保護を行います。閣下の警護協力はその後でよろしいでしょうか?」

「ああ。そうしていただけると助かります」

そう言うとメモに彼女の住所と手紙を書いて川見大佐に手渡す。

そして、川見大佐をじっと見て口を開く。

「彼女を、彼女を頼みます」

その言葉には、思いが込められていた。

強い強い思いが……。



ビルスキーア長官との面会の後、川見大佐と三島特務大尉は直ぐに保護対象のダーリア・ユーリエヴッチ・ドロウの元に向かった。

車の手配はリットミン商会が行い、二時間後には彼女の住んでいる場所に到着する。

市内から離れた緑が見かけられるような郊外の一軒家だ。

不用心だな……。

川見大佐の第一印象はそれであった。

警備らしきものもいるようだが、余り彼女に悟られないようにという配慮なのだろう。

だが、あまりにも手薄すぎる。

とても公国ナンバー2の関係者の警備とは思えない。

しかし、それは裏を返せば、それだけ重要ではないと見せつける為かもしれない。

だが、さすがにここまで事態が進行してしまったら、そうも言ってられんという事か。

恐らく、警備を強めるか何か対策を考えていたところに俺らが来たことで、決断したんだろう。

そんな事を思いつつ、川見大佐は隣の三島特務大尉を見る。

そして納得する。

今までの彼ならそんなことは思わなかっただろうが、今の彼は違う。

大切なものを守りたい。

そんな強い思いを。

「えっと、何でしょう?」

じっと見られ三島特務大尉が困惑気味に聞いてくる。

「あ、いや何でもない」

そう言いつつも、思いついたのだろう。

「もし説得できなかった時は、君に任せてもいいか?」

その言葉に、三島特務大尉は一瞬きょとんとした後、笑顔を浮かべた。

心底嬉しそうに。

「ええ。わかりました。任せてください」

その言葉に川見大佐は少し嬉しそうに頷いたのであった。

しかし、彼女の出番はなかった。

川見大佐の説明とビルスキーア長官の手紙で納得したのだろう。

「そうですか……」

ダーリアは少し下を俯いた後、ため息を吐き出すと言葉を続けた。

「わかりました。すぐに荷物をまとめます。それまで待っていただけますか?」

「ああ、勿論だとも。手伝えることはあるかな?」

「いいえ……」

短くそう言った後、ダーリアは悲しそうに微笑んだ。

恐らく何か起こるとすでに考え、覚悟していたかのようだ。

そんな彼女を見かねたのだろう。

三島特務大尉が立ち上がる。

「手伝います」

「いえ、ですが……」

「大丈夫です。それに女同士じゃありませんか。手伝えることはあると思いますよ」

三島特務大尉はそう言うと川見大佐の方に顔を向けた。

「構いませんよね?」

「ああ、頼む」

苦笑しつつそう言う川見大佐。

だが、心の中でほっとした。

彼女に任せておけばいいかと。

実際、こういう要人保護は初めてではない。

その際には、いろんな反応を人はする。

嬉しがる者、怒る者、悲しむ者。

まさにいろいろだ。

その人の人生での節目になる可能性が高いのだ。

どうしてもそうなってしまうのだろう。

それはわかる。

それはわかるが、それをどうやって対応すればいいのかわからない。

特にその中でも女性の扱いは苦手だった。

感情的な反応を示すことが多いからだ。

だが、それでも彼は徹底的に対応してきた。

命令を遂行するという仮面をつけて。

それしか方法を知らなかったからだ。

だから今回もそうなるかと思っていた矢先に三島特務大尉が動いてくれた。

助かった。

まさにそんな心境だった。

だから、彼女に任す。

勿論、信頼しているから。

退室していく二人を見送った後、出されたコーヒーを口に付けた。

そして思い出す。

女性の準備には時間がかかると。

しまった。時間がないので手早くと言っておけばよかった。

そう後悔して。



自室に向かうともうすでに荷物はある程度整理されていた。

それを見て三島特務大尉は理解する。

この人はわかっていると。

自分の彼が国の為に身を投げ出そうとしているのを。

そして、ダーリアは足を止めて振り返る。

その顔には何かに怯え、そして悲しみに包まれていた。

「彼、死ぬつもりなんですね」

短く言う言葉。

それには恐怖と不安、そして悲しみが込められていた。

だからだろうか。

偽ってはいけない。

三島特務大尉はそう判断し、口を開く。

「ええ。恐らくですがそのつもりなんでしょう」

その言葉に、ダーリアは寂しく微笑んだ。

潤んでいた目からすーっと涙が頬を伝わる。

「ふふっ。彼らしいわ」

だが、そう呟くように言った後、彼女の感情が爆発した。

「それが彼だって判ってる。そんな彼だからこそ好きになったってっ。でもっ、でもっ、彼には死んでほしくないっ。私の側にいて欲しい。ずっとずっと」

それは今まで我慢していたものが噴き出したと言っていいだろう。

彼女は

ずっと彼を思って耐えてきたのだ。

もう少し我儘を言ってもいいのに……。

三島特務大尉はそう思ったが、すぐに理解した。

彼女は頭が良すぎるのだろう。

先回りしすぎて、彼に負担を与えないようにしているのだと。

そして、そんな彼女だからそ、ビルスキーア長官はなんとか巻き添えを喰らうことなく生き延びて欲しいと願ったのだと。

三島特務大尉はダーリアをそーっと抱きしめる。

震える彼女は抵抗もせずただ抱かれるままだ。

そんなダーリアの耳元で三島特務大尉は囁くように言う。

「私達がどこまでやれるかわからないけれど、力になるから……」

「えっ?!」

思わすと言った感じで聞き返すダーリア。

そんなダーリアに三島特務大尉は微笑みつつ言う。

「ふふっ。多分ね、うちの旦那もあなたの彼の事を気に入ったみたいなのよね。だから、絶対にとは言えないけど、出来るかぎりあなたの彼を守って見せるわ」

その言葉をただ黙って聞いていたダーリアだったが、すぐに意を決したのだろう。

グッと涙を拭い、離れると深々と頭を下げた。

「お願いします。彼を助けてあげてください」

そして、その言葉に三島特務大尉は言葉を続ける。

「ええ。そしてあなたの隣に彼がいれるように努力してみるわ」

その言葉に、ほっとしたのかダーリアの顔に微笑みが浮かぶ。

それを見て、三島特務大尉は再度決意する。

何としても守らなきゃと。

そして口を開いた。

「うちの旦那を待たせるわけにはいかないわ。さっさと準備を終わらせましょう」

そう言われてダーリアは驚く。

「えっと……旦那って?」

その言葉に、くすくすと三島特務大尉は笑った。

「うちの旦那は、ああ見えて腕はかなりのものだからね。期待していいわよ」

その言葉に、ダーリアの脳裏に先ほどまでの川見大佐の顔が浮かぶ。

そして笑った。

「ええ、お願いします」

こうして二人は準備を始めた。

互いのパートナーの事を自慢気に話しつつ……。

なお、愚痴も結構含まれている事は否定しない。

ただ、人によっては愚痴も惚気にしか聞こえない事はあり、今回の愚痴のほとんども、第三者からしてみれば惚気にしか聞こえなかったが……。

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