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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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日誌 第三十五日目 その2

緊急無線の報告を受け、長官室には僕と作戦本部の新見准将と部隊統括部の山本中将、それに諜報部の川見中佐の三人が集まっていた。

「思ったより早かったですね」

僕と同じ感想を持ったのだろう。

山本中将が呟く。

「まったく…。同意ですね。情報ではもう少し動きが鈍いという話だったんですが…」

新見准将が少し考え込みながら山本中将の意見に賛同する。

なお、情報とはアッシュから得られた情報の事で、今帝国は腐敗しきっていて動きがとても鈍くなっているという話だった。

「まぁ、相手のほうも色々あるんでしょうし、情報をそのまま垂れ流しているわけではないですから。それに、いつだってこっちの都合では動いてくれないのが世の常ですからね」

川見中佐がそう言って資料を各自に配る。

それは、今のところ把握されている帝国の東方艦隊の戦力だ。

もちろん、情報の出所はアッシュからだ。

情報では、帝国東方艦隊の戦力は、重戦艦三、戦艦十、装甲巡洋艦二十三、その他補助艦三十以上となっている。

「この戦力の情報が間違っているとは思いませんが、少なくとも戦力はこれ以上なのは確実といったところでしょうか…」

新見准将の言葉はその場にいる全員が思っていた事だろう。

だから、そこにいた全員が頷いて同意を示す。

「次に緊急無線の内容を読み上げます」

東郷大尉が、無線連絡の内容が書かれた紙を持って読み上げる。

「『哨戒中の二式大艇より敵艦隊発見す。数は二十六。構成は、敵基準で戦艦クラス八、巡洋艦クラス十、残りは輸送艦、及び補給艦、上陸艦と思われる』以上になります」

「なかなかの大盤振る舞いといったところでしょうか…」

情報どおりなら、大体主戦力の半分である十八隻を出してきたことになる。

しかし、いきなり半分も戦力を出すだろうか?

アッシュの情報では、フソウ連合周辺は六強と言われる各国の利害関係が複雑になっている場所であり、簡単に大戦力を投入出来ないといった感じらしい。

母港を空けると、他の国にちょっかいを出されてしまう可能性が高いということだろう。

それゆえに、王国も重戦艦二隻でフソウ連合に侵攻してきたという事だ。

まぁ、事前に知りえた情報では、重戦艦二隻で十分という考えもあったらしいが…。

「つまり、敵の東方艦隊の残りの戦力は自分の見立てですが進攻している戦力の倍はいると考えていいんじゃないでしょうか」

山本中将の言葉に、僕は頷いた。

「過小評価も過大評価も危険ですから、それぐらいと考えた方が良さそうですね。まぁ、敵の戦力分析はそれぐらいにして、問題は侵攻してくる艦隊に対してですが…」

そう言いつつ新見准将がちらりとこちらを見る。

僕の意見を聞きたいらしい。

「そうですね。僕としては、北部艦隊司令の的場少佐に一任したいと思います」

僕の言葉に山本中将がニヤリと笑う。

「的場をえらい信用されてますな」

「彼なら、これぐらいは対処できるでしょう。それに彼にはこれからの未来のフソウ海軍を担う人材として成長して欲しいですからね」

僕の言葉に山本中将の顔が綻ぶ。

やはり弟子を褒めてもらうという事は、師匠としてはかなりうれしいのだろう。

「私も彼なら大丈夫だとは思うが、念のためにこっちでも艦隊の編成と出航の準備をやっておきますな」

「ええ。お願いします。それと、川見中佐」

「はっ。イタオウ地区の動向ですね」

僕の思考を読んだのだろう。

聞く前に聞きたい事を確認してくる。

なかなか鋭いな。

「ああ。今の状況はどうなっている?」

「前回の侵攻の件を公開しなかったこともあって住民の地区責任者や地区行政組織への不満は高いままですね。今も小規模ですが騒動が起こったりもしているようです」

「ふむ…。一応、知らせておく必要はあるんだが…あいつがそれをどうするかだなぁ…」

腕を組んで苦笑する僕に、川見少佐は無表情で言う。

「情報をどうするかは、その地区の責任でやる事ですから我々は関係ないので連絡は入れるべきです。それに国の中央にも報告しておく必要があるでしょうね」

「それはわかっているよ。ただ、その順番だよ。問題は…」

僕がそう言うと、川見中佐はニタリと笑い、山本中将と新見准将の二人は苦笑した。

「長官は、見た目に比べてかなり意地悪になられましたな」

「いやいや。腹黒くなったというべきでしょう…」

「お二方、何を言っておられるんですか。やはりこれぐらいは普通にやる範囲内ですよ」

僕のいっている意味がわかったのだろう。三人がそれぞれ思った事を口にする。

要は、中央に報告した後に地方に知らせるのと、地方に知らせてから中央に報告するのとでは、地区の責任者の対応によってかなりの差が出るということだ。

先に地方に知らせて中央に報告する場合、地方がすぐに住民に情報を公開すれば問題ない。

だが、反対に住民に情報を公開しなかった場合や中央に報告した後に地方に知らせて、運悪く住民が地区組織の公表前に情報を知ってしまった場合、以前の情報隠蔽の前科があるため、地域責任者や地区行政組織に対しての不満や不信はより増大する事になってしまう。

そして、普通なら迷わずにすぐに地区に報告して中央はその後と言う選択なんだろうが、それをしないでどうすべきか迷うあたりに二人は腹黒さや性悪さを感じたのだろう。

まぁ、僕も善人じゃないからね。

会議であの男には散々やられているから、少しぐらいは嫌がらせの一つぐらいしてもいいんじゃないかって思ってしまうんだよ。

それに一つ気がかりかある。

川見中佐だ。

前回の件の時はかなり火遊びしたようだからな。

だから、一応聞いておく事にする。

「川見中佐、一つ聞きたい…。もう準備は出来ているのかな?」

「もちろんですよ」

笑顔でそう返されると苦笑するしかない。

要は、どちらを選んでも火をつける気なのだ。

前回のときもそうだが、こういう時の川見中佐の笑顔が実に爽やかだ。

多分、すごく楽しいんだろうな。

僕はため息をつくと東郷大尉に命令を下す。

「北部艦隊司令には、全責任は僕が持つから好きに対応するようにと返信してくれ。あと、敵の侵攻情報をイタオウ地区行政組織とフソウ連合中央政府機関に送るように…」

僕の命令に東郷大尉はニコニコして普段は行わない確認を求めてくる。

「中央が先で、地方は後でと言うことでよろしいんですよね?」

よく考えてみたら、東郷大尉はイタオウ地区の責任者の橋本を毛嫌いしていたんだっけ。

つまりはそういうことだ。

「頼むから、あまり間を空けてくれるなよ」

「了解しました。なるべく間を空けないように努力しますっ」

実にうれしそうだ。

困ったなと思っていたら、その東郷大尉の言葉に川見中佐が立ち上がる。

「長官、すみませんが用事を思い出しました。少し席を外します」

そう言って楽しそうに長官室を出て行く。

それにあわせて一緒に東郷大尉も退出した。

その様子はなんかスキップでもし始めそうな雰囲気かある。

君達、どんだけ彼が嫌いなんだよ。

もっとも僕も嫌いだけどさ…。

そんな事を思いつつ、その後ろ姿を僕と残された二人が見送った。

「仕事を楽しむのはいいんだが…」

新見准将が苦笑しつつぼそりと言う言葉に、僕と山本中将は頷くしかなかった。





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