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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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イスターニアン軍港にて……  その1

イスターニアン軍港。

ウェセックス王国の首都ローデン直結の港であり、海軍本部がある王国海軍にとって最重要拠点の一つである。

普段は国民に解放されていないのだが、今回は一部とはいえ解放され、多くの民衆が今か今かと待ちわびていた。

もちろん、待っているのはフソウ連合から派遣された艦隊、毛利艦隊である。

『狼狩り』作戦を終了した後、毛利少将は直ぐに王国に訪問予定の日時の連絡を入れたのだ。

そして、その姿が見え始めると人々が歓声を上げ歓迎を示す。

それは以前、ネルソン、ロドニーが凱旋した時を再現したかのような盛り上がりだ。

もっとも、実際にそうなる様に情報の開示や操作してきたのだから、そうならない方がおかしいと言えた。

今と違い、リアルタイムの情報が個人で手にはいる訳ではなく、新聞やラジオといった感じの限られた情報源しかないのである。

そう言った情報源を牛耳っている以上、そういった事は容易であった。

もっとも、今回は到着予定まで余りにも時間がないため、号外を配ったり緊急速報としてラジオで情報を何度も流したりといった普段はやらないようなことまでやる必要はあったが……。

しかし、戦艦ネルソンやロドニーの譲渡、災害の際の支援、それに王国内で浸透し始めている食事や映画といったフソウ連合の文化、そういった事から民衆のフソウ連合に対しての興味はかなり高く、そこまでやる必要性はなかったかもしれない。

そんなことを思いつつ、『海賊メイスン』こと海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿は熱狂する民衆を見る。

ここは、イスターニアン軍港の中でも一際高い建物の最上階だ。

その窓際に立ち、港を見下ろすと多くの人々がフソウ連合とウェセックス王国の小さな旗を振り、歓声を上げている様子が見える。

「しかし、またこのレベルになるとは思いもしませんでしたな」

メイスン卿の副官がそう言うと、メイスン卿はニタリと笑みを浮かべた。

「まぁ、確かに。時間がなかったからな。だが、人々の関心度は、我々の想像以上であったという事だな」

その言葉に、副官が笑うがすぐに真顔になると小声で言葉を発した。

「民衆以外の方々も関心度は高かったようです」

「ほほう。そうか……」

そう言ったものの、すぐにメイスン卿はすーっと目を細め言葉を続けた。

「まぁ、それは仕方ないのかもしれんな。フソウ連合の艦隊、それも今まで限られた情報と残骸しか手に入らなかった飛行機の実物とそれを運用する航空母艦の実物が見れるのだからな。それだけでも、連中の興味は惹かれよう」

「ですね。これからの戦いに、飛行機と航空母艦という存在は必要不可欠な要素になると思われますからね」

その副官の言葉に頷きつつ、メイスン卿はちらりと副官の方に視線を向ける。

「そういや、アイリッシュの坊やはどうしている?」

その言葉に、副官は苦笑を浮かべるものの、何も言わない。

言ったところでこの人は言い方を変えるとは思っていないからである。

しかし、それでも少しは意識してほしいためだろうか。

「殿下は式典の最終確認を終え、出迎えの為に動かれているようです」

という言葉の、最初の『殿下』という部分を強調して言う。

その意味が判ったのだろう。

メイスン卿は苦笑を浮かべるが別に反省の色は見えない。

やっぱりか……。

副官が心の中でため息を吐き出す。

そんな心配性の副官を他所にメイスン卿は口を開いた。

「相変わらずだな。神輿は黙って座って待っている事も必要だと教えなきゃいかんか」

「しかし、殿下らしいと私は思いますが……」

副官の言葉に、メイスン卿は益々苦笑が増す。

「確かに責任者自ら動くという事はいい場合もあるが、こういった場合は上が動けば、下が落ち着かなくなってしまうってことだ。要は、どっしり構えて待つってことも必要だってことだ」

「ですが、今回は、初めてのフソウ連合艦隊の訪問、それに敵潜水艦に対しての切り札となりえる注文していた駆逐艦の納品といった事が重なっております。居ても立っても居られないというのは仕方ない事かと……」

「ふむ。そうだな。じわじわと王国の首を絞めるかのように暗躍する潜水艦という存在に対抗できる戦力が手に入るんだ。その上、期間限定とはいえ、盟友のフソウ連合の支援。確かに落ち着いていられないか」

腕を組みそう言うメイスン卿に副官が笑って言う。

「それにメイスン卿も今はどっしりとした感じではありますが、殿下の年の頃はかなり無茶をされて動き回っておられたと聞いております」

その言葉に、メイスン卿は舌打ちをする。

「それはそれ。これはこれだ」

そして、少し間を開けてると探る様に言葉を続ける。

「誰から聞いたんだ?」

「勿論、オスカー公爵からです。『あいつの副官を務める以上、知っておいたほうが良い』と言われていろいろ話を伺っております」

その答えに、メイスン卿は苦虫を噛み潰したような苦々しい顔になった。

「あの野郎、俺の部下に余計ことを言うんじゃねぇっての」

そう呟くように言ったものの、そこには不快な気持ちというよりも余計な事ばかり気にしやがってという感じや仕方ねぇなぁといった感情が含まれていた。

その様子を見て、副官は心の中で苦笑する。

相変わらずだなと……。

国王とオスカー公爵、それに上司のメイスン卿の三人は、苦楽を共にした親友同士であることは有名だからである。

そんな会話の最中でも次々とフソウ連合の艦隊は港に近づき、最初は点でしかなかったものが形を見分けられるようになっていく。

「もしかしてあれが航空母艦というものなのでしょうか?」

副官が目ざとく見つけて指をさすと、メイスン卿は首にかけていた双眼鏡でさされた場所を見る。

「うーむ。ただの平べったい板をのせた輸送艦にしか見えんな」

メイスン卿がそう言うが、それは仕方ない事だ。

飛行機が飛行甲板に並んでいれば別だっただろうが、飛行機は全て艦内に収納されている為、知識のない者は間違いなくそう感じるだろう。

だが、メイスン卿はニタリと笑みを浮かべると言葉を続けた。

「しかし、見かけだけでは判断できんな。連中が滞在期間中は、飛行機共々航空母艦や他の艦船も情報収集を怠るなよ?」

「了解しました。また、殿下の方も、提案した件の許可が下りたようで、そちらはそちらで推し進められる様子です」

「例の航空機関誘致の件か」

「はい。それだけでなく他もいろいろと考えられているようです」

それを聞き、メイスン卿はニタリと笑う。

アッシュが思った以上にしたたかだと判断して。

「なら、お手並み拝見とするか」

楽しげにそう言うと、メイスン卿は踵を返してドアの方に歩み始める。

いつまでもここで見ているわけにはいかない。

式典には彼自身も参加しなければならないのだから。

「さて、なら、俺はあの艦隊の司令官がどんなやつか吟味してやるとするか」

そんなことを呟く上司に、副官がため息を吐き出して告げる。

「ほどほどにしておいてくださいよ。フソウ連合と王国との関係に亀裂が入ってしまってはどうしょうもありませんから」

「大丈夫だって。そんな事にはならねぇよ」

その言葉を聞きつつ、副官はオスカー公爵に言われた言葉を思い出していた。

『あいつは加減というものを時々忘れるからな。その時、抑えるのは大変だとは思うが、それも君の役目だからな』

深々と副官はため息を吐き出す。

やるしかないかと思いつつ。

こうして、フソウ連合毛利艦隊は人々の熱い歓迎を受けながら王国に到着し、歓迎式典が始まったのである。

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