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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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日誌 第六百十二日目

ここはフソウ連合海軍本部の第五会議室。

六月に入り、定例の月初めの報告会が行われている。

そこには、僕を始め、幕僚や各部門の代表者が集まっていた。

そんな中、東郷大尉が立ち上がって報告をしている。

「王国に滞在中の毛利艦隊から報告です。訓練や引き渡しなども計画通りに問題なく進行中という事で、空港が完成して航空隊が動ける環境が出来れば、艦隊は予定通り二か月後には帰路につくとのことです。また、あの戦い以降、敵潜水艦の動きは大きく減少し、被害はほとんどなくなったという報告も来ています」

東郷大尉が読み上げる報告に、会議室に集まった皆が満足そうに頷いている。

どうやらうまくいった。

ほっとしている者もいる。

場所が離れすぎているだけに、こちらで出来るのは祈ることぐらいしかない為、モヤモヤしていたのだろう。

まぁ、それは僕もではあるが……。

そんな中、山本大将が顎を撫でつつ口を開く。

「どうやら、思った以上に深手を与えられたようですな」

「ふむ。最初の報告では、撃沈不確実が多くてどこまでうまくいったのか心配でしたからな」

そう言ったのは、新見中将だ。

確かに潜水できる潜水艦を確実に撃沈したとするのなら、海上に浮上した時に、爆弾なり、砲弾なりをぶつけて確実に仕留めた事を確認しなければ難しい。

勿論、重油や残骸が浮かんだりといった事で確認取れる場合もあるが、ほとんどはそのまま海の底に沈みこんできちんと確認できないことがほとんどだろう。

それともう一つ問題点は、敵の存在をはっきり示すことが難しい事である。

鹵獲でもできればいいのだが、大抵が海の底に沈んでしまうため、敵の情報を得にくくなっている。

敵の潜水艦の性能は、情報を集めた事である程度掴めている。

恐らく、フソウ連合よりも格段に下だろう。

だが、出来ればその潜水艦を連盟が裏で操っているという決定的証拠が欲しいのだ。

それは鹵獲でもしない限り、無理だろう。

全ては推測だけではどうしょうもないからである。

そんな事を考えていた為だろうか。

表情に出ていたようで、気が付いた山本大将が僕に声を掛けた。

「何か気になる事でも?」

相変わらず目ざといな。

そんな事を思いつつ、僕は苦笑して答える。

「作戦がうまくいったのはうれしいんだけど、出来れば一隻でもいいから敵潜水艦を鹵獲できればと思ってしまってね。なかなか思ったようにはならないね。難しいよ」

その僕の言葉に、会議室に集まっている皆は苦笑を浮かべた。

「中々及第点が高いですな」

新見中将の言葉に、僕が慌てて答える。

「いや、作戦は間違いなく成功したと思ってはいるんだ。でも、そうなったら今後の事が進めやすいかなと……」

「なに、得てして世の中は思い通りにならないものです。それに欲が過ぎれば足元をすくわれかねませんぞ」

新見中将の言葉に、僕は苦笑して頭を掻く。

確かに、当初の目的は十分以上に達成したのだ。

欲をかきすぎてロクな目に合わないという事は、今まで向こうの世界で散々経験したはずだが、順調に進みすぎて少し油断しているのかもしれないな。

そんな事を思いつつ、僕は口を開く。

「ああ、肝に銘じておくよ」

「それがよろしいかと」

そんなやり取りの後、次の報告が読み上げられる。

「リットミン商会からの報告で、連盟の軍関係の動きが活発化しているそうです。また、連盟国内で何やらゴタゴタがあるという話が来ております」

「ゴタゴタ?」

東郷大尉の報告に、僕が聞き返す。

あまりにも抽象的な言い回しに気になったのである。

「ええ、詳しい報告は後日送るとなっておりますが、どうやら現政権の私兵が反対派などの弾圧で動いているらしく、それが目に余るという事でかなり不穏な空気になっているという事です」

「それはまた、酷い有様ですな」

そう言ったのは、諜報部の川見大佐だ。

ただ、その顔には意地悪そうな笑みが浮かんでいる。

「まさか、手を回していないだろうね?」

思わずそう聞くと、川見大佐は困ったような顔をした。

「いやはや、引っ掻き回すのは好きですが、連盟はちと無理ですな。手が届きません」

残念そうにそう言う事から、本当の事なのだろう。

実際、連盟の情報は、連盟に諜報部も外交部も入り込みにくくリットミン商会に頼り切りとなってしまっている。

それでもやりそうだと思ったのは、川見大佐ならという思いこみがあったからかもしれない。

なんせ、今までいろいろやってきた事を知っているからなぁ。

そんな思いが表情に出ていたのか、川見大佐が苦笑した。

「期待に沿えないのは残念ですが、さすがに今の状況では無理ですよ」

「ああ、すまん。でも君ならやりそうだと思ってしまってね」

「やりたかったですけどね」

実に残念そうにそう言う川見大佐の言葉に、その場にいた全員が笑う。

彼ならやりかねん。

そんな思いは共通らしい。

「ほどほどにな」

僕は苦笑してそう言うと、全員を見回して言葉を続ける。

「なら、当面、王国、連盟の件は、このまま現状維持という事でいいかな?」

僕がそう言うと、反対の声は上がらず全員が頷く。

まぁ、順調に計画は進行しているし、問題らしい問題も起こっていないから、当たり前と言える。

「では、次の報告を」

僕の言葉に東郷大尉が次の報告を読み上げていく。

今度は、サネホーン関係の報告だが、こちらも大きな動きはない。

確かに強行偵察と思われる数隻による動きはあるものの、ある一定の距離まで近づくと離脱する為、戦いにまで至っていない。

あくまでも時間稼ぎと情報収集がメインというところだろうか。

恐らく、次動くのは例の超々弩級戦艦の修理が終わってからだろうと予想はしていたから、予想通りの動きと言えた。

その間に、こっちも艦艇の修理と再編成を推し進めなければならない。

次は間違いなく一大決戦になるだろうから、出来る限り手を打っておく必要性がある。

それを再確認し、各部門の状況を聞く。

また、諜報部からは、サネホーンの一部との接触に成功し、動きや戦力の情報を得やすくなりつつあるという報告もあった。

どうやら、リンダ嬢が言っていた講和派がまだしっかりと顕在しており、我々と協力する体制になりつつあるとの事だ。

やはり、情報が手に入るのは実にありがたい。

何も知らなければ、何をすればいいのか考える事さえもできないのだから。

そういう訳で、サネホーンの方も今の所は大きな問題はないだろう。

そして、その後は、アルンカス王国の状況やルル・イファン共和国の現状報告と派遣されている艦隊の状況が次々と報告されていく。

全てが今の所は落ち着いており、ルル・イファン共和国の方も国内的にはうまくまとまり、きちんとした独立国としての形が出来上がりつつある。

「そうなると、あとは……」

僕のその言葉に、東郷大尉が頷く。

「先ほどカルトックス島湾の司令部から報告がありました。どうやら、帝国と公国が大陸中央で戦いに突入したようです」

大量の難民や連盟軍の捕虜の対応に追われて進撃が止まっていた帝国と公国であったが、遂にそれも落ち着き進撃を開始し始めたという事だ。

そして、その一部がついに接触し、戦いが始まったのである。

その戦いはある程度拮抗し互角の状態であるという。

投入されている戦力だけを見れば公国側が圧倒的に有利のはずなのだが、帝国側もかなり奮戦しており、一部はじりじりと帝国を押し返しているらしい。

その報告に、「ほう。帝国もなかなかやりますな」と山本大将が声を漏らす。

予想としては、劣勢の帝国側がじりじりと押し戻されると予想していたのである。

しかし、現実は逆であった。

「えっと、作戦を指揮しているのは誰だい?」

僕がそう聞くと、東郷大尉は確認し口を開く。

「元連盟の最前線の軍司令官であったリリカンベント中将だそうです」

その報告に、僕はピンときた。

「ああ、あの状況と戦局の変化を見て帝国に降服した将軍か」

僕の言葉に、川見大佐が口を挟む。

「しかし、資料からはそれほど状況把握がうまい指揮官とは思えないのですが……。どちらかと言うと愚直で軍人らしい軍人だと」

「なら、彼の下に配属になった部下にいい人材がいるんだろう。優秀な部下のおかげで上にも箔が付くことが多いからな、僕みたいに」

僕の言葉に、あちこちで笑いが起こる。

どうやら冗談とでも思われたらしい。

いや、本当にそう思っているのに……。

僕が不満そうにそう思っていると、川見大佐は伺うように聞いてくる。

「調べておきますか?」

「ああ、出来る限りでいいからね」

「了解しました」

そして、山本大将が口を開いた。

「長官は、今後の動きをどう考えておいでですか?」

「そうだねぇ。陸戦では互角、或いは不利なら、公国は恐らく海戦でひっくり返そうとするだろうな。それだけの戦力があるからね」

実際、帝国は、東地区と西地区を中心に支配地を広げているが、まだ戦力は二つに分断しており、それに対して、公国は支配地域こそ北部と中央の一部と帝国に比べれば狭いものの、戦力をまとめられる利点がある。

また、先の戦いで被害を受けたとはいえ、予備の戦力なども含めれば、公国側が圧倒的に有利だ。

だが、連邦は中央と南地区を支配しており、海上戦力は壊滅したものの、陸上戦力ならまだある程度の戦力が残っているし、臨時招集された戦力を含めれば、兵数だけなら公国、帝国二つの軍を足した数よりも多いだろう。

もっとも、士気が落ち、訓練もロクにしていない兵が多いため、ほとんどロクな戦いにはならないと思うが……。

だが、互いに戦って疲弊しきった有様では、飲み込まれる恐れはある。

だからこそ、その前に海戦で制海権を把握し有利に進めたいと思うだろう。

そう考えて発言した。

誰もが確かにという顔で頷く。

恐らく、それ以外に手はない。

今更、連邦を完全に潰すまで休戦という形にはならないだろう。

特に、報告を受けた指導者の互いの関係から考えればそれは明白だ。

「海戦になった場合、こちらの施設や艦艇が巻き込まれる恐れがある。くれぐれも間違われないように注意するように伝えてくれ。いいな?」

折角、公国、帝国、両方から島を借用して、船舶だけでなく、大型水上艇による航路の中継地点として活用するためにいろいろ手を入れ始めたのだ。

それを吹き飛ばされてはたまったものではない。

だから、そう命じる。

「はい。わかりました。外交ルートを通じてきちんと伝えておきます」

「ああ、多分、大丈夫だとは思うけど、万が一という事もあるからね」

「了解しました」

その返事を聞きつつ、僕はふーと息を吐きだした。

帝国としても公国としても、ここでフソウ連合を敵に回す愚策はしてこないとは思うものの、何があるかわからないのが戦争だからだ。

だが、僕の予想は、別の意味でひっくり返される事となる。

とある第三者(ジョーカー)の存在によって。

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