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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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リハマンセト・バルハマ、連盟海軍潜水艦隊司令部にて……

フソウ連合毛利艦隊が王国に到着して熱烈な歓迎を受けていた頃、連盟海軍の潜水艦部隊も本部の潜水艦隊司令部のあるリハマンセト・バルハマに何とかたどり着くことが出来た。

到着や帰港ではない。

まさに辿り着くことが出来たという言葉が正しいと言える有様だった。

参戦に参加した三十隻中、戻ってきたのはわずか三隻のみであり、実に一割にしかならない。

しかも、その三隻も、そのうちの二隻は新造した方が早いと言った方がいいほど傷ついていた。

外装だけではない。艦そのものが激しい攻撃と水圧によって歪み切っていたのだ。

それ故に、外装を何とかしても実戦参加は厳しいだろう。

つまり、実質全滅と言っても差し支えない被害であったが、それに対してフソウ連合に与えた損害は未確認であり、あの時の状況を考えれば、ほとんど与えていないと判断するしかない。

実際、戻って来れた潜水艦は、一発も魚雷を発射する事は出来ていなかったのだから……。

その余りにも酷い有様に、戻ってきた三隻の艦長から報告を受けた潜水艦隊司令のカール・ガイザー・ガルディオラ提督は唖然とし、しばし言葉を失った。

確かに被害はあるだろうと予想はしていたし、覚悟もしていた。

しかし、実際にはそれをはるかに上回ってしまっていたのだ。

だが、惚けてばかりはいられない。

現実から逃げ出す事は出来ないのだ。

なら、どうするか。

現実を受け入れて対処するしかない。

キリキリと頭に響く痛みに眉を顰めつつも、少しぐらいは好材料があるかもしれないという思いがあったのだろう。

思わず聞き返そうとガルディオラ提督は三人に視線を向けて口を開こうとする。

しかし、疲れ切っている表情の三人、特に信頼するリットーラ・バッファ・ノルンナ大尉の始めて見る憔悴しきった顔を見ると確認とはいえ聞き返すことは躊躇われた。

それだけ酷い目にあったという事がそれだけでわかるし、報告も普通なら言い訳や虚偽の報告が混じっていてもおかしくはないのに、彼らははっきりと言い切ったのだ。

『戦いになりませんでした。ただ一方的に叩き伏せられた』と……。

それは余りにも惨めな報告だ。

しかし、彼らは敢えてきちんと報告した。

それは疲れていたからという事があったかもしれない。

だが、それ以上に軍人としての義務を果たそうと思っているのだ。

ならば、その惨めではあるが義務を果たそうとしている彼らの報告を受け入れるしかあるまい。

そう判断したのである。

たが、それをそのまま上に報告した場合は、どうなるのか……。

それを想像し、ガルディオラ提督はゾッとする。

素直に報告出来れば、どれだけ気が楽だろうか。

もっとも、そういった事はあり得ない。

今回の作戦は、総統自ら立案した以上、とてつもなく期待されているはずだ。

なのに結果がこれでは、貴方の立てた作戦はクソで被害しかありませんでしたという事になってしまう。

そして、あのヒステリーの塊であるトラッヒ総統がこの余りにも酷い現実を受け入れるはずもなく、誰かに責任転換して当たり散らすのは間違いない。

そうなってくると自分の責任問題だけで済むはずもない。

恐らく作戦に参加した者やこの潜水艦隊にもとばっちりが及ぶだろう。

やっと潜水艦隊が軌道に乗り始めたというのに……。

ならばどうするか……。

ガルディオラ提督は三人の顔を見渡した後、口を開いた。

「今回の作戦、実にご苦労であった。確かに多くの被害があった。だが、君らの奮起によって作戦は大成功に終わった。これは喜ばしい事だ」

その言葉に、うなだれていた三人がはっと顔を上げてガルディオラ提督を驚愕の表情で見る。

そして、その表情が真面目であるとわかると互いの顔を見て間違いないのかを確認するかのような素振りをする。

恐らく、疲れ切って違うように聞こえたのではと思ったのだろう。

その気持ちはすごくわかる。

だが、受け入れてもらわねばならない。

そう思い、ガルディオラ提督は再び言葉を口にした。

「被害は大きかったが、作戦は大成功をしたのだ。皆顔を上げて欲しい」

そう言われて、間違いないと判ったのだろう。

ではなぜそんな事を言われるのか。

それを思考するかのような顔つきになる三人。

そして、ガルディオラ提督の言いたいことを理解したのだろう。

最初にノルンナ大尉が口を開く。

「つまり、我らに口裏を合わせろと?」

ノルンナ大尉はそう言いつつ軽蔑なものを見るかのような表情を浮かべる。

不正を許せない。

彼はそう言う男だという事は、ガルディオラ提督自身よくわかっており、そう言う態度を取られるだろうというのは予想できた。

だが、この場合、それをあえて曲げてもらわねばならない。

だから、はっきりと言い切る。

「そう言う事だ」

そして、その言葉にノルンナ大尉の表情が益々険しいものになり、そして、他の二人の表情も不快な、それでいて信じたくないという感じの表情を浮かべている。

実にいい部下達だ。

誇れるほどに……。

だが……。

ガルディオラ提督は心を鬼にする。

その表情から、間違いないと踏んだのだろう。

ノルンナ大尉は蔑むように言い捨てる。

「それは虚偽の報告だ」

「ああ、その通りだよ」

そして、ため息を吐き出してガルディオラ提督は立ち上がると三人の方に歩み寄りながら言葉を続けた。

「なら、本当のことを言うかね?フソウ連合にあなたの自慢の潜水艦は全く歯が立たず、総統自ら立案した作戦もクソだったと……」

そう言われ、三人は何も言えなくなる。

トラッヒ総統の性格は、彼らもよく知っている。

そしてどうすべきか、考え込む。

そして、気が付くのだ。

本当のことを言っても、虚偽の報告がバレても、行きつく先は地獄だという事に……。

そして、その影響は自分達だけでなく、部下や多くの人々に及ぶだろう。

ならば、選択肢は一つしかない。

「我々は、この作戦で多くの被害を受けた。その事実は間違いない。しかし、王国に向かうフソウ連合の大艦隊にも甚大な被害を与えることに成功したのだ。その結果、今、王国に向かっているフソウ連合の艦隊は、戦いで無事だった一部の艦艇のみで、その大半は、海の底か、被害を受けて本国に引き返した。いいな?」

念を押す様な口調でガルディオラ提督は三人の顔を見つつ言い切る。

決心をしたのだろう。

二人は諦めた様な表情で頷いた。

しかし、ただ一人だけ、ノルンナ大尉だけは頷かず、ガルディオラ提督の方に視線を向ける。

その視線を受け、ガルディオラ提督は内心苦笑していた。

やっぱり君が一番説得するのが大変だったかと。

ではどう言って説得するか……。

そんな事を考えてつつガルディオラ提督は聞く。

「大尉、何か言いたいことがあるのかね?」

その問いに、ノルンナ大尉はゆっくりと口を開く。

「提督、一つだけ条件を付けさせてもらってもよいでしょうか?」

その意外ともいえる言葉に、ガルディオラ提督は内心驚く。

そう言ってくるとは予想しなかったからである。

少し困ったように眉を顰めつつ、ガルディオラ提督は「言ってみたまえ」と答えた。

彼らを含め、多くの人々を巻き込むのだ。

出来る限り不満は無くしたいし、やれることがあるならばやっておきたい。

それに、ノルンナ大尉とは部下と上司という関係ではあるが長年の付き合いがある。

彼がこういった事を言い出す場合、無理な事を言ってきたことはない。

それがわかっているからというのも大きかった。

促され、ノルンナ大尉は口を開く。

そして、その内容を聞き、ガルディオラ提督は苦笑を浮かべる。

その内容が部下思いの彼らしい条件だと思いながら……。


こうして、『海狼の狩り』作戦は、ある部分は正しいものの、願望に彩られたまさに虚偽の報告としての見本にしてもおかしくないような内容でトラッヒ総統の元へ送られたのであった。

そして、その報告を受け、トラッヒ総統は自分が立案した作戦が大成功を収めたことに満足し、以前から思っていた思いをより強めていく。

被害は大きかったが潜水艦は戦艦を超える最強の兵器であり、その兵器を保有する連盟海軍は、世界最強と噂されるフソウ連合や世界最大の艦船を保有するとされるサネホーンを超え、世界最大にして最強の海軍力を保有していると。

そして、その報告以降、連盟海軍の作戦は潜水艦を中心としたものになっていく。

だが、それは対潜戦闘に特化した駆逐艦が配備されて対潜戦闘能力が向上した王国海軍によって損害よりも被害が増えていくという図式を作り出していく要因となっていったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさにトップが現状を受け入れて正しい判断が出来ない為に中間管理職や現場が疲弊する典型ですね。 此から各国の動向が楽しみです。 しかし、フソウ連合は国際社会に出て来てから僅かな期間で急成長した…
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