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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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狼狩り  その3

「目標海域まであとどれくらいだ?」

橘の付喪神がすこしイライラとした感じの口調でそう聞いてくる。

気が逸っているといったところか。

そんな様子に、黒川少尉は苦笑し口を開く。

「あと、一時間程度ですね。そう焦らなくても敵は逃げませんよ」

「しかしだな……」

そう言いかけた橘に、黒川少尉はニタリと笑って言う。

「先行している零式水偵が浮上してきた敵潜水艦を一隻撃沈したそうです」

その言葉に、橘は驚くと当時に一瞬羨ましそうな顔になった。

「な、何っ、それは……」

だがすぐに何事もなかったかのように言う。

「なら……」

「ええ。だから、連中、当分警戒して動けなくなっていると思いますよ」

黒川少尉がそう言うと橘は考えこむように顎に手を当てて呟く。

「確かにな……。潜水艦の水中速力はそれほど高くないし、潜望鏡を上げなければ攻撃も出来ない以上、そうなるか」

「ええ。その上、ここら辺りは水深もそれほど深くありませんからね。それに新型の水中聴音機パッシブ・ソナーと磁気探知機はかなり優秀と聞きます。だから、十分探索できると思いますよ」

そう言われ、橘は確かにといった感じで頷いた。

本艦に搭載されている新型水中聴音機パッシブ・ソナーと磁気探知機は、フソウ連合の領海で味方潜水艦を使って十分に実験されたものの量産型で、訓練でもかなり評判は良かった。

潜水艦と戦う以上、浮上している或いは潜望鏡を発見するなどしない限り視覚による発見は無理だ。

その為、その際にもっとも力を発揮するのが、水中聴音機(ソナー)や磁気探知機である。

水中聴音機(ソナー)は、水中を伝播する音波を用いて水中や水底の物体に関する情報を得る装置であり、その種類は、自ら音波を発するアクティブ式と、目標が発する音波を捉えるパッシブ式の二種類がある。

そして、橘に搭載されているのは、アクティブ式のものだ。

また、磁気探知機は、地表の磁場の僅かな乱れを探知する装置で、潜水艦によって生じる磁気の乱れを感知する事で発見する。

つまり、音と磁気による二つでより確実に相手の位置を割り出そうというのである。

これにより、フソウ連合では、見えない水中でもより高性能の目を持つことが出来るようになった。

しかし、当初、この新型を開発するには問題があった。

なぜなら、新型の水中聴音機や磁気探知機などの研究は後回してもいいのではないかと言われていたのである。

確かに研究に回すことのできるソースは無限ではなく限られている。

それを効率よく活用することは重要だ

だからこそ、存在するかもわからない敵潜水艦の為にソースを回すべきではないと誰もが思っていたのだ。

それに、索敵や探索よりも攻撃を優先する傾向が軍部では強いのも大きかった。

しかし、それでもそうならなかった。

『潜水艦にしても飛行機にしても、いつまでも我々だけが保有しているという状況は続かない。将来的には他国がこれらの兵器を持つことになるのは明白だ。ならば今のうちにそれらを索敵、探知できるより高性能のものを作り出し、常に優勢な状況を維持すべきではないのかな』

鍋島長官はそう言って皆の意見を押し切る形で電探を含め索敵能力の向上を最優先すべきだという指示を出したのである。

その話を思い出したのだろう。

「電探といい、今回の水中聴音機といい、長官は本当に先を見通しておられるのかと思ってしまうよ」

黒川少尉が苦笑をしてそう呟く。

実際、鍋島長官が推し進めている研究がこうもぴたりと当たるとはという思いが漏れたのだろう。

もっとも、鍋島長官本人としては、情報を得ることの大切さや兵器などがどういった変化をしていくかを知っている以上、少しでも無駄なく推し進めたいと思っているだけなのだが、周りはそうは見てくれていない。

先見の明がある方だという見方がどうしても強くなっていくのは仕方ないのかもしれない。

「確かにな。あの方は先を見据えて動いておられる。それは間違いない。それにだ。あのお方がいるからこそ、俺はここにいる事が出来るんだ。だからという訳ではないが、しっかりその恩は返さなければならないと思っている」

橘はそう言うと、ぐっと表情を引き締める。

「なら、失敗は許されませんな」

少し茶目っ気の籠った口調で黒川少尉がそう言うと、橘は笑って答えた。

「勿論だとも。我らが力を見せつける時だからな」

もうそこにさっきまであったイライラはない。

「よし。後続の艦に伝えろ。単横陣だ。ある程度距離を置いて展開する。また、索敵情報は各艦連絡し出来る限り共有せよ。一気にここで狩るぞ」

「了解しました」

こうして、先行する六隻の駆逐艦 橘、八重桜、矢竹、桂、若桜、尾竹は敵艦隊の潜む海域に突入したのであった。



「来ましたよ、味方の艦艇です」

街野二等兵曹の声に、前に乗っている片路一等兵曹が少し驚いた顔をした。

「おっ、思ったより早かったな」

恐らくもう少しかかると思っていたのだろう。

「なに、早く来てくれた方がこっちも早く母艦に戻れるからな。ありがたいと言うべきだな」

パイロットであり、機長の東田兵曹長が機体を旋回させつつそう言う。

彼らとしては燃料が余裕があるうちに帰りたいという気持ちがある。

それに、彼らは潜水艦一隻撃沈という戦果を上げたのだ。

それも偵察部隊である自分らがである。

その余りにも予想外の戦果に、落ち着かないといったところか。

普段なら、淡々とした感じで話す東田兵曹長も少しそわそわした感じが言葉の節々から洩れる。

「よし、旗艦の橘に連絡だ。『敵に大きな動きなし。恐らく、十一隻の潜水艦が潜伏している模様。気を付けたし』だ」

東田兵曹長がそう言うと片路一等曹長が機材に手を伸ばしつつ答える。

「了解しました。すぐに知らせます」

「あ、それと戦果を期待しますともな」

「了解です」

そして、零式三座水上偵察機、507-3は帰投する為、機体の方向を母艦である水上機母艦瑞穂の待機している方向へと向ける。

乗っていた三人は入れ替わるかのように進んでいく駆逐艦に敬礼して。



「爆雷攻撃よーーーいっ」

「深度設定サンマル。爆雷攻撃準備良し」

「撃てーっ」

号令と共に艦の後部に設置された九四式爆雷投射機二基から爆雷が打ち出される。

それらは放物線を描きながら橘型駆逐艦榊の後方の海面に落ちると沈んでいき、暫くすると水中で爆発して二か所海面が白く膨らんだ。

「よしっ。どうだっ」

その様子を見て榊の付喪神がそう叫ぶも、副長が落ち着いた声で言い返す。

「直撃ではないようです。それにまだ海中が乱れているのである程度収まるまで待っていてください」

「わ、わかった」

そう言いつつも、榊の視線の先はさっき爆発が起こった海面の方を見ている。

「面舵ーっ。敵潜水艦がこの辺りに潜んでいるのはわかっているんだ。再度確認し攻撃を仕掛けるぞ」

その命を受け、副長が声を上げる。

「了解です。海中が落ち着いたら水中聴音機(ソナー)と磁気探知機での索敵を再度行う。準備急げ。それと次弾装填用意だ」

その命を受け、乗組員達が慌ただしく自分の役割をこなす為に動く。

その動きに迷いはない。

それは良く訓練された証でもあった。

そして、少し離れた場所でも同じような光景があった。

こちらは橘型駆逐艦の栃によって行われている。

そう、東側に先行の駆逐艦が向かっている間に、比較的距離の近い後方に回り込む予定だった潜水艦二隻がすでに狩られようとしていたのである。

片や第一次世界大戦初期の潜水艦であり、片や第二次世界大戦末期以上の対潜能力を持つ駆逐艦である。

その兵器としての性能の差、それにきちんとした対潜戦闘方法が確立している上に実際に潜水艦を使った訓練を行ってきたフソウ連合に比べて、連盟の潜水艦は経験も手練も劣り、さらに一対一である。

余程の幸運がなければ逃げる事は出来ないだろう。

ましてや、反撃などほとんど無理であった。

そして戦闘が始まって二時間が過ぎた頃、二隻の潜水艦は、他の連盟潜水艦に知られることなく人知れずそれぞれ狩られていき、帰還しなかった事で初めてその二隻が撃沈されたことを連盟海軍の潜水艦部隊本部は知ることになるのであった。

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