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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十三章 統一

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新たな動き

アデリナは当初困惑していた。

スカンジナバトル海戦後の公国の動きがあまりにもないからである。

旧連邦領を攻略するわけでもなく、ただ防備を亀のように固めているだけだ。

本来なら陸戦での激しい攻防戦があると踏んでいたアデリナは、余りの拍子抜けの不自然なその動きのなさに警戒を強める。

こんな時ノンナならばどうするか。

それを考えた結果、次の手の為に準備をしているに違いない。

そう判断したからである。

なお、彼女の幕僚達も概ねアデリナの意見に賛成であった。

それだけ帝国のノンナの評価は高かったのである。

もっとも、秘密裏に公国を立ち上げる準備を行い、実際に立ち上げ、一時期は旧帝国領の三割以上を手にして三勢力の中で最も統一に近い存在になっていたのだ。

現状を知っている人間ほどその困難さがわかるだけにそう言う評価になってしまうのだろう。

また、次にどういう手を打ってくるかがわからない以上、警戒はしておくべきである。

そう言う判断を下したのであった。

その為、公国側にはちょっかいは出さず、防衛ラインを構築し、その間にまだ占領していない旧連邦領の取り込みと占領に力を注ぐ方針で動くしかなかったのである。


「陛下、東部地区はほぼ制圧が終了いたしました」

部下のその報告に、アデリナは満足そうに頷くものの、心の中では成功して当たり前だと思っていた。

東部地区は、元々は連邦を立ち上げた支持地区ではあったがそのあまりにも酷い暴走に今や完全に反連邦へとなってしまっており、その上、人望があるプリチャフルニア・ストランドフ・リターデンが帝国に付き、説得して回ったのである。

ここまでお膳立てしてもらったからには、余程の事がない限りは失敗しないと予想できたからである。

だが、そういう思考は表情には出さずにアデリナは微笑んだ。

「そうか。皆よくやってくれたと伝えておいてくれ。それとリターデン殿には特にな。近々会えるのを楽しみにしていると」

「はっ。しっかりと伝えます」

そう言うと部下は退出していった。

そして完全にドアが閉まったのを確認してから、アデリナは苦笑を浮かべた。

「まぁ、東部地区は心配してなかったからな。問題は南部地区の方だが……」

その言葉に、副官のゴリツィン大佐が答える。

「現在、七割近くを掌握しておりますが、残りの三割がなかなか……」

「アンベラナ地区か?」

「はい。あの地区が中心となって……」

その予想通りの答えにアデリナはため息を吐き出した。

アンベラナ地区。

他国との貿易を中心に栄えた地区ではあったが、前皇帝カルル・レオニード・フセヴォロドヴィチが愚策で他国との貿易を限定し、自分の支持者のみに許可したことで、この地区は一気に貧しくなってしまった。

そして、その上、この地区の領主である貴族の一人娘が皇帝の遊びの為に無理やり奪われ、弄ばれた挙句ゴミのように捨てられてしまったのだ。

元々しっかりした娘ではあったが、あまりにも酷い仕打ちと精神と肉体に受けた傷がもとで悲観にくれた娘は自殺。

貴族も不手際を捏造されて取り潰しにあってしまう。

その余りにも酷い仕打ちと統治していた貴族が領民に慕われていたという事があり、これにより皇室はこの地区に住む領民を完全に敵に回してしまったのだ。

もちろん、力が違いすぎる為に表立っての抵抗はない。

しかし、裏では反帝国の精神は消えることなく燻り続け、連邦の旗揚げの際には南部地区で最初に協力と参加を申し込んだほどであった。

「今の帝国は以前の帝国とは違うと伝えてはいるのだろう?」

「はい。それは間違いなく。ですが、元々根付いた反帝国の主義を覆すまでには……」

「ふーっ」

息を吐き出すとアデリナは天井を見上げた。

「従弟殿も無茶苦茶やりすぎだ。あの馬鹿が……」

そう言いつつ、そのころは自分もあまり変わらなかったなと思い出し、アデリナは苦笑を浮かべた。

「仕方ない。従弟殿の尻拭いをするしかあるまいて」

アデリナは立ち上がると幕僚達を呼ぶように指示をした後、言葉を続けた。

「やはり、私が行くしかないか」

その言葉に、ゴリツィン大佐は何か言いたそうに口を開きかけたが、すぐに閉じると別の言葉を口にした。

「陛下のお心のままに」

その言葉とその様子を見ていたアデリナはクスクスと笑う。

「心配するな。うまくやるさ」

そう言うとアデリナは立ち上がった。

公国の動きばかりに気を取られるわけにはいかない。

何をするか予想がつかない以上、何が起こったとしても少しでも有利になる様に準備しておくしかないのだから。



帝国の要請を受け、フソウ連合は艦隊の派遣を決定した。

そして、すぐに艦隊は編成された。

だが、その艦隊は、今までと大きく違っている。

例外の一隻を除き、そのほとんどが付喪神がいない艦艇ばかりで構成されていたのだ。

構成は、簡易明石型工作艦一隻、簡易橘型駆逐艦四隻、輸送艦二隻となっており、そんな中唯一の付喪神付き艦艇として高速駆逐艦島風が参加していた。

もちろん、護衛という形だが島風は別任務で別行動をすることになる。

その任務とは、公国領の情報収集だ。

その為に艦隊が公国領の借用地であるカルトックス島で艦隊が補給を受けた際に、そこに残り、公国に向かうのである。

勿論、一隻だけではない。

リットミン商会の商船と合流してという形になる。

「準備の方はどうだ?」

そう聞かれ、島風の付喪神は苦笑を漏らした。

「準備は問題ないけど、また貴方と共にするとはねぇ」

そう言われて、言われた本人、川見悟大佐は楽しげに笑った。

「まぁ、これも何かの縁だ。またよろしく頼むぞ」

「無茶せんでくださいよ」

「わかっているって」

川見大佐がそう言うものの、島風はじとーっとした目で川見大佐を睨むように見続けている。

そんな雰囲気を吹き飛ばす為だろうか。

「大丈夫です。大佐の手綱は私がしっかり握っておきますから」

横から楽し気な女性の声が割り込んだ。

川見大佐の副官である三島小百合大尉だ。

もっとも、仕事の時は三島姓を名乗るものの、プライベートでは名字が変わる。

そう、籍をいれたのである。

もちろん、相手は川見大佐だ。

周りの雰囲気と彼女の押しの強さに圧されて……。

勿論、それだけではなく、本人も彼女の心の強さに惹かれていたというのはある。

だが、それでも抵抗はあったのだろう。

年の差は一回り違うし結婚式は出来ないぞと言って抵抗をこころみたものの、それは残念だけど年の差はどうせ縮まらないし、結婚式も落ち着いてからでいいからと言い切られ、その上、籍を入れるだけでもいいよと言われる始末。

そこまで言われてしまえば断るのは難しい。

なんせ、周りはこの件に関しては敵しかいないのである。

相談したら、『まだ結婚してなかったんですか?』とか『健気じゃないですか。だから籍ぐらい入れてあげたらどうです?嫌いじゃないんでしょう?』とか言われて、かえって追い詰められてしまう有様で、ついに二週間ほど前に川見大佐は彼女に陥落させられてしまっていたのであった。

そう言うことがあった為か、ますます何かあれば川見大佐のブレーキ役として、皆、彼女を頼る図式が出来上がってしまっていたのである。

その事を島風も知っているのだろう。

ニタニタと笑いつつ口を開く。

「それは頼もしいですな」

島風が楽しげにそう言うのとは反対に、川見大佐が不貞腐れたような顔になった。

そんな川見大佐を見かねたのだろう。

三島特務大尉が笑いつつ言う。

「ほらっ、拗ねないのっ」

「あーっ。わかった。わかったから、もうやめろ。俺は先に部屋に戻っているからな」

「はいはい~♪」

耳を紅くして艦橋から出ていく川見大佐を三島特務大尉はニコニコと笑いつつ手を振って見送った。

その様子を島風だけでなく、艦橋にいた乗組員全員が苦笑しながら見ている。

あの強面の川見大佐がねぇ……。

誰もがそう言いたげな表情であった。

「いいんですか?」

島風がそう言うと、三島特務大尉は苦笑する。

「いいのよ。照れてるだけだから。どう対応したらいいのかわかってないの。不器用なのよ、あの人」

その物言いに、島風は苦笑しつつもなんかほっとしていた。

あの川見大佐がねぇという気持ちもあるが、彼女なら大佐の事をしっかり支えてくれそうだと思って。

「それで出港は?」

「間もなくです。そして三日後にはカルトックス島につく予定です」

「そう。そこで合流して……、対策はしてもらった?」

その言葉に、島風の表情が変わり、真剣なものになる。

「はい。一応、魔術師の皆さんが艦内に色々結界なんかを張っておいてくれていますが、そんなに危険ですか?」

その問いに、三島特務大尉も真剣な表情になる。

「危険かもしれないってことだから、念のためよ。もっとも、魔術に関しては、フソウ連合と肩を並べるレベルだとは思うからね。でなきゃ、艦船の復元召喚とか、あの魔女みたいな厄介な連中は生まれないでしょ?」

「確かに……。ですが、それは帝国だけではないのですか?」

「公国も帝国も根本的な部分は変わらないわ。だから、警戒するにこしたことはない。そう思わない?」

「ええ。そうですね。対策は必要ですね」

深刻そうな表情で島風は頷く。

だが、それを見かねたのだろうか。

三島特務大尉は表情を変えるとカラカラと笑った。

「でも、それも念のためってだけだからさ。もしかしたら無駄になるかもしれないかもね。その時は、笑い話にしましょう」

それに釣られて島風も笑う。

「そうですね。そうしましょうか」

そしてそんな会話をしている間にも、艦隊の出向の準備が進む。

恐らく、後三十分もしないうちに出港だろう。

そんな様子を見つつ三島特務大尉は表情を引き締める。

もしまたあの女と対峙したとしても、今度は負けないと決意を新たにして……。

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