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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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戦いの終わり  その1

「思っていた通りの展開になってしまいましたね」

浜辺大尉が少し困ったような顔でそう言うと、毛利少将は渋い顔で頷いた。

彼としては、航空戦力の最初の手で終わらせたかったが、結局それは適わず駆逐艦での対潜戦闘になってしまったのは仕方ない事だとは思っている。

だから、時間がかかるのはわかってはいた。

だが、そうならないように祈っていたのである。

「やはりそうなってしまったか……」

毛利少将の口から思わず出てしまった言葉が、僅かな希望がついえた事を示していた。

すでに最初の航空攻撃から実に八時間近く経過しており、長期戦になっていた。

その上、このまま続くようなら、不利な要素が増えていく。

それは、夜になる事で航空機の使用が制限される事、暗闇による視覚での発見の遅れ、兵の疲労、それに爆雷の残りもかなり少ないなどなど。

それらを考えれば、十分の戦果を上げた以上、作戦を切り上げるというのも手である。

しかし、それが出来ないのは、いくつかの目的があるからだ。

今後の事を考えてここでできる限り敵の戦力を削りたいという事。

それに手酷いダメージを与えて時間を稼ぐという目的もある。

しかし、すでに敵は警戒に徹して動こうとしない。

まったく反応が返ってこない以上、本当に沈めたのか、或いは潜伏しているのか判断しにくく、疑心暗鬼になりそうだった。

確かに、新型の水中聴音機や磁気探知機によって敵らしきものの大まかな位置はわかるし爆雷攻撃を繰り返している。

だが、問題は、それがどれだけ効いているのかが確認できないのが大きい。

海上戦闘なら沈めれば撃沈とすることが出来るが、最初から沈んでいる潜水艦では、確実に沈めたと言える場合は少ないのである。

「さて……、どうすべきか……」

毛利少将がそう呟く。

『全ての判断は君に任すよ』

見送りの際に、笑顔でそう言っていた鍋島長官の顔が脳裏にちらつく。

参ったな。安請け合いしなきゃよかったか。

そんな後悔さえもある。

だが、今更どうのこうの言っても仕方ない。

「現在の戦果はどうなっている?」

その言葉に、浜辺大尉がボードに目を通しつつ報告する。

「航空隊からは、撃沈十二、不確実四。また、後方の部隊からは、撃沈二、先行隊からは撃沈四、不確実五といった報告が来ております」

総計すれば、撃沈十八、不確実九となる。

つまり、確認されている敵潜水艦は三十隻と考えれば、撃沈だけでも敵戦力の三分の二近くを削った事であり、普通の海戦なら十分な勝利である。

だが、毛利少将としては、もう少し削りたいと思っていた。

だからこそ、迷っていたのだ。

そして、暫く腕を組み考えた後、決心したのだろう。

ふーとため息を吐き出すと口を開く。

「よし」

そう言った後、視線を瑞穂の付喪神に向けた。

「瑞穂、機関の方、問題ないか?」

そう聞かれて瑞穂は苦笑を浮かべた。

前回の戦い、アルンカス王国の沖合での戦いの時、機関に不調をきたし敵に突破されたことがあるからである。

それは、瑞穂にとっては悔しい汚点であった。

だからこそ、気合の入った言葉が返される。

「今回は問題ないです。藤堂の親父さんにしっかり見てもらいましたから」

きっぱり言い切った言葉。

それには自信が満ち満ちていた。

それはそうだろう。

あの後、本国のドックで藤堂大佐自らが指揮して調整と改修を受け、機関の不調はかなり改善されていたのだ。

それは、付喪神である瑞穂にも判っていた。

以前とは違うと。

「他の艦艇に機関不調のものはいなかったよな?」

「はい。そう言った報告は来ていません」

野辺大尉の言葉に、毛利少将は頷く。

「なら、やれるな」

その言葉に、浜辺大尉を始め、艦橋にいた多くの者達が興味津々といった表情になった。

なぜなら、航空隊の帰投後はずっと足止めを喰らってここに留まり、ただ先行隊の報告を聞くだけであったからだ。

だから、何か変化があればという気持ちが滲み出てしまっていたと言うべきだろう。

そんな様子に、毛利少将は苦笑を漏らす。

だが、すぐに真剣な表情になると口を開いて宣言するように言った。

「敵を引きずり出すぞ」

しかし、その言葉に、浜辺大尉が言い返す。

「しかし、敵はかなり警戒しています。余程の事がなければそれは難しいのでは?」

その言葉に、毛利少将はニタリと笑みを浮かべた。

「特大の餌をちらつかせる」

その言葉の意味に気が付いたのだろう。

浜辺大尉が驚いた顔で思わず口にした。

「まさか……」

「ああ、先行隊を先に進め、本隊を海峡に進める」

「しかし、敵はまだ潜んでいます。かなり危険です」

その言葉に毛利少将は頷く。

「そう危険だ。だが、それは敵から見れば今の現状から考えて最高のチャンスと言えるだろう。連中としてもこのまま一方的にやられたのでは立つ瀬もない。一矢報いてやるくらいの事は考えるだろう。だからだよ」

「つまり、本隊を餌にしてお引き出すと……」

「ああ、そういう事だ」

その説明に納得いったものの、すぐに疑問が生まれたのだろう。

浜辺大尉が聞き返す。

「しかし、駆逐艦のほとんどを先行させてしまっては、本隊の護衛が手薄になります。それでは……」

しかし、言葉はそこまでだった。

そう言いつつ浜辺大尉は気づいたのだ。

毛利少将が何を考えているかを……。

「確かに、夜になるとその手は使えませんな」

納得してそう言う浜辺大尉。

「そう言う事だ」

「しかし、敵がしかけに乗って来なかったらどうするんです?」

話を聞いていた瑞穂が疑問を口にした。

その疑問に、毛利少将は苦笑して答える。

「何、それでも引っ掛からない時は、その時だ。そのままスルーして王国に向かって進むだけだよ」

「作戦終了という事ですか?」

瑞穂が聞き返す。

「ああ。それともまだぼんやりと海の上を漂いたかったかい?」

ニタリと笑って毛利少将がそう言うと、瑞穂は苦笑を浮かべる。

「いいえ。それが正解ですね」

「しかし、いいんでしょうか?」

浜辺大尉がそう口にする。

彼は今回の作戦の目的を知っている以上、そう思ってしまったのだろう。

「ああ、十分に戦力は削ったし、時間稼ぎも出来たと思っている。それに敵もこれからは今のようにはいかないと知ることになるだろう。そうすれば、その情報だけでも敵の動きをけん制できるからな」

「確かに……。納得です」

毛利少将は納得した表情の浜辺大尉から視線を艦橋に向ける。

「これより、本作戦の仕上げにかかるぞ。各艦準備を急がせろ。いいな」

「「「了解しました」」」

こうして、『狼狩り』作戦は、最終作戦に突入するのである。

それは、この戦いの終わりを意味していた。



「敵の艦船、離れていきます」

海底近く、限界深度30mを超えた深度に沈み、ほぼ海底に近い場所で息を潜めていたN-003の集音機担当の兵がそう報告を上げる。

それを聞き、副長がノルンナ大尉に小声で言う。

「敵は諦めたのでしょうか?」

その言葉に、右手の指を顎に当ててノルンナ大尉は考え込む。

すでに八時間近い攻防が繰り広げられており、すでに何度もの爆雷攻撃をうけ、今や足元は何度も浸水した海水が溜まっている有様であった。

まさに満身創痍と言っていいだろう。

それに敵もかなりの攻撃兵器を使っている。

もしかしたら、兵器が尽きたのかもしれんな。

その可能性は高いだろう。

補給して、再度攻撃してくるか?

その可能性もある以上、益々の長期戦はあり得る。

しかし、飛行機という脅威がある以上、油断はできない。

だが、それを考慮しても、大きな問題がある。

長期戦になるとした場合、余りにも空気の残りが少ないのだ。

なるべく消費しないようにと気を付けていたが限界はある。

一度、潜望鏡深度まで浮上してもいいかもしれない。

そう決断すると、ノルンナ大尉は集音機担当の兵に声を掛ける。

「敵艦船のスクリュー音はどうだ?」

「ほとんど聞こえなくなりました」

その言葉に、決心したのだろう。

ノルンナ大尉は命令を下す。

「潜望鏡深度までゆっくり浮上だ。ただし、緊急潜航できるように注意してな」

その命令を受け、N-003はゆっくりとその艦体揺らしつつ浮き上がっていく。

深度計がゆっくりと動き、艦が海面に向かっていることを示している。

「只今、20、19、18……」

ジリジリと浮上する様を兵が報告していく。

それはじれったいまでにのんびりとしていたが、誰も文句は言わない。

なんせ、命がかかっているのだから。

「間もなく、潜望鏡深度です」

淡々とした報告が入り、ノルンナ大尉は命令を下す。

「潜望鏡、用意ーっ」

そして、潜望鏡が海面から出てゆっくりと周りの光景をノルンナ大尉に見せる。

ぐるりと潜望鏡を回しつつ、敵の艦影を探す。

「敵艦影なしか……」

その呟きに艦内がほっとした雰囲気に包まれた。

誰もが生き残ったという実感を感じたのだろう。

だが、それは直ぐにノルンナ大尉の言葉で切り替えられた。

「おいおい……、嘘だろう?!」

そう、ノルンナ大尉の目には、かなり距離は離れているものの、海面を進むいくつもの点が見えたのだ。

「ど、どうされたのですか?」

副長が慌ててそう聞き返す。

「どうやら敵の本隊だ……」

その言葉に、艦内が一気に沸いた。

我慢していたものが報われた。

そう実感したのである。

そして、今までは生き残れればいいという思いだけであったが、生き残れたという事から欲が生まれる。

「目にもの見せてやりましょう」

副長が息巻くようにそう言うと、周りからも同意の意見が生まれた。

勿論、ノルンナ大尉の心にも似たような意見が湧き上がっていた。

一矢報いてやる。

それは恐らく、誰でも今の状況なら、思う事だ。

やられたらやり返せ。

だが、そんな思いとは別にノルンナ大尉の心には、別の思考が生まれた。

余りにもうますぎると……。

それが引っ掛かっていた。

それは彼の勘であった。

だが、周りの空気に圧される形でノルンナ大尉は命令を下す。

「よし。連中に攻撃を仕掛ける。雷撃戦用意ーっ」

そして、そう判断したのはN-003だけではなかった。

生き残っていたほとんどの潜水艦はN-003と同じように潜望鏡深度まで浮上し、フソウ連合の本隊を発見。

今までの反動のあるのだろうが、これをチャンスとばかりに飛びついたのである。

それが罠とも知らずに……。

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