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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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打ち合わせ

カルトックス島の湾内に一隻の輸送船が入港してきた。

その船の色は白を基本とした白系の色でまとめられており、また煙突部分のみが黒くなっている為かそれがくちばしに見え、見た者のほとんどは白鳥を意識させる。

そんな奇麗な印象の船。

その船の名は、ハロエ・アイローワ号。

古い言葉で『白銀の魔鳥』を意味する名前を持つ。

フソウ連合からリットミン商会に引き渡された船の一隻で、共和国に引き渡され雑草号となった艦船の兄弟船となる。

その速力の高さは折り紙付きで、恐らくこの世界の艦船では上位に入るだろう。

勿論、武装もされてはいるが雑草号に比べればかなり少なく、あくまでも護身用という感じだ。

それは、受け取るリットミン商会側からの希望でもある。

『我々は中立という建前で動きますから、過度な力は誤解を生むだけですので……』

最初にこの船を見たポランドが言った言葉である。

その時は、まだ武装も雑草号とほとんど変わらない程度であったが、その言葉に納得した鍋島長官からの依頼で急遽武装変更が行われた。

その為、火力として雑草号に比べ大きく劣る。

だか、引き渡しの時に船を見たポランドはニタリと笑みを漏らして呟いたという。

「やはり、こちらの方が美しい」と……。

その言葉を聞き、引き渡しの際に同席した鍋島長官は苦笑したという。

あの言葉は何だったのかと突っ込みたいのを我慢して。

そして、ハロエ・アイローワ号はその速力と美しさから、ポランドの脚とし世界中の海を動き回っているのである。

そんなハロエ・アイローワ号は、湾内に入り込むと島風の近くに止まり停泊の準備を始めた。

「やっときたか」

川見大佐はハロエ・アイローワ号を見てそう呟いたが、横で控えている三島特務大尉はクスクスと笑った。

「まだ約束の時間前ですよ、大佐」

その言葉に、川見大佐が少しムッとした顔になる。

「判ってる。ただ言ってみただけだ」

そんな表情でも三島特務大尉は笑いつつ言い返す。

「はいはい。では行く準備をしましょうか」

そう言いつつ、三島特務大尉は川見大佐の背中を押しつつ艦橋から二人で出でいこうとする。

その様子は、まるで子供をあやす母親のようだ。

「お、おいっ。こらっ」

そんな川見大佐の声が響くも、それは直ぐに静かになった。

二人共艦橋から退室したからである。

そんな二人のやり取りに、艦橋に残ったスタッフや島風は苦笑を漏らす。

今やすっかり見慣れた光景だが、最初はまさかあの川見大佐がと目を疑ったものである。

「しかし、変わるものだなぁ……」

ぼそりと艦橋スタッフの一人が呟いた一言。

だが

その場にいた誰もが頷く。

そして、別のスタッフからも言葉か漏れる。

「ああ、俺も嫁さん、欲しいなぁ……」

そのしみじみと羨ましいという言葉に、苦笑いとため息が他の者達から洩れる。

要は、苦笑は既婚者、ため息は未婚者である。

既婚者にしてみれば、そんなに夢見るようないいものでもないぞという思いだろう。

確かに全くいい事がないわけではないが、他人との共同生活は衝突を生むし、うまくいかない事もあるのだ。

大変なんだぞ。

そんな思いが苦笑という形になったのだ。

なお、ため息を吐き出した未婚者に関しては、その一言に完全同意し、独り身の寂しさを痛感していて漏れたのは間違いなかった。



「お客さんはもう来ていたか」

停泊作業をしている船員の様子を見た後、艦橋の窓から広がる周りの景色を見渡しつつポランド・リットミンは視線をある一点に向けた。

その視線の先には、グレーの軍艦が見える。

島風だ。

どうやらカッターの用意をしているようだ。

「ふむ。お客様は直ぐ来られるようだ。出迎えの準備を」

その命を受け、乗り込んでいたリットミン商会の社員が短く返事を返すと動き出す。

「さて、彼らはどう判断するか……」

そう呟くポランド。

その表情は決して明るいものではない。

どちらかというと疲れていると言っていいだろう。

実際、公国に寄って面会を求めたものの、ノンナとの面会は拒否されてしまった。

病院に入院しており、今は面会謝絶だという。

そして、彼の片腕ともいえる公国防衛隊長官のビルスキーア・タラーソヴィチ・フョードル上級大将の不可解な動き。

粛清を始めとする反対勢力の取り締まりと作戦の停止。

何か次の策の準備かと思えば、その様子もない。

敢えて言うなら、自分に権力を集中させるかのような動きなのである。

確かにノンナ不在の今、彼が権力を掌握しうまくやる必要はある。

元々ノンナという存在があってこそ、公国はまとまっていたのだ。

しかし、ノンナという存在が表立って出てこない以上、仕方ないのかもしれない。

だが、余りにも性急すぎ敵を多く作ってしまっている。

彼の御仁ならもう少しうまくやると思うのだが……。

その理由はなぜだ。

やはり……。

そこでポランドは頭を振った。

考えたくない方に思考が動いたからだ。

そして、思うのだ。

ノンナに会いたいと……。

そして、その思考を頭を振って追い出す。

彼女と自分とでは立場も身分も違いすぎると。

だが、それでも思考は動き、余計なことを考えさせてしまう。

厄介だな。

そうポランドは考えてため息を吐く。

こんな事は初めてだ。

だが、今はそんな暇はない。

そう思考を切り替えて自分の頬をパンパンと軽く叩く。

「よしっ。お客様を出迎えるか」

そして、彼は艦橋を後にするのであった。



三十分後、ハロエ・アイローワ号の客室には、三人の人物が集まっていた。

この船の主であるポランド・リットミンと川見大佐、そして三島特務大尉である。

部屋は小綺麗に片付き、テーブルに椅子、それに棚がある程度で最低限の家具しか置いてないもののその家具はかなりの高級品だろう。

まさに商談するにふさわしいという感じの部屋だ。

互いに挨拶を簡単に済ませると川見大佐は単刀直入に聞く。

「公国で何が起こっている?」

その問いにポランドは苦笑するが、こう言う愚直なまでのストレートな物言いは嫌いではない。

どちらかと言うと遠回しに言われるより好意を持つと言っていいだろう。

商人として今までいろんな相手と会話し商談してきたからなのかもしれない。

だから、川見大佐の言葉に、現在手に入れている情報を全て話す。

ノンナが表舞台に出てこなくなった。

重症の為に面会謝絶というが、病院の警戒があまりにも厳しすぎるのと彼女と面会しているのはほんの数名のみだという事。

自分に権力を集めるかのようなフョードル上級大将の不可解な動きと反対勢力の粛正。

軍全体の動きが完全に停止しており、反対に親衛隊と言った一部の部隊の動きが増しているものの、何か準備をしているとも思えない現状。

定期の補給物資の動きはあるが、それ以外の物資の動きはほとんどなくなった事。

それと人々の間に広がりつつある噂の事。

それらを伝えると川見大佐は黙り込んだ。

ある程度は本国に届いていたものの、ここまでとは思っていなかったのだろう。

「それで、人々に広まっている噂というのは?」

そう聞きてくる川見大佐に、ポランドはため息を吐きつつ言う。

「よくあるやつです。ノンナ殿をフョードル上級大将が幽閉し、権力を手に入れようとしていると……」

「確かフョードル上級大将は直属の情報機関を持っておられましたな」

「ええ。国内の諜報に特化している感じでしたが……」

「ならば、それらを使って噂を抑える事はある程度出来るはずですね」

「ええ。マスメディアも抑えているはずですから」

「なのに噂は広まっている……」

そう呟くと川見大佐は黙り込む。

その様子を見つつ、ポランドは口を開いた。

「余りにも性急にことを進め過ぎている感じはしますが、確かにおかしいですね」

「かなり有能で忠誠心が厚い人物だと聞いている。そんな人物が権力を求めるか?」

「ふむ。言われる通りですね。会って会話した印象では、私利私欲で動く人物ではないと私も思いましたし」

二人が考え込む中、蚊帳の外で会話を聞いていた三島特務大尉が口を開いた。

「なら、もしかして、それってわざとじゃありません?」

そう言って自分に向けられた視線ににこりと笑って言葉を続ける。

「だって、情報の大元を押さえていて、情報統制の組織も持っている割には結果がお粗末すぎるでしょう。その組織が無能ならともかく、粛清をして成功しているという事はその組織は無能ではないと思います。なら……」

「確かに。だが、そうだとして何がある?」

そう川見大佐に聞かれて、三島特務大尉は考え込む。

だが、すぐに思いついたことを口にした。

「上司に同情を集めるとか、或いは何か良からぬことをするからそれを隠す為とか……」

その言葉を聞き、二人は考え込む。

どれほど時間が経ったのだろうか。

すでに出された紅茶は冷めてしまっている。

沈黙だけが辺りを包み込む鎮まり勝った空間と時間。

しかし、その時間もそうそう続かない。

川見大佐がポランドに聞いてきたのだ。

「貴方はどう思いますか」

その問いに、何を聞いているのかを分かったのだろう。

ぎゅっと唇を一度噛みしめてポランドは口を広げた。

「恐らく、ノンナ殿はヤバいのかもしれません」

それは考えたくなくて、今まで必死に考えないようにしていた事だ。

しかし、聞かれた以上、隠す事は出来ないと思っていた。

向き合う必要がある。

そう判断したのである。

「ふむ。それでなら彼の動きもわかりますな」

要は、フョードル上級大将はノンナがいなくなったときの為に動いているのだと。

「そうなりますか……。やはり……」

その言葉に、川見大佐と三島特務大尉は黙り込む。

それはポランドの気持ちを察したと言っていい。

だからこそ、何も言えなくなったのだ。

下手に慰めは意味がないと。

そして、確認しなければならない。

そうしなければ動けない。

そう判断したのだろう。

川見大佐は口を開いた。

「ポランド殿、フョードル上級大将との面会は出来ますでしょうか?」

恐らく、もし予想通りならフョードル上級大将は今大忙しだろう。

それ故に聞いたのである。

「あ、ああ。リットミン商会の名前を出せば無下には出来ないと思います。ですから出来ると思います」

ポランドはそう答えるが、川見大佐が何を考えているのかわかったのか少し思いつめたような表情になった。

だが、それを見ない振りをして川見大佐は言う。

「では、すぐに面会の取次ぎをお願いしたい」

「わかりました。ですが、軍艦で入港は難しいですね。ですので、この船での入港をお願いします」

いくら公国をフソウ連合が支援しているとはいえ、それは表向きには公表されていない。

そんな中、フソウ連合の、他国の艦艇が港に堂々と入港すればどうなるだろうか。

とんでもない騒ぎにしかならない。

ポランドはそう判断したのだ。

そして、川見大佐も事を大きくしたくないと思っていたのでその提案を受け入れる。

「わかりました。島風は沖合で待機させておきます」

こうして、フソウ連合の軍人としては初めて公国に訪問する事になった川見大佐と三島特務大尉であったが、それはあくまでも非公開であり、秘密裏に行われる事となったのであった。

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