第一次シマト諸島攻防戦 その3
「第一隊はなかなか見事な展開だな。混戦にならないように注意しつつ深追いせずうまくやっている。それに第二隊も自分の仕事がよくわかっているな。きちんと役割をまっとうしている」
的場少佐が前方の海域で展開される戦いを見て呟く。
「そうですね。少佐の作戦通りに動いています」
最上が横から的場少佐の顔を覗き込みニヤリと笑う。
「でも意外ですね…」
「何だ?何が意外なんだ?」
「もっとも、あれだけお膳立てしたんですからこれくらいはやってもらわねばとか言うと思ってましたよ、私は…」
笑いつつ最上にそう言われ、的場少佐は少しムッとした表情になる。
「お前は、俺をどんな風に見てるんだ?その辺の事を今日はしっかり話してもらうからな」
的場少佐がそう言って詰め寄ろうとしたが、最上は笑いつつ前方を指差す。
「少佐っ、第一隊が後方艦隊に向って移動始めましたよ。ほらっ、私達も移動しましょう」
視線をそっちに向けた的場少佐はため息を吐き出すと命令を下す。
「只今より本隊による敵艦隊掃討戦を開始する。降伏する者、漂流者の回収は、第十一輸送隊、第十二輸送隊に任せろ。また、被弾した艦は第一警備隊、第六警備隊が基地母港まで支援をするように。残りの本隊は、まだ反撃するもの、抵抗するものを駆逐していく。各艦、油断することなく任務を遂行せよ」
的場少佐の言葉が終わるのと同時に、各艦がそれぞれの命令にあわせて動き出す。
軽巡洋艦最上と第十六駆逐隊の駆逐艦松と桜の三隻が敵先行艦隊に向う。
戦力的にはわずか3隻だが、すでに敵にはほとんど抵抗するべき戦力は残っていない。
中途半端に浮かんでいる破損した艦を一隻一隻と沈めていく。
もちろん、砲撃前に勧告は行う。
それでも逃げない人間や抵抗する人間にはさすがに救いの手は差し向けない。
本人の意思を尊重するというのが建前だが、味方を危険に曝してまでなぜそこまで敵を優遇しなければならないのかと言うことに繋がる。
もちろん、助けられるものは助けるし虐殺を行うつもりはない。
しかし、できる事は限られているし、いくら人の命が大事でもまずは味方を優先する。
ただそれだけだ。
まさに人の力なんてちっぽけなものだな。
そんな事を思いつつ、的場少佐は目の前で沈められていく敵の艦艇を見ている。
「なんか嫌なものですね」
的場少佐の横で最上が呟く。
多分、自分もいつかは同じ目にあうと思っているのだろうと的場少佐は考えて、視線を前方に向けたまま最上の肩をぽんと叩いて言う。
「心配するな。俺はお前をあんなめにはあわせないからな…」
驚いた表情で的場少佐を見た最上はうれしそうに笑った後、宣言する。
「なら、私は、必ず貴方を戦場では死なせません。絶対です」
今度は的場少佐が苦笑した。
「なら、二人して勝利していこう」
「ええ。もちろんです」
そして二人は握手を交わす。
互いの思いの篭った握手を…。
それはもう、人とか付喪神とかの関係をこえた友情の形であった。
第一隊と入れ替わり、本隊が先行艦隊を殲滅して後方艦隊に追いついたときにはもうすでに戦いは終わっていた。
圧倒的な勢いで先行艦隊を壊滅させた第二隊、第一隊の勢いの前には、装甲巡洋艦六隻では止められるわけもない。
しかし、最終的には勝利したものの、第一隊が参戦するまではほぼ互角の戦いであり、第一隊の参戦が遅ければもっと損害が出た可能性さえあった。
その理由としては…
第一に、第二隊は奇襲をかけて先行艦隊を砲撃して方向転換をしたまではよかったのだが、第208偵察中隊が後方艦隊を照らす照明弾をうまく投下できず、結局は砲撃が当たって敵艦が炎上してあたりを照らすまでは、サーチライトで敵艦を照らしながらの砲雷撃戦となった。
第二に、先行艦隊が攻撃された後ということで後方艦隊が攻撃準備する時間があった。
この二つが上げられる。
その為、先行艦隊との戦いでは無傷であった第二隊にも損害が出てしまっている。
だが、その点があったとしてもこの戦いは、圧倒的なフソウ連合海軍の勝利であった。
第一次シマト諸島攻防戦(この時点では、まだシマト諸島攻防戦)
●参加艦船
シルーア帝国東方艦隊 派遣艦隊 計二十六隻
重戦艦 一隻
戦艦 七隻
装甲巡洋艦 十隻
輸送艦 三隻
兵員輸送艦 二隻
補給支援艦 三隻
フソウ連合海軍北方方面艦隊 計十九隻
第四水雷隊 軽巡洋艦 最上
第一水雷隊 軽巡洋艦 大井 木曽
第一駆逐隊 駆逐艦 白露 時雨 村雨
第二駆逐隊 駆逐艦 夕立 春雨 五月雨
第十六駆逐隊 駆逐艦 松 桜
第一警備隊 駆潜艇 13号 14号
第六警備隊 掃海艇 19号 20号
第十一輸送隊 一等輸送艦 1号艦 2号艦
第十二輸送隊 二等輸送艦 101 102
●被害
シルーア帝国東方艦隊 派遣艦隊
撃沈 重戦艦 一隻
戦艦 七隻
装甲巡洋艦 七隻
輸送艦 二隻
兵員輸送艦 二隻
降伏 装甲巡洋艦 二隻
輸送艦 一隻
逃走 装甲巡洋艦 一隻
輸送艦 一隻
死者一万四千百二十二名 捕虜七百三十二名
フソウ連合海軍北方方面艦隊
損傷 軽巡洋艦 大井 小破
駆逐艦 白露 小破
駆逐艦 村雨 軽微
駆逐艦 夕立 小破
駆逐艦 春雨 軽微
死者二十六名 重軽傷者 八十三名
だが、これはこれから続くフソウ連合とシルーア帝国の二国間の争いの前哨戦でしかない。
そう…。
戦いは始まったばかりである。




