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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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第一次シマト諸島攻防戦 その2

「終わったら絶対に文句言ってやるっ」

まるで喧嘩に負けたガキのような事を言いつつ、野辺大尉は出航命令を出す。

「まぁ、まぁ、大尉。文句を言うのは止めませんが、提案された作戦自体は問題ないと思いましたが…」

木曽がそう言うと、痛いところを突かれたのだろう。

野辺大尉はぐっと黙り込んだ。

その様子を見て、木曽が少し声色を落として言葉を続ける。

「もっとも、わざと失敗して文句でも言うつもりですか?」

その言葉に、野辺大尉はキッと眉間にしわを寄せて怒鳴るように言い返した。

「馬鹿にするなっ。そんな姑息な手を使うはずがないだろうがっ。そんな事を俺がするとでも思ったのかっ。俺はな、フソウ連合海軍の軍人だぞ」

その怒気に、艦橋にいたクルーの何人かがびくんと反応したものの、木曽にとっては別にたいした事ではない。

だから、涼しい顔をして言い返す。

「なら、きちんと指揮をお願いしますよ。戦う前からそんなんだと味方が萎縮しかねません。いかにして味方を鼓舞し、士気を上げ、戦わせるか。それが指揮官の必要な最低限の能力だと思いますがね」

最低限という所に力を入れて言っておく。

さすがにきちんとした正論に言葉が詰まって口を閉じたものの、それでもなんとか野辺大尉は「わかった。注意しておく」とぼそぼそと言い返した。

ふう…本当に世話の焼ける人だ。

木曽はそう思いつつ、この基地に赴任する事が決まったときにすぐに的場少佐に言われた事を思い出していた。


「えっと…私が野辺大尉の旗乗艦ですか?」

木曽がそう言い返すと的場少佐は頷く。

「本当なら、最上がいいんだが、あいつはニコニコ笑いつつ『俺以外の旗乗艦にはなりません』と断言しやがったからな…。少しは俺の話も聞いてから答えてもいいのに、あの野郎は…」

そう悪態をつきつつも的場少佐はうれしそうだった。

どうのこうの言いつつも最上と的場少佐は仲がいい。

ある意味、羨ましいと思ってしまう。

だが、自分達は人間ではなく付喪神だ。

別の存在なのだ。

だから、その一線を越えてしまってはいけない。

自分の中の経験がそう囁いている。

だから、私はそれを意識して行動するようにしている。

「それで、用件はそれだけでしょうか?」

木曽はそう聞くも、絶対にそれだけではないのはわかっている。

だが、そう聞くのが正しいと思ったので口にした。

「いや、実はな、野辺大尉の教育係をお願いしたい」

予想外の言葉に、思わず聞き返す。

「教育係……ですか?」

「ああ。山本中将からもみっちりしごけって釘刺されてるんだよなぁ…」

的場少佐のさっきまでの真面目な顔が苦虫を潰したような顔になる。

「大体だ、山本の親父さんっ、俺と野辺の仲が最悪なの知っててやってるからタチ悪いんだよなぁ…。大体、最前線になる恐れのあるところにこんな不和になりそうに要素ぶち込むなよ。野辺の野郎は、南雲に懐いているんだから、南に回せば良かったんだよ。本当に…」

そこまで言って的場少佐はため息を吐き出すが、そこで話は終わらない

「しかしなぁ…。それだと野辺の野郎、成長しないだろうなぁ。南雲の言う事はなんでもはいはいとしか言わないから、柔軟な思考なんて出来ない脳筋になるのは目に見えているしなぁ。あー、頭痛い…」

なんかボヤキが止まりそうになかったので、木曽は口を挟むことにした。

「それで…なぜ、私に…」

「あ、ああ。最上が『木曽さんなら問題ない。うちの艦隊では、野辺大尉をうまく教育して誘導できるのはあの(ひと)しかいませんよ』と言い切ってな」

最上め…面倒な事を押し付けたな…。

ちらりとそう思ったものの、確かにうちの艦隊の面子では他にはいないと自分でも思う。

「わかりました。引き受けさせていただきます。それで…どういう風にしましょうか?」

「なら…」

的場少佐の注文…。

それは『味方の被害が出ないように気を配り、勝つ事だけに固執するような司令官にするな』と言うことだった。

言うだけなら簡単なんだが、やるとなるとなかなか難しい注文だと思ったが、それはそれでやりがいがあると感じた。

だから、木曽は出来る限りやらせていただきますと返事を返したのだった。


港を出て四時間が過ぎたころ予定地点の島影に艦隊が到着した。

野辺大尉率いる北部艦隊第一隊の戦力は、軽巡洋艦木曽を旗艦とし、指揮下に第二駆逐隊の駆逐艦夕立、春雨、五月雨の三隻が続いている。

ゆっくりと速度を落とし、島影に入り込む。

これで向こう側からは裏側に艦艇がいるとはわからないだろう。

もっとも水上電探でもあれば別だろうが…。

時間的には、上野大尉が率いる第二隊、それに的場少佐の本隊もそろそろ配置についていることだろう。

今回、的場少佐の立てた作戦は、侵攻してきた敵艦隊をこの島の多いこの地点で島影に隠れて待ち伏せし三方向から波状攻撃をかけて殲滅すると言うものだ。

まず、第二隊が敵先行艦隊が通り過ぎた後に後ろから奇襲をかけ、砲撃をして一撃離脱。

そして、方向転換してそのまま後方の敵艦隊に雷撃攻撃を加えて後方に回り込み、敵の退路の遮断を謀る。

次に第二隊の攻撃で混乱した先行艦隊に第一隊が強襲して砲雷撃戦を行い、その後は第二隊と同士討ちにならないように注意して後方にいる艦隊の殲滅を行う。

最後に、本隊が敵先行艦隊に止めを刺し、他の隊と合流する。

こんな感じの流れだ。

だが、的場少佐の予想では、本隊は必要ないかもしれないと言っていた。

確かに、名前こそ重戦艦とか、戦艦とか物々しいが、敵の主力は、せいぜい軽巡洋艦程度のサイズがある中型艦でしかない。

その上、主砲こそ二十~三十センチ砲を持っているものの、その火力はサイズのわりにかなり劣り、また左右に振られると砲塔の旋回が遅い為に対処しにくいということもわかっている。

また、装甲はあくまでもこっちの世界での火力に対して考えられた装甲であり、フソウ海軍の砲に対抗するようには作られていないため、防御力は思ったよりも高くない。

要はこっちから見たら時代遅れの代物といったところだろうか。

だが、油断大敵。

いくら時代遅れとはいえ、武器は武器なのだ。

人を傷つけ、殺すためのものであり、それ以外のものではない。

「各自、消灯。必要最低限以外は明かりをつけるな」

野辺大尉の命令で、艦内の明かりが必要最低限に抑えられる。

これから開始されるのは夜戦だ。

光を灯しているということは、ここに待ち伏せしていますよと相手に教える行為でしかない。

「いよいよですね」

木曽がそう言うと、野辺大尉は、「ああ」と短く返事を返したのみだった。

かなり緊張しているのだろう。

野辺大尉はぐっと艦橋の窓から見える暗闇を睨みつけている。

手に力が入っており、少し震えているように見える。

開戦まではまた何時間かかかるだろう。

だから、少し緊張をほぐす為に木曽は口を開く。

「もう少しリラックスされてはどうですか?」

木曽の言葉に、野辺大尉は慌てて言い返す。

「き、緊張なんかしてないぞ」

「ならいいんですけどね。なあに、こちらは二番手です。うまくいけば、目印が見えますからそれを狙ってうまくやりましょう」

「目印?」

「はい。的場少佐の指示で、第二隊は最初の何射かは延焼弾を使用する様に言われていたみたいですから」

延焼弾。

それは、硬い装甲を貫くための貫通弾や普段使用する通常弾とは違い、被害はそれほど大きくはない。

しかし、命中した場合、炎上し火災を発生させやすくする効果がある。

つまり、敵艦に火災を発生させて敵の艦艇を照らす明かり代わりに使おうという魂胆である。

それがわかったのだろう。

「くそっ。よく考えてやがるじゃねぇか…」

文句を言いつつも、準備のよさに感心したのだろう。

「実は、準備はそれだけではないみたいですよ」

木曽がそう言うと、野辺大尉が食ってかかるように聞き返した。

「どういうことだ?」

「監視している第208偵察中隊に、第二隊との連携を取りつつ開戦直前に照明弾の投下も指示していたみたいですから…」

「……」

野辺大尉は黙って考え込んでいる。

今、彼の頭の中ではいろんな考えが渦巻いているのだろう。

これで少しは的場少佐との関係修復ができればとも思うが、多分無理だろうな。

そんな事を思いつつ、木曽は視線を外に向ける。

予想時間だとそろそろだな…。

その時、無線手が声を上げた。

「第208偵察中隊の零式水偵より無線来ましたっ。敵の先行艦隊作戦海域に侵入。まもなく第二隊の鼻先を通過します」

「よしっ。で、敵の動きは変わらないのかっ」

「予定通りのコースみたいです。まもなく第二隊が戦端を切るとの事です」

「よしっ。いつでも動けるようにしておけ」

「了解しました。総員夜間戦闘準備」

「戦闘準備っ!!」

そして、号令をかけて五分後…。

前方の空域に光がいくつか点る。

その光はゆらゆらと揺れながら落ちていく。

そして、その光の中に浮かび上がる艦影。

「よしっ。動くぞ」

木曽の艦体がぐらりと息を吹き返したかのように揺れ、動き始める。

そして、それにあわせるかのように砲撃音が響き、いくつもの光の線が敵先行艦隊の艦影に降り注ぐ。

第二隊の砲撃だ。

そしていくつもの水柱が立ち、そしてついに一発が命中する。

ぼんっ。

爆発音と同時に、装甲巡洋艦と思われる艦上の構造物が燃え上がった。

その炎の光が照明弾よりも鮮やかに周りを照らし出し、艦影をはっきりさせる。

そのためだろうか。

ぼんっ。

ぼんっ。

続けざまに二発がそれぞれ違う艦に命中して炎上を起こす。

しかし、そこで砲撃が止む。

撃沈まではいかないものの、照明弾があったとはいえ、わずかな時間の砲撃で三艦に命中させ炎上させたのだ。

第二隊はかなりいい仕事をしたと思っていいだろう。

「よしっ。各艦に伝達っ。砲雷撃戦用意。本隊には一隻も残す必要はないぞ。一気に沈めてしまえっ」

野辺大尉の号令により、砲撃が開始される。

今度は、貫通弾だ。

命中すれば致命傷を与えられるだろう。

やっと第二隊がいたであろう方向に艦隊を転換しつつ砲撃を開始した敵先行艦隊ではあったが、そのわき腹をつくような後方側面からの第一隊の攻撃に一気に艦隊の動きが乱れる。

「いいかっ。敵艦隊とはある程度距離を保てっ。混戦だけは避けろ」

野辺大尉の指示に第一隊は、まるで紐でつながったかのように滑らかな動きで砲撃しつつ、敵艦隊を翻弄していく。

しかし、駆逐艦の十二センチ砲では命中しても致命傷にはならないのだろう。

いくつもの命中弾はあるものの、まだ沈む艦はない。

そう思ったときだった。

どんっ。

砲撃が弾薬庫にでも命中したのだろう。

ぐらりと艦影のうちの一つが大きくゆれる。

そして大爆発音と共に艦体が二つに割れて沈み始める。

「敵戦艦クラス、撃沈っ」

おおーーっ。

艦内が沸きあがる。

「いいかっ、野郎どもっ。後方の艦隊には、第二隊が魚雷をたっぷりご馳走しているはずだから、こいつらは俺達の魚雷をたっぷり味あわせてやれ」

野辺大尉の命令で各艦魚雷が発射される。

そして、少し時間が空き、その後にいくつもの水柱が上がった。

爆発して真っ二つに折れて沈むもの、傾いてひっくり返るもの、そのままじわじわと沈むもの…。

それぞれ沈んでいく様子は違えど、今や先行艦隊に無傷の艦船は存在しない。

「大尉、そろそろ後方の艦隊に向いましょう」

木曽が時間を確認して提案する。

「わかった。しかし、全艦撃沈できずか…。くそっ」

その提案に答えつつ、野辺大尉が舌打ちをする。

すごく残念そうな表情が、わずかな明かりの中に浮かび上がっている。

「しかし、大戦果なのは間違いありません。それにまだもう一回戦わなければなりません。だから、後は本隊に任せましょう」

「わかった。仕方ない。各艦砲雷撃戦中止。それと被害報告急げ」

「本艦には被害はありません」

「夕立より、被害あり。第二魚雷発射菅付近に命中弾を受け現在消火中。魚雷を発射し終わった後に当たった為、誘爆の恐れはなし。また、航行に支障はないそうです」

無線手からの報告に野辺大尉は慌てて後方を見る。

確かに最後尾の艦に火災が発生しており、乗務員達が必死で消火に当たっているのが見える。

「夕立は消火しつつ基地に戻るように伝えろ。残りの二隻は被害はないんだな」

「はっ。春雨、五月雨は被害はないそうです」

「よしっ。なら、各艦予備の魚雷を装填。後方の艦隊に向かうぞ」

野辺大尉の命令の元、隊は二つに別れ行動を開始する。

そしてそれと入れ違うように満身創痍の先行艦隊に、本隊の砲撃が始まったのだった。

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