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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十二章 帝国対公国

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嵐の前の静けさ その二

『連邦最高指導者が公国によって捕縛された』という情報を諜報戦では有利に立つ帝国は直ぐに入手した。

もっとも、情報部長アンドレイ・トルベツコイの元で同時に用意された偽情報(デコイ)も大量に流され、帝国作戦部は混乱した。

確かに諜報戦では帝国が有利だが、その得られた情報はまさに玉石混淆であり、正しい情報を知るにはその中から正しいものを選択する能力を必要としているが今の帝国にはその能力が欠けていたのである。

そして、そんな中、ただ一人落ち着いていたのは帝国皇帝アデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチだった。

彼女は、錯乱する情報の中からただ一つの情報に注目した。

その情報とは、公国海軍の動きと物資の終結である。

元々海軍で艦隊指揮官をやっていたのだ。

細かな作業は当時副官だったノンナに丸投げをしていたものの、大まかな物資や艦船の動きは把握しておかなければならない。

その経験から、公国海軍の艦船の動きが急に活発化した事と物資の動きが大きくなったというのが気になったのである。

そしてアデリナは思考する。

どうのこうの言いながらもノンナの事を一番理解しているのはアデリナなのだ。

だからこそ、周りが情報に振り回されている中、思考していく。

恐らくあの(ノンナ)の事だ。

出来る限り有利で戦おうとするだろう。

そう考えると一番可能性の高いのは休戦解除直前の奇襲ではないだろうか。

そうする事で制海権を一気に手に入れ、侵攻の進まない陸上戦を有利にするつもりなのだろう。

その為には、我々に知られることなくもっと秘密裏に準備すべきだろう。

そうする事でより作戦を成功させる確率は高くなるはずだ。

なのに、その利点を捨てていきなりその動きが大きくなった。

なぜこうまでして艦隊決戦の準備を急がせる?

理由として考えられるのは、急がなければならない状況になったという事だ。

そう考えると……。

なるほど、そういう事なのね。

艦艇と物資の動きから、それが帝国に対しての艦隊戦の準備であるという考えに辿り着き、そこからはまるでパズルを解くがごとく必要な情報のみが繋がっていく。

そして思考をまとめると、騒がしい中、声を張り上げる。

「静かにしなさい。ここで混乱しては連中の思うつぼです」

その声に、周りは一気に静かになった。

だが、その表情に浮かぶのは不安と混乱である。

そして、代表するかのように副官のゴリツィン大佐が口を開く。

「ですが陛下、こう情報が錯綜しては……」

その問いにアデリナは笑った。

その笑みに周りは騒めく。

それはそうだ。

その微笑みには、相手を見下すような感じも、呆れ返るような感じもなく、ただ楽しくて仕方ないという色が滲み出ていたからである。

例えるなら、誰も知らない事を知っているのを自慢するような子供のような笑みであった。

「恐らく、公国がフルストフォールシュカを捕縛したというのは本当のようだな。我々はそれを考えて動かねばならないだろう」

そう言い切られ、ゴリツィン大佐だけでなく、幕僚は驚いた表情になる。

「なぜ、そう思われるのですか?」

帝国国防軍長官であるプルシェンコ上級大将が思わずといった感じで聞き返す。

「簡単だ。まずは正確な情報のみに注目すればよい。それから少しずつ見えてくるものがあるはずだ」

そう言ってアデリナは、公国海軍の艦艇と物資の動きが活発化している情報を例に挙げる。

「確かに、その情報は正確なものでしょう。ですが、それから何が見えるというのですか?」

「わからないかね。ここまで急いで艦隊や物資を集める理由。それは我々に対して艦隊戦を仕掛ける為に急いでいるという事の証である。しかし、今の状況では、急に休戦が終わるような状況ではない。なら、なぜ慌てだしたのか。その理由があるはずだ」

そこまで言われ、誰もがアデリナの思考に辿り着き、幕僚の一人が感心したように口を開く。

「なるほど。確かに。そうなると公国がフルストフォールシュカを捕縛の可能性が高いですな。そうなってくると……」

そこまでいった後、また別の幕僚が言葉を続ける。

「ふむ。そうなってくるとどれが正しい情報か偽情報か見えてきますな」

「確かに。確かに」

幕僚達は互いに自分が判断した情報を確認している様子だった。

そして、ゴリツィン大佐が視線をアデリナに向ける。

「それで陛下、どう対処いたしましょう?」

その問いかけに、アデリナは笑う。

実に楽し気に。

「相手が手札を切るのを持つことになるが、黙ってただ待つのも詰まらんだろう?」

楽し気な笑みが意地悪の悪そうなものになる。

その笑みは美人が故にゾクゾクした美しさと冷酷さを感じさせた。

「だから、こっちも十分に準備して、あの女の出鼻を挫いてやるさ」

「ならば……」

「ああ。恐らく陸上戦の決戦の地は、シスタニンバとランバルヘンシア辺りになるだろう」

共に大陸中央に位置する街道の要と言われる場所であり、シスタニンバは帝国が、ランバルヘンシアは公国が抑えている。

シスタニンバが東部南部西部を繋ぐ街道の要ならば、ランバルヘンシアは中央から首都、北部へと続く街道の要と言っていいだろう。

つまり、両方抑えた方が、一気に有利に立てるという事だ。

それ故に公国はシスタニンバ攻略を急いだが、それは間に合わず、ほぼ互角という現在の状況に至っている。

「ならば、シスタニンバとヘンツェクラリハの防衛ラインの構築を急がせましょう」

ヘンツェクラリハはランバルヘンシアの近くの都市であり、帝国はその地を抑えることに成功しランバルヘンシア攻略の拠点とする計画であった。

「ふむ。頼むぞ。それと海軍兵力だが……」

そのアデリナの問いに、プルシェンコ上級大将はニタリと笑う。

「南部と東部に向かわせていた艦艇の一部を引き返させます」

「しかし、それでは公国にこちらの動きが……」

アデリナがそう聞き返すとブルシェンコ上級大将はカラカラと笑った。

「勿論、戻ってくるのは主港の方ではございません。もう一つの方でございます」

それでどこに移動させるのか判ったのだろう。

今度は、アデリナがその考えを読みカラカラと笑う。

「確かにあそこなら連中に気が付かれまいて」

「はい。あそこに主力艦隊を集結させておきます」

その言葉にニヤニヤとした笑みを浮かべてアデリナは言葉を続ける。

「つまり、私が囮となり、敵を引き付け、主力で敵の後方を叩くという事か」

「はい。仰る通りでございます。そうすれば、いくらビスマルクやシャルンホルストらが強力でも対処できるでしょう」

そして、ニマリとプルシェンコ上級大将は笑みを浮かべて言葉を続ける。

「なんせ、動かしているのは人でございます故」

「よし。気に入ったぞ。直ぐに準備を薦めろ。いいな?」

「はっ。直ちに……」



こうして帝国艦隊は、東部と南部の艦艇の一部の艦艇を引き返させる。

勿論、その動きを公国は把握するが、行き先が不明な為、引き返したとは判断せず海域監視の為に別行動をとったと判断したのであった。

その最大の理由は、行き先が不明な事と帝国主港にはスパイが入り込んでおり、もし動きがあれば逐一報告が届くからだある。

そして、いくら時間が経っても主港に別行動をしている艦艇が入港したという情報は入ってこない。

なぜなら、それらの艦艇が向かった先は、シクレヤーバヤーバンであったからだ。

かってはラチスールプ家の遺産であったこの隠し港であったが、今や帝国の秘密の港として有効活用されている。

そして、何より秘密裏にビスマルクやシャルンホルストよりも劣るとはいえ、弩級戦艦グロッサークルフェルスト、ケーニッヒ、マルクグラーフの三隻を手に入れたのは大きかった。

今まで最大艦が装甲艦ドイッチュラント級しかなかった帝国としては、この三隻こそまさに本当の切り札であったからだ。

これで公国と戦える。

帝国の関係者は誰もがそう思っていた。

だからこそ、公国が海戦を挑んでくるのなら受けてやるという対応を選択したのだ。

そして、その決戦となる戦いの為、両陣営は着々とそれぞれの思惑で艦艇と物資を集結させていく。

だが、そんな準備が整わないうちに切っ掛けは起こってしまうのである。

一部の公国軍人と捕縛されているはずの連邦最高指導者ティムール・フェーリクソヴィチ・フリストフォールシュカによって。

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