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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十二章 帝国対公国

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スカンジナバトル海戦  その3

七月十七日十三時二十八分。

互いに対峙した帝国、公国両艦隊は砲撃を開始した。

隊列は、公国が三縦陣で、帝国は単縦陣である。

公国の三縦陣の編成は、左右に戦艦三隻を先頭に装甲巡洋艦五隻が続く縦陣、中央の縦陣には旗艦ビスマルクを先頭に、シャルンホルスト、グナイゼナウ、重戦艦三隻、戦艦一隻が続く。

そして、残りの一隻は爆沈したランパドランシャの救助別行動をしていた。

対して単縦陣の帝国は、装甲艦リュッツオウ、アドミラル・シェーア、アドミラル・グラーフ・シュペが並び、その後に旗艦プリンツ・オイゲン、戦艦二隻、装甲巡洋艦七隻が続く。

どう考えても火力では圧倒的に不利ではあったが、機動力に関しては帝国が有利であった。

三縦陣にしたために、単艦でのとっさの回避がしにくくなったのである。

だが、それはノンナもわかっていた。

しかしそれでもこの陣を選択した最大の理由は、火力の集中をしたかったためだ。

点での攻撃ではなく、面での攻撃を重視したと言っていいだろう。

だから、本来ならとっくに射程距離に入っているはずなのに、他の重戦艦や戦艦の射程距離に合わせてビスマルクやシャルンホルスト、グナイゼナウも砲撃を開始した。

勿論、近い方が命中率が高いのもあるが、今回は、圧倒的な火力、砲撃の雨で敵を殲滅しょうと考えたのだ。

それに足を封じられたとはいってもビスマルクやシャルンホルスト、グナイゼナウに致命的なダメージを与えようとしても難しい。

それこそ、破壊力の高い大口径砲でなければ……。

そして、それが出来る火砲を持つのは、装甲艦リュッツオウ、アドミラル・シェーア、アドミラル・グラーフ・シュペの三隻のみだろう。

同じ口径だったとしても、この世界で作られた火砲はどうしても召喚された艦艇よりも劣る。

それはノンナも十分にわかっていたし、それに何より、ビスマルクは以前の圧倒的な数の差で行われた王国との海戦で多勢に無勢の状況でありながら、致命的なダメージは受けず、反対に敵を粉砕したという事もある。

『この()達は、決して私達を裏切らないし、傷つけさせるようなことから必死になって守ってくれるわ。だって、この()達、私とノンナの事大好きだって言ってるもの』

この言葉は、王国との戦いの際に、アデリナが艦橋で自分の指揮官用椅子に座りつつ目を細めて言った言葉だ。

それは気休めだったのかもしれない。

だが、度重なる戦いで、確かにビスマルクも、自沈処理したテルビッツ、それにシャルンホルスト、グナイゼナウも艦橋に攻撃を喰らった事はない。

だから、その言葉は今や気休めではなく、ノンナの中では真実となっていた。

「いいっ、各艦、一斉に合わせて面で砲撃を行いなさい。相手がちょこまかと動こうが面で砲撃すれば早々回避ばかり出来ないわ」

公国各艦の前面の主砲、副砲がタイミングを合わせて砲撃を開始する。

まさに、砲弾の雨だ。

それに負けじと帝国も砲撃を開始したが、圧倒的な火力差で押される。

その為だろう。

帝国艦隊は右に舵を切ると公国艦隊に腹を見せる様に動きを見せる。

前面だけでなく、後ろにある砲を使い少しでも火力を補うための動きでもあった。

だが、腹を見せるという行為は、前面に比べ、命中しやすくなるというリスクがある。

「よし。我らはこのまま敵に突き進み敵と平行になる様に動くぞ」

ノンナの指示を受け、艦隊は砲撃を行いつつ、少しずつ右に進路をずらしていく。

互いに腹を見せあい砲撃戦を行う形を作ろうとしたのだ。

その結果、お互いの艦隊は一定の距離を保ちつつ、砲撃を加えつつまるで円を描くような動きになる。

それは互いに相手に譲らないという強い意志を示しているかのようであった。

だが、それでも限界はある。

じわじわと火力の差が表れ始め、開始三十分後の十三時五十八分。

幾つもの水柱のあげた海水を浴びつつも、回避し続けていた帝国艦隊の艦艇に命中弾が出る。

命中したのは三番目に並んでいたアドミラル・グラーフ・シュペだ。

艦尾の部分に命中し、大きく艦体を揺るわせる。

そして、戦列から離れ、より中側に入り込むような動きを見せる。

それは今の砲撃で舵が故障したという事を意味していた。

後続に続く、旗艦プリンツ・オイゲン以降の艦艇が慌てて回避を行う。

それが今まで均衡を保っていた戦いの崩れるきっかけとなった。

「よしっ。各艦、戦線から離れつつある敵艦に集中攻撃だ」

ノンナの命令の元、雨のような砲撃がアドミラル・グラーフ・シュペに集中する。

舵のきかないアドミラル・グラーフ・シュペはろくに回避も出来ず、砲撃の雨に晒されるだけだ。

そして、また一発、また一発と今まで当たらなかったのが嘘のように命中弾を受けて遂にアドミラル・グラーフ・シュペは力尽きる。

幾つもの爆発が起こり、轟沈したのであった。

勿論、それを黙って帝国が見ていたわけではない。

崩れた隊列を整えると敵に砲撃を加えたのである。

そして、いくつかの装甲巡洋艦や戦艦に命中弾を与えるものの傾いた流れは取り返せない。

そう、今や完全に流れは公国が掌握しつつあった。



「くそっ」

目の前で轟沈するアドミラル・グラーフ・シュペを目に、アデリナは食た唇を強く噛む。

グッと握りしめられた拳はわなわなと震えていた。

だが、それでもここでやめるわけにはいかない。

救助を優先することも出来ない。

劣勢なのは自分らの方だからだ。

そんな余裕はない。

だから済まない。

許してくれ。

そして、私が出来る事、彼らに報いのはただ一つ。

勝利する。

それだけだ。

だから耐えろ。

耐えるんだ。

そう自分に言い聞かせる。

しかし、心の何かでは感情が大きく荒れ狂い、暴風雨のようであった。

そして思うのだ。

以前の自分なら、こんなことは思わなかっただろう。

兵士は駒だ。

いくらでも変わりはある。

それに軍艦だって……。

だが、軍港モッドーラでの撤退戦、『エスケーププラン』以降、考えは大きく変わった。

今まで関わってこなかった兵士や人々との関わりによって。

そして、自分の未熟さ、不甲斐なさも……。

そんな自分を支えてくれる人々。

それ故に彼らの死を無駄にしてはならない。

ぐっと握り締めた拳を振り上げる。

ダンっ。

海図の乗ったテーブルを叩きつける。

そして叫ぶように命令を下す。

「作戦第二段階だっ」

その命令に、艦橋内の誰もが悔しそうな顔をする。

しかし、悲観にくれるものはない。

只々、自分の力不足を無念だと思っている。

苦しい戦いになるのは予想できた。

だが予想と現実は違う。

感情という要素が入り込むためだ。

人は、感情の動物である。

だが、それでも人は感情を制御する術を持っている。

誰もがグッと表情を引き締めた。

「了解しましたっ」

副官のゴリツィン大佐がそう返事を返すと、艦橋のスタッフの一人が叫ぶ。

「アデリナ様、勝ちましょう!!」

その言葉に、誰もが頷く。

それはその場の、いや、帝国艦隊の乗組員達の総意のようであった。

誰もが、その言葉に頷き、己の役割を果たそうと必死になっている。

そんな彼らを見回し、アデリナは下唇を嚙むのを止める。

そう、まだ戦いは始まったばかりなのだ。

こんな事で動揺してどうする。

後悔は全て終わってからすべきだ。

今は、やれることを全力でやるのみ。

そして、勝利するのだ。

それは余りにも強い勝利への執念であった。



「敵艦隊、進路を変えました」

その報告に、ノンナはニタリと笑う。

さて、どう動くか。

そして続く報告にノンナは自分の予想が当たったことを確信した。

帝国艦隊はシンカンバ島の方に進路を取ったのである。

傍から見れば、帝国艦隊は主力艦の一隻を失い、隊列を整える為に退くように見える。

そして、攻める側としてはこの戦いの流れを失いたくないと考えて追撃に移るのが普通だ。

だが、そこを狙っているのは明白だ。

追撃戦に移った場合、艦艇の速力の差で隊列にズレが生じるだろう。

そしてそのズレによって生まれた隙間に待ち構えていた駆逐艦で雷撃攻撃を仕掛ける。

実にいい策だ。

しかし、甘い。

その策は相手の戦力が把握できない時のみ有効で、今回のように互いの戦力がわかっている場合は通用しない。

それを教えてあげるわ、アデリナ。

「よし。先発艦隊に連絡。シンカンバ島裏に回り込み、待ち伏せしている敵艦隊に攻撃を仕掛けよと」

「はっ。了解しました」

そして、ノンナは満足げに視線を前方に向ける。

さぁ、絶望するがいい。

策などすべてお見通しだという事を教えてあげるわ。

ノンナは心の中で高笑いを上げるのであった。



「間もなく、シンカンバ島近海です」

ゴリツィン大佐の言葉に、アデリナは聞き返す。

「それで、敵の動きはどう?」

「はっ。予定通り追撃戦に移っています。かなり隊列にばらけが見られるとのことです」

「つまり……」

「はっ。付け入る隙は十分かと……」

その言葉を聞き、満足そうに頷くとアデリナは口を開く。

「よし。作戦、第二段階を開始する。遊撃艦隊に、敵艦隊主力の隙間に入り込み、雷撃戦を仕掛けよと命令を……」

しかし、アデリナのその言葉ば最後まで言うことが出来なかった。

それを遮るかのように通信兵の叫びのような声が響いたのだ。

「た、大変です、陛下っ。遊撃艦隊が……。遊撃艦隊が……」

「落ち着け。きちんと報告せよ」

そのアデリナの言葉に、我に返ったのだろう。

通信兵は「申し訳ありません」と謝罪の言葉を述べ、そしてゆっくりと報告を行った。

「遊撃艦隊から報告です。『我、敵艦隊ト遭遇ス。戦闘ニ移ル』以上です」

その報告に、誰もが驚く。

まさかという思いが強かったためだ。

アデリの眉の間に皺が寄る。

「ちっ。読んでいたか、あの(ノンナ)め」

吐き捨てる様にそう言うと、スーッと汗が額に浮かぶ。

焦りがないわけではない。

しかし、その表情は悔しさもあったが満足気でもあった。

「やるじゃないのっ」

そう呟いた後、アデリナは口角を吊り上げる。

「でもまだまだこれからよ」

それは悔し紛れのいい訳ではない。

なぜなら、まだアデリナだけでなく、艦橋にいる者、帝国艦隊の乗組員、誰も諦めていないからだ。

それにアデリナも第二段階で決まるとは思っていない。

彼女は、ノンナをそんなに過小評価していない。

恐らく、把握されている戦力から、予想されただろうと思っていた。

ならば、把握されていない戦力ならばどうなる?

だからこそ、二手三手を用意したのである。

「よし。追撃艦隊に命令だ。作戦を速めると」

「了解しました。それで遊撃艦隊はどうしましょう?」

ゴリツィン大佐の言葉に、アデリナは海図に視線を落としつつ答える。

「あくまでも敵を足止めすればよい。駆逐艦という駒が入らなければ、後は砲撃戦が勝敗を決める。一気にケリを付けるわよ」

「はっ。ではすぐに伝えます」

こうして、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

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