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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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第一次シマト諸島攻防戦 その1

「本部より返信がありました。『すべては的場少佐に一任する。責任は取るから好きにしろ』です」

ほんの数分前に来た無線連絡を伝令に来た兵士が読み上げる。

静かだった会議室内が一気にざわつく。

それはそうだろう。

ここにいるほとんど人間が的場少佐の貴下になってからあまり彼の事を知らないものばかりだからだ。

だから彼の指揮や作戦立案といった能力を疑っているのだろう。

そして、長官が責任は取るから好きにしろと言ってまでなぜ的場少佐を信頼しているのかといった事も知らない。

ふふふっ。

彼と作戦を共にしたものだけが彼の能力を、そして、長官と直接会った事のある私だけが長官が的場少佐を高く評価されているのを知っている。

もちろん、長官と直接会った(直談判した)事は誰にも言っていないし、言えないのだが、なんか今無性に言いたくてたまらない。

たが、そんな事は言えないし、今のここにいる面子の中で以前の戦いで彼と共に戦ったのは、私と第一護衛隊の占守と国後ぐらいのものだ。

だから、ほとんどの者は本部のこの指令に不満や不平を感じたのだろう。

とくにはっきりと不満やイライラを見せたのは司令補佐の野辺時雄大尉と上野芳樹大尉の二人だ。

二人とも的場少佐の後輩らしいが、普段から彼に対しての敬意がほとんど感じられない。

特に野辺大尉は、階級があるから従ってやっているといった態度が見え見えだ。

見ててこっちがイライラしてしまう事もあるが、的場少佐はまるで気にしたような素振りは見せず淡々と仕事を命じている。

なんかもうこういう態度や視線には慣れたものといった感じだが、それは頼もしい反面、なんか悲しくなってしまう。

それはつまり、そういう態度をされてきたからこそ免疫が出来ているともいえるからだ。

もっとも、話をした感じではこの二人も的場少佐のあまりにも酷い誹謗中傷の噂に騙されている他の連中と同じなのだろう。

だからといったわけではないが、不満と不平は積もり積もって、二人の目にはイライラを通り越し、敵意さえも浮かんでいるように見えた。

そんな視線がある中、的場少佐は腕を組んだまま伝令を聞いた後、まるでその視線やざわつきがないかのようにいつもの口調で命じる。

「次に、敵の艦隊編成と予測進路を…」

「は、はっ」

的場少佐の幕僚になっている士官が、少し動揺しつつも報告を開始する。

この人もなかなか肝の据わっている人のようだ。

この雰囲気の中、よくやっていると思う。

「今わかっている敵艦隊戦力は、先行している艦隊ですが、敵基準で重戦艦一、戦艦七、装甲巡洋艦四の十二隻。後方に展開中の艦隊は、装甲巡洋艦六、支援艦艇八であります。また、現在の進路予想は南南東であり、おそらくは…」

「ここか?」

的場少佐がそう聞き返すと、士官は「はっ。恐らくは…」と頷く。

その言葉に的場少佐はやはりかといった表情をした。

そして口を開く。

「さて、今回の作戦は自分に一任された。よって今から作戦を言う。各自その指示で動くように…」

的場少佐の言葉に、静かになりかけた会議室内が再びざわつく。

そして、隣の上野大尉がなだめようとしたが、それを振り切って野辺大尉が立ち上がると睨みつけながら口を開いた。

「いきなりですかっ。少しはここで意見を求めてもいいのではないのですかな、司令官閣下」

敵意丸出しの口調に、司令官閣下と言う部分に皮肉のように重みをおいた言い回し。

どう考えても的場少佐に喧嘩を売っているかのような態度。

あまりな態度に思わず文句を言ってやろうと私は立ち上がりかけたが、先に第三特別強襲大隊の杵島大尉が口を開いた。

「これはこれは…。なら、お前さんならいい案があるとでも言うのか?実戦も経験したことのない若造がっ」

呆れ返った表情を浮かべ、見下した口調でそう言われてカチンときたのだろう。

「なんだとっ、この陸戦屋がっ。海の戦いに口出しするなっ」

まさに喧嘩上等という態度で野辺大尉が言い返す。

「ほほう…。勇ましいのう。まだ卵の殻が尻についているようなひょっこが…」

指を鳴らして杵島大尉がゆらりと立ち上がる。

にこやかな表情の中にある殺意があたりに広がり、しーんと周りは水を打ったように静かになる。

それはそうだろう。

杵島大尉はまさに筋肉の塊のような身体であり、あえて言うなら熊と言っていいほどの体格だ。

そんな男がニタリと笑いつつ目を細めて、まるで獲物を目の前にして舌なめずりしている猛獣のような雰囲気を出しているのだ。

それは間違いなく、ボコボコにされる自分しか想像できないだろう。

それは、喧嘩を売ったはずの野辺大尉もわかったらしく、すーっと血の気が引いて真っ青な顔になっていた。

それでもまだなんとか気丈に睨み返していたが、どう考えても格の違いが周りにははっきりとわかる。

あ、あいつ…死んだな…。とか思ってそうな顔をしているものさえいる。

そんな中、「まあまあ、杵島大尉、それくらいにしておいて下さいよ」と言って杵島大尉を治めたのは的場少佐だった。

そして、視線を杵島大尉から野辺大尉に移して言葉を続けた。

「まず、先に言っておくぞ。作戦を最初から決めるのは時間がかかる。それよりもたたき台として作戦案があり、それを修正しながらやった方が時間の短縮にもなる。もうたいして残された時間はないからな。それにだ。出来れば作戦を説明してから異論を言うべきだな。その態度は嫌いな相手にいちゃもんをつけて文句しか言わない小学生のようだぞ。それとも何かな、君は人を選んで態度を変えるのかな?確かに誰でもそういう傾向がまったくないとは言わないが、露骨なのは不快だな」

そう言って、初めて的場少佐はぎらりと野辺大尉を睨みつけた。

その視線には圧倒的な力が感じられる。

それは自信と経験から来るものだ。

その言葉と視線に、野辺大尉は「は、はっ…も、申し訳ありませんでした」と何とか口にして席に座る。

で、もう一方の杵島大尉はその様子を実に楽しそうに見ていて、隣の副官である東芝中尉になにやらぼそぼそと話かけており、東芝中尉も苦笑はするものの、二人とも実に楽しそうだ。

もっとも、この二人以外のほとんどのその場にいる人や付喪神はその雰囲気に完全に飲み込まれてシーンとしている。

「では、作戦を説明する。意見があるものは、説明後に言ってくれ」

ゆっくりと全員を見渡した後、的場少佐は立ち上がると黒板に張られた近辺海図に印を付けつつ説明を始めた。


結局、的場少佐の作戦の説明が終わると反対意見は出ず、そのままその作戦を実施と言うことで決まった。

艦隊は三つに分けられ、予想作戦地域に敏速に移動しなくてはならない。

各自、自分に下された命令を遂行する為に会議が終了すると素早く行動を開始する。

もちろん、不平不満が完全になくなったわけではない。

特に司令補佐の二人は納得し切れていない様子だった。

だからだろうか。

的場少佐は二人に声をかける。

「文句は作戦を遂行し、実力を示したら聞く。いいな?」

その言葉にすぐに反応したのは野辺大尉だ。

「わかりました。必ず戻って言わせていただきます」

かなり悪意の感じられる言葉と口調だが、的場少佐はニタリと笑い返すあたり、傍から見ていると大人と子供といった感じで貫禄の差が出ているように見えた。

反対に上野大尉は相方が暴走気味でその押さえに走る為だろうか。

その分、周りが見えているというか、理解しているというかそんな感じで、冷静に的場少佐に対しての自己評価を修正したようだ。

的場少佐への好意はまだ感じないが、さっきまでの悪意が感じられないし、司令官として、上司としてはきちんと認めたという感じだ。

素直に敬礼し、「はっ。ありがとうございます」と返事を返している。

二人に声をかけ終わった的場少佐は、苦笑しつつ二人の補佐が去っていくのを見つめた後、杵島大尉に軽く頭を下げこっちに歩いてきた。

「さてと…最上、また頼むぞ」

笑いつつそういう彼の表情に、私はうれしくなって笑いながら答える。

「了解しました。北部艦隊司令長官殿」

その言葉に苦笑しつつ、的場少佐は作戦海域に向かう為に歩き出す。

勝利を得る為に…。


そして、七時間後、日が沈み、あたりが闇に飲み込まれる二十時三十分過ぎ、帝国との二回目の戦いであり、後に『第一次シマト攻防戦』と呼ばれる戦いが始まった。

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