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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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定例報告会

フソウ連合海軍本部第三会議室。

そこには二十人近い面子が揃っていた。

艦隊司令の山本大将、参謀本部長の新見中将、諜報部の川見大佐、後方支援本部長の鏡大佐などなど。

その集まった面子はフソウ連合海軍中核を担うといってもいい者達ばかりだ。

またそれとは別に外交部の中田中佐とその部下、議会からは熊本議員ら数名の議員も参加していた。

そこで行われているのは、各部門の報告を行って情報の共有化と指針の統一を図る為に月に数回行われる定例報告会である。

元々は数人で始まったものの、フソウ連合海軍の勢力が大きくなっていくにつれて参加する人数も増え、かかる時間も長くなっている。

勿論、文章による報告も各部門に伝達さ共有化されてはいる。

だが、それだけでは、現場との温度差や些細な違いが発生する可能性があるだろう。

そう考えて、鍋島長官の提案で実施され、今日に至っているのである。

実際、インターネットのように相互に情報のやり取りが出来ればいいのかもしれないが、今のフソウ連合の技術ではそれは難しい事であり、勿論、都合によって参加できない場合もあるがそれでも各部門の代表者は出来る限り参加するようにしていた。

情報の大切さ、重要さの認識は、鍋島長官の指導の下、徹底されていたからである。

そして始まった定例報告会の口火を切ったのは、熊本議員であった。

彼ら議員は、議会で決まったことや今の国内の状況を報告するために参加している。

もっとも、それだけではない。

軍との連携や監視を兼ねてという意味合いもあった。

「以上が議会の方針と国内の経済状況、それにインフラの進展状況です。今の所はほぼ計画通りに進んでいます」

熊本議員がそう報告を締めくくるとその場にいたほとんどの表情が和らいだ。

ここに集まっている者の大半が軍人だ。

自分達の守るべきもの、それが平和で豊かに発展している事実と自分達の奮闘がそれを支えているという思いがあるからだろう。

それに軍は単独では維持できない。

守るべき国や国民があってこそきちんと機能し、維持できるのである。

守るものもなく、武力だけを持つ。

それは軍ではなく、ただの武装集団、私兵集団やテロ組織と大してかわらない。

そして、そんな様子を見せる軍人達を見て、報告をしていた熊本議員は心の中でほっとしていた。

議会の中では、海軍がかなりの力を持っている事を良しとしない議員も少数ではあるがいるのである。

それはそれで間違いではないと熊本議員は思っている。

色んな人がいる以上、いろんな意見があっていいと思っている。

勿論、他人に迷惑をかけない範囲ではあるが……。

それに、余程の信頼関係が構築されているのならともかく、人という生き物はそうそう簡単に他人の意見に素直に身を任せたり意見を統一したりは出来ない。

知識があれば、余計にそうなる傾向がある。

それこそ、独裁者ならいざ知らず、普段は互いに妥協し、譲り合いながら意見をまとめていく。

それが当たり前だと思っていた。

話し合い無くして何も決まらないと……。

熊本議員がそう思いつつ質問等がないか会議室を見渡す。

すると鍋島長官が軽く手を上げて口を開く。

その表情はいつも通り飄々としたものであった。

「済まないが、ガサ地区とカオフク地区の工業団地の進展状況はどうなっているかな?」

ガサ地区とカオフク地区の工業団地。

この二地区は、畜産と農業が盛んであり、フソウ連合国内の農産物の実に六割近くがここで作られている。

その為、イタオウ地区の造船を中心とした工業団地がひと段落したことにより、次にこの二地区の農畜産物加工場の計画が現在進められていた。

新しく工業団地を用意する。

それは、間違いなくその地域に住む人々に新しい雇用を生み出し、経済を活性化させ、そして発展させる原動力になる。

だからこそ、確認の為に聞いたのだろう。

そう言えば、以前、なぜイタオウ地区の開発に手を染めたのかと鍋島長官に聞いたことを熊本議員は思い出す。

あの時は、その問いに対して、鍋島長官は何を当たり前のことを聞くんだといった感じの表情を一旦したものの、すぐにいつもの飄々とした顔に戻ると質問に答えた。

『まず、国が豊かでなければ軍が存在する意味がない。国が貧しくては軍を維持できないという事もあるしね。それにだ。人々が豊かに平和に暮らしているからこそ、我々軍人はそれを守らなければと強く思い、使命感を感じるのだ。それがなければ、踏ん張りなんて効かないだろう?』

そう言ったあと、『それにそうあり続けなければならないと思っているんだ、僕は……』と苦笑して答えたのだ。

今の質問からもこの時に感じた思いが感じられる。

だからだろう。

相変わらず、この人はブレないんだな。

そんなことを思いつつ、熊本議員は答えた。

「ガサ地区、カオフク地区とも問題はないみたいです。それどころか、地区の人々の協力によって計画よりもかなり進みが早いようですね」

「無理とかはさせていないだろうね?」

「勿論です。地区の人々の反感を買ってうまくいくはずもありませんから」

「そうか。ならいい。ただ、無理はさせないように頼むよ。問題があれば、すぐに報告をお願いしたい」

「わかりました。伝えておきます。それとついでに報告となりますが、次の工業団地の誘致の件ですが、トモマク地区とシュウホン地区の土地の確保は終了しました。人々の関心も高く、説明会はかなり手ごたえがあったという事です」

「そうか。それならよかった」

鍋島長官はそう言うと心底ほっとしたような表情になった。

その表情を見つつ、他に質問がないのを確認すると熊本議員の報告は終了したのであった。

そして、次に立って報告を始めたのは東郷大尉である。

アルンカス王国に向かった二つの艦隊についてだ。

二つの艦隊、戦い損傷した第二艦隊の代わりにアルンカス王国方面の防衛に当たる為の第一艦隊と、第二艦隊の修理支援の為に移動式浮きドックを中心とした支援艦隊の事だ。

「二つの艦隊とも問題なくアルンカス王国に到着しました。第一艦隊は、第二艦隊と引継ぎを行い、二・三日中には終了する予定です。また支援艦隊の方もすぐに展開し、作業に入ったそうです」

「そうか。第一艦隊には、恐らくだがサネホーン絡みの大きな動きはないと思うが、気を付ける様に伝えてくれ。それと支援艦隊には、無理せず確実にこなすように言っておいてくれ」

「了解しました」

報告が終わり、東郷大尉が座ると次に鏡大佐が起立し報告を始める。

「以前から進んでいた警戒網の方も順調に進んでおり、あと二・三ヶ月もすれば八割がた稼働するとのことです」

「それは心強いな。正確な情報をどれだけ早く手に入れられるか。それは重要だからね。だからよく頑張ってくれている。この調子で頼むと言っておいてくれ」

「現場で働いている者達も長官のその言葉を聞き喜ぶでしょう」

その言葉に、鍋島長官が苦笑しつつ言い返す。

「僕の言葉よりも頑張っている連中には何か差し入れでもしてやってくれ」

「勿論ですとも。それも込みで行います」

鏡大佐は笑いつつそう言う。

頑張っている者には、些細な事でもいいから頑張った甲斐がある様にすればそれが次の頑張りを生む。

それをわかっているからこそ、笑いつつそう答えたのである。

その言葉と様子に、鍋島長官も笑い、それに釣られるように他の者も笑った。

雰囲気が少し緩んだものの、次の報告の為に起立した外交部の中田中佐の言葉で、場の雰囲気が引き締まる。

「王国、共和国の大使館経由で連盟の動きが活発化していると報告が来ています」

その報告に、山本大将、新見中将の二人は視線を鍋島長官に向ける。

その視線を受けつつも報告を聞き終えた鍋島長官は、視線を中田中佐から諜報部の川見大佐に向けた。

その視線を受けて川見大佐が口を開く。

「諜報部も活発化しているのは確認しております。また連盟内にいるリットミン商会関係者からも連盟海軍の一部に動きありときております。恐らく、こっちの情報(エサ)に反応したのかと……」

「なるほどな。それでどう見る?」

「燃料や物資の移動から、ある程度まとまった戦力が恐らく動くのではないかと思われます」

その言葉に、山本大将と新見中将の表情が引き締まり、目つきが鋭くなる。

「では長官の予想通り……」

山本大将が呟くようにそう言うが、当の鍋島長官は苦笑していた。

「予想通りというか、そうなる様にやった結果だね。どうやら情報(エサ)がいい働きをしてくれたようでうまく誘導できたと言うべきかな」

「なるほど。では……」

「ああ、毛利艦隊に『こちらは波高し。注意されたし』と伝えておいてくれ」

「了解しました」

そのやり取りだけで意味が判らなかったのだろう。

熊本議員が思わず聞き返す。

「何かあるのですか?」

その問いに、鍋島長官は笑った。

「いや、とある作戦を遂行中なのですよ」

「作戦……ですか?」

「ええ。さすがに細かな事は現時点では言えません。肩透かしを食らう可能性もありますからね。だから、後日報告するという事でお願いします」

その言葉に、少し考えこんだ熊本議員であっが、仕方ないかといった表情を浮かべる。

「そうですか。では、後日の報告をお待ちしております」

そして、それでその話は終わると次の報告へと移っていく。

淡々と報告が進む中、何も知らない者にとってそれはまるで大したことではないかのような印象さえ受ける。

だが、それはこの世界で初めて行われる本格的な対潜水艦戦開始の合図でもあった。

こうして他の海戦のように大きく表に出る事もなく、作戦は開始される。

そして皮肉なことに、フソウ連合でのその作戦名は『狼狩り』という作戦名であった。

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