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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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参戦  その3


アリシアの心配を打ち消すように何事もなく雑草号は合流する場所へと進んでいく。

「思ったより早く着きそうですな」

船長はそう言いつつニタリと笑う。

本人は安心させるために微笑んだのだろうが、日に焼けた肌と傷だらけの顔、それに歯のいくつかが欠けているため、そこそこいい男なのだろうが、台無しの印象である。

いつ見ても凄みのある顔だわねぇ。

アリシアは心の中で苦笑する。

別に男は顔だとは思わないが、あの選り好みしそうな破滅の魔女が旦那と決めた男とは考えられない。

でも、ベタ惚れなんだよねぇ。

まさに美女と野獣か。

でも、美女と言っても悪女の類かなぁ……。

そんな事を考えつつ、「そうね」と言い返そうとした時だった。

「二時の方向から航跡ありっ。魚雷ですっ」

見張り所から報告が入る。

「魚雷だとっ?!」

船影もない海の上での雷撃。

一瞬、驚いた表情になったものの、船長の判断は素早かった。

「操舵長っ」

「わかってますって」

操舵長がそう言い返し、雑草号は回避行動を開始する。

急な動きで船内は大きく振られて揺れる。

「あっ……」

思わず倒れそうになるアリシアを船長は太い腕で支え、固定された椅子に誘導する。

その間も視線は忙しく周りに動き、命令を発していた。

「敵の艦影は見えるかっ。それと魚雷はっ」

「魚雷は回避っ。ただし、敵と思しき艦影見えず」

その報告に舌打ちすると船長は呟く。

「どうなってやがんだ。どこから撃ちやがった?」

がんっ。

テーブルを叩き、命令を下す。

「見張り、しっかり見張れ。これで終わりじゃねぇぞ。それと主砲の準備も急げ」

「わかりやしたっ」

指示を受け、クルーがさっきまでののんびりした感じが嘘のようにきびきびと動く。

その光景にアリシアは我を忘れそうになったが、慌てて声を上げた。

「恐らく、潜水艦ですっ」

その声に、船長が聞き返す。

「潜水艦?!」

「はいっ。海中に潜ることが出来る船の事です。今の攻撃はそうとしか考えられません」

その言葉に、船長は舌打ちする。

「なんか敵の居場所を発見するいい方法はねぇのか?」

「潜望鏡というものが海面上に出ていると聞きます。それを探すしかありません」

「わかった。いいかっ。見張りっ。魚雷の航跡発見とその潜望鏡という奴を発見しろっ」

そう命令を下すと、見張り所から返事が来る。

「潜望鏡って何ですかっ」

そう言われ、船長は一瞬言葉に詰まった。

船長もよくわからないのである。

視線がアリシアに向くが、詳しいわけではなく、申し訳なさそうに首を振るしかない。

「ええいっ。いろいろ言うな。ともかく海面に何か出てたら報告だっ」

「り、了解しましたっ」

その返事を受け、船長は今度は艦内の被害状況を確認する。

それと同時に、戦闘態勢に移行する事を館内放送で流した。

その決断の速さと判断力はかなりのものだとわかる。

恐らく、下手な軍艦よりも早いのではないかと思うくらいだ。

そして、乗組員もそれに応えている。

そこには強い信頼関係が見え隠れしていた。

流石ね。

そう感心し、これなら惚れるのもわかるかもと思ったものの、その思考を奥に押し込み、思考を別の方向で回転させる。

そして、行きついた。

「あの男っ。わざと狙ってやったわね」

そう呟くアリシアの脳裏ににこやかな笑みを浮かべるアッシュの顔が浮かぶ。

そう、これはアッシュが王国が今どういう事態か実感させるためにワザとやっていると理解したのだ。

くそっ。

絶対、会ったらひっぱたいてやる。

そう決心したが、それと同時に恐らくこの事態を何とかするはずだというところまで思考する。

そうしなければ、王国と共和国は間違いなく敵対するだろう。

だが、この事態をうまくかわしてやれば王国の現状を実感させるだけでなく、対潜水艦戦においての有効性も示されることになる。

そして、王国に対潜水艦戦の装備やノウハウを提供しているのは間違いなくフソウ連合で、それはフソウ連合の力の誇示ともなる。

うまくやられたわね。

揺れる度に椅子にしがみ付きつつアリシアはこの後の話し合いの事を考え始めていたのであった。

そんなアリシアを尻目に、船長は焦っていた。

夜戦の戦いの経験もある船長としては、見えない敵との戦いは厄介だと判ってはいた。

しかし、それ以上に対潜水艦戦ははじめてだという事もあり、苦戦していたと言うべきだろう。

だが、長年培っていた経験と船乗りの勘、そして雑草号の鈍重な民間船とは比べ物にならない動きと速力で二発目、三発目の魚雷をかわす。

くそったれ。

これじゃ埒が明かねぇ。

魚雷は本数に限りがあるとはいえ、どれだけその潜水艦って奴がいるのかわからないのは痛いな。

皆集中して発見と回避に専念しているからこそ今の所は何とかなっているのだが、時間が経てば集中力は落ち、緊張の糸は切れる恐れがある。

そうなってしまえば、今までのように回避できない恐れもある。

世の中に絶対はないのだ。

だからこそ、何とかこの状況を打破しなければ……。

それは焦りを生み、船長の心をかき乱す。

しかし、それでも船長は迷わない。

自分に出来る事を最大限し続けるだけだと。

そして、そんな船長に朗報が届く。

「潜望鏡かどうかわかりませんが、海上に棒状のものがあるのを発見っ」

「よしっ。主砲でお礼をしてやれっ。それと今までの雷撃からしてまだいるはずだっ。徹底的に探せっ」

「了解しゃしたっ」

だが、こう回避しつつの砲撃が当たらないのはわかっていたし、いつまでこの回避(ダンス)をしなければならないのかわからない。

ちらりと船長はアリシアに視線を向けるも、アリシアは黙って何も言わない。

言えないのではなく、言わないというのがひしひしとわかる。

それは何かを待っているかのようだった。

救援でも来るのか?

思わずそう思ったものの、まさかと打ち消す。

そして思考し、決心する。

あと10分経っても何もなければ離脱すると。

後で何を言われようがこんな酔狂な事をし続けるつもりはない。

死をおもちゃにするつもりは毛頭ないのだと。

だが、その決心はひっくり返される。

それは空からやってきた。



「すげぇな、あの回避、うちでも早々できるやつはいねぇぞ」

上空で戦況をチェックしていた零式三座水上偵察機の機長は唸る。

それほどまでに雑草号の回避は鮮やかで、危なげな感じではなかった。

まるで事前に見えているんじゃないだろうか。

そう思えるほどだ。

つまり、それだけ修羅場を潜り抜けてきたという事だろう。

そんな機長に通信手が言う。

「そろそろ来ますよ」

その言葉に機長は視線の向きを変える。

もちろん、味方艦隊のいる方向に。

そして、その方向からはいくつもの点が近づいてくる。

対潜装備の九七艦攻だ。

「へへっ。来たな」

そして、視線を下に戻す。

「お待たせ。援軍の到着だ。目の穴かっぽじってよく見ておきな。フソウ連合海軍航空隊の実力を」

その言葉には自信があった。

そして、その自信に応える様に、九七艦攻十五機は敵潜水艦五隻に対して一隻当たり三機で波状攻撃を仕掛ける。

一気に高度を下げ、深度が浅い為、上空から丸見えの潜水艦に攻撃を仕掛けていくのだ。

翼下に付けられた対潜用の特殊爆弾が次々と潜水艦を襲う。

その光景は、まさにクジラに襲い掛かるシャチの群れを想像させた。

どんっ、どんっ。

幾つかの対潜用爆弾の爆発の後、次々とより大きな爆発が起こる。

海面に一際大きな水柱が立ち、それが爆弾の爆発ではない事は誰の目にもはっきり分かった。

そして、その攻撃は余りにも圧倒的であり、そして一方的だった。

雑草号を追い詰めていたはずの海の狼たちは次々と駆逐されていく。

それは、飛行機という兵器を見た事のないアリシアや雑草号の面子を唖然とさせ、我を忘れさせるのに十二分なインパクトを与えたのであった。



「なんだよ……、あれ……」

茫然して誰かがそう口走る。

だが、それは誰もが思う事だ。

「あれが……飛行機……」

アリシアの呟きが静まり返った船橋に響く。

だが、だれもアリシアに視線を向けない。

只々目の前に広げられている殲滅戦を食い入るように見ているだけだ。

「ありゃ……逃げられねぇ……」

船長がぶるりと身体を震わせて呟く。

彼は理解したのだ。

この最新鋭の雑草号でも、飛行機の攻撃から逃げるのは難しいと……。

回避は出来るかもしれない。

だが、それは潜水艦の雷撃以上に難しいと判断したのである。

そんな中、真っ先に我に返ったのはアリシアだった。

ぎゅっと唇をかみしめ、前方を睨みつける。

まるで親の仇が前にいるかのような表情だ。

彼女はわかったのだ。

この茶番の目的を。

それもはっきりと刻み込まれるかのように刺激的で圧倒させる方法で……。

それ故に拳が強く握りしめられ震えていた。

そう、これが見せたかったわけね。

確かに納得したわ。

口で言うより何十倍も効果があるじゃないの。

仕方ないわ。

ひっぱたくのはやめてあげる。

悔しいけど……。

それにいいわよ。

わかったわよ。

貴方の話に乗ろうじゃないの、アイリッシュ。

でも、私も徹底的に利用させてもらうから覚悟なさい。

アリシアは知った。

潜水艦という敵の力を。

そして、それに対抗する力を。

ならば、やるしかない。

そう決断した。

いやさせられたのである。

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