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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十二章 帝国対公国

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クカバキリフの戦い  その4

公国軍が街道で帝国軍と思しき部隊に攻撃され、四日が過ぎた。

シスタニンバ攻略の障害となると判断した司令部は、帝国軍を殲滅すべく追撃戦を行う。

しかし、その結果、地の利を得ている帝国軍に翻弄され、被害が増える結果となってしまっていた。

神出鬼没で現れては攻撃を仕掛ける帝国軍と事前に大量に用意されていたブービートラップ。

このコンボによって被害が増え、追撃戦のスビートは遅くなっていく。

そしてやっと森を抜けたかと思ったら、開けた場所が続き、その先では強固な陣を構築した帝国軍が待ち伏せていたのである。

その激しい火力と強固な陣の前に、森から出ることが出来ない公国軍。

だが、そんな公国軍を翻弄するかのように、後方から別動隊と思しき帝国軍の部隊が昼夜関係なく攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃に兵は疲弊し、弾薬は減る一方だ。

そんな状態に、攻撃部隊の一部を指揮するリミットフ兵曹長はやけっぱちで叫ぶ。

「なんでこんなところに、あんな陣があるんだっ」

その叫びに疲れ切った表情のトラベッタ曹長が銃撃を指揮しながら叫び返す。

「そりゃ、帝国が準備したんだろうよ。陣は自然には出来ねぇからな」

「んなことはわかってる。くそっ。火砲さえあればなんとかなるってのに」

「火砲なら、森の向こう側にいくらでもあるぞ。もっとも持ってこれねぇけどな」

「わかってんだよ、んなぁことはぁっ」

「なら、言うなっ。士気にかかわる」

「しかし、どうすりゃいいんだよ、火砲なしじゃ難易度たかすぎだってーの」

「知るかっ。上に言え、上にっ」

「糞ったれーっ。何とかしやがれってんだ」

リミットフ兵曹長のやるせない叫びが響く。

こんな事を叫ばないとやってやれない心境なのだ。

まるで漫才か何かの掛け合いの様だか゛、実際、こういった敵陣に対しての攻撃の場合、まずは火砲で砲撃をかけてその後突撃というが定番だ。

要は、火砲の火力によって陣を破壊し敵の戦力を削り、そして歩兵による攻撃を仕掛けるのである。

たが、この戦いでは、深い森の為に火砲を運ぶことは適わず、歩兵のみの携帯できる火力のみで強固な陣を攻略する羽目になってしまっているのである。

確かにいつかは攻略できるかもしれない。

だが、その被害はとんでもないものになるだろう。

「兵曹長、そろそろ弾薬が……」

部下の兵の一人が駆け寄って報告する。

すでにかなりの弾薬を消費してしまっている。

「くそっ。一旦下がるしかないか。すぐに後方で待機している第六中隊に連絡だ。『弾薬が少なくなっている。弾切れの前に下がりたい』とな」

その命令を受けて、報告してきた兵が頷く。

「了解しました」

そういうと、中腰で後方に向けて駆け出そうとした。

その瞬間である。

まるで糸の切れた人形がつんのめる様に兵が崩れ落ち鉄兜から血しぶきが飛ぶ。

「狙撃だっ。探せっ。近くにいるぞ」

リミットフ兵曹長の叫びに、前方に集中していた兵達が慌てて周りを見回す。

そして、恐らく敵兵がいそうな場所に銃撃を加えていく。

だが、うまく逃げられたのだろう。

銃撃の後、確認に向かった兵が悔しそうに報告する。

「くそっ。チクチクとっ」

リミットフ兵曹長はそう吐き捨てると、報告してきた兵に命じる。

「後方の第六中隊に、伝令だ。『弾薬が少なくなっている。弾切れの前に下がりたい』と」

「了解しました」

そう言うと、兵はかなり警戒しつつ後方に下がっていく。

今度は大丈夫なようだ。

その後姿を見ながら思う。

最初は、シスタニンバ攻略と聞いて、また塹壕戦かとため息が出たか、今の方がもっと質が悪いとリミットフ兵曹長は痛感していた。

塹壕というある程度安心できる盾もなく、火砲という強力な味方もいない。

その上、いつ襲われるかわからないという恐怖と不安が心を蝕んでいくのだ。

だが、勝手な事は出来ない。

上からの命令で動くことが大前提の公国軍では、現場の臨機応変があまり求められていない。

それに、そう訓練されている。

だから、上が早く打開策を出してくれる事だけを望むしかないのである。

早く何とかしてくれ。

リミットフ兵曹長はただそう願わずにはいられなかった。



「なんて事だ。まだ落とせないのかっ」

第三軍団の最高司令官であるリグベッタ中将は、イライラとした口調で叫ぶ。

その声は余りにも大きく、仮の司令部として街道沿いに建てられたテントの中に響いた。

その声に、報告している伝令の兵だけでなく、周りの幕僚も首をすくめる。

だが、いくら叫ぼうと現実は変わらない。

ただ誰もが黙り込み、沈黙が辺りを包み込む。

だが、そんな沈黙の中、口を開いた男がいた。

「完全に連中の策にハマってしまいましたな」

そう言ったのは、シスタニンバ攻略を優先すべきと主張したビスクチェート大佐だ。

最も表面上は感情が出ないようにしているつもりなのだろうが、その顔には、ほれ見た事かという嘲笑が薄皮一枚の下にあるのがありありとわかる。

リグベッタ中将もそれはわかったのだろう。

嫌そうな顔で睨みつけるかのようにビスクチェート大佐に視線を向けた。

「なら、君の言う通り、シスタニンバ攻略を優先すべきだったとでも言いたいのかね?」

「いえいえ。そんなつもりはもうありません。かなりの戦力の帝国軍がいる上に、強固な陣も準備している。戦ってそれがわかった以上、今更シスタニンバ攻略の方に切り替える事は出来ますまい」

「ならどうすればいいというのかね?」

「別に難しい事は致しません。ただここで帝国軍を潰し、後顧の憂いを無くしてからシスタニンバ攻略を再開するだけです」

その言葉に、益々イライラしたのだろう。

リグベッタ中将は噛みつくのではあるまいかという勢いで怒鳴りつける様に言う。

「それはわかっている。だからどうすべきかと聞いておるのだっ」

その剣幕に、ほとんどの者は首をすくめ、ビスクチェート大佐の側から少し離れる。

巻き添えを喰らいたくない。

そんな心境が働いたからである。

だが、当のビスクチェート大佐はただ、ニタリと笑みを浮かべるだけだ。

要は、やっと聞いてくれました。待ってましたと言わんばかりの態度である。

そして、まるでもったいぶるような足取りでテーブルに広げられている地図の側に行くと自前の指揮棒を取り出してその先で地図のある地点を軽く叩く。

「ここが敵の陣のあるクカバキリフです。報告ではかなり強固な陣が用意されている上に、森と陣の間は、開けた場所になっていて近づくことがかなり難しいという報告が来ています。また左右には崖のようになっていて近づくことは難しい地形です」

そこまでいった後、右手に持っていた指揮棒を動かすと左手の掌の上に軽く何度も叩きながら言葉を続けた。

「ですが、この短い間に構築できる陣は限りがあります。だから……」

掌の上を叩いていた指揮棒が一度地図上のクカバキリフの上を叩いた後、するっと大きく迂回させるように動かしていく。

「こうやって大きく一部の部隊を迂回させ、後方から奇襲をかけます。恐らく時間や資材の事を考えれば後方には陣を用意していないでしょう」

その言葉に、幕僚の一人が怪訝そうな顔をして聞き返す。

「だが、敵はそれも警戒して、森の中に伏兵を配置して攻撃しているのではないのかね?」

「恐らく、森の中に配置している伏兵は、その役目もあるのでしょう。ですから、より大きく迂回させるのです」

そう言うと、ビスクチェート大佐は指揮棒を一旦街道の方に戻すと、すーっとシスタニンバとは反対方向に走らせる。

そして、最初の分かれ道まで戻るとそこから脇道に進み、そしてクカバキリフの後方に回り込むような動きを見せた。

要は、森を経由せず大きく迂回させるというのだ。

確かにそれならば森にいる敵の伏兵の襲撃を受ける事もなく、敵に動きを読まれることもない。

「しかし、後方にも敵がいる可能性はあるのではないか?」

「ええ。いるでしょう。敵の補給線がある可能性が高いですからね」

地図を見れば、クカバキリフの後方に続いている道は一つだけだ

もちろん、地図に載っていないような細い道はいくらでもあるだろう。

だが、軍隊のようなある一定の部隊が動ける道は他にはなかった。

「要は、敵の補給線を断ち切り、後方から圧をかけるという事か?」

リグベッタ中将は顎髭を撫でつつ考え込むような表情になる。

「ええ。そういう事です。それにうまくいったら後方から奇襲をかけられるかもしれません。そうなれば、敵は一気に崩れるでしょう」

「ふむ。確かにな」

そう言うと、リグベッタ中将は顎髭から手を離すと言葉を続けた。

「よし。すぐに準備させろ。大佐、周り込むのにどれほどかかると思うかね?」

「そうですな。三日ほどは……」

「よし。では、大佐、君に別動隊の指揮を任せる。すぐにきちんとした作戦案を出し、実行に移せ」

その言葉に、ビスクチェート大佐は満身の笑みを浮かべて敬礼した。

「了解いたしました。万事うまくやって見せます」

「うむ。期待しておるぞ」

リグベッタ中将はやっとほっとした表情を一瞬だけ見せたものの、すぐにしかめっ面に戻り、他の幕僚に命令を下す。

「各自、大佐の作戦に協力せよ。それと最前線の部隊には、敵の注意を引き続きひきつける様に伝えておけ」



こうして、公国軍第三軍団は流れを変えるべく作戦展開の準備を進めていたが、同じ頃、帝国皇帝アデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチと公国の主であるノンナ・エザヴェータ・ショウメリアにそれぞれ手紙が届く。

差出人の名は元帝国宰相グリゴリー・エフィモヴィチ・ラチスールプ公爵。

そして、その手紙が帝国と公国の戦いの流れを大きく変えるきっかけとなるのであった。

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