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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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参戦  その1

「これはどういうことですか?」

アリシア・エマーソンは鼻息荒く読んでいた報告書をデスクに叩きつける様に置くと、報告してきた人物を睨みつける。

ここは共和国のアリシアの執務室であり、睨みつけられているのは通商業務の責任者である。

連盟の通商停止によって物資の流通が一気に減り、一時はどうなるかと思われていたが、フソウ連合の援助や『多国籍による国際海路警備機構(International Maritime Security Agency)』略して『IMSA(イムサ)』に新しくできた輸送部門、それに長距離のものは王国経由という形で急場を何とか出来、それ以降は独自に船舶を増やしつつ流通は回復してきているはずであった。

しかし、この報告では上昇するはずの流通量がまた落ち始めていたのだ。

そして、その原因が正体不明の沈没によるものとなっていたのである。

「い、いえ。それが、原因がわからないのです」

アリシアの剣幕に恐れながらもなんとかそう言い返す責任者。

それを睨み返しつつ聞き返す。

「調査はしているのですよね?」

「はい。勿論です」

慌てて責任者がそう言って背筋を伸ばす。

もっとも、さっきから延ばしっぱなしなのでぴくっと体が震えるだけであったが……。

ともかく何か言わねば不味いと思ったのだろう。

責任者は言葉を続けた。

「しかし、生存者がいないのです」

「一人も?」

「はい。一人もです」

「小型艦が多いとはいえもう五隻も沈んでいるのに?」

「はい……」

アリシアは少し考えこむように視線を責任者から壁の地図に向ける。

「そう言えば、五隻とも王国と共和国の流通を担当している船だったわね」

「はい。その通りです。距離的にそれ程ある訳でもないのに……」

これが遠い植民地ならまだわかる。

実際、一番遠いところからだと二週間から三週間なんてものもある。

しかし、王国との航路は足の遅い輸送船や運搬船でも二日もかからないでつく距離なのだ。

なのに、五隻も……。

「わかりました。調査を続けなさい。何かわかったら、すぐに知らせる様に」

「はっ。間違いなく」

そう言うと責任者はほっとして表情で退室していった。

その様子は、助かったと言った感じであり、その態度に少しカチンときたアリシアは嫌がらせを少しぐらいは言った方が良かったかしらと思いつつも思考を切り替える。

すぐに執事を呼ぶと命令を与えた。

「王国のアイリッシュ殿下に連絡を付けてちょうだい。それとフソウ連合駐在官にもね」

「わかりました。すぐに手配します」

そして再び一人きりになった部屋で、アリシアは壁に張られた地図を見る。

共和国を中心に書かれた地図で、彼女の視線は王国と共和国を隔てる海域をじっと見ている。

どうやらうちは巻き込まれたみたいね。

でも、巻き込まれたのならはっきりさせないと駄目ね。

その為には、まずは情報を集めなければ……。

決定はそれからでもいいわ。

そう判断すると再びデスクに向かうと積んである書類に手を伸ばす。

情報が少ないうちに色々考えても意味がないと考えたからだ。

それよりも今はやらなければならないことが多すぎる。

少しでも身軽になっておく必要がある。

そう判断したのであった。



「共和国のお嬢さんからデートのお誘いを受けたんだって?」

デスクに座って難しい顔をして書類整理をしているアッシュを茶化すようにミッキーがそう言うと、側で控えているエリザベートが非難気味の視線を向ける。

その視線には嫉妬の炎が燃え上がっており、ミッキーは背筋にすーっと冷汗が出た。

やべぇ、マジ怖いんだけど……。

女の嫉妬は、男と違いネチネチしてしつこいらしいからもうやめとこう。

ミッキーはそう頭の中に書き込むと、エリザベートの視線に気が付かないようにしてアッシュを見た。

アッシュは相変わらず書類に目を通していたが、「そんな訳あるか」と短くだが即答で否定する。

その否定でエリザベートの視線が和らぐ。

よかったーっ。

ミッキーはほっと心の中で胸をなでおろす。

「ではこんな緊急の要件は何だと思う?」

ミッキーの問いに、アッシュはやっと視線を上げて答える。

「恐らくだが、潜水艦絡みだろうな」

「やっぱりか……」

アッシュも薄々はわかっていたのだろう。

そう答える。

実際、フソウ連合との戦いで大打撃を受け鳴りを潜めていた潜水艦部隊ではあったが、立て直しが進んだのだろう。

攻撃を受けた、それらしき艦影を発見したという報告が上がっており、またそれらの情報からより行動範囲が広がりつつあることが伺える。

そして、そうなってくると潜水艦の問題は、王国だけの問題ではなくなってくる。

王国近海だけでなく、王国付近の公海にも出没しているようなのだ。

そして、王国の近くとはいえ公海となれば、連盟が航路封鎖を行った為に以前に比べれば船舶数は減ったものの、それでも色々な国の船舶が行き交うのには変わりがない。

特に遠方の輸送を連盟に頼り切っていた共和国は、航路封鎖対策として遠方の輸送の半数近くを王国経由での輸送で対応しており、以前よりはるかに多くの小型、中型貨物船が王国と共和国の間の公海を行き来している事になる。

そして、報告によれば、共和国の滞りかけていた物流の流れがやっと落ち着き始めた頃というのに、今回の緊急の会合希望である。

つまりは、共和国の船舶が潜水艦の攻撃を受け、落ち着き始めた物流の流れに支障が出始めたという事だろう。

やっとこっちの苦労を分かち合える時がきたか。

アッシュは心の中で苦笑しつつ、そう思う。

どちららにしても、王国だけでは余りにも広範囲過ぎて対策が打てなくなりつつあったのだ。

味方は多いに超したことはない。

それにフソウ連合も共和国も絡むとなれば、もっと戦力をこっちに振り向けなければならなくなる。

サネホーンとの戦いがあるとは言え、盟友とも呼べる国を蔑ろには出来ないだろうな、サダミチの性格なら……。

まぁ、済まないけど最大限にその性格を利用させてもらうぞ、サダミチ。

そう思考を整理するとアッシュは今やっていた書類を終わらせると立ち上がった。

「ミッキー、今からメイソン卿の所に行くぞ。それと父上の所もだ」

その言葉を待っていましたとばかりにミッキーが指を鳴らす。

「応よ。付き合うぜ」

その返事を受け、アッシュは頼もし気にミッキーを見る。

そして視線を今度はエリザベートの方に向けた。

「済まないけど、フソウ連合の駐在官と毛利艦隊司令にも連絡を入れてくれないか?」

「はい。なるべく早く会えるように対応いたします」

エリザベートが微笑みつつそう言う。

「ああ、頼んだ。あと……」

「処理の終わった書類の方はこちらで確認の後、対応しておきます」

「ああ、助かるよ」

「いえ。アッシュ様は、後顧の憂いなく前進してくださいませ」

「ああ、ありがとう」

まるで互いの事がわかりあっているかのような会話。

やっぱり、二人はお似合いだな。

ミッキーは苦笑しつつ二人の会話を見て思うのだ。

この二人が王国を率いるようになった時こそが、今までの衰退しつつある王国が新しく生まれ変わりより繫栄するのではないのかと。

そして、そんな二人の補佐が出来る喜びに打ち震える。

やってやろうじゃないか。

高揚した気持ちを抑えつつ、ミッキーはアッシュの為、王国の為により働くことを心ので誓うのであった。



フソウ連合王国駐在事務所の一室では二人の男がテーブルを挟んで話し込んでいる。

テーブルには王国周辺の海図といくつかの計画書が散らばっており、海図や計画書の書き込みからかなり熱心に話し込んでいるのが伺える。

「ふむ。現時点で計画予定の八割が消化済みといったところですか」

そう言ったのは王国駐在官である斎賀露伴である。

「ええ。王国海軍の対応も早く、予定以上に進んでいます。ただ……」

そう言い淀んだのは、王国に派遣された毛利艦隊の艦隊司令である毛利少将だ。

「聞いていますよ。連中がまた活動し始めたと……」

「ええ。それもかなり広範囲だそうです。こちらとしては、まだ対潜に対応できる戦力に限りがあるというのに……」

ため息交じりの言葉に、斎賀露伴は苦笑する。

「まぁ、思い通りにならない事は多々ありますよ」

彼とて以前鍋島長官に計画を徹底的に邪魔され、追い詰められた経験があるのだ。

それ故にその言葉は重い。

それは毛利少将も感じたのだろう。

「早々うまくいかないのが世の常という訳ですか」

「そういう事です。うまくいかないのを何とか修正しつつより良い結果を目指す。それしかありませんよ」

「ですな」

互いに顔を見合わせると苦笑いを浮かべるが、すぐに斎賀露伴が真顔になる。

「それで本国には?」

「ええ。向こうも大変だとは思いますが、増援を頼んでいます」

そう言った後、困ったような顔をする毛利少将。

「もっとも、どれだけ戦力を回してくれるか、見当はつきませんが……」

その言葉に斎賀露伴は渋い顔で聞き返す。

「本国の戦力がそれほど底をつきかけているという事でしょうか?」

「そういう訳ではありませんが、サネホーンの絡みで出来る限り戦力を温存したいという部分が大きいですね。まだ、サネホーンの総戦力がどの程度なのか把握しきれていませんし。もっとも、情報収集と共に時間稼ぎを行っているとは聞いています」

「時間稼ぎ?」

「ええ。詳しくは聞いていませんが……」

「ふむ……」

二人は黙り込む。

計画変更の指示がない以上、計画通りに進めるしかない。

そんな事を考えていると、ドアがノックされた。

「どうした?」

その斎賀露伴の声に、「失礼します」という声と同時にドアが開けられた。

相手は斎賀露伴の秘書である。

「はっ。王国のアイリッシュ殿下より駐在官と毛利艦隊司令と会合を行いたいと連絡が入っております」

その言葉に、斎賀露伴はちらりと毛利少将を見る。

彼は肩をすくめて苦笑を浮かべるのみだ。

要は、予想通りの内容だと言いたいのだろう。

「わかった。すぐに時間調整に入ってくれ。恐らく先方は急いでいるだろうからな」

「はっ。了解しました。それと……」

「まだ何かあるのか?」

「はっ。こちらを……」

そう言ってボードを手渡される。

そこには一枚の紙が貼りつけられており、どうやら共和国の駐在官からの連絡らしい。

それにざっと目を通した後、斎賀露伴はそのボードを毛利少将に手渡す。

それをざっと見た毛利少将はため息を吐き出した。

「どうやら、増援の要請は、強く言わなければならないようですな」

「ええ。向こうも大変だとは思いますが、今後の事を考えれば下手したら手が回らなくなりますから。もちろん、戦力増加の要請は駐在官として別にこちらからも出します」

そう言った後、苦笑して言葉を続ける。

「もっとも、どれだけ有効かはわかりませんけどね」

そう言いつつ、斎賀露伴は少しは期待していた。

外交と軍事が別々分かれていたら、恐らくあまり期待は出来なかっただろう。

だが、今、外交と軍事は一人の人物がまとめて対応している。

それにあの鍋島長官の事だ。

あの人なら何とかしてくれるだろうと。

そして、それは毛利少将とて同じなのだろう。

苦笑を浮かべつつも慌てている素振りはない。

「互いに同じ考えのようですな」

「ええ。ですがまずは王国との会合ですな」

「そうですな。まずは目標を定めねばブレてしまいますから」

その言葉に二人は互いに笑いつつ頷くと散らばった資料を片付け始める。

あとは、王国との会合後にという事だ。

それで今後の流れが決まる。

そう二人は確信していた。

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