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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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情報収集

「ここで二、三日待ってもらう事になると思います。もちろん、警備の方も万全ですし安全に過ごせると思います」

ポランドはにこやかな顔でホテルに二人を案内する。

そこは恐らく公国の中では最上級のホテルと言ってもおかしくない格調高い建物であった。

縦に長く、恐らく七階建てといったところだろうか。

贅を凝らした作りはさすがという感じではある。

しかし、表面には出さなかったが、二人は心中で顔を顰めた。

「リットミン様も公国におられる時はこちらを利用なさるのですか?」

思わずと言った感じで三島特務大尉はそう聞くと、ポランドは笑いつつ答える。

「いや、初めてきたときだけですね。それ以降は、リットミン商会の事務所や船で過ごしています」

そして声を潜めて「ここ、結構な額でしてね。そんな長期滞在するにはちょっと……」と言いつつ頭を掻いて苦笑する。

そこからはこの男が倹約家であることが伺える。

「では、ここで先方の連絡を待てばいいと?」

「ええ、恐らく早めに対応してくれるはずです」

その言葉に、川見大佐が頷く。

そして口を開いた。

「すみませんが、現地の新聞や雑誌を集められるだけ集めておいてもらえませんか?」

自分らが出歩いて集めるよりリットミン商会に頼んだ方が早いだろうと思ってそう言うと、ポランドは頷く。

「ええ。すぐにでもこちらに運ばせましょう。それ以外に何かありますか?」

その口調から、どうやら本人はホテルに泊まる気がない事が伺える。

「なら、ホテル周りの地図とかをお願いしたいですな。出来る限り細かなものを……」

「ああ、わかりました。うちで作っている市内地図の写しをお渡ししましょう」

「助かります」

「あと、何かありましたら、リットミン商会の方か、船の方にお願いしますね」

ポランドはテキパキとホテルのカウンターで手続きを済ませると立ち去っていく。

それと入れ替わりにホテルのボーイがにこやかな笑みを浮かべて近づいてきた。

「お部屋にご案内いたします」

二人はボーイに案内されつつ部屋に向かう。

その間も歩きながら二人はホテルの構造などを確認していく。

そして案内されたのは最上階の部屋であった。

ドアを開けつつ、ボーイが部屋の説明を始める。

そして最後にテーブルにある小ぶりの鈴を手で示しながら言う。

「何か御用の際はあの鈴を鳴らしていただければ……」

だが、その言葉を言いきる前に、川見大佐が困ったような顔をして言う。

「いや、せっかくの異国だ。どうせなら二人で過ごしたくてね」

その様子から何かを察したのだろう。

ボーイは笑顔を崩さず言葉を変えた。

「では、あのブザーを押していただければ、お伺いします」

「ああ、頼むよ」

「わかりました」

そしてボーイが退室していく。

ドアが閉まり、川見大佐が視線を感じて隣の三島特務大尉に視線を移すと、さっきまでの笑顔と違って真剣な表情の彼女がいた。

「やはり……か?」

「ええ」

短くそう言うと部屋の中央に行き、少し目をつぶって精神を集中する。

そして目を開けると部屋の中を歩き始めた。

そして足を止めてはインテリアや壁、家具に手を翳す。

その度にバチッと火花が散った時に発せられる音と少し焦げ臭い臭いが立ち上る。

でぐるりと部屋の中を一回りした後、三島特務大尉は呟くように言う。

「まぁ、こんなものかな」

「やっぱりか?」

「ええ。建物自体が大きな術式で覆われていたからね。でも思った以上に多いし、大掛かりなものがあったわね」

その言葉に、川見大佐は苦笑する。

「こういう最上級ホテルなんかはお偉いさんが使うからな。諜報や暗殺で使われる事もあるからそういった事も込みなのだろうよ」

「でしょうね。かなり古いものもあったし……」

「で?」

「まぁ、この部屋に関してはクリーンね。魔術に関する力はゼロよ。後、四方に札を張って簡易結界を張ったから、それで滞在中は一安心ってところかな」

「そうか。なら、つぎは俺か……」

そういうと今度は川見大佐が部屋の周りを見回していく。

時折、コンコンと壁や家具を叩いたりしている。

そして、浴室やトイレも見て回った後、戻ってきた。

そして苦笑する。

「まぁ、概ね問題ないかな。後は盗聴器関係だが、反応はどうだ?」

「今の所はそれらしいものを感知はしてないみたい」

カバンに目立たないように取り付けてあった機械を使いつつ、三島特務大尉はそう返事をする。

「そうか」

短くそう答えて川見大佐はクックックッと笑った。

「なにかあったの?」

「いや何、風呂に入る時は、壁に取り付けてある大鏡に布をかけて入れよ」

その言葉に、三島特務大尉はどういう意味が判ったのだろう。

すごく嫌そうな顔をした。

「それって……」

「まぁ、偉そうな鼻持ちならないご婦人や奇麗なご令嬢の丸裸を見て、従業員の鬱憤晴らしとしては使えるだろうな」

要は、大鏡はマジックミラーになっており、入浴の場面が丸見えだという事である。

「呆れた……。男ってホント馬鹿よね」

三島特務大尉が心底呆れたという顔でそう言う。

「まぁ、そういうな。男の欲望なんてものはそんなものだ」

川見大佐が楽しげにそう言うと、三島特務大尉は目元を細め、口角を引き上げる。

それは悪戯猫を彷彿させた。

「なら、貴方はどうなの?あなたも男でしょう?」

そう言いつつ近づくと身体を摺り寄せる。

すり寄ってきた三島特務大尉の身体をぐいっと引き寄せると川見大佐は抱きしめる。

「俺は、誰彼って訳じゃないぞ」

「ふーん。じゃあ誰かしら」

楽し気に三島特務大尉は身を任せつつ耳元でそう意地悪に囁く。

「決まっているだろう」

そう言うと川見大佐は口づけをする。

そして唇から離れた後、甘く囁く。

「お前だけだ」

その言葉に、三島特務大尉は頬を朱に染めつつも満足そうな顔になった。

「ふふっ。うれしいわ」

そうして二人はベッドに向かう。

勿論、ドアに鍵をかけて。



二時間後、互いに愛を確かめ合った後、ベッドの中で二人は今後の打ち合わせをしている。

愛の語らいではないのを残念に思いつつも互いに触れ合う肌のぬくもりと感触に満足しつつ、三島特務大尉は川見大佐の話を真剣な表情で聞いていた。

そして確認の為に復唱する。

「貴方が外で情報収集している間に、私はリットミン商会が持ち込んでくる新聞雑誌に目を通しておけばいいのね?」

「ああ。それと気を抜くなよ」

「まぁ、簡易とはいえ結界も張っているし、それにちゃんと射撃と格闘技能も練習したし……」

その三島特務大尉の言葉に、川見大佐は少し心配そうな顔をする。

「だが、まだまだ未熟だ。だから……」

「わかってます。貴方から比べれば誰だって未熟です。でも、心配しないで」

そう言った後、川見大佐にギュッと抱きついて囁く。

「それよりも私は貴方が心配です。無理しないで」

「ああ。無理はしないさ」

そして互いに抱きしめ合いつつ暫く無言が続く。

そして、二人はゆっくりと離れるとベッドから出で床に脱ぎ散らかしている服を身に着け始めた。

流石にこのままでという訳にはいかないと思ったらしい。

そして、身なりを整えると時計に目をやった。

すでに夕方の六時近い時間になっている。

「では、夕食を食べに行くか」

「ええ。行きましょうか」

川面大佐の言葉に、三島特務大尉はそう答えると、手を絡ませる。

「じゃあ、レストランまでエスコートしてよ?」

「勿論だ」

そして、二人は部屋を後にするとホテルのレストランに向かう。

ルームサービスを頼んでもよかったが、現地の雰囲気を感じたいという気持ちが強かった。

そして、夕食後、川見大佐は夜の街の情報収集に動き、三島特務大尉は部屋でリットミン商会が持ってきた新聞や雑誌に目を通すことになるのである。



地図を頼りに酒場を何件か周り情報収集を行っていた川見大佐だったが流石にうんざりとした気分になった。

ホテルを出てからというものずっと尾行が付いているのである。

恐らく、リレーでやっているのだろう。

何度か人物が変わっているが、尾行者は一人のようだ。

恐らくこちらが街に詳しくないと思っているのか、或いは距離を置いてもう一人いるのか。

ともかく、監視といったところだろうか。

「ご苦労なことだ」

川見大佐は口角を吊り上げて思わずそう呟く。

別に酒場に入って人に色々聞いて回っている訳ではない。

ただ静かに酒を飲みつつ、周りの人々の会話に耳を傾けているだけだ。

そのほとんどはくだらない話ばかりであったが、それでも分かる事はある。

政治に対しての不満が少ない事だ。

やはり酒が入ると出てくるのは愚痴だ。

特に政治に関しては酒場で討論する事もあるという事だが、思った以上に少ない。

それだけ、公国内は落ち着き、政治に対しての不満は少ないのだろう。

そんな事を確認しつつ、すーっといきなり路地に入った。

見失ってはいけないと思ったのだろう。

後ろで尾行していた者が慌てふためくように駆けてくる音が聞こえる。

ふんっ。素人め。

川見大佐は路地に入り込んだ壁の陰に身を隠しつつ獲物を待つ。

そこに哀れな獲物が姿を現した。

まるでそうなるのが当たり前のように、川見大佐は自然な流れで路地に入り込んできた尾行者を陰に引きずり込み気絶させた。

そして素早く尾行者の持ち物を検査する。

めぼしいものは持っていない。

財布にはいくばくかの金があるだけだ。

「ふむ……」

少し考えこむ川見大佐だったが首元にあるものを発見した。

それはドクトルト教のシンボルを付けたネックレスである。

それを見て川見大佐は呟く。

「そういう事か……」

帝国では基本宗教は禁止されている。

特にドクトルト教に関してはかなり厳しい。

なのに、それを身に着けているという事は……。

そこまで考えた後、時計を見て時間を確認する。

そろそろ戻らないと拙いか。

そう判断すると男を影の奥に押しやり、立ち上がると川見大佐は立ち去る。

何事もなかったかのように。

どうやら尾行者は他にはもういない様子だ。

素人め。

そう思いつつ、少し残念な気持ちになりながら川見大佐はホテルに戻ったのであった。



ホテルに戻ると三島特務大尉が苦笑しつつ出迎えてくれる。

「どうやら思った以上の情報は手に入らなかったみたいね」

その言葉に、川見大佐は苦笑して答える。

「いや、そうでもないぞ」

「そう?そんな感じに見えなかったから」

「まぁ、そっちはどうなんだ?」

そう聞き返すと三島特務大尉はテーブルに広げられている雑誌や新聞の方をちらりと見る。

「まぁ、公国が思った以上に安定しているという事と最近ちょっとした陰謀論が広がっているッとことがわかったわ」

「陰謀論?」

「ええ。フョードル上級大将がノンナ様が不在の間に乗っ取りを考えているとか辺りかな」

「ふむ。そう言った話か」

酒場でも少し耳に入った内容だ。

もっとも、今の状況が維持されるならそれでもいいと思っているものも意外と多いのには驚いたが、すぐに思い直す。

民衆にとってその政治家が政治をする事が大事なのではない。

政治が安定し、自分達の生活がきちんと維持でき生活できることが大事なのだと。

「そっちは?」

「こっちも似たようなものだ。あと、どうやら裏でドクトルト教関係が動いているようだ」

その言葉に、三島特務大尉が怪訝そうな顔をした。

帝国は宗教を禁止しているはずなのにと思ったのだろう。

恐らく帝国は徹底的に弾圧したであろう。

だが、それでもだ。

しかし、形を成さない以上、宗教という奴は完全に禁止したり、撲滅したりは出来ないものなのだ。

それが害悪であり邪悪だとしても一人でも信者がいれば……。

「それって裏で教国が動いている?」

「かもしれないし、別の組織かもしれない……。ともかくだ、注意しておくに越したことはないってことだな」

その川見大佐の言葉に、三島特務大尉は眉を顰めて頷く。

人という生き物は、精神的に脆く、染まりやすい事を彼女は知っているかのようであった。

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